第62話 決闘を申し込む!
「ダメに決まってるだろーがっ!」
ユウの奴、急にどうしたんだ?
「ダメか。そうだよな」
「コラ! ダメに決まってるでしょっ! オイラだって、そんな事、言ったことなんだぞ」
お前もノアと結婚したいのか。
「ノアさん! あなたは奴隷使用人では無いですよね?」
「もちろんです。私の意志でマスターに仕えています」
「なら、仕える主を選ぶ権利があるはずです。少し考えては貰えないでしょうか? 俺の使用人になってくれたら毎月100,000ゼンの給金を出します!」
ちょっと、待て! それは引き抜きじゃないか! どっちにしろダメだぞ! ノアがいなくなったら俺は、この世界で生きていける気がしないからな。
まずいぞ~その金額は。マジでノアが出て行きかねん。
「ユウ! ノアに直接話をするなんて卑怯じゃないか。俺のが断ってるんだから、ダメに決まってるだろ」
「待ってくださいマスター。ユウ様は正しい事をしています」
ノアさん……、マジで出て行く気ですか? 泣きますよ?
「タツキ氏にとってユウが不快な事をやってるのは分かってる。でも、それでも1度は聞いておかなければいけないんだ。貴族は自分の配下に優秀な人材を確保するのは当然の事だよ。そして相手に選択権があるなら、交渉するのも当然の事だ」
そうなのか? そうだよな。
ノアは俺に無条件で尽くしてくれてるが、普通は仕事として奉仕してるのだから、良い条件を提示してくれる主人がいたら鞍替えするのが普通か。
「そうだね。ユウにとってノアちゃんは最高の技量を持ってる。実力と容姿だけじゃなくカードゲームの知識と対戦相手をこなせる。ユウじゃなくても、使用人にしたいと思う人は多いと思うよ。でもさ! そこは遠慮して欲しいとオイラは思うんだよね! だってタツキとユウは友達だろ? だから貴族って好きじゃないんだよ」
「ゴメン」
なかなか鋭いシェンユの言葉で、ユウは膝をついて、うなだれてしまった。すぐにジョノが肩を掴んでくれているが、床を見つめてままだ。
「シェンユさん、良いのです。ユウ様お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんでも聞いてくれ」
「マスターが大砂漠に落ちた件の内容は、どのぐらい知ってますか?」
「得られる情報は全て得た。ほぼ全て知っているよ」
「では、私とマスターの出会いについては知ってますか?」
「悪いと思ったが調べた。命を救われて、その恩で無償で仕えてるんですよね?」「そうです。であれば、私がどれだけマスターを愛しているか分かりますよね?」
あ、愛してくれてるのか! 俺は知らなかったぞ!
ノアの重い言葉の後にユウは少し沈黙したが、顔上げてノアを見た後に、力の入った眼を俺に向けた。
「分かってたさ。断られる事も。タツキ氏からだけでなくノアさんから断られる事も分かってた。けど、聞かなきゃいけないんだ。友達に嫌われてでも……、俺は、俺はシャン・ギ=オウ家を背負ってるからな。悪かった。今日はもう帰ってくれても構わないよ」
「かっこいいですね。ユウ様は」
「「「へっ?」」」
「今日が台無しになる。もしかすると今後の関係も悪くなると分かっているのに、家の為に行動する。それは家の為ですが、つまりはエクスィの為、自分の大切にしてる事の為ですよね?」
「あ。そうかな? そうかもしれない」
なんだこの流れは? ノアさん? 俺を愛してくれてるんじゃなかったのですかい? 俺にずっと仕えてくれる流れだったのでは? 違うの?
「ですが残念です。ユウ様には、貴族としての立ち振る舞いと、デュエリトとしての矜持が足りていません。それもマスターを思っての行動だと感じましたが、今ユウ様が取るべき行動は、私に対しての交渉ではありません」
ノアはゆっくりとユウの前まで歩いて行き、少しかがんで右手を差し伸べた。求めて断られた相手から出された手を、拒否する事などできるわけ無く、その手をつかんで立ち上がる。
「交渉ではない?」
「そうです。ユウ様は貴族にして決闘者。そしてマスターも貴族です。なら取るべき行動は1つでしょう?」
いったい何が起こっているんだ? これから何が起こるんだ?
「そうか。さすがノアさんだ。改めて惚れ直しました」
「ま、まさか! ノアちゃん? それって、いいの?」
ユウがキリっとした表情で俺の方に向いて、3歩ほど詰め寄った。そのあとに、人差し指で向けてポーズを決めてきた。
「タツキ氏!」
「は、はい」
「決闘を申し込む!」
「はい~?!」
どうなってんだよコレ! 決闘って何するんだ? まさか、命の取り合いをするんじゃないだろうな? ユウとそんな事できないぞ。
「こ、断る!」
「タツキ~。それはできないかも」
「えっ? なんで?」
「はい。それでは貴族の決闘について説明しますよ、マスター」
お前は、何がしたいんだよー!
