第91話 侍女はついて行けないですねぇ~
「疲れたぁ。学校で寝そうだぁ~」
「昨日はあんなに気合い入ってたのに、かなりの変わりようね。何かあったの?」
「毎朝のノアちゃん訓練が、今日は厳しかったみたいでさ。オイラもちょっと見てたけど、アレを朝からは辛いね~」
「あぁ~、成績がね。なるほど、理解したわ」
昨日は報告してもないのに、帰ったらノアが成績を知っていたので、今朝の訓練がいつもよりも厳しかった。
「うぉす。皆、元気か? 今日は第1授業期最後の日だぞ。明日からの長期大型訓練に向けて気合いを入れて行くぞ! 今日は終始の説明になるので退屈かもしれないが、説明が終わり次第帰ってもいい事になってるから、しっかりと聞くように!」
今日は、1年生主任のラガルハ先生が担当するみたいだ。声がデカい。
説明だけって、眠くなりそうだけど、終わり次第帰れるのか。踏ん張らなくては! それに、ちゃんと聞いて加点を貰えるようにしないと!
それにしても長期大型訓練って何をするのだろうか? 夏休みの宿題的な感じではないよな? 宿題がドリルと書道と絵と貯金箱と自由研究があるとか、ラジオ体操は朝6時から英雄広場でやるぞ。とかは流石に無いよな?
「知ってる奴もいると思うが、明日から約2ヶ月の間、学校へは来なくても良い。代わりに帝都テンルウのギルドへ行って戻ってきてもらう。この札を1人1つ配るから絶対に無くすなよ!」
先生が取り出したのはカードサイズの木製の札で、黒っぽい全体にうっすら光って見える緑色の球体が埋め込まれて、周りにも同じくうっすら緑色に光る模様が描かれている。
「パーティを組んで、この札をテンルウのギルドに提出するのが目標だ。それからこの札を2つでひと組とし、D級冒険者かC級冒険者を1人雇う事が出来る。最低でも1パーティに2人は雇ってもらうとする。つまり、DもしくはC級冒険者2人と学生4人が最低人数だ。ギルドには冒険者に協力するように要請してあるが、絶対に引き受けてくれるわけではない。欲しい人材がいるなら交渉して仲間に引き入れるのも冒険者に必要な技能だ。今回はそれを体験してもらう。パーティに入れる学生も同様だ! 選択したルートに必要な力を持つ人材を仲間にできるよう努めるんだな! おっと、そうそうルートの説明もしないとな」
パーティを組んで先輩冒険者を雇って、帝都テンルウまで冒険に行く。すっごく本格的な訓練じゃないか。
不安もあるが、ちょっとワクワクしてきた。
「ルートは3つあるうちの好きなのを選ぶ事が出来るが、ルートによって配点が変わってくるぞ! まず平原を行くルートだ。徒歩でも可能だが騎乗獣に乗ってもかまわん。ユウツオから東に真っ直ぐ行き6日で、大翼龍が住む巨大樹群につく、そこで一息して更に東に8日で氷雪地帯に着く。2日かけて大回りでテンルウだ。氷雪地帯は横断する業者を利用して半日で着く事も出来る。獣や魔獣と遭遇する可能性もあるし1番過酷なので、このルートで行った者には50点を与える」
俺はコレをやらないといけないのかな?
「次にガルーパフの支柱に沿って進むルートだ。樹線路は常に点検をしてる冒険者がいるからな。獣や魔獣に遭遇する事は少ないだろう。少し大回りになるから20日はかかるだろうが、点検業務を請け負ってる冒険者に混ぜて貰えば楽に帝都に着ける。このルートで行った者には25点を与える」
98点に25点を足しても、140点には届かないなぁ~。
「最後にガルーパフに乗って帝都まで行くルートで、金さえ払えば3日で着く。学校から乗車賃は支給されないからなー。最も安全で快適で最短で帝都まで行けるが、利用するのは問題無い! 冒険者といえど時には安全を優先しなければならない事もある。しかし、まぁ点数は10点だ」
ガルーパフに乗って行くのアリなのか! 行って帰ってきて1週間で終わるぞ? そしたら残りは夏休みを満喫できるじゃないか!それに、乗ってみるチャンスだ。
大型バス3台分ぐらいの大きさで、8本の脚に茶色い甲殻、ぐるぐると動く目玉にトリケラトプスのような3本の角、カメレオンとカブトムシを足して割ったような巨大な生物だ。
力と体力があり、大人しく調教できるうえに、特定の樹の上しか歩かない。という習性を利用して、電車の車両のような物をぶら下げて、まさに電車のように使われている。
巨大生物に乗るっては男の子なら、誰しも経験してみたい事だが、俺は1度も乗った事が無い。
「それから、この札の説明だ。魔力の波長に反応して、特定の地点と特定の人物を記憶出来る。既にこの冒険者育成学校は記録されているので、あとはガルーパフの各支柱と大翼龍の巨大樹、氷雪地帯付近、テンルウのギルドだ。なのでどのルートを通ったかは分かるようになってるし、誰が所持して行ったかも分かる。不正をしないように!」
たぶん冒険者ギルドで見た、籠手にピンポン玉が付いてた冒険者証と同じ原理なんだろうな。
魔力の波長って、魔闘気を使えない俺が持ってても反応するのだろうか? ちゃんと使えなかったら訓練を頑張っても意味ないぞ……。
「質問はあるかー?」
「はい!」
「えーっと。スマン! 名前を覚えてない。どうした?」
「ヒルデ=レッサー=トキザです。行かない。というルートはありますか?」
なっ! ヒルデさん行かないつもりか?
