第42話 待って! 何かあったの?
しばらく、主人公以外の目線になる予定です。たぶん。
「いやぁー。ほんと、シェンユがいて助かったぜ」
一緒に荷車を引きながら話しかけてくるのは、先週から少し話ができるようになった同じ歳のユウって男の子だ。
オイラは過去の事件と血筋によって、近い歳の友達がいないどころか知り合い程度もいない。仲良くしてくれる人はたくさんいるけど、そのほとんどが年上の人ばかりで父様や母様にお世話になった人達だから、本当に友達と呼べる人はいない。
1人を除いてだけど。
その大切なたった1人の友達のおかげで、少しずつ友達を作れている気がするので、彼にはとても感謝している。最初はオイラの不純な動機で話しかけたのだけれども、身分も歳の差も関係なく友達として接してくれて、今ではオイラの方が彼を友達だと強く意識しているほどだ。
「オイラも友達は少ない方だから、話せるユウが一緒のチームでよかった」
振り向いて後ろを見ると、荷車を後ろから押してくれている左右の2人は一言も喋っていない。
左後ろにいるのは、ズアンというユウツオ生まれのユウツオ育ちの女の子だけど、オイラは全く知らない子だ。おとなしい性格みたいで、そもそも他人と関わるのが得意ではなさそうに見える。
右後ろから押してくれるのは、ヒトラさん。ヒトラ様なんて呼ぶ人もいるけど、それが違和感が無いほどに優れた人で、美しい容姿に秀才な頭脳と優れた魔力コントロールが出来て、さらにとびぬけた身体能力も持っている1年生でナンバーワンの生徒だ。必要あれば誰とでも話すけど、逆に必要が無ければ喋らないので、その優秀さも相まって、少し近寄りがたい人だ。
「次の旗に到着したぞぉ。作業にかかろうか。今回は俺とシェンユ君で周囲の警戒をするから残りの3人で旗の交換をしてくれ」
今回の実習で指揮してくれるCランク冒険者のキタノクロダノ=トラヒコさんは、元ワナン国の人らしく、冒険者として偉くなりたくてシン大帝国に移ってきて、7年前からこの冒険者の街ユウツオを拠点にしているとの事。
「トラヒコ。妾に雑務をやれと申すのか?」
おぉ。ヒトラさんが喋ったよ。しかも、なにやら汚れる事はやりたくないような発言じゃないか。1個めの旗交換は見張り役だったから、ずっと見張り役ができると思ったのかな? オイラは、どっちでもいいから代わってあげようかな?
「ははは。もちろんですよヒトラ様。冒険者は身分や血筋でできる程、甘くはないですからね。やらなくて構いませんが、私はそれなりの評価をするだけですよ」
おっと。トラヒコさん普通に言い返したよ。ヒトラさんはワナン国の偉い人なのかな? この感じはきっと、トラヒコさんがワナン国にいた頃は上下関係のある繋がりがあったって事だろうね。
「うむ。良い。身分を気にして己の責をまっとうでないのでは無いかと少し心配しただけよ。さすがじゃトラヒコ。もちろん旗交換はさせてもらうぞ」
「意地悪しないで下さいよヒトラ様~」
なにソレ? めんどくさいなぁ~。オイラこの人と仲良くなれそうにないよ。かといって、ずっと黙ってる子とは仲良くなれるわけでもないけど。
はぁ~。タツキと同じチームが良かったなぁ~。
「おーい! 急いで通るから寄ってくれー」
「んっ。トラヒコさん! なにか来てます。シェンユもそこ危ないぞ」
