第44話 生きています
「最後にあと1つ。覚えておいて欲しい事があるよ」
「なんでしょうか?」
ちょっと、恥ずかしい事を口にするので、気合を入れ直して、さっきよりも温かみのあるノアちゃんの瞳を見つめる。
「みんなもタツキが好きって事さ!」
「それは知りませんでした」
「まだたった2ヶ月しかこの街にはいないけど、誰にでも優しくて、困ってる人をほっとけなくて、ちょっとだらしないオッサンをみんなが好いているよ! ノアちゃんには負けるかもだけど、間違いなくオイラは世界で2番目にタツキの事が好きだよ!」
「それは、困りましたね。2番目は私のはずなので」
「えっ? じゃぁ1番は誰なの?」
「GMです」
「じーえむ? 誰それ?」
「秘密です」
誰だろう? すごく気になる。タツキも知ってる人なのかな?
「それでは皆様、私のダメでヘタレで手のかかる、でも愛おしいマスターを救出する為に力を貸して下さい。お願い致します」
ノアちゃんは、深々と頭を下げた。
「ごめんなさい。俺が落としたんだ。俺がふざけて、調子に乗っていたから」
「その話を詳しく聞かせてもらえますか?」
背中から小さい声が、申し訳なさそうに喋り出した。
「よーし、武器はしまえよー。今やる事は争う事じゃねーぞ! 人命救助だ!」
「フォルスト。話がしたい」
「ウギマのおっさん。あんたが責任者か?」
「今回の件ではそうだ。現状と情報が今どこまで共有されているか説明しよう」
兵士達の方はフォルストがなんとかしてくれそうだ。
震える声で説明するシャンウィ君に、どこからかやって来た、同じ歳ぐらいの女の子が背中をさすっている。たしか彼女も同じクラスでシャンウィ君の双子の妹のシェンファちゃんだったはず。
シャンウィ君の説明が終わると衝撃の真実が明らかになった。
「えっ! ダリアさんも落ちたの?」
「やはりそうでしたか」
「えっ? えぇ? やはりってどういう事?」
「さすがのマスターも、アホして落ちる事は無いという事です。誰かの為に命を賭けてるとはマスターらしいです」
「ごめんなさい。俺のせいで、2人は…… もう……」
シャンウィ君もそうだけど、他の周りの人も2人は死んだと思っている。でもオイラはそうは、思わない。なんたってタツキの事をよく知っているノアちゃんが諦めていないのだから。
「ノアちゃん。確認するけど、タツキは生きているの?」
「生きています」
「どうして分かるののさ」
「私には分かるのです。これは信じてもらうしかありません」
「もちろんさ! オイラはノアちゃんを信じるよ」
生きてる。でも。だとしても、どうやって助ければいいのか……
「ノア君、ちょっといいかね?」
「あっ。ウギマさん」
「シェンユも一緒でいい。シャンウィ君にシェンファ君、君達2人は精神的に疲労しているだろう? 少しやすみたまえ。ノア君とシェンユはこちらに」
3人で少し歩いて巨大な撃退装置の近くまで移動した。
「これは、大防壁に近づく砂獣に対して攻撃できる装置でな。もちろんタツキ君とダリア君がサンダイルに食われた時に急いで打ち込んだが、2発しか打ち込めなかった。ちょっと砂漠を見てもらえるかな?」
ウギマさんが身を乗り出して砂漠側を指さすので、その方を同じように身を乗り出して見てみる。ノアちゃんは、そのままで見えるみたい。
「捕獲用の縄付き木槍を誤って1発撃ち込んでしまってな。捕獲するすもりは無かったので、1発では足止めにもならずに逃げられたのだが。見えるか? もう、だいぶ小さくなってしまったが北西に縄が見えるだろうか? せめて何か遺品を回収できないかと思ってな。ありったけの縄を継ぎ足して10キロ分は繋いだが、ヤツはかなり遠くまで移動していまったようだ」
「いえ、ありがとうございます。方向が特定できたなら、追いつく事ができます」
「だが、追いついた所で彼はもう……」
「生きてるよ! タツキは生きてる。まだ、今なら間に合う。そうだよねノアちゃん?」
「えぇ。大丈夫です。後は私1人で、どうにかできますので、あの木槍を1本貰っても良いですか?」
「構わない」
ノアちゃんは、軽く飛び上がりながら、撃退装置に装填されている木槍を蹴りで外すと、回転して落下するのを簡単そうに捕まえ肩に担いで、大防壁の端に着地した。
「待って! ノアちゃんは、どうするの?」
「あの、縄を追いかけます」
