第66話 もしかして、今日のは、予行演習だった?
「いやぁ~。楽しかったね~。オイラ好きになっちゃったよ。エクシィ。オイラも自分で考えたデッキが欲しくなってきたなぁ~。やっぱりセンギョクさんを使いたいね! でねノアちゃんのデッキみたいにね、好きなカードを使って、けど強くて勝てる感じにしたいなぁ~。タツキ聞いてる?」
「おう、おう、聞いてるぞ。聞いてるだけだが」
徒歩で帰る事にした帰り道で、1枚のカードを掲げながら、ご満悦なシェンユはずっと喋ってる。
まぁ、興奮冷めや止まないのは俺も分かる。かなり白熱して遅い時間までユウの家で過ごしてしまって、結果、晩御飯まで御馳走になってしまったのだから。
最初は、兎車で送ってくれるとなっていたが、暗くなってしまったので、兎獣の世話係の人が、小屋に休ませてしまってたので、歩いて帰る事にした。
「それ、鞄に閉まってたら? もう暗いから落としたら見つからないぞ?」
「そうだね。そうしとく」
今のシェンユの気持ちは良く分かる。お気に入りの物が手に入ると、ずっと眺めていたいし、誰かに、その良さを共有したいと思うからな。
まさか、シェンユがユウに勝ってしまうとはな。
ユウが惨敗した後にジョノが手を上げて、使用人対決が始まったが、もちろんジョノも惨敗。そして今度は何故か主と侍女対決になったのだが、当然のごとく俺も惨敗。ノアが強すぎた為、一旦ゲームから除外して、俺とシェンユ、ジョノとユウが組んで2対2のチーム戦をしたり、シェンユの修行とか言って、代わる代わるにルーキーイジメをしたりと、かなり楽しめた。
この短時間でシェンユのエクシィの腕は、かなり上達したので、最後にテンション上がり過ぎたユウが、ついでに決闘を申し込むというイベントが発生。
さすがに、実力差があり過ぎるからシェンユにはセコンドとしてノアが付き、組織力チップを10個所持した状態のハンデで試合開始したのだが……。ユウの引き運が悪かったのも相まって、ギリギリだったが、まさかの勝利してしまった。
そして、シェンユが決闘で手に入れたのは世界に50枚しかないという、そこそこレアなカード『両断剣のA級冒険者、センギョク』というカードだ。
決闘の試合前には「オイラが勝ったら、何でもいいから強い使えるカードをちょうだい」ってだけ言ってたのに、ユウは、わざわざコレクションの中から2枚だけ所持している1枚を戦利品として渡したのだ。
やっぱり一緒に楽しめる仲間が増える事ほど嬉しい事はない。もしかしたら最初から負けてあげるつもりだったかもしれない。ユウは本当にいい奴だ。
「ねぇ、ノアちゃん」
「はい。何でしょうか?」
「もしかして、今日のは、予行演習だった?」
「さすがですね。その通りです。今後の可能性を顧慮して、マスターには簡易的でもよいので、経験していただこう、と考えていました」
「何? なんの事だよ?」
「決闘の事さ」
決闘? このピンク頭は、普段アホみたいにしてるが、妙に鋭くなる時がある。
「マスター。本日の決闘のルール、事の流れ、感じた焦りや不安など。忘れないでください」
「忘れないさ。本当にノアがいなくなるのかと不安だったからな。泣きそうになったぞ!」
「タツキ~。そういう事じゃなくて、次に活かせ。って事だよ」
「次? もう、あんな事やらねーよ」
「シェンユさんもやった事があると言ってましたでしょう? もしかすると、本当の命をかけた決闘を、申し込まれる可能性もあるって事です。決闘という文化は、元々は龍人が行っている事ですが、貴族、特に階級の高く昔から血筋を繋いできている家は、かつて龍人に人間が支配されていた時の文化や考えを、今も受け繋いでいる家が多いのです」
「そうだよ。帝都の4大貴族とその分家とかさ、面倒だよ。1000年も前の龍支配の時代に人族を守ってきたとか、今、人族が生きていられるのは、かつての血を流した貴族のおかげとか言うけどさ。ただ反抗出来なくて、へりくだってた、だけじゃん。今の時代を作ったのは大魔女サヤ様と、その考えに賛同した反乱軍の人達だよ。そして、それはギルドと冒険者になってる。貴族なんかよりも、ずーっと、冒険者達が凄いんだから!」
そういう君も貴族の血なんだろ?
俺は夜空を見上げた。今日も満月が美しい。この世界の月は、常に満月だ。どういう仕組みなんだろうか?