「貴族の決闘は、位の低い貴族が、位の高い貴族に対して申し込む事ができる800年以上前から続く画期的な問題解決方法です。申し込まれた貴族はその血筋と家柄にかけて断る事はできません! 申し込んだ下級貴族は相手から欲しい物を要求します。受けた上級貴族は相応の物を要求する事ができます」
「ちょっと待てぃ! ノア! それは画期的な問題解決方法なのか?」
「もちろんです。マスターは常識が抜けているかもしれませんが、画期的な問題解決方法なのです。ねっ、シェンユさん?」
「う、うーん? まぁでも貴族ならあるよ。オイラもやった事あるし」
マジか!?
「俺は初めてだけど、そんなに頻繁に起こる事じゃないが、あるよ。けどさ、タツキ氏と俺とでその構図は成り立つのか?」
「このユウツオでは成り立ちます。マスターは西の国の低級貴族の生まれですので、シン帝国ではユウ様の方が格上です。ですが領主様から特別な計らいを受けておりますので、このユウツオ内だけではマスターが格上となります」
そうかぁ~。俺の知らない、この世界の常識なのかぁ~。
「では。ユウ様が要求するのは、この私でよろしいでしょうか?」
「あ、うん。そのぉ、使用人として雇えれば嬉しいんですが……」
「マスター! 貴方を愛している私が、他の男に取られてしまいそうですよ? では、ユウ様に何を求めますか?」
お前、ノリノリだな。ユウの方が困惑しているじゃないか。
つまり半分は、おふざけとして、あまりにも無茶な要求は出来ないなぁ。かといってショボい要求をしたらノアが怒りそうだし~。
今すぐ思いつくのは~、えーっと~。
「早くして下さい」
「せかすなよ!」
まったく、誰のイベントに付き合ってやってると思ってるんだ。
「よし。俺の願い事を何でも1つきいてもらおうか」
これなら、後で何とでもなる。
「いいだろう。俺が負けたらシャン・ギ=オウ家の総力をかけて、タツキ氏の言う事をきいてやるよ!」
いや、大丈夫よ。そんな願い事は言わないから。
「決闘の内容やルールは、双方が可能な事で、納得がいくのであれば何でも可能です。そして、これは決闘を受けた上級貴族が提示できます。一般的には武力を持って相手を戦闘不能にするのが、多いのですが――」
何やら自分の鞄から、四角い木箱を取り出して不敵な笑みをうかべているな。もちろん片手で持てるサイズの、その中身を俺は知っているぞ。
「今回はこれで決めて構わないですか?」
「願ってもないぜ! 全国大会シングル戦、最高戦績ベスト8。ペア戦でベスト4の、この俺にエクスィで決闘を挑むとはな!」
いや、決闘を申し込んだのは、お前だよ。
そして、元気になって良かったよ。
しっかし、まずいなぁ~。ユウ相手に手加減してもらって勝った事はあるけど、
本気でやって勝った事ないんだよなぁ~。
もし負けたら、本当にノアって取られちゃうのか?
「それでタツキ氏。ルールは何だ?」
「決闘なんだからシングル戦でいいんじゃないのか? いつもみたいな3本試合の2本先取で勝ちのルールで、試合中のデッキ交換は無しやつ」
「いいだろう。問題ない」
あっ。しまった! 俺が決めれるなら、俺の有利になるルールするべきだったかな? でも、双方が納得しないといけないんだっけ?
「それからご存じかと思いますが、決闘を賭け合った当時者が有する財力、武器、配下などは全て投入する事ができます」
知らねーよ! 先に言えよ! ユウが保有するカードって凄いレアとか強力なカードとかあるじゃねーか。マジで負けるぞ?
「ユウ様はジョノ様を代役として出しますか?」
「いや。実力的にも決闘者的にも、俺がやろう」
「マスターは代役を出しますよね?」
「代役? 俺にそんな財力も配下もいないんだが?」
「出しますよね?」
「……。出します」
こいつ! 自分が試合したいだけじゃないかっ!
隠れデュエリトめっ!
「つまりは、ノアさんが相手してくださると?」
「使用人として雇いたいとの事ですが、私の決闘者としての実力も見たいのでは? と思いまして」
「それは、ありがたい」
なんだ、こいつ等。ゆっくりとお互いに絶妙な距離を保って、視線を鋭く交差させながらテーブルに向かって行くぞ。
決闘らしい雰囲気が出てて、緊張感がこっちにも伝わってくるじゃないか。お互いに持ってる物は、剣でも銃でもなくてカードゲームのデッキなのに。
「せっかくですので、シェンユさんは私の後ろから見ててください。ゲームのルールについて説明しながらプレイしますから。マスターも補足してくださいね」
「それは、舐められたもんだなぁ。それで、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。亡き旦那様にかけて絶対に負けませんから」
それ設定だろ? 嘘ですよね?
せめて、俺の為に負けないでくださいよノアさん。
「それなら、先攻は、お譲りしますよ」
「あら。それはお優しい。謹んで頂戴いたします。では、始めますよ?」
「いつでもどうぞ」
「「決闘開始!」」




