第78話 ゴリアムだ! 覚えとけっ!
「おう1年。ちゃんと来たな」
「は、はい」
俺は今、屋内訓練校舎の裏に来ている。理由は前に友達になったカハクから手紙を渡されたからだ。
手紙には1文だけ書かれていた。
『授業が終わったら、屋内訓練校舎の裏に来い。 ゴリアム』
誰だ?
知らない人だし、ゼルトワ達が1週間無反応な俺に対して新しい嫌がらせを考えたのか。と思って無視しようとしたけど、カハクが「後で面倒になるから、絶対に行ったほうがいい」って言うので来てみたら……。
番長さん、じゃないっすか!
「てめぇ。1週間前からそれをつけてたらしいな」
「な、なんの事でしょうか?」
「はぁ? しらばっくれんじゃねぇ!」
怖い。この人、本当に年下か?
今日は子分を4人つれて左右に2人づつ配置し、中央先頭の番長が仁王立ちしてブイ字に並んでいる。ちょっと戦隊っぽくてカッコいいかもしれん。
にしても呼び出された理由がさっぱり分からん。この人と関わったのあの2か月前の時だけですよ? あの時の事を根に持ってるのですかい? むしろ俺が腹殴られたんですけど……。
「それを俺によこせ。てめぇには勿体ない物だ」
な、何を?
無駄使いをするからと基本的に大金は持ったせて貰えない。学校に持ってくるのは教科書や筆記用具などの勉強に使う物だけなんだが。
いや、今日は持ってる。普段は持ってないが週の最後の風の日である今日は、もしもタイミングが合えば少しだけ遊ぶ可能性がある為、アレを持ってきてる。
「もしかして先輩も好きなんですか?」
「はぁ? べ、別に好きとかじゃねーし!」
「分かります。ちょっと恥ずかしいと思いますよね? でも自分に素直になったほうが、周りも協力してくれます」
「そ、そうなのか」
これは、新たな信者を増やせるかもしれないぞ。しかし、番長ってカードゲームなんてするのか?
「いいから、俺によこせよ」
「やめたほうがいいです」
「なんだとっ!」
「こういう物は自分で手に入れたほうが、愛着がわきます。人の物を使うよりも自分の物があったほうが、絶対に良いです」
「うっせぇ! 簡単に手に入るんだったら、俺もこんな事してねぇ」
そ、そうか。番長がカードショップに入っていくのを、誰かに見られたら恥ずかしいよな。それが学校の意地悪貴族とかだったら、次の日から子分になり下がってるかもしれない。
だが、俺のデッキは絶対に渡せない。いつも財布の紐が固いオカンが自分もデュエリトだからって理由で買ってくれた大事な物だ。失ってしまっては激怒し、闇夜の挨拶イベントが発生して、番長は子分どころか故人になってしまう可能性もある。番長の為にも渡すワケにはいかない。
「だったら、自分が協力しますよ」
「何っ?」
「自分が番長の代わりに手に入れてきます」
「おいっ。バンチョウってのは誰だ? 俺の事か?」
しまった! この人の名前は番長じゃなかった。
「すみません、名前が分からなくて」
「てめぇ! 手紙に書いておいただろうがっ!」
そういえば、あった気がする。けど、覚えてない。
番長が凄い睨みを利かせて、拳を掲げながら目の前まで迫ってきたが、他の4人が抑えたり宥めてりしてくれている。
ありがとう子分さん達。
「待ってください」
「ゴリアムさん、副会長に知られたらマズイですよ」
「こんな奴と会話なんてしてないで、さっさと要件だけ済ませましょう」
「そうですよ」
副会長ってのはジンリー先輩か? 確か前も先輩がきたら、去っていったな。ジンリー先輩って、番長よりも強いのか? すげぇ。
「お前ら、抑えろ!」
「はいっ」
2人が俺の左右に回り込んで、両肩と両腕を動けないように捕まえて、残り2人が右足を伸ばした状態に固定してきた。全員が、がっちりと掴んでいて動けない。
まさか、また、足を折れれるのか?!
「ちょっと、待ってください! 何するんですか!」
「うるせぇ! 黙って動くな! 動くと痛い目にあうぞ?」
番長が俺の前で膝をつくと、優しく俺の右足の靴を脱がし、靴下も脱がし、ズボンをめくった。
何が始まるんだ?!
「この包帯を頂いていく。慎重に取るから動くんじゃねーぞ」
「それなら、自分で取ります」
「黙ってろっ! 慎重にって言っただろうが! 途中で破れたり、傷ついたりしたら、どうするんだよ! 俺が取るから黙って動くな」
すでに傷ついてるし、少し破れている所もあうんだが、こんな物が欲しいのか? 俺が使った中古品だぞ? カードが欲しかったんじゃないの?
もしかして、ジンリー先輩の包帯って、高くで売れたりするのか? そうか、そういう事か。結局は金が欲しいのね。普通のカツアゲか。エクスィの信者が増えると思って期待した俺がバカだったよ。
にしても、遅い。丁寧過ぎないか?
