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魔女が真龍に仕掛けた我儘戦争(仮です。迷走中です。少し変えるかもです)  作者: 漆本李彩(しつもと りあ)
第二章 冒険者学校は才女だらけ?!
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第41話 絶対にダリアを助ける

 彼女が落ちていくのが、スローモーションのように見えて駆け出したのだが、俺の伸ばした手は、あと数センチで掴む事は出来なかった。


 周りの動きもゆっくりと見えて、何故か音も聞こえない。


 ゾーンってやつだろうか?


 時間が引き延ばされた様に感じたが、俺は特に思考を巡らせる事などはせずに、ひたすら彼女へと手を伸ばし続け、気が付いたら自由落下をしていた。


 俺が落ちたのは数秒遅れての事だったが、壁を勢いよく蹴って飛び出したのが幸いし彼女を掴む事が出来たので、すぐに手繰り寄せて抱きかかえる。

 こんなオッサンに抱き着かれたのに、特に抵抗する事なく必死にしがみついてくる彼女の熱を感じ、命を感じた。


 何も考えていなかった。気づいたら動いていた。


 いや、1つだけ頭では無く、心に浮かんだ思いがあった。


 絶対にダリアを助ける。


 ぐんぐん近づいてくる黄色い地面を見て、少しだけ2か月前の事を思い出してしまったが、すぐに意識を切り替えた。


 あの時と色々と違う。俺は死ぬ気はないし、どうしても助けたい人がいるので諦めるわけにはいかない。なによりも落下地点は無機質な地面では無く、鋭い牙が並ぶ人間4人をひと口でたいらげる半魚ワニの口の中のようだ。


 変わり者のサンダイルは、上顎についた自分の目の視界を妨げない為なのか、口を半開きの状態を維持したままでこちらを見ている。知力は低いって聞いていたけど、落下する俺達が腹を満たす事ができる獲物だとは理解しているようで、ただ口を開けて待っていればいい訳ではなく、しっかりとタイミングを計る程度の考えはできるみたいだ。


 これは、逃げられない。


 もう時間がない。何か、何か考えなくては。


 着地の衝撃は、腕1本でどうにかできないだろうか? 半魚ワニは獲物である俺達が口の中へ全部入りきらないと、口を閉じないと思うのだが。

 ダリアが出来るだけ上半身の位置になるように調整して、左腕だけでお姫様抱っこスタイルに持ち替え、右腕をのばし、両脚を真っすぐに伸ばす。これなら口が閉じた時に傷つくのは俺の下半身だけのハズ……


 俺の頭部以外の損傷は、きっと再生される。


 半魚ワニの鼻先まで距離が縮り、このタイミングを待っていたと言わんとばかりに奴が大きな口を開けた。そこには鋭く大きな牙が並んでいて、その一つ一つから凝縮された恐怖を感じた。たくさんの死の先端が俺達に向けられ、奈落の底にへと手招きするような舌がうねっているのが見える。


 俺は恐怖に耐えられず目を強く閉じて、口の中へとダイブする事となった。


「ぐっ! うぁぁぁぁああああああ!」


 右腕に走った衝撃が、すぐに激痛へと入れ替わり、その燃えるような痛みが肩から発したかと思うと、背中からも感じ、腹部は爆発したのかと思えた。


 全身が燃えるように熱い。死への恐怖と痛みと熱は、無意識のうちのあの日を思い出させた。


 あの日も死の恐怖を感じて、熱を感じながら、暗闇の中で孤独を感じていた。本当はまったくの逆だったのだが、何度思い出してもマイナスのイメージがつきまとってしまい、あの日に自分が感じたのは、本当にそういった事だったのか? あの後に起きた悲劇と否定したい日々が、あの思い出を黒く塗りつぶそうとしているのではないのだろうか? と疑問が浮かぶ。


 俺の隣にはヒーローがいた。優しい言葉を投げかけ、心が安らぐ事ができていたはずだ。なのに恐怖がつきまとう。


 水を全身にかけられ、隣には池もあった。確かに視界は全て炎で埋め尽くされ、見ているだけで熱かったが、自分自身が燃えているわけでは無かった。


 森を焼き尽くす火は、そのまま夜の暗闇まで焼くかのごとく強い光を放ち、街灯の少ない田舎の一部だけを眠らない大都会のように明るくしていた。


 それでも、しつこく絡みつくような、嫌な気分にさせるイメージが拭いきれないのは、あの日が、俺がヒーローと会話した最後の日になったからだろう。


「もっと、水をもって来い!」

「消防団の奴等は何をやってるんだ!」

「私の子は? タクヤはどこ?」


 大人達が大声で叫んでいた気がする。


「熱い! 助けてー」

「出れない! 誰かぁー! ここにいるよぉー!」

「おかぁーさーん!」


 森の中から子供達の叫び声が聞こえていたように思える。


 しかし、どれも定かではではない。思い出せないのか? 思い出したくないのか? 自分でも分からないのだけれども、全てに黒いモヤがかかっているみたいな、炎から出た黒煙が渦巻き留まっていたかのような、明確には記憶できていない。


