第39話 子守りを頼みにきた
そういえば、ここに来るのは久しぶりだ。あの時に世話になったフォルストやパメラ氏やルーファン氏に挨拶したいとは思ったが、3人とも街で偶然会ったので他に特に用事が無く、ローゼスさんには会いたく無かったので、避けていた。
今日、ローゼスさんに会わない事を願う。
「まずは、この掲示板に掛けられている依頼書から自分のランクと実力に合ったものを探します。次にそれを持って、こっちのカウンターから受付をするのですが、依頼はすぐには受注出来ません。依頼の条件にあっているかギルドのチェックがあります」
一生懸命説明をしているのは、イジられキャラのムーチェン君だった。なんかフォルストとシェンユに振り回されていた姿しか見てなかったので、こうして仕事をしっかりしてる姿は、ちょっと驚きだ。
今この場にいる1年生は少ない。6人乗りの兎車3台に先生が2人いるので16人程度だろうか。1年生の半数は貴族らしく、貴族区画にあるギルド支店に兎車で移動し、残りの主に没クラスの20名ちかくは、時間をずらす為に歩きでここに向かっているらしい。
「では、これから受付をそこと、そこの2つの窓口でやってもらいます。クエストは決まっているので、チーム分けが終わり次第リーダーを決めて、リーダーが私の所へ依頼書を取りにきて下さい」
「それじゃ、チーム分けをするぞー。まずは――」
チーム分けが始まった。指示を出しているスボイミ=グエン先生は、丸眼鏡をしていて身長が低く、毛量が多い黒髪ロングの女性で、亜人学の先生だ。寝ぐせが多い頭は研究員ってイメージがあり、実際、集中すると時間を忘れて、いつまでも仕事をしているらしい。
「おぉ。いたいた。ダリアー。あとオッサン」
なんか、向こうからやって来たと思ったら、俺が苦手としている4ギャルの1人と、優クラス最年少の双子兄妹だ。
「あら、トゥーイじゃない。貴方もここにいたのね」
「別にアンタと違って気にしてないけどね~。ジブン、貴族だなんて思ってないし~。ってかオッサンは貴族だったんだね。笑える~、以外というか似合ってないですよ~」
人を小バカにした話し方がイラっとする。本人はそれが面白いというか場の空気を和ませてるつもりだから、こっちが怒ると、空気を壊したとみなされる。このタイプの人はハッキリ言って苦手だ。
「で、なんの用よ。まさか同じチームだなんて言わないでしょうね?」
どうやらダリア氏も仲が良いわけでは無さそうだ。
「子守りを頼みにきた」
「なんだと! 誰に対して子守りって言ってんだよ!」
「ちょっと、シャンウィやめなよ」
「シェンファ! こいつ俺等の事を子供扱いしてるんだぞ!」
「だって子供じゃん。すぐにギャーギャー騒ぐところとか」
「はぁあ!!」
誰だ! こんな組み合わせをしたのは。ギャルと子供って、永遠に騒いでいるんじゃないのか? 犯人はサイネ先生だと思うが……
「ちょっと。ちょっとー! ストーップ! 話が進まないじゃないのよ! ほら、他のチームはリーダーまで選出してるわよ。トゥーイちゃんと説明しなさいよ」
「めんどくさっ」
「はぁ? じゃぁ、もいいわ! 話は終わりね」
「あっ。ごっめーん。それは更にめんどくさいから許して。こっちにきてる優クラスはジブンのいつもの面子とここの面子の8人なんだわ。サイネっちが、2チームに別れろってさ。自分達で選ばしてくれるみたい」
「それで、シャンウィとシェンファとチームを組みたくないから、押し付けてきたって事ね」
「そういう事~。まっ、組んでもいいけど、そしたらそっちはジブンの友達と組む事になるけど、嫌っしょ?」
「なるほどね。どうするタツキ?」
「えっ? ま、任せます」
「うわぁ。オッサンやる気無いの見え見えだわ~」
なんだと! やる気無いわけじゃないんだ! ダリア氏に意見するの、がちょっと怖いだけだ! とはアナタにも言えませんけど。