ユウツオの旧街道を街の方から兎獣に乗ってきたのは知ってる人だ。彼はC級冒険者のパーティ『森の疾風』で盾担当していて、フォルストを支える気が利く副リーダーのツァジウさんだ。
「ツァジウさん! どうしたの?」
「おっシェンユか。フォルストの奴を見たか?」
「えっ? 見てないよ。だって今は実習中だもん」
「トラヒコさん。『森の疾風』はこの実習の為に、ギルドの依頼で朝から旧街道を掃除してたハズなんだが、どこに行ったか知っていますか?」
「私が聞いたのは、一通りの掃除を終わらして、緊急の別の依頼が入ったから、そっちに行ったと。たしか旧街道の先にあるガルーパルフの第15番柱に魔獣がいるらしく、討伐に行ったと思うのだが」
「そうですか。ありがとうございます。では」
ツァジウさんは、乗り慣れていないのが判りやすく、兎獣をなんとか操って荷車の隣を抜けて走り出そうとしている。
「待って! 何かあったの?」
「悪いシェンユ。急いるんだ。またな!」
真っすぐ走らせるのは簡単なのか、障害物が無くなると速度上げて去ってしまった。
「どうしたんだシェンユ?」
「うーん。なんか気になるんだよね~。フォルスト達って、高いから貸し兎獣って使ってるの見た事ないんだけど、わざわざ兎獣に乗ってるって事は、なかなかの緊急事態なんじゃないかなぁ? ユウはどう思う?」
「分からねぇ。フォルストさんは時々トラブルを起こすって有名だからな」
うーん。そうかぁ。パメラちゃんと何かあったのかな?
「さて、我々は大事な仕事に戻ろうか。実習とはいえ、これはギルドからの正式なちゃんとした依頼だからね。しっかりとやり遂げないといけないよ」
「あの……。冒険者さん。旗変え終わりました」
「え?」
オイラ達がツァジウさんと話してる間に、無口ちゃんが仕事を終わらしていた。
「そうか、1人でやらしていまったな、すまん。では次の旗まで移動しようか。お詫びに次は私とシェンユ君で作業をして、残りの3人で見張り役をしてもらおう」
むむ。オイラは別にサボってたわけじゃないのにな。まぁ、いいけど。
トラヒコさんが先頭を歩き、オイラとユウで荷車を引いて後ろからヒトラ様と無口ちゃんが荷車を押す、初期陣形になって次の旗を目指す。
この旗は4分の1に割られた木の丸太に、縦60センチ横120センチぐらいの布がつけられていて、獣が嫌う匂いを発する薬草の汁がたっぷりと染み込まされた物でになってる。それが20本ほど載っているので、結構この荷車は重い。
「トラヒコさん。ちょっと質問をよいですか?」
「なんだい、ユウ君」
「獣が旧街道に近寄らないように、この旗を5メートルおきに立てているのですよね? そして、その効力が弱くなるので1月に1度、新しい物に交換する。その仕事をやってるわけですよね?」
「そうだよ」
「なぜ旗なんですかね? 布面積を増やして幟にしたの方が効力が高まりそうなのに」
「なるほど。それについては知ってるので、答えてあげよう」
トラヒコさんが、くるりと反転し進行方向に背を向けて、後ろ向きで歩き始めた。1人だけ荷車に関わってないので余裕がありそうで、ちょっとムカツク。
「ゲンかつぎだそうだ。大魔女サヤ様が旗を持っていたので、それにちなんでいると聞いているよ」
「あっ。オイラ知ってる。導きの戦旗ですよね?」
小さい頃に父様から聞いたっけ?
