第59話 良かったですねマスター
「それじゃぁ、俺達も帰りましょうかねノアさん?」
「待って。私はまだ話があるわ」
「だそうですよマスター」
ダリアさんと2人か。ノアもいるけど、あまり長くなるのは嫌だなぁ。
「座ってタツキ」
ダリアさんの侍女達が食器を片付けるのを眺めながら、席に座り直す。特に話す事が思い浮かばないでいると、テーブルが綺麗になっていた。
そして、最後に拭き上げた侍女が去る時に、ダリアさんが声をかけた。
「メイメイ。用意してるアレを持ってきてちょうだい」
「かしこまりました」
アレってなんだろう?
「まず、私からもお礼を言わせて。助けてくれて本当にありがとう」
「い、いえ。もう何度もお礼を貰ってますから。もういいですよ」
「タツキはそう言うけど。私のせいで3日も寝込んで、今月は毎日補修があって、ギルドに借金までしているでしょう? 本当に申し訳ないわ」
「し、借金は、ダリアさんのせいじゃないです。その、もともと莫大な借金をしているので、ちょっと増えても大差ないというか、なんと言うか。まぁ大丈夫です」「大丈夫じゃないですよ。私も毎日働いているのですから、楽観視しないで、マスターも、もう少し考えてください」
分かっているよ! でも今、言うなよ。ダリアさんが責任を感じてしまうじゃないか。
ノアが棘を刺したところで、先程の侍女が何かを持ってきた。
「ダリア様。お待たせしました」
「ありがと」
ダリアさんの前に置かれたのは、長財布ぐらいの大きさの畳まれた布。そしてそれをすぐ俺の目の前にダリアさんが置き直した。
「どうぞ。中を確認して」
言われるがままに布をめくると、中にあったのは青黒っぽい平たい棒に赤い模様が入った木製の物体だ。
こんな大量の点棒を渡してくるなんて、ダリアさんは麻雀を一緒にやりたいのかな? ユウとジョノも誘ってみるか?
「ギルドへの借金は、それでなんとかなると思うのだけど」
点棒じゃねぇ! これはシン大帝国の通貨だった。お金はほとんどノアが管理しているから忘れたぜ。すごいなコレって結構な額あるんじゃないのか?
「い、いや? いや、いや。お金を貰うなんて! ダリアさん、貴方は金持ちの娘ですけど、そりゃぁたくさん持っていらっしゃるかもしれませんが、いくらなんでもお金を工面して頂くわけにはいかないです」
「違うわ。勘違いしないで、施しなんかじゃないから。そのお金はちゃんとした物なの。貴方が受け取るべき物なのよ」
「ちゃんとした?」
「えぇそうよ。それはサンダイルの素材を売って、できたお金よ。レッドが私に譲ってくれた物よ」
そういえば、そんな事あったな。
「レッドは今回の事で大変な思いをしたから譲ってくれたの。だから同じ事になってるタツキも貰うべき物なのよ」
あれ? そんな事、俺言ったかな?
「いちおう4割は使わせてもらったから。商業団の損害は予定より1日遅れただけだったから1割を渡したわ。むしろサンダイル襲撃という事態に品物を1つも失う事なく、人的被害も無くて、とても幸運だった。ギルドへの私の分の支払いは3割で足りたから、残りは全てタツキが受け取って」
「い、いいんですか?」
「もちろんよ。余っても私に返す必要は無いわ。私はお金に困ってないから」
「ノアさん!」
「良かったですねマスター」
ノアは笑顔で横から手を伸ばすと、布ごと鷲掴みして自分の背後にまわし、どこかへとしまった。いっさい俺に触れさせずに。
「これで、私の用は済んだわ。2人はまだ時間はあるのかしら? まだ、大丈夫ならもう少し話さない? タツキがレッドとどんな話をしたのか気になるわ」
「い、いやぁ~、トレーニングとかしないといけないのでぇ」
「そうなんですか? 今朝の特訓では足りなかったですか?」
足りたよ! 毎日、十分足りてるよ! 察してくれよ。あまり長居したくないんだよ。
ダリアさんと上手く会話を出来る気がしない。しかもレッドの話なんて、ボロが出そうで怖い。
「なら、一緒にする? 日が傾き始めてた4時頃から私もトレーニングをするつもりなんだけど」
「いえ結構です。ほら、えーっと。俺はさ歳だから、若い子と同じ内容では出来ないから。あっ、あと、座学もさ、予習と復習しておかないと授業についていけないんだよ。だから帰って勉強しなきゃ」
「そうなのね。残念だわ」
よし。帰れそうだ。
「兎車で我儘亭まで送ってく?」
「だ、大丈夫です。そこまでしなくても。お腹いっぱいになったし、運動したいから歩いて帰るよ」
「そう。分かった。玄関まで見送るわ」
少しだけ送ってもらいたい気はしたけど、結局、会話しないといけなくなるんだよな。でもなぁ~、貴族区画から我儘亭までって歩いたら2時間ぐらいかかるんだようなぁ。送ってもらえばよかったかなぁ。
玄関で別れてから敷地を出るまで結構歩るいて、振り返って見てみると、改めて大富豪の豪邸ってのを認識した。クラスの半分以上は貴族なんだけど、みんな貴族区画のこんな広い所に住んでいるんだろうか?