「バカな! 砂漠を横断する気か? やめろ死ぬぞ?」
「構いません。マスターこそ私の全て。マスターがいなければ私が存在する意味がありません。私が壊れる事があってもマスターが助かるならそれで良いです」
「な、なんと……」
凄いなぁ。それは愛なのかな? とてもマネできないや。でも、そこまでで無くとも、何か力になれるはず。
「オイラはどうしたらいい? オイラも何かしたいんだ!」
「では、医療行為を行える体制を整えていて下さい。マスターは無事でも、もう1人のダリアさんという方は重症かもしれません。ですがマスターが命を賭けたからには絶対に生きているはずです。それから可能であれば、捜索隊を結成して北と西を繋ぐ商業団の安全ルートを西へと行って下さい」
「分かった!」
「4日以内に合流できなければ、私も含め3人は死亡したと思って下さい。では!」
オイラも諦めないと言いかけたその時、ノアちゃんが壁の端からそのまま砂漠へと飛び降りた。すぐに姿を確認すると、木槍を壁に突き刺して落下速度を緩やかにしながら、最後は白い煙を大量にまき散らしながら12メートルを着地すると、木槍を担いだまま、北西へと走り始めた。
本当に凄い人だ。
「シェンユ。ノア君はBランク冒険者かね?」
「違うよ。でもそれ以上の実力はあるかもしれない。そのノアちゃんがタツキを助けるって言ってるんだ。きっと助かるよ」
「そうか」
ウギマさんも責任を感じているかもしれない。この人も8年前の事件で大切な人の命を失ったって聞いている。誰かの死に責任を重く感じる人なんだと思う。
「よーし! 全員、撃退装置を用意! 木槍もありったけ持ってこい! こいつの射程範囲内にいる限りは、ノア君に砂獣を近づかせるなよ!」
よし! オイラもできる事をやらなきゃ!
「おーい。シェンユ」
「フォルスト。さっきはありがとう!」
「おうよ。お前、分かってると思うが、ユウツオから出るんじゃないぞ?」
「分かってるよ。オイラが行けるのは森とユウツオの街だけ。領主様との約束だからね。これは破れないよ」
「そうか。分かってるならいい。この兎獣は、お前に預ける。お前はコイツに乗ってギルドに行け、そしてルーファンに事情を説明して捜索隊の依頼を出してもらんだ。使い終わったら貸し屋に返しておいてくれ」
「分かった。フォルストはこれからどうするのさ? 力にはなってくれないの?」
「バカ野郎。タツキは俺のダチだぞ? 全力を尽くすさ! 俺のパーティーメンバーは今別の依頼で忙しいからな。パメラあたりに頼んで入れもらって、そんで先遣隊をするさ。商業団の安全ルートって言っても、イレギュラーがあるかもしれねぇからな。ついでにザコ狩りをしてくるさ!」
普段だらしない分、こういう時のフォルストは本当にカッコいい! オイラもこんな冒険者になりたいと憧れるよ。普段以外は。
「頼むね!」
「おう! 任せてろ!」
兵団詰所の中に入っていくフォルストの背中を見ながら、パメラにどういう頼み方をするのか、ちょっと見てみたい気持ちを抑えて、自分のやるべき事に集中する。まずは急いでギルドに行かなきゃ。
「って、オイラ兎獣、扱えないんですけど」
走って行った方が早くない? 途中でばてるかな?
「シェンユさん、俺が一緒に行くよ。ちょうどウギマさんに事情をギルドに説明してくるように言われているから。それに俺、兎獣を扱えるので」
「おぉ。それは助かる! 頼むよ」
2人で兎獣に飛び乗って、走り出そうとした時に呼び止められた。
「シャンウィ、私はどうしよっか?」
「シェンファは…… ここのおっさん達を助けてくれ、お前の魔力なら疲労回復とかできるだろ?」
「うん。できるよ! まかせておいて」
「それじゃぁ、行くよ」
「いいよ。出して」
オイラができる事は少ないかもしれない。でもフォルストが走ってくれている。パメラも走ってくれると思うし、ルーファンも全力で助けてくれると思う。ウギマさんも、トラヒコさんも、ユウも、ヒトラさんも、みんなが、動いてくれている。 タツキは不思議な奴だ。何かを感じるよ。
タツキが生きて帰ってきたら、オイラの事を教えよう。全部は話せないかもしれないけど、どうして近づいたのかを告白しよう。そして、オイラの故郷の話をしてあげよう。
大魔女サヤの弟子の末裔である。オイラの血筋を。




