第90話 はっ? ナツヤスミ?
「シェンユ行くぞ! 今日は気合い入れて行かないと、いけないからな!」
「わぁお。タツキ、すっごく元気だね~。どうしたの?」
「この3日間が楽しかったからな!」
そうだ。この3日は素晴らしかった。
ヒルデさんと仲良くなれた休日は、その後にマンガ肉を食べる事が出来たし、サヤ様に近づける情報を手に入れたみたいだ。
俺は読んでないが、ノアによると導きの教典・黒の書には、一般には知られていない事が載っていたらしく、サヤ様の死因について書いてあったとの事。
その死因は、魂の崩壊だそうだ。
あらゆる魔法耐性、物理耐性があり不死身に近いサヤ様を倒せるとしたら、魂への直接攻撃という特殊な術は、可能性として有り得ると判断したノアは、この線でシュミレートしたり調査を進めていくそうだ。
魔闘気すら使えない俺が、魔法だの魂への直接攻撃だの言われても、分かりません。一緒に悩んでるふりしてたら、「マスターは分かってないですよね~? まぁいいです。こんな事が出来るのは組織のトップか、超異常な実力者だけと思いますので遭遇する事は無いかと。今は気にしないで下さい」と言われてしまった。
故に俺は気にしない事にした。何でかって? そりゃ久しぶりの補習のない日々だったからな。ってなわけで、一昨日の土の日には、たまたまヒマしてたフォルストと酒を飲んだ。この間の英雄学の事を話題に出して遅くまで話してたら、昨日は起きれずに遅刻してしまった。
朝の訓練もサボったのに、予想外にノアは少し小言をついただけだった。最近、妙に優しい気がする。不気味だ。
昨日は昨日で、放課後にユウとジョノが時間を作ってくれたので、久しぶりにエクシィで遊んだ。一昨日の失敗を踏まえて、しっかりと時間の管理もした。
心も身体もリフレッシュ! 今日は気合いもコンディションもバッチリだ!
なんてったって今日は月末の第4週の3日目、そう! 実習が始まる!
今月は絶対に最後までこなして、来月こそは補習無しのひと月にするんだ!
「何言ってるのよ。今日は教室で授業よ。来月は学校自体が休みじゃないの」
ダリアさんに送ってもらって兎車から降りたら、グランドに生徒も先生もいないのが見えて疑問をぶつけると、謎の返答が返ってきた。
「えっ? なんで?」
「なんでって。夏休みだからよ」
「はっ? ナツヤスミ?」
「タツキは補習で頭いっぱいで、ちゃーんと授業日程を確認してないんだね~。ダメだぞ! 毎月の実習よりも、ずーっと大事な訓練が始まるんだから!」
「そうね。夏休みとは呼ぶ人もいるけど、長期大型訓練をやるのよ。今日はこの3か月のふりかえり。明日は訓練の説明。明後日から来月と再来月いっぱいで長期大型訓練期間」
な、な、夏休みですと?
久しく聞いてない単語だ。最後に夏休みをしたのは、いつだったろうか? 高校3年生の時だから10年以上は前だ。
信じられん。この歳になって夏休みを満喫できるなんて。
「おはよう。タツキ、昨日はありがとな」
「皆さん。おはよう」
「おう。2人とも、おはよう」
教室の前まで行くと、廊下で喋ってるユウとジョノがいた。
「直前で良い調整が出来た。本当はノアさんと対戦したかったが、もしかすると自分の首を締める事なるから、これで良かったよ」
「ユウ。まだ言わない方が良いだろ?」
「もう大丈夫じゃないか?」
何の話だ? 何か隠し事してるのか?
