第43話 オイラも行く! 乗せて
そんな、突飛な話があるわけない!
なぜ? どうして? 大防壁に穴が開いたのだろうか? また龍支配の空賊が攻めてきたのだろうか?
いったい。何が起きているの?
「そんじゃ、急いでるんだ。ノアを止めねーと。さすがに主人の危機に暴走しているように見えるからな」
「オイラも行く! 乗せて」
「は?」
行かないといけない。タツキとは何か運命みたいなのを感じるから、力になってあげたい。きっと、2か月前のあの出会いには何かの意味がある。
「タツキを助けにいく!」
「はぁぁ?」
「助けに行くって、シェンユ君。そのタツキ君はサンダイルに食べられたのだろう? なら、言いにくいのだけど、もう……」
「ノアちゃんは、凄い人だ! みんなも見ただろう?」
「なんで、今、ノアの話なんだよ」
「その、ノアちゃんが走って行ったんだ。急いで街に向かったんだよ! きっと何か手があるんだよ。ノアちゃんは何も考え無しに暴走したりはしない」
「なっ! 確かにノアは凄い奴だ…… もしかするとタツキは生きているのか?」
「分からないけど、分からないけど! オイラも力になりたいんだ! だから乗せてくれよフォルスト。オイラをノアちゃんの所に連れてって」
フォルストの目を見て口をつむぐ。これ以上は何も言わない。オイラの想いは伝わっているから、あとは総合的に考えて判断してくれるはず。
フォルストは、いい加減なところもあるけど、C級パーティー『森の疾風』のリーダーでユウツオでは名の通ったCランク冒険者だ。その実力は間違いない。
「わかった。いいだろう。乗れ」
「ありがとう」
荷車の持ち手を放して、兎獣に飛び乗る。少し大きめみたいなので2人乗りになっても大丈夫そうだ。
「本当は、お前には別の事を頼みたかったんだけどな。トラヒコ、悪いがシェンユを借りるぜ! ギルドやら学校には後で俺が話をつけるから、大丈夫だ」
「了解した。それで、俺らは魔獣討伐か?」
「さすがだな。ツァジウが加わったので問題ないと思うが、念のため加勢に行ってくれないか?」
「分かった。任せろ」
かっこいい! さすがはCランク冒険者どうし、判断も行動も早い。
「シェンユ。落ちるなよ!」
ちょっと抵抗があるけど、フォルストの腹筋にしっかりと抱きつく。
「シェンユー! タツキを頼む! 俺に力になれる事があれば言ってくれよ!」
走り出した兎獣に届くように、だんだんと小さくなりながらも、しっかりとユウは叫んでくれた。
魔獣討伐は最低でもDランク冒険者の実力が無いといけないと思うけど、ヒトラさんは凄く優秀だし、無口ちゃんも力持ちだったし、ユウはちょっと危なそうだけど…… 『森の疾風』もメンバーもいるし問題ないと思う。
「しまったなぁ。結構時間をくっちまった。ノアを見失ったぜ」
「フォルスト達は、なんて話を聞いたの?」
「タツキが大防壁から落ちてサンダイルに食われたってだけだ」
「なら、きっと、兵団詰所だよ。大防壁の管理はあそこがやってるし、情報もあそこに集まるはずだよ」
「そうか。そうだな」
フォルストも実は動揺しているのかな? たしか歳も近かったし、1回だけどお酒を飲みに行ってたっけ? 仲良くしていたよね。
兎獣が左に傾いて、進行方向を南側に変えた。旧街道は貴族区画の最東端に繋がっているから、おそらく農業区画に繋がっている新街道から街に入って兵団詰所に向かうつもりだ。
「フォルスト戻して! 貴族区画を突っ切って行った方が早い」
「いや、めんどうになるぞ?」
「大丈夫。後でオイラが責任をとるから、今は急がなきゃ!」
「分かった。頼むぜ? さすがの俺でも、貴族は相手にできないからな」
「任せて!」
兎獣の進行方向を北に変えてしばらくしすると、旧東門が見えてきた。いつもは閉まっているけど、今日は旧街道で実習をしている為、開けっ放しになっていて、その代わり警備の人が門の左右に3人づつ立っている。
「デンメルさん! 通してー! 緊急事態なんだ」
「待てー! 止まれー!」
「オイラだよ! シェンユだよ! 通るからねー! 文句は後で領主様に言っておいてねー!」
警備の兵士達が門の前に立って通さない様にしている。
「フォルスト跳べる?」
「人間1人分なら大丈夫だ。それよりも、俺は領主様に怒られたくないぞ?」
門番の兵士達を飛び越えて、貴族区画の中を突っ切る。もちろん大声で注意する人達がたくさんいたけど全て無視して。そして兵士通りを兎獣を走らせる。
この兵士通りは、兵団団長や領主様などの街の管理者が詰所に行きやすいように、兵団詰所と貴族区画をまっすぐ1本道で繋いでいる道だ。
街は普段通りで、特に変わった様子はない。兵士通りはなぜか縄を大量に運搬していたが、それ以外ではいつも通りだ。
けれど、詰所が見えてくると、慌ただしくなっていた。多くの兵士が入口に集まっていて、中には実力のある冒険者も数名いてローゼスさんの顔もある。
「なんか、凄い事になってるぞ? やべぇな、ローゼスサブマスターもいるじゃねーか。げぇ! パメラもいる。めんどうになりそうだぞ」
「それよりもノアちゃんは、どこ?」
「もう、中に入ったんじゃねーか?」
「それは無理だよ。関係者か、ちゃんとした用がある人じゃないと兵団詰所の中には入れないよ」
「あぁ。なるほど、それで、この騒ぎか」
「あっ!」
ありうる。今のノアちゃんなら、強引に中に入りそうだ。
まだ2ヶ月しか関わってないけど、ノアちゃんが日頃からタツキの為に行動していて、タツキの事を最優先するのは間違いない。
「フォルスト! わき道に入って少し北に行った所に兎獣ごと上れる階段があるから、そこから上に行こう!」
「おっ。了解だ! 俺もパメラに会いたくねぇ」
いや、それは、もっと仲良くしてよ!
