第77話 校長が話があるそうだ
ついに、ニート生活が終わってしまった。忙しくなるが、なんとか週1ペースは維持したいけど……。4月になったし、今年度も最低目標50話で頑張る。
「おはようタツキ。足の調子はどう?」
「おはようございます。ダリアさん。今日はユウとジョノは、いないのですね」
「タツキこそ、シェンユは一緒じゃないのかしら?」
「なんか領主様の所に用があるらしくて、朝早く出て行きました」
シェンユとのゆるいキャンプの2日目はノアが質問責めをしてたけど、結局分からない事が多くて、質問しすぎても俺等が変に思われるのもよろしくないので、普通に廃村の掃除とか片づけをして帰って来た。
今朝になって転送魔法陣のカギを返し忘れてたらしく、朝食も食べずに出て行ってしまった。遅刻するかもな。
「歩けるって事は、治ってきてるのね? たった1週間ですごいわね」
実は1週間前から完治してます。なんて事は言えない。
とりあえず、今日から車椅子生活とはオサラバした。ジンリー先輩は、ほとんど治ってるって確認してもらったが、念のため後1週間は包帯を巻いとけって言われたので、ピンクの包帯をしている。ズホンと靴でほとんど見えないけど。
「この包帯が凄いんですよ。ジンリー先輩が作った特別な物らしくて」
「あの、ジンリーさんの包帯? そっか、我儘亭に住んでいましたのね」
センギョクさんにも感謝しろよって言われたが、ジンリー先輩は意外と有名人で、その特殊な包帯は貴重な物らしい。
「そういう事なら、今日から帰りはどうしましょうか?」
「帰りですか?」
「そうよ。きっと補修が始まると思うわ。私は今回は無いから、タツキが終わるまで学校で待っておく?」
「いえいえ。大丈夫ですよ! わざわざ待たなくても自分で帰れますから」
「でも、ノアさんに今月までは頼まれているから」
そっか。砂漠落下の件でのお礼を含めて、送迎と監視をしてくれるんだった。兎車で帰れるのは嬉しいが、たまには1人で考え事しながら帰るのも良いな。街をブラブラとしたいし、何よりも待ってもらうのは、ダリアさんに申し訳ない。
「大丈夫です。朝だけでも凄く助かってますので。ノアには俺から言っておくので帰りは気にしないで下さい」
「そう。分かったわ」
毎日兎車で迎えに来てもらって、今日みたいに時々2人きりになる事1ヵ月。ダリアさんとは、さすがにスムーズに会話が出来るようになってきた。
少し緊張しつつも、ダリアさんと2人きりの空間を乗り越えて学校へ着くと、数人の生徒から陰口を言われている感じがした。知った顔はいないのだが、明らかに視線を向けてて小声で笑っていやがる。
「気にしないのよ。貴族ってのは、こういう事は多いから。私も血筋の事でいろいろと言われているわ。ゼルトワ達にも」
そういえば、ダリアさんって4月の実習の時に貴族の事で怒ってたっけ? 今なら聞いても大丈夫かな?
「ダリアさんって、4月の実習の時に貴族区画のギルドに行けなくて怒ってましたよね? アレって血筋が関係してるんですか?」
「あぁ。あの時のね。まぁそうよ。詳しい事は言えないけど、私は4大貴族のシャン・レン=ワン家の血筋なんだけど、その中では1番下級扱いなの。それで、その事を知ってる人は私の事を、そういう扱いをするのよ」
「えっ? ダリアさんって4大貴族の人だったのですか? 俺なんかと喋ってていいんですか?」
「いいわよ。私は自分の血筋にこだわりは無いわ。でも父様との繋がりを利用しようとしたり、軽んじて扱ったりする人は許せないの」
もしかして、ファザコン的な感じなんでしょうか? 以外だ。
アナガリスさんとは今後も良い関係でいたいし、ダリアさんを怒らせたくないし、絶対に覚えておこう。
「あっれぇ? オッサン、貴族なのに兎獣に乗れなくて、落ちて骨折したんじゃなかったっけ?」
教室に入るなり、ゼルトワが笑いながら挨拶をしてきた。他の3人も一緒に俺を見て、特にガリャンとベムの2人は大笑いして何か言っている。
無視だ。あんなガキ共にかまってる暇はない。
ノアの為にも、俺は知識を身に着ける事を優先しなければ!
