第94話 授業で習ってるハズですけどね~?
片付けをしてフォルストと双子は荷車の中で寝る事になった。双子は寄り添って横になったが、フォルストは愛刀を抱えて水タルを背に座った状態で寝た。依頼中はいつもこのスタイルらしく名前を呼べば、すぐに起きるらしい。さすがC級冒険者、プロだぜ。
ダリアさんは1人だけ起きていた。
初の犬獣に騎乗で、さらに平原という広い場所を走りながら旅ができる。それはダリアさんにとって、とても魅力的な事だったらしく興奮して眠れないらしい。
なので眠くなるまで、今日どういう事があったか話してくれた。
ベテラン冒険者フォルストの経験と、ノアの索敵能力で、かなり戦闘を避けて進めたらしく、学校から出発してから農業区画を抜けて、ユウツオ管理外に出てから俺が起きるまで、たった3度しか戦闘しなかったらしい。
ちなみに戦闘があった場合は荷車を停めて、フォルストとシャンウィ君が前衛を、荷車の上からシェンファちゃんがバフをかけて、ダリアさんは犬獣に乗ったまま機動力を活かして弓での遊撃を行い、機動力と攻撃力に優れたノアが最終防衛として状況に合わせた対応をしていたとの事。
話の流れから、犬獣の素晴らしさについて語り出したダリアさんは、2時間近くも起きていた。
その後、犬獣に乗ったまま背中にうつ伏せになって寝てしまった。夜なので有視界範囲を考え、トップスピードは出さずに小走りぐらいの速度を維持してるとはいえ、怖くないのだろうか?
自前で用意してきた騎乗睡眠用具と、体得してるという騎乗睡眠技術があって、問題なく寝れると本人は言ってはいたが……
ただ、馬の上に跨って座ってるだけの俺とは大違いだ。
「みんな寝たか。それで? ノアは俺に言わなきゃならん事があるんじゃないのか?」
「ありますよ。しかし、どの事でしょうか? マスターの負担にならないように、あえて申してない事ばかりです。全部と言うなら、1週間は時間が必要となりますが?」
澄まし顔で並走してるコイツの顔が、ちょっとムカつく! 俺の為と言えば、何でも許されると思ってるのか?
だが、実際に俺の為に凄く頑張ってくれているのは分かる。今も騎乗獣の疲労を減らす為に、ノアは荷車にも馬にも犬にも乗らずに、同じ速度を保って並走してる。
どうやら昼間も走ってたらしい。そりゃ皆からスゲー奴と思われるだろう。というかヤベー奴と思われてないか心配だ。
分かってるけど、ありがたいけど、だとしても、相談ぐらいしないか?
「とりあえず何で冒険者になってるんだ? こんな短期間で、どうやってD級になったんだよ? そんな方法があるなら俺も学校に通わなくて良かったんじゃないか?」
「なるほど、その事ですか。冒険者になった理由は簡単です。動きやすいからですよ」
「動きやすい?」
「はい。この長期大型訓練の事を知ってましたし、年度末には森への探索訓練もあります。ついていけるのは雇われた冒険者と学校の先生と生徒のみです。ですので力のある貴族は、生徒の中に護衛を入学させています」
なるほど。ゼルトワの所の御付きの人とか、ヒトラ様のヒョウカさんが、そうなのかな。
「その案も考えましたが、学費を2人分借りる事になりますし、冒険者なら私が稼ぐ事が出来ます。また冒険者の方が情報収集もしやすいです」
「そうか。確かにそうだな。分かった。じゃぁ……」
「マスター、聞こえますか?」
「えっ? 何っ?」
ノアが口に人差し指を当てたポーズをしたので、黙って耳を澄ましてみる。
車輪の音、馬獣の駆ける音、犬獣が走る音に紛れて羽音のようなのが聞こえる。
「これは避けれないですね~、囲まれています。マスター! 木々が点在してます。奴等の縄張りに入ったみたいです。速度を上げてこの付近から脱出します!」
「木? 見えないぞ? それに速度って、どうやってあげるんだよ?」
「とりあえず、姿勢を低くして、左手で鞍の先端を捕まえて、手綱を右手に絡ませて、しっかり捕まえて下さい!」
急いで言われた通りにする。するとノアが近づいてきて、俺の右隣にいる馬獣に飛び乗ってきて、すぐに馬獣の尻を叩いた。
馬獣は頭を前のめりににして、ぐんぐんと速度を上げていく。
「ノア! 暗闇で、こんな速度で走って大丈夫なのか?」
「暗視機能で私は先が見えているので大丈夫です! 私が馬獣を操りますので安心して下さい!」
さすがだ。頼りになるぜ! だが、俺も頼ってばかりじゃいけない。
「どういう状況だ? 何が飛んでいる?」
「吸血怪鳥です。空から襲ってくるので気をつけて下さい。マスター左っ!」
左を向くと、鋭い鉤爪が眼前に迫ってきていた。慌てて左腕を振り抜くと、意図せず綺麗なバックナックルとなった拳が、ハトぐらいの大きさの黒い鳥を迎撃した。不気味な断末魔で鳴き、そのまま地面に叩きつけられて絶命したようだ。
「ナイスです! 吸血怪鳥は飛行能力を代償に、軽くて脆い身体をしてるので、ちょっとした攻撃が致命傷になります。マスター、皆さんを守って下さい!」
「おうよ!」
そうだ。その為に昼間ずっと寝てたんだ。俺が今、皆を守らなければいけない!