「ちょっと早いが、授業を始めるぞー。皆、席に戻れー」
問い詰めようかとしたら、マイロス先生が来てしまったので、席につく。先生は何かロールされた紙を持っており、それをロールされた状態で黒板に貼り付けていた。
「全員いるかー? いるな。よし、分かっていると思うが今月は実習は無い。今日で第1授業期間が終わりだ。明後日から長い休みに入るので今日は面談と、この3ヶ月の評価についての話をするぞー」
やはり夏休みの話は本当のようだ。2ヶ月も休みとは、何をしようかなぁ~。
「まずは成績を発表する。評価については1つの要素につき50点で、〝知力〟〝魔力〟〝体力〟〝精神力〟の4つの合計で表している。基準としてはユウツオ内でD級冒険者としてやっていけるかどうかだ。満点は200点だ。最低140点以上ないと何らかの処置の可能性があるぞ?」
「先生ー。4つの要素の内容がよくわかりませーん」
「それも、説明する。〝知力〟は知識量だ。座学でやってる事がどれだけ身に入ってるか? が評価されてる。1年間は座学が多いので、ここは満点を取っておいて欲しいな。〝魔力〟は魔闘気がどれだけ扱えるか? になる。ここは個人差が激しいな。〝体力〟は身体能力だ。冒険者にとって最も大切な要素なので満点が望ましい。〝精神力〟はこれから伸ばしていく要素だな。冒険者はパーティーを組み団体で行動する事が多い。他者との協調性、謙虚な精神など柔軟さが必要であるが、強敵に立ち向かう勇気の心、過酷な状況でも諦めない不屈の精神などの強靭さも必要とされる。説明は以上だ。質問がある奴はいるかぁ?」
そういえば座学系は、時々テストみたいなのやってたな。
「いないようだな。じゃぁ、成績を発表するぞ」
マイロス先生がロールになってる紙をゆっくりと開き始めた。まさか、全員の前で全員の成績を発表するなんて…… 日本じゃ有り得ないぞ!
1位 ヒトラ
【合計200点 知力50点 魔力50点 体力50点 精神力50点】
2位 ヒルデ
【合計182点 知力50点 魔力48点 体力50点 精神力34点】
3位 シェンユ
【合計174点 知力35点 魔力50点 体力50点 精神力39点】
4位 ヒョウカ
【合計171点 知力50点 魔力31点 体力50点 精神力40点】
5位 ダリア
【合計169点 知力50点 魔力36点 体力33点 精神力50点】
6位 トゥーイ
【合計162点 知力50点 魔力36点 体力44点 精神力32点】
7位 ゼルトワ
【合計152点 知力50点 魔力41点 体力45点 精神力16点】
8位 イーゼァ
【合計151点 知力50点 魔力40点 体力40点 精神力21点】
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やっぱり1位はヒトラ様だ。しかも200点という完璧さ。
全然知らなかったけど、ヒルデさんって優秀なんだな。ダリアさんも凄い。上位8人は知力が満点なんだが、1人だけ低い奴がいる。
だがしかし、そいつは3位だ。凄い。
9位から14位までは4ギャルのトゥーイ氏以外の3人と帝都テンルウからきた貴族3人組の6名が140~130点でダンゴになっている。
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15位 シェンファ
【合計116点 知力50点 魔力34点 体力11点 精神力21点】
16位 ガリャン
【合計115点 知力22点 魔力36点 体力43点 精神力15点】
17位 ベム
【合計112点 知力23点 魔力32点 体力42点 精神力15点】
18位 ユウ
【合計110点 知力31点 魔力35点 体力23点 精神力21点】
19位 シャンウィ
【合計101点 知力30点 魔力21点 体力31点 精神力19点】
20位 タツキ
【合計 98点 知力25点 魔力 0点 体力31点 精神力42点】
俺ドベやーん! しかも1人だけ点数2桁じゃないですかぁー! ヤバイ……
「自分の順位と点数を確認したか? それじゃあ4人で1組に別れてくれ」
