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魔女が真龍に仕掛けた我儘戦争(仮です。迷走中です。少し変えるかもです)  作者: 漆本李彩(しつもと りあ)
第一章 旅立ちは機械少女と共に
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第4話 そんなの、無いですよ

 枝葉を分けて、ゆっくりと巨大な頭が現れた。振動から察するに猛ダッシュをしてきて、ある程度の距離になったからスピードを緩めたと思われる。

 月明りが照らすそれは、大きな巻角をつけた黒い鱗のあるティラノサウルスの様な生物だった。


 アレは、ドラゴンになるのだろうか? かつての訓練でそれなりに緊張感のある場面には遭遇してきたが、これ程にどうしようもない状況は初めてだ。

 地球には絶対に存在しない生物。その姿に似つかしくない太い腕が、あの巨体を何故か支えてる2足歩行が、どういう動きをするか予測がつかない。


 さっきから彼女が何か言っているが、よく聞こえない。心臓の音だけが最大音量でドクンドクンと耳の中を蹂躙している。取るべき行動は分かっている。アレに立ち向かえるハズがなく、死を受け入れるには早すぎる。逃げなくては。

 しかし足が動かない。これ程に度胸のない男だったとは思わなかった。


「マスター!! 走って!!!」


 心臓の鼓動をかき消す程の彼女の大きな声で、体が動く様になり、すぐさま身を反転させて足を出すが、奴から目を離せなかった為に足をもつれさせてしまった。

 彼女の声に反応した怪物が、右腕を水平に伸ばし手を広げている。指は3本しか見えないが、人間程度は十分に収まる掌がフック気味に繰り出された。

 転倒したのが幸いし奴の腕が空を切る。駈け出そうとした下半身と目を離せなかった上半身のおかげで妙な体制で転倒し、腰に激痛が走ったのだが、数秒前に鼻先をかすめた恐怖が俺の身体の反応を鈍らせている。


 冗談じゃないぞ。あんなのもらったら、よくて骨折、悪ければ内臓破裂で一発で死ぬ。こんな世界、一人でどうにか出来るレベルじゃないぞ。スタート地点がドラゴンの森ってふざけてるのか! せめて優秀な護衛ぐらい付けて欲しかったわ。

 いや、そういや、あと一人いたっけ。


「おいっ! 生きてるか?」


 下半身を上半身のほうに合わせ、彼女がいた辺りを見たが、振りぬいた怪物の腕しかなかった。


「大丈夫です!」


 声がした上の方を見ると、空中に彼女が舞っていた。どうやら腕に弾かれたのではなく跳躍して回避した様だが…… マズイ。怪物は頭を水平に傾け狙っている。


 叫ぼうとしたその瞬間、怪物が一歩踏み出し頭部をすくい上げるかの様にして口を開いた。この動きがあと30センチ外側の軌道になっていたら、俺の足は踏みつぶされ胴体は食い千切られていただろう。

 最初の一撃がけん制だったと思える程、2倍近いスピードで尚且つなめらかな動きで上空に突き出した巨大な口を閉じた。


 しかし驚いた事に彼女は、空中で身体をねじり体制を変えると牙の隙間からスルリ抜け出し、3回転ぐらいしながら俺のすぐ隣に見事な着地をした。


「マスター。失礼します」


 おっと、待て待て待て。確かにちょうどブリッジみたいな姿勢だったが。右手で膝を支えて、左手で肩を支えるこの抱き方は、お姫様抱っこじゃないか! 恐怖さんが小さくなっていますよ。羞恥心さんが「こんにちは」していますよ。

 あっ、走らないで、まだ受け入れてないから。ちょっとは走れるから。


「このまま、離脱します。振り落とされない様につかまって下さい。今だけは私の肩に手をまわすのを、許可いたしますよ?」

「それは…… 勇気がないです。というかオジさんが女子高生にお姫様抱っこで運ばれるのって、受け入れがたいです。」

「すみません。緊急事態でしたので、背中に担ぐのでは振り落としてしまう可能性がありました。さすがに普通の抱っこは出来ませんし、肩車だとこの森を走り抜けるのは難しいですから。最悪の事態で、追いつかれた場合にマスターが背中側だと最初に危険が及びますので、現状をご理解下さいね。」


 俺が走る事は最初から無いんかい。


「ギャオオオオオオオオ!!」


 彼女の背後に視線を向けると、黒巻角で黒鱗ティラノが4メートルぐらい後から、さっきとは違う四足歩行で追いかけてくる。時折咆哮をあげて、唾液を垂らし、500ミリのペットボトルぐらいある鋭い牙が並んでいるのが見える。

 一瞬目が合った。久しぶりの獲物か、縄張りに現れた侵入者か、どう認識されてるか分からないが激しい殺意を向けてくる。その追いかけてくる死を感じた俺は身体が硬くなり足が震えた。


「マスター。落ち着いて下さいね。あの生物は私たちに付いてきていますが、少しだけ私のスピードが速いです。時間をかければ逃れる事が可能でしょう。そして私は現在のスピードを補給等を必要とせず5日は継続する事が可能です」


 5日間走りっぱなし?! しかも、俺をお姫様抱っこした状態で?!