左拳に力を込めて、眼を見開く。
暗闇から襲ってくる脅威を、全て叩き落としてやる!
馬獣と荷車をノアに任せ、俺は俺が出来る事に集中する。出来るだけ多く倒す為に、少しでも腕が届きそうなら、とりあえず拳を振りまくった。
追加で2匹ほど迎撃しながら、しばらく走り続けてると、馬獣の速度が落ちてきた。襲ってくる吸血怪鳥がいなくなった。どうやら縄張りを抜けたようだ。
「ここで一旦停めます。マスターは乗ったままでいいですよ」
「何をするんだ?」
「誰か怪我をしていないか確認します」
吸血怪鳥は、そんなに厄介な相手では無かった。馬獣も犬獣も疲れてなさそうだし、ダリアさんなんて普通に寝てる。
「見た感じ怪我なんて無さそうだが?」
「吸血怪鳥は強力な攻撃はありませんが、擦り傷を作って、魔術を使って血を吸い上げます。滞空能力が高いので、こちらの攻撃が届かないで、気づいたら失血死なんて事もありえます」
「そうなのか」
「授業で習ってるハズですけどね~?」
「ぐっ」
覚えが悪くて、すみません。
「さて、私がどうやって短期間でD級冒険者になったのか? という話でしたね。ではマスター、F級からE級。E級からD級への上がり方を知ってますか?」
「街内でのお使いみたいな簡単な依頼の数をこなして、ギルドからのインフラ整備依頼を達成して貢献度を上げるんじゃなかったっけ?」
「正解です。この2種の依頼しか受けれないというのが大問題で、こんなショボい依頼なんて週に5件あれば良い方です。F、E級冒険者に対して依頼数が圧倒的に不足しています。なので必要依頼数、貢献度を満たしてランクを上げるのに1年から2年かかる事が多いのです」
それは大変だな。冒険者を仕事としたいのに仕事が少ないとは。だから冒険者育成学校なんてものがあるのか。
「アレ? でもシェンユは森に行ってなかったっけ?」
「あれは特例です。領主様の権限で計らっています。それにシェンユ様は戦闘力だけならD級冒険者と同じ力量はありますよ?」
そうか。領主様がねぇ~。アイツもなんか大変そうだな。
「先程の状況の対応策があるのですが、それは知ってますか?」
「えーっと。D級冒険者3人以上のパーティなら混ぜてもらえる。ってヤツか?」
「正解です! 意外と分かってますね~」
「ちゃんと勉強して覚えてる事もあるんだよ!」
「では、足手まといのF級冒険者と一緒に、気にかけながら、守りながら、依頼を達成して報酬はきちんと当分にする。どう思いますか?」
「D級冒険者パーティとしては面白くないだろうな」
「そうなんです。将来的に自分のパーティメンバーとして育てるつりなら良いですが、普通は能力の低い人をパーティに入れたりはしません。よし。ちょっと、ゆっくり進みますね」
ノアは俺の乗ってない方の馬獣の首を撫でて優しく叩くと、手綱を引いて前を歩き始めた。それに合わせて全体がゆっくりと進んで行く。
「なら逆に優秀なF級冒険者がいたらどう思いますか? いつも貸し兎獣を借りてきてて、それを使わせてくれる。依頼は全て1人で終わらせてくれる。しかも通常の3倍のスピードで。さらに報酬はいっさい要らないと言う。知識や戦闘力はB級冒険者並みのF級冒険者。どう思いますか?」
「詐欺だと思うね!」
「そうなんですよ! なので最初は信用のあるフォルスト様とパメラ様のパーティに入れてもらいました」
信用されなかったんかーい!