それから強くならないといけない。その為には魔闘気だ。今回、足を折られたのもゼルトワが魔闘気の技で鞘を強化したんだろう。ジンリー先輩は回復的な事をやってるし、ローゼスさんは相手の心を読む。
この世界で強くなるには魔闘気が大事だ。使えない冒険者はほとんどいないと聞くし、使いこなせる者がB級以上の冒険者になれる。
「おはようございます、タツキの兄貴。足は大丈夫なんですか?」
「おはよう。大丈夫だよ」
席につくと、前の席のシャンウィ君が小声で話しかけてきた。
「兎獣から落ちたって本当ですか?」
「まぁな、そういう事にしておいてくれ。ちょっと話変わるけど、シャンウィ君って魔闘気が使えるようになったのは、いつからなの?」
「魔闘気ですか? 俺は、1年前ぐらいから使えるようになりました。シェンファは無意識のうちに6歳ぐらいから使えてたみたいです」
「6歳? 無意識で? すごいなぁ」
「タツキの兄貴は使えないんでしたっけ?」
「なんでかな? 上手くいかないんだよね~」
この世界の人、特有のスキルなのか。転移者の俺には使えないのかな?
「才能と聞いた事があります。使えない人は全く使えないとか。けど、使える人は、どんどん上達して凄い域に達するらしいです」
俺は使えない部類だろうな。
「おはようー。皆、席につけー」
今日は週の始め、土の日だから恒例の、楽しいけど眠くなるギルド学からスタートだ。しかし、今日から俺は気持ちを新たに絶対に居眠りせずに頑張るのだ!
「あれ? タツキいるのか」
3名の爆笑が混じった、クラス全員の苦笑が発生する。
先生がソレ言っちゃう?
「悪い。悪い。変な意味じゃないんだ。足はもう大丈夫なのか?」
「はい。大丈夫です! 問題ありません」
「そうか。ならいいんだが、んっ? シェンユはどうした?」
「遅刻かもしれないです」
「アイツが? めずらしいな。いないもんは、しょうがない。授業始めるぞー」
こうして始まった6月の始めの日はシェンユが昼休みの終わりギリギリに来るという、めずらいい日となった。何かあったのだろうか?
*
終わった。今日は気合入れ過ぎて、ちょっと疲れてしまったな。
もう学校に通い出して3か月目。強化訓練学もだいぶ慣れてきたけど、この世界の若い子達について行くのは大変だ。
前の世界では結構体力ある方だったんだけどなぁ~。やっぱり皆、魔闘気での肉体強化をしてるんだろうな。俺だけバフ無しって辛い。
「おはようタツキ!」
「おはよう。って、もう学校終わるけどな。どうしたんだ? 遅かったじゃないか」
「へへへ~。ちょっと、オイラの事をタツキに話したって領主様に言ったら、怒られちゃって~」
「えぇ? マズイじゃん! それって俺も怒られるやつだぞ」
まさか、生活給付金がストップになるとか無いよな?
「大丈夫! タツキが卒業後も一緒にパーティ組んでくれるって言ったら、分かってくれたよ」
俺はシェンユのめんどうを一生みる事になるかも。
「おーい。タツキ!」
熱血リー先生は今日も暑苦しいが、俺の足を気遣ってくれて、特別に足に負担の少ない訓練メニューを急遽考えてくれて、今日も生徒思いの良い先生だ。
「はい。なんでしょうか?」
「言い忘れてた事があった。今日はお前が登校してくると誰も思ってなかったから補修は無しだ。明日から補修を初めても大丈夫か? 事故とはいえ実習を出来なかったのは成績に響くぞ? しっかりと補修をしてくれ」
「分かりました。明日から大丈夫です。頑張ります!」
「それから、今日は帰る前に校長室に行くように」
「えっ?」
「校長が話があるそうだ」
校長に呼び出しだと?!
まさか、退学か?