大魔女サヤ様は凄い魔法の使い手で、戦いとなれば誰も近づく事さえ出来ないのに、接近戦用の武器として巨大な旗を持っていたとか。
「そうだね。旗を武器として扱うなんて変わっているけど、それは巨大で丸太のようであったとか、先に刃がついていて飾り布がある槍のようであったとも言われているけど、とにかく、その導きの戦旗にあやかっているそうだよ。ユウツオには大魔女サヤ様が滞在してた事もあるそうで、関りが深いからね」
「トラヒコさん。今度は前から何か来ます!」
遠くから走ってくる人がオイラにも見えた。
透き通るような蒼い髪に、中央大陸では馴染みのないボタンがついた白い服と、段々になって縦横に線の入った見慣れない形と模様のスカートを身につけた美女。他にあんな恰好をした人はいない。一目見ただけで見間違う事のない彼女は、タツキの侍女だ。
「ノアちゃーん!」
オイラが大きく手を振ると、ノアちゃんも手を振ってくれた。
「ちょっと、すごい速度で近づいてくるけど、ぶつからないか?」
「みんな。一旦止まろうか。荷車を止めてくれ」
「ノアちゃーん。荷車あるの見えてるー?」
ちょっと、大丈夫かな? まったく止まる気がなさそうというか、むしろ加速してくる感じがするんだけど……
「えっ? まずいって、これはぶつかるぞ? おーい! 危ないぞ!」
ユウが叫んだ時には、3メートル手前まで猛スピードで近づいていきていた。
そのままオイラ達に突っ込むかと思いきや、1歩目で右足を、2歩目で左足を曲げて低く構えると、3歩目は無く信じられない跳躍をした。
高さは2メートル以上、距離は7メートル以上の大跳躍するノアちゃんを、全員で弧を描くように視線を移動させて固まってしまった。
下着が見えないように、空中でしっかりとスカートを抑え、「失礼します」と一言かけると、バランスを一切崩さずに着地して、すぐに走り去ってしまった。
「シェンユ! あの者は何奴じゃ? ノアと言ったか。知り合いなのか?」
「あ。うん。タツキの侍女のノアちゃんだよ。オイラの友達さ」
「何? タツキの侍女だと? なんと」
どうしたんだろう? ヒトラ様がやたらと食い付いてくるなぁ~。まぁノアちゃんは凄い人だからね。おそらく実力はBランク冒険者ぐらいはあるだろうな~。
「シェンユ! あれが噂のノアさんか! お前友達なんだよな? 俺にも紹介してくれよ!」
「なんだよ急に。オイラは別にいいけど、タツキに聞いてよね」
「なるほど。妾にも紹介してもらいたいな。タツキに言えばよいのか」
「えっ? なんで?」
「あれほどの動き。かなりの魔闘気の使い手であろうな。ぜひとも話を聞いてみたいものだな」
すごいな。そんな考えになるとはね。でもなんか、そういう事なら紹介したくないなぁ~。
「シェンユ君。もしタイミングがあれば、私も紹介してもらえないかな?」
「えぇ! トラヒコさんも?」
ノアちゃん凄すぎ~。
「おーい! シェンユか? ノアを見なかったかぁー」
全員で小さくなっていくノアちゃんを見ていたら、後ろから聞きなれたオッサンの声が聞こえてきた。
「フォルスト。今さっき走り抜けて行ったぞ!」
「そうか! ありがとうトラヒコ」
「フォルスト待って!!」
兎獣に乗るフォルストの前に両手を広げて立ちふさがる。ちょっと危ないけど、今、絶対に止めなければいけない。
「おっと! 危ねーな! シェンユ急いでるんだ。どいてくれ」
「何があったの?」
大声で少し怒気を混ぜて言い放す。ここで聞いておかないといけない気がする。
ノアちゃんが走って飛び越えてた時点で何かが起きていると確信した。普段ならちゃんと挨拶をしてくれるのに、あんな飛び去っていくなんて、きっとタツキに何かがあったんだ。
「しゃぁねーな。お前はアイツと親しいからな」
「やっぱりタツキに何かあったの?」
「むっ。察っしがいいな。いいか、落ち着いて聞けよ。俺も詳しい事はまだ知らないから確認をしに行くところなんだ」
フォルストは少し黙って、何かを考えているようだった。オイラは知ってる、とても優しい人だから言葉を選んでいるに違いない。
けど頭はよく無いから、結局はストレートに言ってくるんだよね。
「タツキがサンダイルに食われたらしい」
「なんだって!」