「そう。それじゃ受けましょう。正直めんどうですけど、トゥーイ達と組むよりはマシかもしれないからね」
「ふん。後で泣くなよ? そんじゃ、子守りよろしく~」
トゥーイという名前のギャルは、手をヒラヒラさせながら後ろに向き直って、4ギャルの残りの3人が待っている所へ去って行った。
「おーし! それじゃよろしくな! 俺がいるから実習なんて楽々だぜ!」
「子供2人とチームなんて不本意だけど、しかたないわね。まずはリーダーを決めなきゃね」
「バカにすんな! なら、俺がリーダーやってやるよ。むしろ俺しか務まらないだろうからな! 決まりだ。依頼書取ってくるぜ!」
「待ちなさい! 無いわ。アンタだけは絶対に無いわ!」
「なんだと! 俺以外にありえないだろ。女とオッサンじゃリーダーは務まらないだろーが」
「シャンウィ、私はリーダーやってもいいよ?」
「シェンファ、だまってろ」
「二人とも黙って。私とタツキで決めるから」
「なんでだよ! ありえねぇ、オマエも絶対に無いね!」
今度は不機嫌さんと子供で言い合いが始まったぞ。リーダーなんて誰でもいいからケンカしないでくれ~。
「ガキが出来るワケないでしょ! アンタ以外なら誰でもいいわ!」
「うるせぇ! ヒス女! オマエだけは勘弁してほしいね!」
「じゃぁ、シェンファが決めていいの?」
「「好きにどうぞ!」」
そんなんで決めていいのかよ!
「シェンファはおじさんが良いと思います」
「えっ? 俺?」
やるけど、リーダーとかレッドとか好きだけど。他に適任がいれば別に、絶対やりたいわけじゃないのよ?
「ふぅ。いいでしょう。この無能な子供がやるよりはいいわ」
「はんっ。すぐ怒る周りの見えない女がやるよりはマシだぜ!」
ええええぇぇぇぇぇ。本当に? 本当に俺がやるの?
「じゃ、じゃぁ。依頼書取ってくるけど、いいの?」
「「「どうぞ」」」
マジかぁ。俺的には、あの男の子がいいと思ったけどな。無鉄砲かもしれないけど、元気があってチームを引っ張っていけそうだし、他の人でカバーすれば大丈夫だと思ったけどな
しょうがない。でもやるからには全力だ! レッドを努めてみせましょう!
「あっ。お久しぶりです。えーっとノアさんと一緒の方」
「タツキです。ムーチェンさん」
何故にノアだけ覚えているのよ。
「あなたがリーダーですか。頑張って下さい。これをどうぞ」
依頼書はハガキサイズぐらいの長方形の木板に文字や数字が焼印されており、2センチ程度の厚さと上に紐が通されているのは絵馬のようだ。隣にある掲示板には大量の依頼書が吊るされていて神社の絵馬かけみたいになっている。
「あら。タツキじゃないか」
「ど、どうも」
「なんだよ。私とは、それなりに仲良くなったろ? ノアに喋るみたいに気軽に話してよ」
「いや、ちょっと緊張してしまって」
さっきから見えてはいたが、やはりカウンターで受付を担当していたのはルーファン氏だった。今日も明るくて元気のある可愛い笑顔をしていて、こっちも元気になってくる。
「はい。では依頼書を確認するね。適正ランクは特別に無し。依頼内容はユウツオの街の治安維持の為に街の巡回と大防壁の点検業務です。依頼人はユウツオ警備隊の大隊長で担当は小隊長のウギマさん。報酬は無いです。良いですか?」
「良いです。実習ですから」
「そうだね。冒険者が了承したら、ここで本来なら冒険者の証を確認させてもらって、依頼書に適してるか最後の確認してから受領になるんだよ。これね」
カウンターにはピンポン玉サイズのガラス玉が装飾された篭手のような物が置かれていた。
「これは、腕輪ですか?」
「冒険者証だよ。この玉はとある魔獣の素材で、魔力によって複数の情報を記録できるんだ。ギルド側からランクや実績を記録して、冒険者は本人しか扱えないようにしているんだよ」
冒険者証ったらプレートを想像していたけど、篭手とは、予想外。