卒業して、冒険者になって、シェンユとパーティーを組まないといけないのに。領主様に怒られるどころじゃないぞ……。
「タツキ? 大丈夫かい?」
「校長って、あの現役A級冒険者でマッチョな人だよな?」
「そうだよ。領主様のお兄さんでもあるよ」
やべぇ~。
「頑張ってね! 一緒に行ってあげたいけど、オイラもやる事あるから」
「お、おう。待たせるといけないから、すぐに行ってくる」
校長室は中央校舎の4階にあるので、屋外訓練場から直行する。
階段を上がって、3つある部屋の手前が資料室で、基本的には教員が使う資料があり一般生徒は例外を除き入る事が出来ない。2つ目の部屋は応接室で、学校に来客があった時に使われてるらしい。そして一番奥の重厚な扉があるのが校長室だ。
マッチョしか開ける事を許され無さそうな扉をノックする。
「1年のサトウ=タツキです」
閉まってる扉の向こうからなのに、良く通る声が聞こえてくる。
「入れ!」
「失礼します」
校長室はギルドマスターの部屋と似ていて、赤を基調としたデザインに炎を連想させる装飾がされていて、壁に多くの本棚がある。違っているのは壁に8枚の肖像画が掛けられている事だ。やっぱりアレかな? 歴代の校長を務めた人かな?
中央の奥に執務机があって、そこに大男が立っていた。
綺麗なスキンヘッドと、目が見えないほどの毛量のある白い眉毛目が、優しそうなお爺ちゃんを感じさせるが、首から下はプロレスラーのような肉体があり、伝説の老師をイメージさせる人だ。
ユウツオ冒険者育成学校校長にして現役A級冒険者。名前は確か…… アーキル=カル・ハ=アーイラ。
「タツキ君。何故呼ばれたか分かるかね?」
「退学…… ですか?」
何故か沈黙が流れる。あの眉毛で視点が分からん。
「はて? なんか退学する理由があるのか?」
じゃないのか! それは助かった。
「すみません。自分の早とちりです。2回も連続で実習にてトラブルを起こしたので、もしかしてと思って」
「はっ。そういう事か。トラブルなんぞ良い冒険者ほど起こすもんだ。センギョクなんぞ、毎週問題ばかり起こしてたわい」
そうなんだ。センギョクさんって、元ヤンなのかな?
「今回の件の話だ。事の真相をワシは知っておる。何か言ってくるかと思ったが、そうでは無いようだな」
「ゼルトワ達の事ですか?」
「そうだ。この学校は貴族が多くてトラブルが多いのでな。ワシの所まで突撃してくる元気な生徒がいるんだが、タツキ君は何も思わないのか?」
「もちろん思う事はあります。でも、そんな事をしてる時間がもったいないです。自分は優秀な冒険者になる為に学校に知識と技術を学びにきたのですから」
シェンユとノアのおかげだ。あの実習の後に2人と話してなかったら、もっと落ち込んでたか、ゼルトワ達に食いかかってたか、どっちかだっただろう。
「よい。よい。それでよい。いいか冒険者への道はすでに始まっている。いつ、どんな時であっても最後に頼れるのは自分の力だ。方法も過程も好きにしたらよい。だが、自分の力で、考えで、解決するのだ。それが分かっているならよい」
なんかA級冒険者っぽい言葉だ。
「自分を呼んだのは、その事を?」
「うむ。普段は、こちらから呼ぶ事は無いのだがな。アリムフとシェンユが世話になってると聞いているので、どんな男か興味があってのぅ」
「ありがとうございます」
「あやつ等は甘いのでな。貴族同士のいざこざも学ぶべき1つ。超える過程の1つよ。ゆえにこの学校はやっかいな貴族ばかりを招いている」
「なんというか……。すごい荒療治というか。強引なやり方というか」
「我儘な奴が強い」
んっ? なんと?
「自分を押し通せる者が強くなる。周りに何がいようとな。隣におるのが貴族であろうとドラゴンであろうと、我をそのまま通せる者が強くなる。最も偉大な魔女が残した言葉よ」
おぉ。サヤ様らしい言葉だ。
「分かりました。我儘になります」
「うむ。励めよ」
退学通告かと思ってたけど、いい言葉を聞けて良かった。