「すみません、このあと補習があって急いでくれませんか?」
「黙ってろ!」
俺の前に、膝をついて足を優しく扱われて大男がいて、なんかガラスの靴を履かせて貰ってる、お姫様の気分だ。早く終わってほしい。
こうして1時間も拘束されて、ジンリー先輩特製の包帯を奪われた。補習は遅刻して、その分を遅くまでやる事になったし、それで帰りが遅くなってしまった。
今日は早く帰って、ノアに大事な話があったのに。
「という事があったんですよ! だから、夕飯に間に合わなかったんです。センギョクさん、すみません」
「ぎゃははははは。なんだそれ? ゴリアムもバッカだなぁ~」
「すまんなタツキ。今日はもう何も残ってないんだ。俺はてっきり、誰かと飯食って帰ってきてるのかと思ってからよぉ」
店じまいした我儘亭の1階では、ミンメイさんとセンギョクさんが片づけをして明日の準備をしている所だった。
そしてカウンターには、食後の酒を2時間も楽しんでるジンリー先輩が俺の話を聞いてバカ笑いをしている。その相手をしてるのが、勉強で急がしいハズの3年生のフェイギョクさんだ。
「まったくマスターは心配したてら、やっぱり変な事に巻き込まれてましたね。やはり私が迎えに行くべきでしょうか?」
「いや、いや、お前は来るな。絶対めんどうな事になる。俺の為の行動は嬉しいんだけど、すぐに突っかかっていくのやめろよ。マジで。」
「任せて下さい! マスターの貴重な1分1秒を奪う輩は、全て星屑にしてみせますから」
「それを、やめろって言ってんだよ」
オカンが毎日学校に迎えに来るとか、30歳の俺には恥ずかしすぎる。
「ぎゃははははは。ノアちゃんイイね~。私はいいのかい?」
「ジンリー様との関わり合いはマスターの人生を豊かにしてくれますので」
「おぉ! だってよタツキ! ほら、飲みなって」
「いや、すみません先輩。お腹空いてるんで、今、お酒はキツイです」
「ジンリー。もういいだろう? 明日も早くから予定があるんじゃなかったかい? 僕も勉強しないといけないんだけどなぁ~」
「だってさぁ。どいつもこいつも3杯程度で潰れやがって、誰も相手してくれないんじゃないか~」
「ジンリーちゃん。4人が3杯づつ相手したでしょう? 12杯分は楽しんでるわよ? それに、そろそろ、センギョクさんも休ませないと」
「おいミンメイ! 俺を年寄り扱いすんじゃねー」
「はいはい」
いつも相手してくれてるウォンリー先輩が外泊してるのは知ってたけど、どうやら残りの4人で相手をして部屋で潰れているみたいだ。どうりでシェンユがいないわけだ。
「ミンメイさんに言われちゃ、しょうがない。面白い話も聞けたし、最後の1杯も空になったし、寝るか!」
「ジンリー先輩、すみません。特別な包帯を」
「いいって。アレは私の魔闘気を倍増する為の物だからな。アレだけでは役にたたないんで、大した価値は無いよ。ゴリアムってば本当にバカだよなぁ~。じゃっ、おやすみ!」
「「「おやすみなさい」」」
そうか、あの包帯はそんな物なのか。ゴリアム先輩は売れなくて嘆いているかもな。俺が悪いワケでは無いが、報復が無い事を祈ろう。
「僕も寝ようかな。明日、早起きして勉強するしかないね。今日は飲んだから頭が回らないよ。まったくジンリーは」
「フェイギョクさん、お疲れ様です。おやすみなさい」
「おやすみ」
「タツキも寝ろ。悪いが何もねぇから、さっさと寝てしまえ。明日の朝は多めに用意しておくからよ」
「そうですね。早く部屋に戻ろうかな。ノア、行くぞ」
そういえば、ノアに話さないといえない事があった。急いで部屋に行かないと。
「ちょっとマスター、そんな手を強く引っ張らないで下さい。まったく、そんなにがっついて、皆さん寝てるんですから激しいのはダメですよ」
「誰が、激しい事するかっ!」
まったく、コイツは!
急いで2階に上がって自室へと直行する。もう爆睡してると思うが突然シェンユが突撃しても大丈夫なように、しっかりと鍵を閉めておく。
「それで何ですか? 明日は休みだからデートのお誘いですか?」
「そうだ!」
「そんなバカな。マスター勉強し過ぎて頭がおかしくなったんですか?」
「なんでだよっ! いいだろ? べつに。明日は何か用事とかあるのか?」
「えっと。どうでしたかねぇ~。ルーファンさんと何かあったかもしれません」
絶対に無いな。めんどくせぇ女だな。なんでこんなになったんだ?
……俺が設定したんだった。
「頼む! 明日1日俺に付き合ってくれ。俺のサポートがノアの仕事だろ? ちょっと困ってるんだよ、頼む!」
「いいですけど、オニギリの代償に差し出される身にもなって下さい。悲しいですから」
「なっ! 何故それを?」
「私を誰だと思ってるんですか? マスターの事なら、なんでも知ってますよ」
誰だ! 絶対に何か言われるから、こっそり連れ出そうと思ってたのに。チクった奴誰だ? あの時あの場所にいたのは、俺とシェンユだけだったハズ…… 犯人は1人しかいねーじゃん。
「とにかく、明日、お前をヒトラ様に合わせる約束をしてるんだ。一緒に行ってくれるよな?」
「急すぎませんか? 様って。マスターに様呼びさせる相手とは。ちょっと気に食わないですね~」
「そうな事言うなよ~。明日しか都合が合わなかったんだ」
「1か月前の約束をずっと忘れてて、明日で期限の1か月になるから、約束を守るんだよな?って脅されて急遽、明日にしただけ。なんじゃないですかぁ?」
「あっ」
ノアさんが、物凄いジト目で見てくる。
もう何も言い訳出来ないので、とりあえず頭を下げる。
「すみませんでした。この通りなので、明日はお願いします」
「まぁ。マスターの頼みを断る事は出来ないので、構いませんが」
うぅ。もっと従順な設定にしておけば良かった。ちょっと生意気なぐらいが可愛いって思ってた4か月前の俺! 考え直せ!
そして、このタイミングでお腹が鳴るとは、情けない。
「すみませんノア様。もう1つお願いがあります」
「はい。なんでしょうか?」
この後、非常食のカップラーメンを出してもらうのにも、一苦労した。




