第81話 では、ヒョウカをやろう
ユウとシェンユに続いて3人目だぞ? これはちょっと対策を考えなければいけないかもしれん。ノアにはしばらく大人しくしてもらわないと!
俺に大人しくしてろって言って、監視役までつけておいて、お前が問題の中心になってるじゃねーか!
「少し集めた情報では、月に十万ゼンの給金程度では、なびかないそうだが。妾に仕えれば月に百万ゼンを出そうでないか。どうじゃ? ノアよ、妾に使える気はないか?」
ひ、ひゃく、百万ですと?
ノアを売れば、すぐに借金が返せそうだ。
「お断りさせて頂きます」
「なんだとっ! 百万ですよ? 私だってそんな額を提示された事は無いというのに、悩みもせずに断るのか!」
「なんだ、ヒョウカ。今の待遇に不満だったのか?」
「いえ! そんな事はありません! ヒトラ様に仕えられるのなら1ゼンもいりません!」
ノア様ったら、即答で断ったよ。嬉しいけど……。月に百万か……
「うーん。なら、領地をやろう。ワナン国ニシトラ地方にある妾の土地だが、そこをやるから、治めてくれるなら好き使っていいぞ。民を集めて道場をやるも良し、商人を呼んで商売をするも良し、冒険者を雇って海龍狩りをしても良い」
「お断りします」
「そうか。これも悩まぬか。ならば、先の条件に更に生活を保障しよう。トクトミノオダノ家から金を出す。2年は税も取らぬ。どうじゃ?」
「お断りします」
「……」
ちょっと、さすがにヒトラ様もイラっときたのでは無いのかな? ヒョウカさんは口を出さなくなったが、めっちゃ睨んでいるし。空気がピリピリしてるよ。
ノア様、もうちょっと断り方をマイルドにできないんですかね?
「通常ではありえない条件だと思っているのだが、不満かの?」
「私はたとえ、この世界の全てを頂いたとしても、マスター以外の人に仕える事は出来ません」
ノア…… 惚れ直したわ。
「そうか。ノアを落とすのは無理であろうな。ヒョウカ、席を変われ」
「あっ。はい」
突然、ヒョウカさんと入れ替わって俺の対面に座るヒトラ様。もう嫌な予感しかしない。
「では、タツキを落とそうかの。まさか、ついでと思っておったが、お主に交渉をしなくてはいけなくなるとはな。ノアはタツキにしか仕えぬ。では、タツキをワナン国に迎え入れれば、おのずとノアも付いて来てくれるのであろう?」
「マスターが行くのであれば、私はどこにでも一緒に行きます」
「そうか。そうか」
ヒトラ様が、座卓の上に右腕を置いて、前のめりに俺を見つめてくる。少し口角を上げてニヤリと笑った顔は美しいが、ちょっと怖い。
「そばに、強く綺麗で従順な侍女を仕えさせておいて、相手がいないと聞いておるが、お主らはそんな間柄ではないのであろう? 深く硬い絆の主人と使用人だ。女としては考えてないのであう? タツキ」
「そ、そうです。ノアは大切ですから」
何の話がしたいんだ?
「では、ヒョウカをやろう」
「はっ?」
「えっ? いやっ! ヒトラ様! ちょっと、何を言ってるんですか! 私はヒトラ様に尽くして仕えなればならないのです!」
「そうだ。だから私の為にタツキの嫁になれ」
「えぇぇぇぇ! そんなっ」
いやいやいや! 無理! よく知らない女の人と、突然夫婦になれとか無理!
「それは、出来ません!」
「そうか。ヒョウカごときでは満足せぬか」
「いえ、そういう意味では……」
〝ごとき〟とか言うなよ。失礼じゃないか。
「確かに、ノアがそばにいては、ヒョウカでは見劣りしてしまうであろう」
まぁ。それは。ノアと比べたらね。ノアを越える娘なんていませんよ?
「なら妾でどうじゃ?」
「はいぃ?」
「ヒトラ様! 正気ですか?!」
「実力も申し分ないうえに、見た目もよかろう? ノアやヒョウカと違って地位もあるぞ? 妾の婿になれば、ワナン国にて一生安泰に暮らせるであろうぞ?」
「お断りします」
「なんだと貴様ぁああ!」
「ヒョウカよせ」
魅力的な話ではある。受けていれば、生活に心配は無くなるし、ヒトラ様の地位を使って、情報収集も出来そうだし、神のクエストをクリアするにはアリかもしれない。
だが、さすがに話が旨すぎるでしょ? 何かあるぞ、絶対に。
「妾に魅力は感じないか?」
「そ、そういう事では無いですが……」
「ふむ。要望を言うてみ? 叶えられるかもしれぬぞ?」
「いえ、その~。何故に、そんなにノアが欲しいのですか?」
そう、そこなのだよ。
ノアが素晴らしい人材なのは俺も分かる。けど、その為に出す物としては大きすぎないか? それ程までしてノアを欲しがる理由はなんだろうか?
実は裏に、俺達に敵対する何かがあるんじゃないのか? それでノアを欲しているとか? 今は俺よりもノアが脅威になるだろうからな。
「ノアでなくとも良いのだ。優秀な者であればな。他にも2人ほど声をかけてはいるのだ。もちろん理由を説明しているし、お主らにも説明するつもりであったぞ」
特別にノアが欲しいわけでは無いのか。他って誰だろう?
