第95話 オマエノ?
どのぐらいたった? 2時間ぐらいか? ノアは日の出まで4時間とか言ってたっけ? って事はあと2時間も見張りをしていないといけないのか。
別に見張ってるのは辛くない。グラン・ワーム・ドラゴンのおかげで人っ子一人現れないし、無駄に長い食事のおかげで気になって眠くもならない。
「お~い、ノア~」
皆が起きないように、静かに呼んでみたが反応しない。
「おーい。ノア!」
コイツ。省エネモードじゃなくてシャットダウンしてないか?
さて、困った。見張りをするのが全く構わないが、実に困った。うーん、どうしようか。
……トイレに行きたい!
実は結構前から我慢している。しかも大の方だ。そろそろ限界が近い。なので、もう出すしかない! けど、ココでするワケにはいかない!
まぁ、なんか安全そうだし。俺が5分ぐらい離れてても大丈夫だろう。ノアもきっと起きるはずだ。
というワケで、皆から少し離れた背の高い草が多い場所まで移動して隠れる。この世界では冒険なんて事があるし、男も女も野糞に対して抵抗がない。しかし俺は、まだ恥ずかしい。
ケツを拭くのは湿った木の皮だ。こいつは木材の特性で常に潤っていて、さらに柔らかい。シン大帝国は木材が豊富で、とにかく色々な種類があって、日本であった物の半分ぐらいは特有の木材で代用できてる。
さてと。明るくなってから、ダリアさんや双子達が俺の野糞を偶然見る可能性があるかもしれない。念の為に土でもかけておくか。
自分の出した物の位置を確認しようと振り返って、俺は驚愕して固まってしまった。
なんと! そこには、大きめのバランスボールぐらいある、デカい巻き糞があったのだ。
俺は、こんな物を捻り出したのか? そりゃ我慢も出来なくなるワケだ。
いや、おかしくね? どう見ても俺の腹よりも体積がある。 膨張したのか? 腹の中で圧縮されてて出したら膨れたのか?
「ウンコ~」
「は?」
「ウンコ?」
えっ? 目が合った。
そう! 目があった! このデカい巻き糞には大きな一つ目が付いてたのだ!
「オマエノ?」
「えっ? は、はい。俺のです」
突然、巻き糞が浮かび上がった。高さは3メートルはあるか? 俺が見上げる位置から、一つ目が見下ろしている。その下には肩があり、腕がり、胴体があって足がある。
正確に言うとコイツは立ち上がったのだ。人間のような身体があり、真っ黒で血管のような模様がうっすら赤く光っている。
奇妙に長い腕を上げて俺を指差した。
「イ、イイ。イ~ウンコ」
「あ、ありがとうございます」
謎の褒め言葉をくれると、身体を反転させて、暗闇の中へと去っていった。
なんだったんだ? アイツなんなんだ? 疲れてるのかな?
*
「おーい! タツキ、起きろー!」
「うぅ。あれ?」
「大丈夫? あなた草むらで寝てたわよ」
「まったく、夜の見張りが寝てしまったら意味ないぜ? まぁ、初日だから仕方ねぇけど。俺等はお前に命預けてるだからな、頼むぜ」
「すまない。なんか変な者を見てしまって、ちょっと疲れてたんだと思う」
俺は、寝てしまったのか。アレは夢だったのかな。変な夢だった。
「変って、なんかヤベェ魔獣でも見たんすか?」
「長身で真っ黒い身体をしててさ、血管みたいな赤い模様が光ってて、頭がね。デカくて、その~、ウンコの形をしてたんだ」
全員が目を見開いて、固まってしまった。
「なんか、ゴメン! ちょっと疲れてたのかも。寝ぼけてたのかな」
「そいつは、デカい頭で、ウンコの形をしてたのか?」
コイツ、何言ってんだ? 大丈夫か? って思われているだろう。ヤバイ。
「ゴメン。ゴメン。気のせいだ。きっと夢を見てたんだ」
「タツキの兄貴、大丈夫っすか?」
「私達を守ったのね。ありがとう」
はっ?
「怪人と会って生きてたなんて、シェンファは凄いと思うの」
「だが、噂を聞いた事あるな。大平原のウンコ怪人は相手によっては何もしないって。タツキ、すげぇじゃねーか。どうやって怪人のご機嫌をとったんだよ」
へっ?
「怪人って、何?」
今度は全員が呆れて顔になった。
「兄貴、授業で習ってますよ?」
「まぁ、いいわ。タツキの忘れん坊は今更よ。ご飯食べながら私が教えるわ」
「すみません」
という訳で、飯を食べながらダリアさんの講義が始まった。
怪人ってのは、かなりの危険生物で、原因は身体に合わない膨大な魔力を保持してると、魔力暴走にて怪人化するらしく、ごく稀に生まれるらしい。
強さは差があり、A級冒険者でも倒せない個体やC級冒険者が5人ぐらいで倒せる個体もいるらしく、行動原理に至ってた意味不明で怪人化前に強く想っていた要素が頭部となり、それに関係する行動をとるんだとか。
ウンコ怪人は怪人化する前に、いったい何を考えていたんだろうか……
「俺は昔、まだ帝都にいた時にライスボル怪人の討伐依頼を受けた事があるな。帝都中のメシ屋を襲って、ワナン国のライスボルを求めてた迷惑な奴だったよ」
「タツキが怪人化すると、それになりそうね」
「えっ? な、なんでですか?」
「シェンユから聞いたわ」
くっ。お喋りピンクマンめっ!