「そしてルーファン様にお願いして、互いに信用出来るパーティを3つ紹介してもらい、5つのC級パーティを渡り歩いて、毎日依頼を達成していたのです」
「つまり俺には無理だと?」
「マスターだけではありません。人間には大変かと思います。昼はC級依頼を3つこなして、夜中にF級依頼を達成させる。それを平日は毎日続けるのです。出来ますか?」
「そうだな。出来ないな。」
「あとD級に上がるには、学科試験もありますよ? ユウツオ周辺の獣や魔獣や植物について知ってないといけませんよ?」
「分かったよ。すまんかった。俺が3ヶ月で知識を身につけるのは無理だし、不眠不休で依頼を達成するのを無理だ」
「焦らないで下さい。マスターはよくやってますよ! この2年で力をつけましょう。目的にも少しづつですが近づいています。あっ! 止まります」
「なんだ? どうした?」
「少し先に掃除ネズミの大群が走ってます。通り過ぎるのを待ちましょう」
掃除ネズミは知ってるぞ。平原の掃除屋で死体の腐肉を食う為、夜に平原を走り回っている。基本的には襲ってこないが、暗闇で気づかずに進行ルートに入ってしまったら、食われてしまう恐ろしい奴だ。
「この辺りは獣同士の争いが多いようです。死体も多くあるみたいですね。走ります」
ノアには周囲の状況が見えているんだろうな。未来の状況も把握してるようだ。
俺は焦ってるのか? 自分では分からない。けど、間違いなく早くノアの力になりたいとは思っている。頼りっぱなしは嫌なんだよ。
ノアは俺をサポートするのが役目で、俺の為に苦労するのを何とも思わないかもしれない。そもそも苦労という概念が無いかもしれん。
でも俺は、自分が大切と思う人は自分で守れるようになりたい。
そんな事を考えながら走ってたら、新たな脅威に出くわした。
地面から太さ5メートルぐらいの赤黒い生物が夜空へと生えていて、10メートルほど伸びた所から鎌首をもたげて地面にある何かを捕食している。その先端には目も鼻も無く、閉じるとドリル状になる花弁のような8枚の口と、内側からエイリアンのような第2の口が伸びているという、悍ましい姿をしている。
「マスター見えてますか?」
「あぁ」
「アレが中央大陸大平原四頂点の2体、捕食してるのがグラン・ワーム・ドラゴンで、食べられてるのがケツァー・カイト・ドラゴンですね」
えっ? 食べられる方も強者なの? しかも、その名前って大翼龍が住む巨大樹群の上に住んでる奴じゃん。ってか、ここって、強者が強者を捕食中の危ない場所じゃねーか!
「ここ通って大丈夫なのか?」
「大丈夫です。マスターに強者を見てもらう為にあえて、ここを通りました。グラン・ワーム・ドラゴンは偏食でケツァー・カイト・ドラゴンしか捕食しません。しかし四頂点の一角ですので、周りに獣や魔獣は寄ってきませんので、むしろ安全地帯になるぐらいです」
「まさに虎の威を借りるだな」
「襲ってはきませんが、あの巨体ですので、移動に巻き込まれると死ぬ可能性はあります。一応100メートルぐらいは離れましょうか」
騎乗獣4匹が、なんとなく怯えているように見える。そこそこ離れた所にある大岩で荷車を停めて、俺も馬獣から降りてノアと一緒に周囲を警戒する。
「夜明けまで、あと4時間ですね。もっと戦闘で足止めされるかと計算していたのですが、予定よりも進んでいます。ここで睡眠を取りましょう」
「ノアは寝るのか?」
「いえ。騎乗獣達を休ませます。マスターは寝ないで下さいね?」
「大丈夫だ。まだ眠くないし、俺の役目は分かっている」
「おぉ。頼もしいですね! ちょっとカッコイイですよ!」
「うっ。お、おう」
からかうなよ。いつもの毒舌はどうしたんだ? やりにくいだろ。
「騎乗獣達を寝かしたら、私も寝るフリをしますね。省エネモードに切り替えますが、すぐに起動できる状態なので安心して下さい。不眠不休で動いていると皆さんに怪しまれるので」
「そうだな。分かった」
「明るくなったらフォルスト様が起きると思います。もし何も起きなければ私は最後に自分で起きるフリをしますので、先にダリア様とシャンウィ様とシェンファ様から起こして下さい」
「了解! 心配するな。ヒーロー志望だからな。誰かを守るのは得意だぜ?」
「無理しないで下さいね」
ノアは犬獣と馬獣の鞍を外し、荷車との連結も外して騎乗獣達を寝かせると、大岩の頂上に登って寝るフリに入った。
今から4時間、暗闇の中で皆を守らないといけない。ちょっと不安があるが、このぐらいやってのけなくてはヒーローにはなれない。
静かな咀嚼の音に恐怖しながらも、ランタンを握しめて、暗闇に目を凝らす。
大丈夫だ。きっと……