「理由は単純にワナン国の強化じゃ。強い国にしたいのじゃ」
「私は、ワナン国は優れた国と認知していますが?」
「そうだな。武器の生産に優れ、魔闘気の鍛錬にも評定がある。食も文化も他国と違った良さがある。じゃが小さな島国であり、龍権戦争の時代に火龍人の権力下にあった事もあって、シン大帝国の属国のような扱いになっておる」
「そうだったんですね。貿易も盛んで、人の移動も自由ですから、そんな事は知りませんでした」
「表では友好国とされているの。シン大帝国は良い国じゃ、属国とはいっても多くの事が認められているし、ワナン国内の事はほとんど自国で決める事が出来る。しかしな、肝心な所では決定権をもっておらず、特に他国と関わる冒険者やギルドに関する事などに関しては、シン大帝国が決める事になっている」
属国って、よく分からないが、いちおう自治権のある植民地的なものか? でもワナン国は多くの権利と自由をあるみたいだけど。
「シン大帝国を嫌ってるでも憎んでいるでも無い。現状でもワナン国は発展してきた。じゃがワナン国としての矜持がある。我々としては世界にあるの1つ国としてシン大帝国と肩を並べたいのじゃ」
「その、それで、強者が欲しいと?」
「そうじゃ。優秀な者はギルドに属する事が多い。冒険者としてで無く、ワナン国の特殊な組織、武士としてワナン国に忠誠を示し仕えてくれる者を探しておる。相応の待遇を用意するつもりじゃ。これまでも、多くの者が国を出て自国の為になる優秀な者を勧誘してきた。快くワナン国の者となってくれた偉人達のおかげで、これまで発展する事が出来ている。更なる発展の為には、より多くの優秀な者が我が国には必要なのじゃ」
この世界のギルドは、世界政府というか、国と関係ない組織で、人族発展の為に存在しているみたいだけど。優秀な者がギルドの冒険者になるから、自国が弱ってしまうなんて事もあるのか……。
「ヒトラ様は8大地方貴族ニシトラの当主の娘であられながら、自らワナン国の為に国を出て、ユウツオ冒険者育成学校に知識と技術を学びにきているのです。更には優秀な者を見つけては、自ら交渉を行っているのです」
「なぁに、他の貴族もやっている事よ。トウリュウ家のうるさい奴はアルメニア連邦国の冒険者育成学校に入学したらしいからな」
他の国にも勉強や勧誘に行ってるのか。凄いな。
「どうじゃタツキ? 共にワナン国の礎とならんか? 強国となりシン大帝国と肩を並べるようになったら、次はアルメニア連邦国と交渉して、あ奴等が独占している技術を人族全体が使えるように引っ張り出そうぞ」
うーん。ちょっと、いいな。
日本っぽいワナン国には行ってみたいし、良い所なら住んでもいい。地位もあって待遇も良くて、ワナン国が発展出来るように尽くせば、快適な人生が待っているかもしれん。
ついでに、美人嫁という特典付き……
「マスター? 鼻の下が伸びてますよ? 何を考えているんですか?」
「いや、ちょっとだけ、イメージしてただけだよ。一応ちゃんと考えないといけないだろ?」
「本当ですかぁ?」
「おっ。考えてくれるのか。良いぞ。妾との夫婦生活も考えてみるといい」
「ヒトラ様! それはダメですって!」
この人は、本気だな……
「マスター。自分の目指すべき事を、ちゃんと考えて下さいね」
「なんだ。タツキには野望があるのか? 聞かせてみよ。妾とワナン国が力になれるかもしれぬぞ?」
分かってるよノア。
俺の目指すべき所は、安泰な暮らしじゃない。ちょっとした地位や権力は欲しいが、それは自分の為ではなく、人々を守る為だ。
神からのクエストをこなすには、1つの国に縛られてたら出来ないだろう。何よりも俺が目指すヒーローは、全ての人々に手を差し伸べる人だ。世界の困ってる人を助けられる人だ。
「すみませんヒトラさん。やはりワナン国の武士にはなれません」
「そうか。それは何故か?」
「俺が目指すは大魔女サヤ様だからです」
「それは、大きくでたな」
「はい。人に何と言われようが、俺は大魔女サヤ様のように全ての人々を助ける人になりたいのです。だから一国に忠誠を誓う事は出来ません」
「そうか。分かった」
これは…… もう帰れ! って感じになるかな? ワナン国の御馳走は食べてみたかったなぁ~。でも、まぁ、しょうがない。
「では、今日のところは、ワナン国の良さを知ってもらおうかの」
んっ?
「ヒョウカ、婆やと共に飯を持ってこい。妾もそろそろ腹が減ったぞ」
「分かりました」
「あの、いいんですか?」
「最初から、今日で落とせるとは思っておらん。妾も2年間は勉学に励まねばならんのでな。卒業して帰国する際に共についてきてくれれば良い。それまで何度か誘わせてもらうぞ? よいかノア」
「かまいませんよ。マスターを落とせるのなら、どうぞ」
おいおい。何度も和食をごちそうになったら、落ちてしまいますよ?
しばらくして、御馳走が出てきた。魚や山菜が中心で昔ながらの和食といったメニューで、もちろんコメもあった。
ノアは食べないと先に伝えてたので3人分が出てきたが、ノアが食べないのなら自分も今は食べないとヒョウカさんが張り合ってしまって。出した物に失礼だろってヒトラ様に怒られて、結局3人で食事をする事になり。
食事の間は、婆やさんが、ワナン国について色々と話してくれた。時々ヒトラ様が自ら熱弁する事もあって、ワナン国について少し詳しくなれた。ノアも情報収集が出来て良かったでろう。
面白い週末となったが、最近は毎週末忙しい。
次の休みの日は、どっかの草原でのんびり空でも眺めていたいもんだ。