「100年前にA級冒険者を3人も殺したっていう大砂漠の多頭怪人って、本当にいるんすか?」
「あぁ。いるらししいぞ。俺の知り合いが大砂漠を縦断中に遠くから見たらしい」
「A級を3人?! そんな危険な怪人がいるのか? 放置してて大丈夫なのか?」
「アイツは大砂漠中央西側を彷徨ってるから、そこを避ければ問題にならない。何よりも強すぎて人族では倒せないからな。戦隊が動けば倒せるかもしれないが、奴らが戦闘すると災害魔力が残ってしまうから、必要最低限しか動かないからなぁ」
倒せない奴もいるのか。昨日のウンコ怪人は見た目で気を抜かれてしまったが、結構ヤバイ奴だったのかもしれないな。
「ふぁ~」
「タツキ、眠そうね。ふぁ~。あっ……」
「ダリアさんもね」
「皆様、おはようございます」
ノアが起動したようだ。皆と会話しながら朝食の中華まんを2つもらうと「周囲を見回ってくる」と言ってる。たぶん、ターンシステムで朝食を消す気だな。
「マスターは今夜も頑張ってもらいますので、眠れそうなら、すぐにでも寝て下さいね。夜中にウンコと会話するなんて、夢かと思いますが、夢では無いので、まだ眠いハズですよ?」
こいつ! 昨日、見てやがったな!
「なんの話だ?」
「なんでも無い。なんでも無い! それよりフォルスト、俺は寝てていいのか?」
「いいぞ。そのかわり、夜はしっかり頼むぜ?」
「了解」
片付けと出発準備までは手伝ってから、後の事は皆に任せて、俺は荷車の中で寝る事にした。
身体は眠たくて怠いのに頭は冴えてる状態だったので、なかなか寝付けなかったが、荷馬車が走り出して心地よい振動が始まると、いつのまにか寝てしまった。
*
目を開けると、目の前には童貞には刺激が強する谷間があった。
ウンコ怪人に出会う夢の次は、おっぱい怪人の夢か。初めての旅で自分が思っている以上に疲れているのかもしれない。
ウンコ怪人は夢じゃなかったか。
定期的なリズムで前後する綺麗な胸。何時間でも眺めていられるだろう。
だがしかし、これで首から上がウンコだったらゲンナリだ。
なので、顔を上げて、美しい胸の持ち主の御尊顔を拝見する。
黒髪で、あどけなさが残る、童顔だが美しい顔だった。というかダリアさんだった。
「!?」
驚いて飛び起きる! 無意識に両手で口を抑えながら。
慌てて自分の衣服の乱れを確認するが、特に問題は無かった。
念の為かぶり物をめくって、ダリアさんの衣服の乱れも確認する。問題ない。つまり事後では無い!
何故ダリアさんが、隣で寝てるんだ?
状態が分からないので、とりあえず荷車の後ろ側から外を確認する。
空がオレンジ色に染まり、誰も乗ってない犬獣が走っている。
もう夕方になっているとは。結構な時間が経っているみたいだ。
前側に移動してから外に顔を出してみる。
繋がれた2匹の馬獣にそれぞれシャンウィ君とシェンファちゃんが乗って操っている。まだ10歳だというのに騎乗獣を操れるなんて凄い。
「あっ、タツキの兄貴。起きたんすか?」
「タツキさん。おはようございます」
「おはよう。今って、どういう状況?」
「あと2時間ぐらいで陥没地帯って感じです。けど、そろそろ休憩しようか。って話になってます」
「そうか。それより、なんでダリアさんが荷車で寝てるんだ?」
「まさか、手ェ出してたりしないよなぁ~?」
ニヤニヤしながら大声で話しかけてきたのは、少し左側に離れた位置で、犬獣に乗ってるフォルストだ。
「なっ! なんもしてねーし!」
「ノアちゃんの指示だ!」
「えぇ?」
「夜担当がタツキ1人だと心配だとよ! そんで朝、眠そうにしてたシャン・レン=ワンのお嬢ちゃんに寝てもらって、夜を担当してもらう事になった!」
なるほど、そういう事か。騎乗獣を操るプロのダリアが一緒だと心強いな。
ノア、親指立ててグッジョブじゃねーよ! めっちゃビックリしたじゃん! 寝起きドッキリ成功! みたいになったぞ。実際、大成功だよ。
というか先頭を走るスタイル辞めないか? 馬獣よりも早く長く走れる人間って絶対おかしいだろ? なんか不都合起きないのか? 怪しまれないのか?
「シャンウィ様! そろそろ止めて休憩に入りましょうか」
「了解です! 姉御!」
「俺も声かけようと思ってた。良いタイミングだな、ノアちゃん!」
うん。誰も疑わなさそうだね。