兎車が2台通っても余るぐらいの道に出ると、お向かいの少し小さな豪邸から声がした。門に腕と顎を乗っけて疲れていそうな顔をしてるユウだった。
「おーっす。アナガリス様に会ったのか?」
左右を確認して道を渡る。近づくとユウは急に姿勢を正したので、もう一度左右を確認したが俺とノア以外には誰もいなかった。
どうしたんだ? 変な奴。
「会ったよ。良い人だったよ」
「の、の、ノアさんですか?」
「ん? あぁ。そっか、ノアとちゃんと会うのは初めてか。コイツが俺の侍女をしてくれているノアだ」
ノアはJKのスカートを摘まみ上げてカーテシーをした。ちなみに、この世界。いや、少なくともユウツオにはカーテシーの文化は無い。今まで見た事がない。
「し、失礼ですが、ノアというお名前は、本名ですか?」
なんでそんな事を聞く? ますます変な奴だ。
「始めましてユウ=シャン・ギ=オウ様。私の名前はノアです。性はありません。もちろん本名です」
「マジかぁ…… その容姿で、その名前…… 奇跡だなぁ」
「ユウ大丈夫か? 何を言ってるんだ?」
「あっ。いや。えーっと、説明するよりも見てもらいたいな。けど今はトレーニングの休憩時間だからなぁ~。そろそろ戻らないと先生に怒られるからなぁ~」
ほぅ。君も自主トレをしているのか。頑張っているな。
実はユウも成績は良くない方で、俺とユウと双子と4ギャルの8人がクラスで最下位争いをしている。
「タツキ氏、次の雷の日はうちに遊びに来いよ。もちろんノアさんもご一緒に」
「えーっと。来週って何か予定あったっけ?」
「今日のように、マスターが約束事を私に伝え忘れていなけのであれば、特に何もないです」
それは、すみませんでした。
「たぶん、大丈夫だ。」
「よっしゃ! 決まりだな。それじゃあ、次の雷の日にうちの兎車を迎えに出すから、忘れるなよ~。昼過ぎぐらいにな!」
「了解」
「おっと、そろそろ戻らねーと。じゃぁな」
「がんばれ~」
小走りに館の方へと走って行くユウを見て、ふと思った。友達の家に呼ばれるのって初じゃね? やべぇ、めっちゃ嬉しいわ~。
「なんか、今日は良い事が多いな!」
「そうですか? 問題が増えた気がしますが。とりあえず歩きますか」
「そうだな。帰ろう」
問題か。ギルド側が俺について、どう思うかだな。
だがしかし、金持ちのクラスメイトと仲良くなったし、ギルドへの借金は返済の目処が立ったし、友達の家に行く約束が出来たし。
今日は休みなのに、慌ただしい1日だったけど、いい感じじゃなかったか?
「いろいろと、お聞きしたい事がたくさんありますが」
「おう、なんでも聞いてくれ」
「ご機嫌ですね。お金が入ったからって」
「お、おいおい。それは、大事だろ? 借金が減るのは良い事じゃないか」
『レッドだと知られたくないのは、変態と呼ばれたくないからですか?』
「な、なんだって?」
急に日本語で喋るなよ! まぁ、通行人に聞かれたくない話ではあるけど。
『それだけじゃないぞ! 俺がレッドだとバレたら、何かと面倒だろ? 学校を卒業すまでは穏便に過ごす作戦だったじゃないか』
『自らトラブルに突っ込んでいっているように見えますが?』
『そんな事は無い』
『では、そもそもヒーロー活動なんて、やらないほうが良いのでは?』
『目の前の困っている人を、ほっとけないだろう?』
ノアは、ほっとけるんだよな~。こればっかりは、しょうがない。俺の性分なのだから、考える前に身体が動いてしまう。
これから、レッドの正体がバレないように活動するには、ノアの助けが必要になってくるんだけど、ちょっと否定的なんだよな。この間はサポートしてくれるって言ってたのに……。
でもそれは、ノアが俺の事を思ってくれてるからで。俺の身を第一に考えてくれて、極力、問題が起きないように考えてくれてるからだ。
そう考えると、とても愛おしくなってくる。この俺に無条件に尽くしてくれて、時には憎たらしく、時には愛らしく、本当にノアがいてくれて良かった。
そういや、こうやって2人で街を歩くのは久しぶりだな。なんかデートしているみたいだ。
『そもそも、ヒーローってのは、どうして正体を隠したがるのですかね?』
『そうか。残念だよノア。お前のそのスーパーコンピューターがヒーローの本質を理解出来ない程度だったなんて』
『今日のマスターは、なんだかムカつきますね!』
ムカつく?! ノアからそんな言葉が出るなんて、むしろ高性能だな!
『よーし、いいだろう! 時間もあるし。デートついでにヒーローについて俺が教えてあげようじゃないか!』
『用事済ませた帰宅コースがマスターにとってデートになるんですね。しかたありません。私のメモリーが無駄に消費されそうですが、マスターへの理解を深める為に、その講義を甘んじて受けましょう』
こうして、2時間の帰り道を3時間に増やしながら、たっぷりとヒーローについて語りながら我儘亭に着いた。
帰ったそこにには、何故自分を連れて行かなかったのか? と訳分からん事を言うピンク頭の小鬼が怒っていて、機嫌を取るのに苦労するイベントが待っていた。
休みの日は、のんびりしたい。と思うのだが、毎日イベントが多いこの世界らしい、騒がしい休日が過ぎていく……。
なーんか忘れいる気がするが、思い出せん。




