第86話 ミステリーか?
最近学校で、あからさまな視線を感じる事がある。そう多くは無いが、そのタイミングはなんとなーく分かる。
ギルド学の授業の後が多いが、魔闘気訓練学の時もあるし、亜人学の時もあるし、けど、昼休み中は絶対に無い。なぜなら、視線を送る犯人がいないからだ。つまり、俺は視線の主を知ってる。
ヒルデさんだ!
不規則と思われるタイミングだが、ちゃんと理由がある。大魔女サヤ様の話をしてる時、もしくは、関連する話が出た時だ。
俺は、大魔女サヤの大ファンという事になっているし、周りにもそれで認知されつつある。その方が情報を集めやすいし、俺個人としてもサヤ様は、好きだ。
そうして少し話が盛り上がると、必ずヒルデさんが、話の輪に入りたそうに俺を見てくる。けど、他の皆は関わりたく無さそう~にしている。
特にユウは顕著で、そもそもヒルデさんが近くにいると、あまり話すらしない。
正直、こんな事は嫌だけど、よくある事ではある。中学でも高校でも、何故かクラスで浮く奴は存在してて、俺もそうだった。でも大抵は、はぐれ者同士でコミュニティが出来て、それなりにエンジョイしたりするもんだったりするが……
どうやら、魔女教団ってのは、相当の嫌われ者みたいで、ヒルデさんが誰かと喋ってる所を俺は見た事ない。
こういう状況に介入した事は無いが、流石にずーっと1人ってはツラいだろうし、俺に視線を送ってくるので、なんとかしてあげたいと思うのだが、どうしたものか……
とりあえず3日間は観察してみた。ヒルデさんは、基本的に1人で黙々と勉強をしていて、授業の合間の短い休憩時間もノートをまとめていたり、次の授業の準備をしている。
そして、昼食は必ずどこかへと居なくなる。教室から出て行くけど、一般食堂で見た事は無いし、先生に聞いたら貴族では無いらしいので、貴族用食堂を利用してもいないだろう。シェンユに「たまには外で食べよう」と外に連れ出して探してみたけど、見当たらなかった。
まさか、トイレで弁当食べてるタイプの人なのだろうか? 人によってはトイレが落ち着くって、人もいるらしいが。
「ターツーキー。今日はいったい何処で弁当食べるのさ?」
「なんだよ。その言い方は」
「だってさ。今まで教室だったのに、3日前は理由もなく食堂に行ってさ、一昨日は突然、外に行こうって言うし、昨日も外で食べたし、どーしたのさ!」
「すまん!」
「まっ。分かっているけど、ヒルデさんでしょ? 何するつもりなのさ?」
あっ! ヒルデさんが教室を出て行こうとしてる。
「すまんシェンユ! 今日はユウ達と飯食ってきてくれ!」
「えっ? ちょっと、タツキ~」
申し訳ないが、シェンユを置いて急いでヒルデさんの後を追う。たぶん皆がいると話しにくいだろうから、昼時間を狙って1対1なら話ができないだろうか?
本当ならシェンユと2人が、いいんだけれど、あの感じからすると気がのらないだろうから、無理には連れて行かない。だがしかし、俺は…… 女性と1対1で話なんて出来るのだろうか……
ヒルデさんは、良クラスのある3階へと上がって行く。知り合いがいるのだろうか? だとしたら安心なんだけど。
んっ? 4階に上がって行くぞ? もしかして没クラスに知り合いがいるのか?
階段を登ってたら、4階から降りてくるカハクとすれ違った。
「あれ? タツキ君。もしかして私に用がある? 今から食堂に行く所なんだけど?」
「いや、大丈夫だ。ちょっと別の用事があるから、またな」
ちょっと雑談をしてたら、ヒルデさんが見えなくなってしまった。没クラスがある4階に来たが、廊下には誰もいなかった。
こっそりと没クラスの教室を覗いてみる。
没クラスは貴族では無い一般人が多いと聞いた事がある。実はウチの食堂は、かなり金額が安いらしくて、その理由は未来の冒険者達の為に、今、活躍してる冒険者達が獲物を差し入れしてたり、センギョクさんのような引退して店をやってる人が、協力してたりする。なので、苦学生の多い没クラスの生徒達は、ほとんど食堂に行くらしい。
というわけで、教室には誰もいなかった。
廊下にも教室にも誰一人として、いない。だがしかし、ヒルデさんは4階まで上がってきたのは間違いない。
「ミステリーか?」
目についた窓から外を眺める。
無いとは思うが、なんとなーく顔を出して外を見てみた。流石に校舎の外壁の梁とかには居なかった。
安定しないし、危ないからな。世界にはクレーンの上で弁当食べる人もいるらしいけど。
どこにいったのだろう? あと、弁当を食べれそうな所は……
やはりトイレか?
各階の教室の隣には、トイレがある。なので優クラスがある2階にもトイレはあるんだが、わざわざ4階のトイレを使うのは、何故だ? 教室と廊下に誰もいないので静かだからか?
