第74話 まさか、生き残りがいたとは……
綺麗な夕日だ。
この世界に来て2日目に、シェンユとノアと3人で大防壁の上から見たっけ?
あの時、アイツは何を考えてたのだろうか。俺とノアに親切にして、きっと自分の望みが叶うかもしれないと思って、俺達がこの街にいられるように、領主様に話をつけに行ったのか。
すまねぇな。俺等ではアイツの力になってやれそうにない。
「マスター、もう落ち着きましたか?」
「俺のセリフだよ。いきなり殴りかかるの、もうやめろよ!」
「今後、気をつけます。それでシェンユさんの話ですが」
「信じられないって言うのか?」
「いえ、それは信憑性は高いです。この場所に村があって、サヤ様の弟子の一族が住んでいて、8年前の事件で絶滅したという情報は得ていましたから」
「知ってたのかよ! なんで、教えてくれなかったんだ?」
「それ以上の情報は得られなかったので、この線からサヤ様を探す事は難しいと判断致しました。よってマスターには余計な情報になると伝えていませんでした」
「そうか。じゃぁ、シェンユの正体は知らなかったんだな?」
「まさか、生き残りがいたとは……」
大魔女サヤに繋がる情報を得られるかもしれない。だが、俺はシェンユが期待している情報を持っていない。
どうしたものか。俺が転移者で神からクエストを受けて大魔女サヤを探していると伝えたら、シェンユは協力してくれるだろうか。
「サヤ様について何かしら情報を持っているのであれば、シェンユさんに吐いてもらうべきです」
「吐いてって、お前なぁ。誠意をもって応えるべきだろう? それにシェンユを敵にするって事はユウツオを敵にするって事だぞ? 間違ったらギルドと戦う事になるかもしれないぞ?」
「そうですね。それは避けるべきです。ですが私達は龍支配の空賊についての情報を持っていません。誠意で応える事は出来ないのでは?」
うーん。シェンユなら、事情を説明すれば協力してくれそうだが。
まてよ? 本当に何も情報を持ってないのか?
「ノア。龍支配の空賊について何か知ってるだろ?」
「シェンユさんが期待するような情報は持っていません」
「いいから。知ってる事を教えろよ」
「了解しました。龍支配の空賊。複数体のドラゴンを従え、突如として空から襲いかかり村や町を滅ぼしている空賊です。構成員は人間と奴隷獣人が主ですが、その数は不明。使役しているドラゴンの数も不明。ボスと呼ばれる支配者がいますが、種族や本名など一切不明。龍人の構成員が1人いると噂があります。どうやってドラゴンを支配しているのかは不明。どうして虐殺をしているのかも不明です」
「ほとんど、何も分かって無いのか」
「そうです。シン大帝国だけでなく、隣国のワナン国、メリアルア連邦国、フラタギス公国などの全ての国で事件を起こしており、壊滅した村や町は12箇所。防衛に成功いた例もあり、襲撃から生き残った人も数人います」
「シェンユが言ってた魔法陣の事か?」
「いえ、その話は初めて聞きました。ただ単に逃げおおせたみたいです。その生き残った人からの話によると魔法陣を使うらしく、襲撃した村や街の人々を直ぐには殺さずに1か所に集めて、魔法陣の上でドラゴンの炎によって一気に焼き殺すそうです。その際に1人ドラゴンに乗って旗を掲げる者がいるとか」
「そいつがボスって奴か?」
「おそらくは」
なんて奴だ! 絶対に許せない!
「そして、ボスは『我は大魔女サヤの代行者である』と言うらしいです」
「はっ?」
「以上です。ですので、シェンユさんの兄が生きている可能性は低いかと思います」
「いや、いや、なんだって?」
「シェンユさんの兄は――」
「じゃなくて! 『我は大魔女サヤの代行者である』って言うのか? そいつは。どういう事なんだ?」
「それは、私にも分かりません。アホなんじゃないですか?」
「ア、アホ? アホで片づけられるかっ!」
「ですが、他にもいますよ。魔女教団には大魔女サヤの生まれ変わりと名乗る者とか、ギルドにも大魔女サヤの理解者とか、あと大魔女サヤの弟子の子孫と言う人とか」
「最後のは何? シェンユが言ってる事は嘘なのか?」
「弟子の子孫の一族となっている事は事実でしょう。何故そうなったのかまでは分かりませんが、私の知る限りでは大魔女サヤの弟子は1人しかいません。そして、その方は子孫を残してはいません」
どういう事だ? 大魔女サヤと繋がりがある人って結構いるじゃないか。
「サヤ様は、この世界では偉大な方となっています。その名を語る事で得られる事も多いでしょう。サヤ様の古き友人と名乗るだけでも、好待遇を受けれるかもしれません。そのぐらいサヤとい名前が大きな力を持っているのです」
つまり、結構な奴が「俺は大魔女サヤのマブダチだぜぇ」って言って、その威を借りているって事か。それで得をしているという事か。
「名乗ってる全てに信憑性があるわけでは無いので、どの情報に食いつくか、私達は慎重に考えなければいけません。もしかすると罠であるかもしれないのです」
「罠?」
「初日に土牢で言った事を覚えてますか?」
「サヤ様と連絡が取れない話か?」
「そうです。現状では大魔女サヤは300年前にあった戦争で死んだとされています。ですが、サヤ様ほどの方がただ戦争で戦死するとは思えないのです」
「どのぐらい強いんだ?」
「正確には分かりませんが、GMの右腕なのです。本気であれば、おそらくA級冒険者100億人と戦っても、笑いながら虐殺できるでしょう」
それは恐ろしいな。さすがは神の使いか。
「そんなサヤ様が死ぬとするなら、その為に特化した術や戦略、特殊な武器などがあったと考えるべきです」
「って事は、戦死したでは無く、狙われて殺されたって事か?」
「その可能性が大いにあります。今は分かりませんが、必ず敵はいます。そして私達はGMの使いであり、サヤ様と同じ立場です。ですので私達が転移者である事は極力、明かさないほうがよろしいかと思います」
そうか。そういう状況なのか。
俺に力があれば、目立って逆に相手から仕掛けてくるのを待ってもいいが、今の俺は弱い。強く成長しながら、目立たないようにクエストを進めないといけないのか。
あのクソ神野郎! ちょっとした御使いって言ってた気がするが、思ってたよりも危なそうじゃねーか。なんで、特殊能力を1つじゃなくて8つ最初から付与して、チートスタートにさせてくれなかったんだ?