「安心してください。私は超高性能アンドロイドですから、転移初日にゲームオーバーなんて事には絶対にさせませんから。そういえば、ちゃんとした自己紹介をしてませんでしたね。」


 この状況でちゃんと、って何だ? 一人は暗闇の森の中でアクロバティックに走り抜けるロボット女子高生と、もう一人はその女子高生にお姫様抱っこされてるオジさんである。咳払いをしても、ちゃんとにはならないですよ。


「私はKATANA-HIPP-003-Dノアです。ノアと呼んで下さい。呼び捨てで構いませんからね。ほら私って後輩設定ありますし。知ってると思いますが基本設定は、たまに毒舌が出るが、なんでも出来る有能な後輩女子高生です。戦闘・家事・暗殺・諜報活動・スパイ・枕営業など、本当にいろいろ出来るので任せて下さい。ですがサポートがメインとなりますので、あくまで裏から支える役です。こらから宜しくお願いしますね。では、マスターもどうぞ」

「おう、俺は佐藤龍希(さとう たつき)。ヒーローとか戦隊物が好きで、もう30歳のおっさんだけど、結構子供っぽいかもしれん。漫画とか小説も好きでノリでこの案件を受けてしまった。宜しくお願いします。ところでノアさん、あっ、いや、ノア。戦闘が出来る様ですがアレは倒せないのでしょうか?」


 まぁ、逃げてる時点で倒せないんでしょうけど。もし俺がいるから戦闘しにくいとかなら、全力で一人逃げするから先に倒したほうが良い気がする。


「自分は腰抜かして抱えられてるのに、私に倒せないの? って、なかなかの言いようですね。倒せないですけど」

「あっ。すみません。それは単純な力の差ですか?」

「うーん。理由は複数あるのですが、あの生物の情報が全く無い事。マスターの生存が最優先である事。理由は言えませんが、現在の私の性能が最大値の45パーセントまでしか出せない事が大きいです。でも間違いなく逃げ切れますから」


 なるほど倒せないか。何故に最大値45パーセントにしてるんだろう。俺の生命を最優先にしてくれるし、設定とおり優しいが、俺に隠さないといけない事もあるのかぁ。しかし今はこの子しか頼れないしなぁ。

 それより、すっごく気になる事があるぞ。結構前から、何だろうと思ってたんだけど、名前知らないからかな? と思ったけど自己紹介したし。確信犯ですね。


「気になってただけど、マスターって俺の事だよね? 何故マスター?」

「貴方は私がこれから先お仕えする主なので、そう呼ぶようにとGMに設定されていまして、変える事ができません」

「なんか、少し距離感を感じますよね」

「それが狙いなのかもしれません。私はサポートですので、マスターに自主的に動いてもらわないと困りますから」


 あの神の野郎、勝手に変な設定してるんじゃね! そういや神の事も変な呼び方してたな。あやつの趣味か?


「GMってのは、俺達を送り込んだ神の事か?」

「そうです。私の創造主ですからグランド・マスターの略です」

「なるほど、てっきりゲーム・マスターの略かと思ってた」

「あっそれ、いいですね。その感覚で楽しみながら冒険をやっちゃいましょう。ここはゲーム・マスター用意した舞台。課せられし7つのクエストをクリアして世界を制覇してしまうのです」


 そう考えると、なんか楽しめそうだぞ。現実ではあるが、ゲーム的なノリで考えたほうが気負わなくてすむかもしれない。そうだよ。俺は異世界転生をしてきたんだった。いや正確には新世界転移か? 似たようなものだろう。ゲームみたいな魔法とかスキルとかがあるはず、そういえば神、いやGMと呼ぶか? あいつ、特殊能力を付与するって言ってたし。何か持ってるはず。

 なら、やってやろうじゃないか! 数多の物語の様に俺はチート能力の魔法で新世界の英雄となるであろう。この巻角黒鱗ティラノの対決はその序章となり、いつか語り継がれる事になるであろう。


「よし! ノア、後は任せろ!」

「えっ? 何するんですかマスター?」


 ノアの肩越しに右手を伸ばし目標に向ける。もう10メートルは離れているだろうか、木々の隙間から辛うじて見える怪物に恐怖を感じなくなっていた。

 きっと、俺を安心させる為に話をしてくれてたのだろう。ノアは本当に俺の事を思ってくれている。彼女じゃないのが凄く残念だ。

 今度は俺がノアを安心させてやりたい。


「ノア。俺が奴をやる。揺らさない様に頼む!」

「無理ですよ。いったいどうやって?」

「俺にはなぁ、ゲームマスター様から貰ったチート能力があるんだ! うおぉぉぉ」


 知らないが、魔力を操るってこんな感じじゃないか? 闘気的な感じだろう。内なるエネルギーを練り上げて、力として放出するイメージ! 妄想と想像とイメージ力はオタクと中二病の得意分野だぜ。いくぞ。


「ファイアぁぁぁぁあああああ!」


 俺の身体から光が渦巻き、全身を伝ってエネルギーが右腕に集中していく。砲口と化した掌から灼熱の業火が放たれ、怪物に着弾し大爆発を起こす。


 様な事を幻視した。


「そんなの、無いですよ」


 えええええええー?!

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