俺の為にノアは決闘の予習をしてくれたのか。今回といい、ダリアさんとシェンユに頼んでる監視の件といい、本当にノアは突拍子の無い事を提案して、強行してくるが、全ては俺の事を思っての行動だ。
毎度、毎度、感謝しかない。
もしも、ノアをめぐって決闘なんて起きたら、俺は全力で戦おう。本当に命をかけて戦おう。この世界で俺が一番大切にするべき事はノアと一緒にいる事なのかもしれない。
「まぁ、そういう事ですので、そうそう頻繁に起こる事ではありませんが、万が一に起きた時は覚悟して下さい」
だったら、なんで貴族の設定にしたんだよ!
「そういや、シェンユは、どうしたの?」
「どうって?」
「決闘だよ。やった事あるんだろ? 戦ったのか? お前って体力はスゲーし、動きも早いもんな。相手をボコボコにして勝ったのか?」
「全部、領主様が解決してしまったよ」
なんだそれ?!
「オイラって、実は特殊でさ。事情があってユウツオでは高い地位があるんだ。形だけならアーイラ家よりも力があるんだよ~。内緒ね」
「はっ? アーイラ家って領主様だろ? ならお前ってユウツオで1番偉いじゃないか!」
「そうなんだ。だからオイラは決闘を申し込まれたら断れない。でも、その場合、オイラの配下となるアーイラ家、さらにはユウツオの全戦力が決闘に投入される事になるんだ。ちなみに冒険者学校の校長も、ユウツオ騎士団の隊長も、アーイラ家の分家で親戚関係なんだよ」
「それは、凄いですね。両名ともにA級冒険者であられますよね? シェンユさんを敵に回すと、あの2人が出てくるという事ですか」
ついでに、元A級冒険者のレアカードの人も出てきそうだな。
「A級2名ですか……」
ノアさーん! 何を考えているのですかー? 勝てるかな? とかじゃないですよね? シェンユと敵対してはダメですよ!
「お前の家って、何なん?」
「えぇ~。それ、聞いちゃう?」
「そんだけ、凄かったら気になるだろ。ダリアさんや、ユウみたいな大商人の家よりも凄いだろ? 帝都の守護を司ってるとか?」
「いや、それはゼルトワだよ。オイラの事は知らないほうが、身のためだよ~」
ゼルトワって、誰だ? クラスの奴か?
そんな事よりも、マジでシェンユの存在が重要になってきたな。コイツが俺を慕ってくれるのも、なんか不安になってきた。敵対しても、かなりマズイが、実は凄い奴なのかもしれん。
ノアも警戒しろって言うぐらいだから、正体を知らないんだろうな。ノアが調べきれてないって事は、どういう奴なんだ?
「ちょっと! タツキもノアちゃんも、そんな怖い顔しないでよ。2人には教えてあげてもいいからさ!」
「本当ですか? なら、是非教えて頂きたいです。私にはマスターを守る役目がありますので」
ノアが足を止めて、仁王立ちで進路を塞いできた。
英雄広場も過ぎて、もうすぐ我儘亭だってのに、ここで揉めるのか?
今日は楽しかったじゃないか、さっきまで4人と1機で、わいわいカードゲームして小学生みたいに遊んでたのに……。
「ノア。やめろよ。どうしたんだよ。ちょっと怖いぞ」
「たとえシェンユさんであろうと、マスターに害なすならば、私は容赦いたしませんよ? A級冒険者が何人相手でも」
口調はやさしいが、それは戦闘態勢じゃねーか! やめてくれ。
「ははは。どうしたのさ。オイラが何かしたっけ? 何か怒らせちゃったかな? ゴメンね。オイラの血筋に関しては、教えても構わないけど、今はちょっと無理かな。場所が悪いなぁ」
「そうだぞノア。これまで、たくさんお世話になったじゃないか。今度ゆっくりと話を聞こうぜ? 俺はもう疲れたよ。明日から学校だし、早く帰って休もう」
「そうですね。遊び過ぎて疲れたマスターを、休ませないといけませんね」
それは、悪かったな。
何だったんだコイツは? 今のも今後の為の行動なのか?
「それじゃぁさ。2人とも次の癒しの日の予定を開けといてよ。2日間とも。ちょっとオイラの実家に一緒に行かない?」
何っ?! 実家って事は帝都か? 2日間って事は泊りなのか? 行っていいのかそれ? もしかして罠とかで、大量の兵士とかが待ってるとかじゃないよな?
「良いでしょう。約束ですよ? マスターも、デートの予定とか入れないで下さいよ?」
「デートなんてする相手はいないわい!」
「そうだぞ! オイラとのデートなんだから。他の人と約束しちゃダメだぞ?」
今日は疲れた。遊び疲れってのもあるが、最後に変な事になったし。
帰って身体を拭いたら、すぐに寝よう
「こらぁあ! あんた達! こんな遅くまで、どこ行ってたのよ!」
あっ。やべぇ。ミンメイさんが怒っていらっっしゃる。




