第75話 ねぇタツキ。オイラの村の話を聞いてくれる?
「以上です~。御清聴ありあとうございましたぁ~」
「おぉ~。上手かったぞぉ~」
スタンディングオベーションをしたのだが、俺1人だったのでショボかった。ノアさん? 普通は一緒にやりません?
「さぁーて、オイラもご飯食べようっと。そういえば戻ってくるの遅かったね。2人とも、もう帰ってしまったと思ってたよ。戻ってきてくれたという事は期待してもいいのかな?」
「すまん。色々と考える事が多くて、ノアとの話が長くなってしまった」
「いいよ。いいよ。オイラも2ヵ月ぐらい悩んで、話をする事を決意したんだから。あっ! 先に言っておくけど、断られてもオイラはタツキとノアちゃんの事をユウツオから追い出したりしないからね。絶対に! むしろ、より多くの媚びを売って、またお願いしに行くよ。何度でもね」
それは困るな。既にたくさん助けてもらってるのに、これ以上、恩を受けると俺の良心が爆発してしまう。なにより、諦めず何度もお願いにくるのは面倒だ。
「飯食いながら聞いてくれ」
「るぉーふぁい(了解)」
もう、食べ始めてるし!
「シェンユ。これまで助けてくれて本当にありがとう。シェンユとその先祖達に感謝するよ。あなた達がいたから、今、俺は生きていられている」
俺は深く頭を下げた。我儘亭での暮らしが決まった時にもお礼を言ったが、今日はこの3ヵ月での全て事に感謝して頭を下げる。
歌の時と違って、ノアも立ち上がって一緒に頭を下げた。
「俺とノアは、これまでと同じく友好でありたいと思ってる。だから俺の知ってる事は話そうと思うし、協力出来る事はやるよ」
「ほんと?」
「おうよ。シェンユは俺の大親友だからな!」
「ありがとう!」
「でもな。すまんが何も知らないんだ。期待に応えられなくて悪いが、本当に龍支配の空賊について特別に知ってる事は無いんだ。ノアが情報収集をして集めた一般的に知ってる事を知ってるぐらいなんだよ」
黙ってご飯を食べているシェンユは、少し残念そうな顔に見える。
「でも安心しろ! これまでシェンユがしてくれた誠意には、ちゃんと誠意で返すから! 俺が手伝ってるよ」
「マスター?! 何を?」
「シェンユの兄に繋がる事を俺も一緒に探すよ。もし龍支配の空賊に出会う事があったら一緒に戦うさ! だってアイツ等、許せない事をしてるもんな。学校を卒業して冒険者になったら一緒にパーティを組もう。俺はいつか世界を冒険するつもりだから、そしたら一緒に兄貴を探しに行こう!」
「タツキ……」
「マスター。そんな約束していいんですか?」
「大丈夫だよ」
龍支配の空賊、許せない奴等だ。神からのクエストに関係無いかもしれないが、いつか会う事があれば、ドラグマン・レッドが成敗してくれる。
「ありがとう。嬉しいよ。何も知らないのは残念だけど、タツキとノアちゃんが一緒に手伝ってくれるのは、すっごく頼もしいよ! パーティの事もさ、2年生になったらオイラからお願いしようと思ってたんだ。だから、とっても嬉しい」
「そうか。それは良かった」
俺の誠意は示せたようだ。
まだ神の事、転移者の事、俺をメッチャ睨んでるロボアット事を話ないが、シェンユにならいつか全てを打ち明けられる日がくるような気がする。
「ふぅ~お腹いっぱい、胸もいっぱいになったし、ちゃちゃっと片づけて、あの石像の前で寝転がって星空でも見ようか?」
「おう、そうするか」
「シェンユさん、マスター。私が片づけておきますので、2人は先に広場へ行ってて下さい」
「いいの? それじゃお願いしようかな」
シェンユに車椅子を押してもらい、大魔女サヤ様の像の前までくると、気になる事を見つけた。両手にそれぞれ手から脚へと伸びている棒を持っているが、違和感がある。手から上の部分もあったんじゃないだろうか?