とりあえず、クエスト初クリアへ近づけそうだ。
「ノアが今回この話い食いついたのは、大魔女サヤの情報を得られそうと思ったからなんだよな?」
「最初は単純に、最も親しい友人の誘いを無下に断る事は出来ないと判断して事と、最も親しい友人の正体を知りたかったからですね。ですが先程の話で、何かしらの情報を得られると考えています」
「オーケー。なら、シェンユとは友好的関係を維持するって事でいいな?」
「はい」
俺がシェンユの兄に繋がる情報を持ってなくても、誠意を示して応えれば、シェンユは俺に協力してくれるハズだ。
「よし。後は俺に任せてくれ!」
「えぇぇ~。大丈夫ですか? マスターっていちおう記憶喪失で、何もよく分かってないアホでダメな子ですよ?」
「お前が、そういう事にしたんだろ!」
まったく! いっつも、いっつも、俺の為とはいえ無茶苦茶な事しやがって。
立ち上がって両腕を伸ばして、新たな決意をする。
能力が上手く使えなくて、少し暗い気持ちになっていたが、俺はまだまだこれからだ。まだ何も成せていない!
この世界には苦しんでいる人が多くいる。許せない奴もいる。ヒーローを目指すならこんな所で座り混んでる場合じゃない!
「行くぞ! ノア」
振りむくと、呆れた顔の可愛い子ちゃんが、残念そうにしていた。
「はぁ~。なんで骨折が急に治るんですか!」
そうだった! 俺は全治1週間の骨折中の足だったわ。
ちゃんと車椅子に座って、ノアに押してもらい、戻る事にした。
かなり日が落ちてきて暗くななった廃村を、車椅子に揺られながら進んでいくと、先が見えなくて怖いと思った。せめて灯りを持ってくるべきだった。
だがしかし、押してくれる彼女には真っ暗でも全て見えているんだろう。
「マスターに従いますが、転移者である事を打ち明けるのは無しですよ?」
「分かってる。それはしないから」
「シェンユさんの言動には、まだ気になる事がありますので」
「そうなのか?」
「どうして、サヤ様の話で私達が食いつくと思ったのでしょう? 転移者だとは気づいて無いと思いますが、それは謎です」
「たしかに」
うーん。なんでだ? そういや、俺の秘密に予想がついているって言ってたっけ? アイツは鋭いんだが、アホなのか、よく分からんな。
なんか明るくなってるなぁ~と思いながら、キャンプ地点に戻ってくると凄い事になっていた。
紐で吊るされた灯鱗が大量に吊るされて、クロスがかけられたテーブルがセットされており、その上には御馳走(センギョクさんが作った中華まんだが)が置かれている。さらに2本の大きなスタンドライトのような灯鱗もあって、その間にお立ち台のような小さなステージが用意されていた。
夜の準備をしておく、とか言ってたけど……
「お誕生会でも開くのか?」
「えっ! タツキって今日が誕生日だったの? 早く言ってよ~。もっと何か用意したのに~」
俺の誕生日は9月だ。あと3ヵ月はあるし、しばらくは不老なんだよな。
「俺、誕生日じゃねーよ」
「あぁゴメン。ノアちゃんのね!」
いや、そもそもコイツに誕生日なんて無い。製造年月日はありそうだが。
「これは、何だよ? 何を準備してたんだ?」
「コレ? あぁ、これね。儀式だよ。一族に伝わる儀式で、毎月癒しの日には大魔女サヤ様に歌を捧げて星空の下でご飯を食べるんだ。なので月に1度だけ村に戻ってきて儀式をしてるんだ。実は大魔女サヤ様は歌が好きだったんだよ」
そうなんだ。何聞いてたんだろ? Jポップかな?
「シェンユさんが歌うのですか?」
「そうだよ。よーし、それじゃオイラの美声を披露してあげようじゃないか! 2人は座ってご飯を食べてなよ」
突然、わけ分からんライブディナーショーが始まったが、予想外にシェンユは歌が上手くて、綺麗な歌声を聞きながら星空の下で食べる晩飯は、なんか良かった。