「自分の教室に戻るか。女子トイレに突撃は絶対に出来ない」
階段に向かう途中で、1つだけ開いている廊下の窓を通り過ぎた時、1つの仮定が思い浮かんだ。
「もしかして……」
俺は、自分の弁当を口に咥えて、窓枠に手と足で踏ん張って身を外へ出す。
ちょっとだけ下を見た。落ちたら大怪我どころでは無いな。もし、そうなったら最低でも頭部は守ろう。
上下に体を振り勢いをつけて、上に跳躍して屋根の縁を掴む。それから懸垂の要領で屋根の上へとよじ登った。
予想が当たり、ヒルデさんがいた。
四角錐の屋根の傾斜に上手く腰掛けて、ユウツオの景色を見ながら弁当を食べてる途中だったらしく、口から2センチ手前でオカズを挟んでる箸を静止させて、驚いた顔で俺を見ている。
「あっ。えっと…… こんにちは」
「あの~。え~っと、私に何か用でしょうか?」
どうしよう。なんて切り出したいいんだ? イジメられてます? なんて聞くのは失礼だろうし、でも、何故あんな扱いをされるのかを聞きたいんだけど。
まずは普通に喋るんだ俺! ダリアさんとは喋れてるじゃないか!
「もしかして、大魔女サヤ様の話をしに来たのですか?」
「あっ、そ、そうです」
「そうなんですね! それは。それは。どうぞ、隣にどうぞ! 何の話をしましょうか? 大魔女サヤ様は偉大な方で、多くの偉業を成してますし、数多の功績もありますし、無数の逸話を残していますから!」
なんかヤバイスイッチを入れてしまったみたいだ。聞きたいのはソレじゃないんだが、でもまぁ、まずは共通の話題で打ち解けてから、お悩み相談へという流れで行くぞ。
とりあえず、隣に座って自分の弁当をスタンバイする。
「その~、そうですね。オススメの話があればお願いします」
「オススメですか。悩みますね~。全部オススメに値するので本当に難しいです。そしたら全部話せば良いですね! では導きの教典の第一章からお話しましょう。まず大切なのは魂の在り方です。大魔女サヤ様は、全ての根源は魂にあり、その強さも、魔力も、罪も、存在価値も、運命も深く刻まれている。という言葉を残しています。ですので自らのの魂と対話し、知覚して、その性質を知らなければなりません。つまり――」
ヤベェよ! めっちゃ宗教勧誘みたいの始まってしまったよ! 導きの教典って何っ? サヤ様って宗教団体作ってたの?
そして、この子スタートボタンを押されたCDプレイヤーみたいに喋り続けてるけど、これ永遠と喋るのかな? とりあえずは、ちゃんと聞いてるフリして頷きつつ、自分の弁当を食べてしまおう。
「この教えも、考え方も素晴らしいです。身体能力が低くても強い方は多く存在します。また身体能力の高い獣人達ですが、B級冒険者程度の実力しかありません。A級冒険者となれば、龍人と渡り合う者もいます。ですので強さとは、その本質は魂にあるのです! そして――」
長い。第一章とか言ってたけど、何章まであるんだろう? しかも第一章が終わる気配もしないのだけど。俺は、もう弁当食べ終わってしまったよ。
これは、本題に切り出すしか無いな。大丈夫だ俺! 普通に、聞けばいいだ。
「生きてきた全ても魂に刻まれますので、良い行いを心がけ」
「すみません! ヒルデさん」
「あっ! あはははは。やってしまいましたね」
おっ? 自覚があるのか?
「タツキさんの意見を聞いていませんでしたね。やはり大魔女サヤ様は、素晴らしい方ですよね?」
「……」
「どうかしましたか?」
「あ、いや、なんか、もう、凄くて」
まさか嫌われてる原因ってコレか?
「その、ヒルデさんに聞きたい事があるんだ」
「あぁ、すみません。導きの教典では無く、入団についてでしたか?」
違う!
「そのぉ~。クラスに馴染めてないような気がして、ちょっと気になって……」
「その事ですか……」
「皆の態度も良くないと思ってるんだけど、何か原因があるのかな?」
「仕方の無い事なんです。タツキさんは知らないかも知れませんが、魔女教団は世界からの嫌われ者なのです。もちろん嫌われるだけの相応の事をしてきてますから」
「でも、俺にはヒルデさんが皆に迷惑をかけているようには見えない」
「ありがとうございます。それでも仕方ない事なのです。私個人でなく魔女教団全体の問題なのです。私達の魂に刻まれた罪の問題なのです」
顔をうつむいて、自分の弁当を見つめているが、その瞳はきっと、ここに無い何かを見ようとしているんだろう。
魔女教団。ノアに聞けば何か知ってるだろうけど、それでヒルデさんの立場が改善するとは思えない。
「俺は、困ってる人をほっとけないタチなんだ。何か俺に出来る事はないかな?」
「…… なら、今度の休みに私の住んでる所に来て貰えませんか?」
「えぇ?!」
「私と魔女教団のユウツオにおける立場、世界からどう思われてるか分かると思いますので」
「分かった。そうするよ」
どういう事だろうか? でも行けば分かるって事なら見に行って改善策を考えよう。シェンユも誘ってみるかな?
んっ? あそこに見えるのはシェンユじゃないか? ユウもダリアさんもいるし、ヒトラ様にヒョウカさん、シャンウィ君にシェンファちゃんトゥーイ達4ギャルもいるぞ? 昼食時間に皆でグランドに集まって何やるんだ?
「今日の昼休みって、何かあったっけ?」
「もしかしたら、授業が始まるのかもしれませんね。クラス全員いるみたいですし」
「えっ?!」
「あっ。先生もいますね。ここからだと、よく見えます」
「じゃなくて! ヤバイぞ! 遅刻する。次の授業は魔闘気訓練学だ、ダリア先生に怒られしまう! 早く戻らないと」
「あっ!」
「どうした?」
「私、まだ弁当食べてません」
「……」




