第87話 フォルスト=ティエンだ
英雄学。それは、週に1度1コマだけ存在する、ちょっと変わった授業。かつて名を馳せたが、ケガや年齢などで引退した有名な冒険者を招いて、その活躍を聞かせてくれる。現役の冒険者を呼ばれてくる事もあり、近頃の冒険者の流行りスタイルや、求められてる力など、最新情報を教えてくれたりもする。
人によっては、自慢話を聞くみたいで退屈な授業かもしれないが、ヒーローの話や英雄譚を聞くのが好きな俺としては、結構楽しい授業だ。
「おう。全員座ってるか? 始めるぞー。俺の話は役に立つか分からねぇから、聞かなくても構わねぇけどよ。騒がれると話しにくいし、もしかしたら、ちゃんと聞きたい奴もいるかもしれんから、静かにしててくれよ! 聞きたくねぇ奴は、寝ててもいいぞ」
今日は、やる気の無い先生だ。それもそのはず、これまでに来た人は、元A級冒険者で両断剣のセンギョク、元A級冒険者でアーイラ家の武力ハオラン、現役A級冒険者で鉄壁の騎士団長、現役B級冒険者コンビのロンとトゥーモ、などなど。
学校側がネタ切れをおこしたのか? それとも今月の予算を組み間違えたのか? とにかく、今日の先生はこれまでとは、ひと味違う。
「まぁ、知ってる人もいると思うが、いちおう自己紹介をしておこう」
俺は知ってるぞー。
「フォルスト=ティエンだ」
目があった。少し驚いて、めっちゃ苦笑いをしやがった。アイツ、俺が優クラスって事、知らなかったみたいだな。
「現役C級冒険者で、C級冒険者パーティー『森の疾風』のリーダーをやらしてもらってる。主にユウツオの南にある森で資源確保の依頼をしてる事が多い。たまに魔獣討伐の依頼をする事もあるかな」
1番前の席にはシェンユもいるし、なんかやりにくそうで、ちょっと笑える。
「今回は、なんかいつもと違うと感じてる奴もいると思うが、その通りだ。俺も今月の初めに冒険者育成学校から依頼が来た時は、間違いと思ったし、他に呼ばれた冒険者の名前を聞いて、すぐに依頼を断ったよ。でもな学校側から、どーしても俺にお願いしたいって事で受ける事にした。俺は卒業生では無いが、ワケあって世話になったからな。つまり! 俺が呼ばれたのは、ちゃーんとした理由があっての事だ。決して学校側のネタ切れとか予算が無かったとかでは無い!」
あっ…… すみません!
「この授業は、冒険者の体験した話を聞いて、自分に活かそうという狙いらしいな。俺が伝えたい事は〝冒険者〟って肩書きについてだ。まずは俺がどうして冒険者を目指すようになったのか話そう」
フォルストは、帝都テンルウの西部の貧しい村の生まれだそうだ。しかも2人の弟と2人の妹がいる長男で、10歳の頃に冒険者だった父親が死に、母は水商売して生計を立てフォルストも手っ取り早く仕事が出来る冒険者になってF級冒険者として、毎日働いていたとの事。
フォルストが12歳の時にE級冒険者に上がると、2つ下の弟もF級冒険者となり働き始めて、その1年後にセンスがあった弟はE級に上がり、さらに2年後に2人ともD級冒険者に上がり家族は安定した生活ができるようになったらしい。
「冒険者を始めて8年が過ぎ、いつの間にか『荒地の疾風』という9名パーティーのリーダーを努めるようになっていた。それなりに多くの経験を積んだし、パーティーの内の3人は、ずっと苦楽を共に過ごしてきた弟と妹だった。俺に憧れて冒険者を目指し、嬉しくも俺をリーダーとして立てパーティーメンバーとして支えてくれるまでになってくれた。連携も完璧で、4人揃えば何だって出来る気がしてた。実際に依頼を失敗した事は無かった」
フォルストは教室ではなく、廊下の窓から遠くの景色を見ていた。その方角は東で、帝都テンルウのある方だ。
今のパーティー『森の疾風』に兄弟がいるって話は聞いた事ない。きっと、実力者になった4人は、それぞれ自分のパーティーを持つ為に各地に移ったのだろう。
何処かで頑張ってる兄弟達を想っているのかな? フォルストったら意外とノスタルジックなのね~。
「そして、大きな仕事に手を出そうと考えた。9人の内4人は家族だから報酬を均等に割ってもティエン家に入る金はデカい。他の5人も分かってくれてたし、それなりに出来るパーティーになってた俺達は、近いうちにドラゴン討伐でも試してみようと話し合った。パーティー的にはD級だったが、運よく緊急の依頼が発生してギルドからも許可が出た。D級つってもC級に近いD級だったし、正式にC級冒険者パーティーとなれるチャンスでもあった」
教壇に肘をついて顎を手に乗せて話してたフォルストが、背筋を伸ばして両手を教壇の上に乗せ正面を向いた。
いよいよ話のクライマックス。ドラゴン討伐依頼の英雄譚が開幕か!