1番手前のシェンユが立つなり180度回転して俺の方を向くのが見えた。こういうグループ学習の時は、真っ先に俺の所に来てくれる。だが今回は背後からヒトラ様とヒョウカさんに捕まってしまったようだ。
そこにダリアさんも話かけてるのが見える。どうやら上位な人達は上位で話し合うみたいだな。
「タツキの兄貴、一緒にいいですか?」
「シェンファも~」
「おうよ」
前の席のシャンウィ君が声をかけてきた。もちろんセットで双子の妹のシェンファちゃんも付いてくる。これも、いつもと一緒だが、今回はシェンユがいない。
さて、あと1人はどうしようかな~。
「あの~。タツキさん、一緒にいいですか?」
おっ! ヒルデさんが声をかけてきた。
「げぇ。魔女教団かよ」
「シャンウィ。そんなふうに言うなよ。俺は結構ヒルデさんと仲良しなんだぞ? ヒルデさん一階にやりましょう」
「えぇーっ!」
「シェンファも苦手です」
「すみません。よろしくお願いします」
双子はブツブツ言いながらも、ヒルデさんも一緒にグループになってくれた。
「組を作れたようだな。では4人でお互いの欠点について、どう克服していくか? 冒険者パーティだと思って話し合ってみてくれ。それから下の備品室の空きスペースで先生と個人面談を順番にやってくぞー。 ヒトラ、10分したら下に来てくれ。では、始めー」
面談もやるのか。才能ないから学校辞めろとか言われたら、どうしよう……
「みーんな140点以下だな。なんとかしねーといけねぇ。俺とシェンファはやっぱり身体作りをしないとだな! タツキの兄貴は…… 魔闘気っすね」
「あの、私は176点です」
そうだ! ヒルデさんは2位だ! てっきりダメな奴らが集まってるかと思ってしまったぜ。
「ヒルデさんっ!」
「はいぃ」
「俺は、どうしたら良いですか? あとシャンウィ君とシェンファちゃんも。 成績上位の秀才から見て、どうやって克服したら良いですか?」
双子も成績を上げたいのは、悲願らしいのか、黙ってヒルデさんの言葉を待つ。
「えっとですね。シャンウィさんとシェンファさんは、身体作りよりも知識力と魔闘気を伸ばした方が良いと思います。どうしても身体は成長期が訪れないと仕上げられないと思います。魔闘気で身体強化が出来れば身体の未熟さをカバー出来ます。知識があれば精神が未熟でも対応策を思いつきます」
「おぉ~! 魔女教団の人すげーな。確かにそうだ。言ってる事、よく分かる」
「シェンファは、身体強化できないの」
「シェンファさんは、体の隠が使えますよね? なら大丈夫です。訓練すれば多少は身体強化は出来るようになります」
「分かった。訓練してみる」
おぉ! ヒルデさん良い感じだぞ! こうやって少しづつ関わってから、徐々に友達が増えていくといいな。
あっという間に時間が過ぎて午前中いっぱい話し合いをしていたが、面談を全員終わって無いので午後も同じ内容でやるそうだ。面談の方が重要ってわけね。
昼食時間になって双子は食堂に行ってしまったので、シェンユとヒルデさんと3人で食べる事にしたけど。無言だった。
シェンユは相当、魔女教団が嫌いみたいだ。
そして午後に入っても俺は呼ばれず、成績ランキング最下位の俺の個人面談は最後に行われた。
「タツキが頑張ってるのは分かる。お前は努力をしてるし、向上心もあるし、授業も真面目に受けていて、自己分析も出来ている。だが今のままでは冒険者になれないぞ? 冒険者を諦めて他の職業の選択は無いのか?」
正直、商人でも世界を旅出来ると思うので神からのクエストを行えそうだが、そうすると領主様との約束が守れない。生活が出来なくなってしまう。
「すみません。今は考えてないです」
「そうかぁ。なら頑張るしか無いな。長期大型訓練の話は、誰かから聞いているか?」
「名前ぐらいは」
「訓練の内容しだいで成績に加点がされる。気合を入れて取り組んでくれよ」
おぉ。チャンスがあるのか! 頑張らなくては。でも夏休みも楽しみたいなぁ。
「他の奴等にも伝えているけど、合計点数140点未満は、第2授業期間に優クラスにいられなくなるからな」
な、な、な、なんですと?!