「何か気づいたの?」
「いや、この持ってる棒ってなんだろうな? って思って。魔法使いの杖にしてはシンプルすぎる気がしてさ」
「それね。手の上にも先があって、折れちゃってるけど、大きな旗を持っていたんだよ。〈導きの戦旗〉って名前の接近戦闘用の武器だあり、慕う者を鼓舞する印でもあったんだって。いろんな人や街があやかっているんだ」
「そうなんだ。知らなったなぁ」
それで、空賊のボスも旗を持ってるのか。
シェンユは像の前に仰向けになって寝転がった。俺も空を仰いでみると、月は今日も満月で、星空がいつもより綺麗に見えた気がした。
「ねぇタツキ。オイラの村の話を聞いてくれる?」
「あぁ、いいぞ」
「ありがとう」
「お礼を言われるほど、じゃねーだろ」
「そんな事無いよ。誰かに話した事ないんだ、話す事が出来なかったんだよ。秘密だから。だから嬉しいんだよ」
そういう事も、シェンユにとっては辛い事だったのかもしれない。
村に名前は無く、村以外との交流は最低限なものとし、閉鎖的で、厳しい掟が多く存在する村だったそうだ。
それでも幸せだったと、楽しい日々だったと、シェンユは語ってくれた。小さな頃に家族で過ごした事、一族で儀式をした事、兄が修行に出て悲しかった事など。全て燃えてしまい、思い出しか残っていない、その大切な思い出を聞いてると、また涙が出てきそうになった。
「お待たせしました。マスターも地面に寝転がりますか?」
「えーっと、お願いしようかな」
「ノアちゃん、片づけありがとう」
ノアに手伝ってもらって、地面に寝転がる。
足が使えない演技をするのも慣れてきたが、結構面倒なので、早く完治した事にしたいもんだ。
「ノアちゃんも来たから、オイラの知ってる大魔女サヤ様について話そうか」
「その前に1つ、聞いておきたい事があります。何故、大魔女サヤ様の情報を私達が欲していると思ったのですか?」
「ふっふっふっ。当てちゃうよ? いいの?」
「どうぞ」
シェンユが名探偵のようなキメ顔で、俺とノアに向かって指をさす。
「ズバリ! オイラと同じ大魔女サヤ様の弟子の一族でしょ!」
「へっ?」
「隠してても分かってるよ。だってノアちゃん強すぎるもん! その歳でその強さは幼い頃から特殊な訓練をしてるか、改造人間か、特別な血を持つ人って考えないと説明がつかないからね。タツキはよく分かんないけど、大魔女サヤ様の話となると妙に食いついてくるし、魔女教団のヒルデさんとも仲良くなろうとするし、決定的だったのは今日の魔法陣だね! アレは初めて見た人はすっごい驚くもん。2人は普通にしてたね。どっかで見た事あるんでしょ?」
魔法陣の時、そんな観察してたのか。
マズイなぁ~。まさかノアの強すぎて怪しまれるって、そんな事になるとは思わなかった。にしてもシェンユが鋭い。鋭い考察だが、アホだ。
弟子の一族ではないけど、3人とも神の使いって共通があるから、神の一族か? どうやって説明するかな?
「今日のシェンユさんは鋭いですね。ですが残念ながらハズレです」
「そうなの? でもその強さは、どうやって身に着いたの?」
「愛です」
えっ? ノアさん?
「マスターを想い、マスターに忠誠を誓い、マスターの為に人生を捧げると覚悟した結果、私は強くなりました。人は強い愛で強くなれます!」
マジで?! そういう感じでいっちゃう?
「そ、そうなんだ……。オイラはそんな強く人を好きになった事が無いから分からなかったけど、誰かの為なら、いくらでも努力できるもんね! なるほど」
やっぱりアホだ。それで納得できるのか?
「うーん。なら、どうしてそんなに大魔女サヤ様の事が知りたいの?」
「それも愛です!」
「はっ?」
「マスターは大魔女サヤ様の事を愛しているのです。その偉大な功績を尊敬し、数ある逸話に興味があり、伝えられる人柄に好意を抱いておられるのです。ね? マスター」
「お、おう。そうだ。俺はサヤ様が、すっごく好きなんだ」
こいつ、こっちの情報は漏らさずに強引に押し通す気だな。今日のシェンユは一味違うのだが、それで上手くいくのか?
「それ、分かるよ! オイラも大魔女サヤ様の事好きだから! 世界にはね大悪人って言う人もいるんだぁ~。人類の為とはいえ2回も大きな戦争を引き起こした史実があるし、各所で虐殺や危ない実験を行ったりもしてるから。でも魔女教団みたいに過剰な信仰とかしてる人もいて、大魔女サヤ様の事ってすっごく話にくいんだよ。タツキとノアちゃんは変わり者だけど、悪い人では無いから大丈夫そうだね」「いいのか? 話してしまっても?」
「オイラが一族の生き残りって事がバレるのは問題なんだけど、一族の歴史や大魔女サヤ様との関りは広めても問題ないんだよ。でも今まで話をしてこなかったのは、過剰反応される事が多くて……。あと『なんで、お前はそんなに詳しいんだ?』って言われた事があって、困った事になったんだ。だから、オイラの秘密をバラした2人には、話しても問題ないよ! むしろ好きな人の事を共有出来るのは嬉しい事だから話したい」
なんか上手くいったよ。シェンユの鋭さが、そこまで凄くなくて助かった。
「それじゃ。お願いするよ」
「了解。ちょっと長くなるけど。眠くなったら言ってね」




