第92話 今度は、落とさないでよね
さて、どうしようか……
俺は今、困ってる。大変困っている。どうしたものか悩みながら1人中央通りを南向けに歩いている。
今朝も厳しい朝練を耐え抜いて、シェンユに少し話をしてから昼過ぎまで休もうと思ってたのに、シェンユの返答が思ってたのと違ってて予定が狂ってしまった。
なんとシェンユは帝都テンルウには行かないそうだ! 領主様の過保護条例によりシェンユは学校を卒業するまではユウツオの街から出れないらしく、長期大型訓練も最初から受けれないと分かっていたので成績には気をつけていたとの事。
とりあえずシェンユに声かけておけば間違いないと思ってた俺の考えは、さっそく崩れたのだった。
なーんか嫌な予感がしたので、朝食を取ってから、すぐに貴族区画に行きユウとジョノに声をかけたが、なんと断られた! ユウの成績は下から3番目なのに。
しかも理由はカードをする為らしく「誘わなかったのは悪いと思ってる。けど、タツキはいいとしてノアさんが出場するとなると、予選を勝ち抜くのが難しいから黙ってたんだ」との事。そういうワケで2年に1回しか無いとう全国大会の為にガルーパフに乗って帝都まで行くそうだ。いちおう長期大型訓練はガルーパフルートにて受ける事になるみたいだ。
ちなみに、各地で予選大会があるらしいが、ユウツオでは行われない。これは以前に魔女教団が問題を起こしたかららしい。それもあってユウは魔女教団が大嫌いだそうだ。
その後、すぐ向かいダリアさんの家にも行ったが、お出かけ中でいなかった。
ダメ元でヒトラ様の和邸も訪ねたが、やはりダメだった。この長い休みを利用して、ワナン国に里帰りをするそうだ。むしろ「タツキとノアも一緒にワナン国に遊びに行かないか?」と誘われた。すっごく魅力的な話だったけど、俺は加点が無いと辛いので丁重にお断りをした。
帰りに英雄広場で、たまたま没クラスのカハクと会ったが、既に同じクラスの人とパーティを決めてしまったらしい。
そして今にいたる。
あと親しい友人といえば、最近から仲良くしてくれるヒルデさんぐらいなので、南の正門に向かって歩いてるが、足が重い。
ヒルデさんは成績2位なので、加点は必要ないし、昨日は行かなくても良いのか? って質問をしていた。もし、一緒に行ってくれたとしても、後2人もアテがない。さらにいえばヒルデさんは魔女教団で嫌われ者だ。あと2人を見つけるのが困難になると予想できる。
ヤバイぞ…… ノアに笑われてしまう。友達いないのか? って強烈に笑ってくるぞアイツは。
う~ん。どうしたものか。こういう時って今までどうしてたかな? 前の世界でも友達は多くなかった。避けれそうなら、やらなかった気がする。もしくは教員に無理矢理組まされて苦い思いをしたか。
「先生かぁ~。相談してみるか」
そんなに期待はしてないが、学生が困った時は、とりあえず先生に相談だと思うので、学校に向かってみる事にした。
学校は南のユウツオ正門から近いから進行方向は同じだから、学校でダメだったらヒルデさんに会いに行ってみよう。
とか考えながら学校に行ったら、校門付近からヒルデさんが出てきた。
「あっ。ひ、ヒルデさん。どうも、こんにちはです」
「タツキさん。こんにちはです」
唐突だったので、ちょっとビックリしてしまった。
「学校に何か用事があったんですか?」
「そうです。昨日の札を返却しに行きました。私は魔女教団のディプルクラスとして、やる事がありますので。タツキさんは…… あぁ! パーティ表を提出しに来たんですね! もう人を集めたなんて、さすがです!」
この子の中で俺の評価って、どうなってるんだ?
それにしても、まさか学校に着く前にヒルデさんの方の望みが潰えるとは思っていなかったぜ。
「いや、まだ1人も見つかってなくて探してる最中なんですよ。いったん先生に相談しようかと思って学校に行くつもりなんです」
「そうなんですね。私は南西にある隣国のパレバノニスアラリア国に行ってマスタークラスの方から色々と教えて頂く予定です。では。タツキさんも頑張ってください」
凄いなぁ。隣国にまで行って修業してくるのか。俺も見習わないといけないなぁ。
学校に入り職員室のある中央棟に向かって歩いていると、紙袋を抱えた、見知った人が歩いてきた。
「あら。タツキじゃないの。休みの日まで学校で自主訓練しているの?」
「こんにちはダリアさん。そんなんじゃないですよ。ダリアさんは買物を学校で?」
「買物した後よ。さっき、札を返してきたのよ」
なっ! ダリアさんもか!