「では、この依頼書を持って、いってらっしゃい。依頼書は最後に返さないといけないからリーダーが責任を持って管理するんだよ」
「了解です」
受付から戻ると、俺達のチームと先生2人だけになっていた。誰も喋らないで静かに待っていたようだ。はたして上手く実習を終わる事ができるだろうか……。
「受付をしてきたよ。内容はユウツオの街の巡回みたいだ」
「そっかよ。つまんねーな。森に行って魔獣退治とかならよかったのに」
「シャンウィ危ないよ。私達はまだ、ちゃんとした冒険者じゃないんだから」
「それでタツキ。次はどうすればいいのかしら?」
「えっと、分かりません」
「ダメなリーダーだな! 普通は依頼主の所に行くんだぜ。そんでチームだけで依頼をこなすのか、依頼主も一緒になるのか聞くんだ」
「おぉ。なるほど! そういう事か、さすがリーダーに立候補するだけあるね」
「へっ! 任せろよ。俺が実質リーダーみたいなもんだな。分からない事が俺に聞くといいぜ。おっさん」
とりあえず、子供は褒めておけば大丈夫だ。褒めて良い所を伸ばして、間違った事があればフォローすればいい。
「それじゃあ、実質リーダーさん。依頼主には何処にいるのですか?」
「は? そんなの依頼書に書いてあるだろ。なぁ?」
「そうだね。依頼者はユウツオ警備隊の大隊長って書いてあったよ」
「ほらな! 街の治安維持のトップなら、貴族区画の建物にいるハズだぜ。すぐに行こう」
「はい、ストップ! 大隊長が街の巡回の仕事なんてするわけ無いでしょ!」
「あっ。ゴメン。担当はウギマさんって書いてあった」
「それじゃ、ウギマって人に会いに行こーぜ!」
「で、何処に行けば会えるんですか? 実質リーダーさん」
「そりゃぁ。何処だ? おっさん、書いてあるだろ?」
「書いてないね」
依頼書ってのは、こういうもんなのか? 情報が少ないとうか、親切じゃないというか。
「シャンウィ、先生に聞いてみる?」
「ちっ。しょうがねぇ、聞いてみるか」
「ダメよ」
不機嫌さんの放った一言は冷たく強く、3人を威圧するほどだった。
「そういった行動が評価に繋がっているのよ。ただえさえ低くく見られて、アンタ達と組んでいるってのに、これ以上私の評価が下がるような事をしないで!」
「なんだと! てめぇ!」
「シャンウィやめて」
「ダリアさん。ちょっと言い方がキツイよ。相手は子供なんだから、大目にみてやろうよ。シャンウィ君はすぐ怒らない。自分の実力が足りてないのは理解しないといけないだろ? 俺だってリーダーが務まるとは思っていない」
2人の間を取り持とうと思ったんだが、誰も喋らなくなってしまった。さて、どうしたものか。
「せっかく縁があって、この4人でチームになったんだから、お互いに協力してクエストをこなしましょう。冒険者って緊急時には即席でチーム組む事もあるんじゃない? そういう時の経験になりますよ」
「そうね」
「リーダーが言うならしかたねぇな」
「私は最初から何も。いがみ合ってるのは2人だけです」
この女の子が意外と1番、毒舌だな。
「すみませんがダリアさん。この後どう行動するべきですかね?」
「さっき、この子が言ったとおり、依頼主に会って話を聞くべきだわ。けど担当が別にいるなら、そのウギマって人の所に行かないと」
「でも、それは書いてないんだろう? おっさん」
「依頼主が大隊長だから、おそらくウギマって人も兵団の人のはずよ。兵団詰所に行けば会えるかもしれないわ」
「「おぉ。なるほど」」
とりあえず、次の目的が決まって良かった。
他のチームもこんな感じで進めているのだろうか? 先生に聞いたら評価が下がるって言ってたけど、本当だろうか? そもそも評価されているのか?
説明が少ないし、普段よりも先生方が関わってこない。チーム分けも変だ。この実習はいつもの授業程度に考えていたが、実は、かなり重要なのかもしれない。