オイラの指示通りに兎獣を操ってもらい、わき道に入って迷路のような居住区画を抜けて防壁通りに出る。すぐに階段を見つけて警備兵を無視して大防壁の屋上についた。
南の方を見ると、兵士が剣を持って輪になっている。その輪の中心にいたのは大防壁のギリギリに立って右手を砂漠へと突き出しているノアちゃんだった。
最悪なのは、その右手にはオイラとタツキのクラスメイトが胸ぐらを掴まれて、今にも落とされそうになっている事。
「なんだ、ありゃ? どういう状況だ?」
「フォルスト止めないで! 早く走らせて! いや! いいや」
兎獣から飛び降りて全力で走る。300メートルぐらいの距離ならオイラは獣人と同じ速度で走る事ができる。
「さぁ! これまでの状況を話しなさい」
「くっ、苦しい。話すから、地面に降ろして……」
「無理ですね。今、貴方を降ろせば、私は兵士達に斬られてしまいますので、どうかこのまま、お話ください」
兵士達の輪の中に入ると、ノアちゃんとクラスメイトの会話が聞こえてきた。たしか、あの子は双子の男の方でシャンウィ君だったはず。
「その子を放せ!」
「待って! 待って! ちょっと! なんで、どういう状況なのさ!」
2、3歩前に出て、ノアちゃんと兵士達の間に入る。
「シェンユさん。マスターがピンチです。情報の開示を要請します」
「わかってるよ! でも、そのやり方は間違っているよ」
オイラは近くにいた知り合いの兵士を睨みつける。
「シェンユ! その女性と知り合いか? そいつは詰所に勝手に入ってきて、いろんな兵士に尋問をしたんだ! そして最後には子供相手にコレだよ」
「わかってるよ! でも、ちゃんと話を聞いたの? 規則に従ったんでしょ? 関係者以外は関わるな! って言ったんでしょ? いつもの事だ。ノアちゃんは関係者だよ! ノアちゃんはタツキの侍女で、タツキはノアちゃんの大切な主人だよ! 主人のピンチに取り乱ださない侍女はいないでしょ!」
ノアちゃんの方へと向き直って、その目を見る。大きな可愛らしくも鋭い目からは何も感じる事ができずに、ただ人形のような無機質の冷たさを感じる。でも、主人への熱い想いは間違いない。
「その子を降ろしてくれないかな? もちろん防壁の上側に」
「情報を得た後ではダメですか?」
「その状態では、話ずらいよ。それに、ノアちゃんは大事な情報を聞きもらしているよ。とても大事な事を」
「わかっています。なので、現場にいたこの方から情報を得られれば、後は動くのみです。それで問題は無い」
「そんな事よりも大切な事だよ!」
「……」
「オイラを信じてくれないかい? 急がなきゃいけないのは分かっているけど、少しだけオイラと話す時間をくれないかい?」
「いいでしょう」
彼女は地面よりも1メートル程、高くなっている防壁の端から飛び降りて、右手だけで吊るしていたシャンウィ君を地面へと降ろした。その瞬間、兵士達が武器を振り上げ戦闘態勢に入る。
「動くんじゃねぇ!」
怒号を鳴らしたのは、兎獣から見下ろし自慢の剣を振りかざすフォルストだった。大事な時に大事な仕事をこなすから、かっこいいんだよなぁ~。
「その嬢ちゃんは、応えただろうが! なら誠意で応え返すべきだ。それがこの街のルールだろ? シェンユの話が終わるまでは動くな」
「ありがとうフォルスト」
全員の動きが無い事を確認して、ノアちゃんの前まで移動する。
「ノアちゃんがタツキの事を大切に思っているのは、よく知ってるよ。誰もが見たら気づくよ。でも君に気づいて欲しいのは、それを君が知らない事だよ!」
「それが、大事な事ですか?」
「そうだよ。君がタツキをとても大切に、自分の事よりも大切にしてる。君は強く綺麗で凄い人なのに、そんな君が、あのオッサンを1番に想ってる。ちょっと奇妙な事だけど、みんなが知ってるよ」
「それは、感謝したらいいんですか? そんなに重要な事には思えませんが」
「だから、ちゃんと話してよ。少し待って信じてよ。いつもはもっと生意気な口で笑いながら、タツキが困ってるのを静観してるじゃないか。今はまるで必要最低限を優先する冷たい人形のようだよ! 誰も嫌がらないから、誰もが助けてくれるから、誠意をもって誠意に返す。それがユウツオの良い所だよ」
おもむろに、彼女は腰を落とした。突如、柔らかく穏やかな動きで、小動物に触れるようにシャンウィ君を立ち上がらせると、軽く背中を押した。
シャンウィ君は抜かした腰が、まだ完全には戻ってない様子で、ヨタヨタとオイラの後ろに回って肩を掴んできた。
ちょっと不快だけど、よっぽど怖かったんだろう。かわいそうなので、少しだけ我慢する事にした。