「帝都には行かないんですね」
「シャン・レン=ワン家の集まりがあって、帝都テンルウに行く予定はあるのだけど、まだ3週間ぐらい時間があるから、護衛を雇って馬車で行く事にしたの」
「馬車ですか? 兎車じゃなくて?」
「そうよ。いいでしょ? 木々の多い森や高低差のある山でも走れる兎獣を冒険者が好むので、街中でも兎車が多いわね。籠を外せばすぐに乗れるから」
確かに、あのデカいダチョウ脚のウサギが客室車を引いてるのを街でよく見る。荷車を引く牛獣も見る事があるが、兎車が多いのは有事の際には単騎でも運用しやすいからなのか。
「でも、平原を真っ直ぐ走るのは馬獣の方が得意なのよ。体力もあるわ。安定した走りは振動が少ないし、急な速度の変化も無くて、その乗り心地は客室車に乗ってても直接背中に乗ってても最高よ! あぁ~、でも業者の方は直接は乗せてくれないわ。なんとかならないかしら。凛々しく走る姿、風になびく立て髪、一緒に風を感じて走れてたら素晴らしいのに」
おっと、スイッチが入ってしまったか? そういえばダリアさんは騎乗獣大好きっ子だったな。
「俺も馬獣でテンルウまで行きますよ」
「なんですって?」
「ノアがテンルウまでの冒険者と騎乗獣を手配してくれたんです。でも一緒行く仲間を集めきれなくて…… 今から先生に相談しようかと思ってます」
「馬獣に乗るの?」
「どうでしょう? 荷車もあるそうなので、引いてもらうかな? でも犬獣も2匹いますよ。冒険者2人にはそっちに乗ってもらおうかな?」
「犬獣ですって!?」
ど、どうしたんだ急に…… そんなに驚く事なのか?
「犬獣はそれなりに個体数が少ないわ。嗅覚が鋭く、追跡依頼をこなせるから犯罪者の捜索によく使われる。基本にギルドが大切に飼っていて、一般人が乗る事なんて、そうそう出来ないわ。こうしちゃいられない!」
ダリアさんは持ってた紙袋を俺に押しつけてきた。
「タツキ、そこでソレを持って待ってなさい! ちょっと、札を取り返しに行ってくるから」
「えっ!? えぇ? なんで?」
「私をあなたのパーティに入れなさい。そして犬獣には私が乗るわ! わかった?」
「は、はいっ!」
ダリアさんは、少しスキップぎみで中央校舎へと向かって行った。かなり騎乗獣が好きなようで、後ろ姿から嬉しそうなのが分かる。
よーし! 1人目をゲットしたぞぉ! ダリアさんがいれば、他の人にも声をかけやすいだろう。
「あれ? あれはタツキの兄貴じゃないっすかね?」
背後から、俺の名前が聞こえる。
「おーい! タツキの兄貴ぃ~!」
振り返るとシャンウィ君とシェンファちゃんがいた。
「おぉ! 2人ともどうした?」
「どうしたって、そりゃ、兄貴を信じて学校まで来たわけですよ! なぁ? シェンファ、やっぱり来て良かっただろ?」
「そうだね。さすがタツキさんです」
ん? なんだ? なんか褒められているけど? なんかしたっけ?
「そんじゃ、兄貴! よろしくお願いします!」
「します」
双子の兄妹が2人して頭を下げてきた。
「すまん、話が読めん。なにが、よろしくなんだ?」
「だって優しいタツキの兄貴は、ここで俺らみたいのが来ないか待っててくれたんですよね? パーティを組めなくて、あぶれた奴等を拾ってあげようって、心意気でしょ?」
「うんうん」
「だって、成績1位のヒトラ様と交友があって、2位の魔女教団とも仲良しで、3位のシェンユの兄貴とは親友なんっすよね? そんな兄貴が1人で学校で待ってるなんて。やっぱり兄貴は困ってる人の味方なんですね!」
「シェンファもそう思う」
コイツらの中の俺の評価は、どうなってるんだ!
まぁ、確かに、余ってる人を欲しているのは間違っていない。むしろ、俺が余ってしまった人だからな! けど今、そんな事は、どうでもいい!
「俺は、お前らを待っていたぜ!」
「あ、兄貴・・・」
「一緒に帝都を目指そうぜ!」
「ついて行きます!」
よーし! 4人集まったぞー!
これでノアに笑われなくて済むぜ!
「良かったなシェンファ! 俺達だけだと冒険者を雇うのも断られてしまって、まずは仲間から先に探そうってなってたんですよ~」
「安心しろ。既に冒険者も手配済みだ!」
「おぉ~!」
「帝都までの移動手段として騎乗獣を4匹も準備してある!」
「マジっすか! 凄い!」
「俺は騎乗獣を扱えない。だが、プロフェッショナルに声をかけているから安心だ!」
「準備万端ですね! そのプロフェッショナルってのは、ダリアの姉御ですか?」
「なっ。何故それを?」
「さっき、中央校舎から出てきましたので。今、後に立ってますよ?」
慌てて振り返ると、後には腕組んで呆れ顔をしてるダリアさんが立っていた。
「別に、いいけど。普通はメンバーに加える人は、先にパーティメンバーに相談をするもんじゃないかしら?」
「そ、そ、そ、そうですね。すみません」
「まぁ、私も今、加わったばかりだし、動機も不純だから、相談したくない気持ちも分かるけど」
「いえいえいえ! そんな事はありません! ただ、2人が困っていたので助けてあげたいと思いまして。どうでしょうか?」
「すみませんダリアの姉御! 俺からもよろしくお願いします!」
「シェンファからもお願いします」
3人で深々と頭を下げる。今のダリアさんはノアよりも怖いわぁ~。
「どのみち、あと2人必要だから。タツキが良いなら良いけど……」
許された。助かった。
「今度は、落とさないでよね」
顔を上げて、それぞれが顔を見合わせて、4人を確認すると、全員が絶句した。
そうだ。このメンバーは、大防壁の上から砂漠に落下して、サンダイルに食われかけたメンバーだ。
嫌な予感がする……