「いい質問だ! 行かなくてもいいぞ!」
いいんかーい! 夏休みを満喫できるぞ。
「学校としては可能な限り行って欲しいのだが、成績が160以上ある奴は出来る事だろう。この2ヶ月を他の有効な時間に使いたいなら、それで構わない。ユウツオ冒険者育成学校は貴族が多いからな。この機会に血族の挨拶周りに行ったり、この期間に合わせて集まりをする貴族も多いだろう。どちらかかというと、今回の訓練は成績140点未満の者への救済措置の意味合いが強い。なので加点を欲しくなくば行かない選択もありだ!」
「ありがとうございました」
「他は?」
「はい、ユウ=シャン・ギ=オウです。行きと戻りでルートが違っても良いですか?」
「それはダメだ! ルートを選んだら行きも戻りも同じルートを使ってもらう。実際の依頼でも中途半端の達成では依頼完了と見なされない事がある。もちろん半分達成で半分の報酬が出る事もあるが、今回は同じルートを使って達成とみなす」
「分かりました」
「他にはあるか?」
なるほど。行きは平原ルートで、帰りをガルーパフに乗っても点数は貰えないのか。残念だ。
「無いようだな。それじゃあ、パーティを記載する紙を渡すから3日以内に記載して学校に提出する事! 訓練内容と注意事項が記載してある紙と、パーティ表の紙と、札の3つを順番に取りに来てくれ。受け取ったら帰っていいぞー。とりあえず今日は帰って、訓練内容をよく読んで、己の実力と足りないものを把握して、何を補うべきか、どんな仲間が必要か。それをよーく考える時間にする事! 分かったな!」
昼前に帰れる事になったので、シェンユと2人で歩いて帰る事にした。
いつも学校が終わると、俺は学校で自主学習か補習をし、シェンユは自主訓練もかねた簡単な依頼をギルドで受けてるので、一緒に下校するのは始めてかもしれない。
ちなみに今日は弁当を持ってきてないので、我儘亭に帰ってから食べる。シェンユは食後にいつも通りギルドに行って依頼を受けるみたいだ。
「ただいま戻りました、マスター」
昼飯を食べ終わって自室で訓練内容を読み直してたら、ノアが帰ってきた。
そういえば、ノアって俺が学校に行ってる間は何か仕事をしてるらしいけど、何の仕事をしてるのだろうか? 本人に聞いてもはぐらかされたし、我儘亭の人達に聞いたが、誰も知らないようだった。
「いよいよ始まりますね! 大冒険の時が」
「やっぱり知ってるのか。というかお前が楽しそうなのは何故だ?」
「何言ってるんですか。楽しそうでは無いですよ、心配しているのです! マスターが成績優秀であれば私と夏休みを満喫できるハズでしたのに。まぁ、こうなる事は入学当初から予想しておりましたので、この日の為にいろいろと準備をしてきたのが無駄にならず良かったです」
「3ヵ月前からこの長期大型訓練の事を知ってたのかよ」
「もちろんです。というか普通は年間行事を把握するものでは?」
確かにそうだ。なんか異世界ってのに浮ついてのと、日々の事でいっぱいいっぱいになってて、先の予定なんて考えてなかった。
「それで、何を準備してたんだ?」
「優秀な冒険者を2人確保しています。さらに犬獣2匹と馬獣2匹と荷車まで確保しています。あとはマスターが日頃の交友関係で仲間を3人ほど集めてきてくれれば良いです」
「すごい準備のしようだな。よくギルドに行ってるってのは聞いた事があったけど、冒険者にコネを作っていたのか。ぶっちゃけ、ノアが1人いれば大丈夫なんじゃないのか?」
「そうですね。私の実力はB級冒険者以上ですが、今回は基本的にはパーティメンバーのみで行かなければなりませんので」
「んっ? どういう事?」
「ちゃんと訓練内容説明書にも書いてないですか? 冒険者2人と学生4人を最低人数としてパーティを組み、その者達だけで訓練を行う。と」
慌てて手元の紙を読み返してみる。
本当だ……
「ノアさんは?」
「侍女はついて行けないですねぇ~」