「俺以外は全滅した」
教室が騒めいた。シェンユも知らなかったみたいで驚きの声を上げていた。俺も信じたく無い思いの声を出してしまった。
「それから、いろいろあったが、俺はユウツオに移り10年ぐらいC級冒険者をずーっとやっている。毎日狩りや採取の依頼を10以上こなして、ユウツオの街が豊かになるように頑張ってるつもりだ」
「ちょっと待ってよフォルスト。オイラは何の話をしてるのか全然分からないよ」
「バカっ。まだ途中だろうが。静かに聞いていろ」
急に立ち上がったシェンユは、すぐに座り直す事になった。
「俺が言いたいのは、冒険者ってのはそれが全てでは無いって事だ! この学校でこんな事を言うのはアレだが、冒険者以外の道もたくさんある! 冒険者になったとしても冒険する意外の道もたくさんある! 今日までここに来て話をしてくれた英雄達に憧れて、それを目指すのは悪くないが、死んだら終わりだ。ちょっと話がそれるが、俺は大魔女サヤが嫌いだ」
「な、なんですって! 貴方! なんて事を、どうしてそんな事を!」
「おーい! 異常魔女崇拝者、黙ってろ! 人族全員がお前ら教団の信者じゃねーんだぞ?」
今度はヒルデさんが立ち上がった。そして、後ろの席のトゥーイ氏がいつも通りに静かにさせてしまった。
フォルスト~! このクラスには魔女教団の子がいるんだよ~! ちょっと突然、変な事言うなよ~!
「き、君は魔女教団の人か。悪かったな。でも人にはそれぞれ色々な考え方があるし、何を信じたってイイだろ? 俺はな、大魔女サヤが残した物について疑問があるだよ。何故、冒険者なんてもんを作ったのか? 魔闘気なんてもん開発したのか? 他にさ、魔法でドラゴンと対話する方法とか、作物を良く育つ魔法とかを開発して欲しかったよ。あの人は偉大だよ。間違いなく人族の為に色々な事をしてくれたよ。でも、そのほとんどが戦う方法だ。この過酷な世界は戦わなければ生きていけない。でも大魔女サヤほどの人なら戦わないで生きる方法を作れなかったのか? そんな事を考えてしまうのさ」
フォルストの話を聞いてヒルデさんは、静かに座ってくれた。
確かにサヤ様が残したのは、戦うに繋がる事が多いみたいだか、それは考え方の問題じゃないのか? エクスィーだって戦闘シュミレーションが目的らしいけど、普通に娯楽として楽しいぞ?
「だからよ。戦う事が全てじゃないって言いたいんだ。俺も昔は冒険をするから冒険者であって、最終目標は、目指すべき所はMA級冒険者であり、ドラゴンを倒せる者であり、龍人が住むアーカディアに挑む者だと思ったよ。けどな、毎日毎日狩りをして、獲物を多く市場に流して、流通量を増やして、貧しい奴らにも食べ物が行き渡るようにする。その為の冒険をするのも、立派な冒険者だと俺は思ってるぜ! だから俺は万年C級だ! これまでも、これからもな。マイロス先生、俺の話は以上だ」
おっと、今日の担当はマイロス先生だったのか!
英雄学は代わり替わりで、いちおう先生も教室にいる。たまたまマイロス先生みたいだったけど、先生は「冒険をするから冒険者なんだ!」って言う人だ。今のフォルストの話は、あまり面白くなかっただろうな。
「フォルストさん。すごく為になる話でした。生徒達にもですが、私も勉強になる内容で、色々と考えさせられました。ありがとう」
「いえ。まぁ冒険者をやってたら死は身近なもんだし、仲間が死ぬ事もよくある話だ。俺は大した話はしてねぇぜ。頼むから次はもっと偉大な奴に声かけてくれよ! C級にするにしても、せめて華のある奴にしてくれ、パメラとかがオススメだぜ? じゃ! 俺はちょっと校長に挨拶してから帰るわ」
「お疲れ様です」
「お疲れ! お前らも、つまらん話を聞いてくれてありがとな! お疲れ~」
最後はフォルストらしい感じで出て行った。
パーティーの仲間が死ぬ事がよくある話。それが家族であっても、つまらない話になる。戦う事だけが全てじゃない。冒険をしなくても冒険者はできる。そして、それが必要とされている。
フォルストの話は、これまで聞いてきた実力のある冒険者達の話と比べると、地味は話だったかもしれない。けど、何故冒険者になるのか? どのような冒険者になるのか? 何の為に命をかけるのか? これから立ち止まらない為にも、最後の瞬間が訪れた時に後悔しない為にも、今、深く考えておかなければならない事で、これまでと違って考えさせられる話だった。
俺は、何故この世界に来たのか? 何の為にヒーローを目指すのか? あらためて考えて、覚悟を決めておかなければならない。
シェンユも悶々としていたのか、昼食はいつもみたいに会話が弾まなかった。
午後からの強化訓練学も何人かの生徒は、考え事をしていたみたいで、普段はあまり怒らないリー先生を怒らしてしまった。
そんな状態は放課後まで続き、当然ながら俺の補習の試験は、さんざんな結果に終わってしまった。