 それでも、ハッキリと覚えている事もある。あの人が俺に何を言い、何を伝えたかったのか。森へ走り出し、なぜ俺を置いて行ったのか。

 俺はただ「行かないで」と繰り返していた事。お互いの最後の言葉……


「タツキ、みんなが誰かの助けを待っている」

「行かないで」

「その誰かにになれるのは、ヒーローになれるのは、それだけの力を持っている人であり、神様に選ばれた人なんだ。だから強い人は弱い人を助けなきゃいけないと思うんだ」

「お願い。行かないで」

「聞いてタツキ。そして思い出して。いつも言っているだろ? 人は皆、それぞれに力があって、その力でやるべき事があるんだよ。きっと神様がそういう役割を与えたんだ。私は強い。ヒーローの役割を与えられた。だから困ってる人を助けなきゃいけないと思うんだ。」


 繋いだ手がゆっくりと離れ、その手は優しく俺の頭をなでた。


「大丈夫! ババっと助けて、すぐに戻ってくるから。任せろ!」


 でも、もう戻ってくる事は無かった。


「絶対にそこから動くなよ! ちゃんと待ってるんだぞ!」


 ずっと、待ってたよ。


「そんじゃ、ちょっくら、ヒーローになってくるぜ!」

「行かないで!」


 突き出された拳を、俺は必至に捕まえようとした。


「行かないで、おかぁさん!」


 卑怯だった。一度もそう呼んだ事はなかった。子供ながらに、そう呼べばとどまってくれると思った事はよく覚えている。


「ありがとう」


 でも、あの人は炎へと立ち向かって行った。最後に感謝の言葉を残して。


 俺の伸ばした右手は無いも掴めなかった。燃え上がる炎が手のひらに燃え移るのではないかと思う程に熱かったが、戻す事ができずに、ただ山火事へと腕を突き出し固まっていた。


 熱かった。右腕がとても熱かった。


 右腕が熱い。燃えているかのように熱い。


 あまりの熱さに目をあけた。

 辺りは暗くて何も見えない。俺は死んだのだろうか?


 さっき見えていたのは、夢なのか? 死ぬ前の走馬灯だったのか? どちらかは分からないが、同じように右腕を突き出していた。


 視界が暗さに慣れて、少しだけ周りが見えるようになると、衝撃的事実を認識する事になった。その腕は肘から先が無かった。


「うっ! ぐぁぁああああ! 痛いぃぃいいい」


 燃えるように痛む。右腕を抑えようとして左腕を動かしたが、そこにはダリア氏が覆いかぶさっていて、動かせなかった。


 見たところ、額から少し血が流れているが大きな外傷は無さそうで、胸が上下に動いているので、気を失っているだけのようだ。

 そんな事よりも燃えるような激痛が熱い!


 腕が欠損しているのに気づいてから、身体中が熱くなるのを感じる。じわじわと全身に流れる血液が沸騰するような感覚で、心臓に熱湯を流し込まれ、それが血管を巡って全身にエネルギーを送り込まれているようにも感じる。

 ノアとの訓練で何度も体験したので、この感覚は知っている。熱さがいつも数十倍になってる事以外は同じ感覚だ。神から与えられた力により魔力が供給されて、欠損した身体を修復しようとしている感覚だ。


 痛みが熱さへと変換されていくのも、この力のおかげだろう。ドーパミンとかゲートコントロールセオリーとかの身体の機能が過剰に働いているんだろうか?

 仕組みとかよく分からないけど、とにかくありがたい。多少の痛みはあるが、これで動ける。


「ぐぅ。痛い。が、まずは状況確認だ」


 ダリア氏に挟まれた左腕を抜いて立ち上がろうとしたが、できなかった。どういうわけか、下半身の感覚が全く無い。腹部がとても熱いが、そこから先には感覚がまったく無かった。


 右腕と似た感覚で、おそるおそる目線を落とすと、その現実を理解したくない強烈な事態となっていた。


 大量の赤い液体と少量の臓物がまき散らされて、ギリギリおヘソは確認できるが、その先にあるはずの2本の美脚も、まだ未使用の息子も存在してなった。


 俺の下半身は爆散していたのだ。


 あまりにも恐ろしい光景に、脳内はこの事実を受け止められず、状況を否定し、認知することを止め、情報を遮断した結果……

 俺は意識をシャットダウンする事になった。

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