第38話 アンタ、同じクラスなのに私の名前知らないの?
だいぶ慣れてきたけど、これはあまりノリ気になれない。
自主トレーニングは毎日ノアと一緒に夕方5時ぐらいから2時間ほどやるが、その後に風呂に入ればいいので気にならないが、毎朝学校まで5キロを走って登校するのは、出来ればやりたくない。
今はまだ耐えられるが、夏になったら汗ダラダラのままで授業受けるのは、さすがに嫌だなぁ。
「ねぇねぇタツキ」
「待てシェンユ」
「ちょっと聞きたいんだけどっ。えっ?」
相変わらずコイツの体力はふざけている。
「俺は、お前みたいに」
「うん。オイラみたいに?」
「走りながらは喋れない」
「そっか、分かった。ちょっと気になった事があったんだけど、学校に着いてから聞くね」
この世界にクーラーは無いし扇風機も無い。基本的に家電製品は存在しない。
生活に必需品である冷蔵庫やコンロは、魔法的な効果をもたらす魔獣の素材を使って存在しているが、最低限の物しか開発されておらず、便利な機械はあまり見かけない。
作ろうと思えば作れそうなのだが、何故か無いという物が多い。
今更だが世界感もなんかおかしい。中華王朝のような全体に、アラビアンナイト的な感じと、少し中世の日本っぽさと、中世ヨーロッパ的な定番がミックスしてる雰囲気だ。
建物は木造しか見た事無い。街全体が木造住宅で埋まってるので日本の下町っぽさを感じるが平屋が少ない。大通りだったり、広場があったりと綺麗に区画整理されていてヨーロッパのような景観を感じる。しかし、街と砂漠の間にある巨大な壁と、街の隣にそびえ立つ謎の円柱状の巨大な地形は、ここが不思議な世界である事を常に教えてくれる。
あと、気になるのは鉄製品をあまり見かけない事だ。何故だろう?
街を眺めながら、そんな事を考え走っていると、学校に着いた。
校門前では同じように走って登校する生徒もいれば、街の周回兎車に乗ってくる生徒もいる。金持ちの貴族なんかは家が所持している兎車で登校する奴もいる。
「はぁ。はぁ。ふぅー。いいなぁ。俺も何かに乗って登校したい」
「それじゃ。明日からオイラがおぶって走ろうか?」
「なんでそうなるんだよ!」
「そうだね。ノアちゃんに頼めば運んでくれるもんね~」
「なっ! お前! それをどこで聞いた?!」
「えへへへへ」
くそ。初日の失態が未だに語り広まっているなんて。最悪だ。
「それで、さっきの聞きたい事ってなんだ?」
「タツキって、いつも鞄を持ってるよね~。それ何が入ってるの?」
「主に教科書だな。俺は帰ってからも勉強してるからな」
「じゃぁ今日は持ってこなければ良かったのに」
「え? なんで?」
「だって今日は使わないと思うよ。学校で授業しないから。今週は第4週目でしょ? 1、2、3、週目とは時間割が違うんだよ」
なんだと? 聞いてないぞ?
確かに今週は火の日と水の日が変則的な時間割だったけど。それは土の日に何か問題があって急遽、休校になったからだと思っていたが……
急いで鞄から時間割が書かれた紙を取り出す。
土の日 火の日 水の日 樹の日 風の日 雷の日
8:30 |
| | ギルド 亜人学 ギルド 生物学 ギルド 休み
9:30 |
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9:40 |
| | 地形学 生物学 地形学 亜人学 地形学 休み
10:40 |
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10:50 |
| | 植物学 植物学 生物学 亜人学 英雄学 休み
11:50 |
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12:00 |
| | 昼休み 昼休み 昼休み 昼休み 昼休み 休み
13:30 |
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13:30 |
| | 強 化 魔闘気 強 化 魔闘気 強 化 休み
15:30 |
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1・2・3週
下に小さく書いてあるじゃん! 今日は樹の日だから亜人学が連続で2コマあって、午後は強化訓練学じゃない、素晴らしい日だと思っていたのに~。
「それじゃ、今日の授業はどうなってるんだ? 時間割知らないぞ?」
「えぇ~。あと1枚第4週の時間割貰ったよ。今日から3日間は実習になっているよ。内容は知らないけど、校外に出て冒険者っぽい事すると思うなぁ~。ほら、みんな教室じゃなくてグラウンドに集まってるでしょ?」
1年校舎に向かう道から隣のグラウンドを見ると1年生が集まっていた。全員がいつもより軽装で鞄などは持っていない。
しょうがない。今日はどんな授業であろうと鞄を離さずに乗り切ってみせる。
「もうすぐ時間だぞー! クラス毎に分かれる必要は無いから適当に集まれー」
壇上の上で大声を出しているのは、1年生主任のラガルハ=ムルハ先生だ。黒髪短髪で目が細く名前と合ってないアジア人という見た目で、学校が休みの日にはギルドの仕事をしているという現役冒険者だ。
身体はそれほど筋肉質では無いが、とてつもない体力の持ち主らしく、森を何日間探索できると聞いた事がある。授業は植物学を教えているが、それ以外の知識も豊富らしい。
他の教科の先生も全員集まっていて、生徒に集まる様に指示を出している。
「よーし、時間だ! では1年生の諸君! 今日から3日間、実習授業を行う。今日は学校から始めるが、明日以降は実習先によって開始場所も時間も昼食時間も異なる。冒険者になったら当たり前なので臨機応変に対応していくように! 内容についてはクーファン先生に説明してもらおう」
壇上の先生がクーファン=ヨジュンに入れ替わる。50代後半らしい地形学の先生も現役冒険者らしく。年に2、3回は地形調査で旅に出たりするらしい。パワフルおばぁちゃんだ。
「1チーム4人か5人に分けて13チームを作り、そして大体2チームづつで7箇所の実習先に行ってもらう。チーム分け実習先については現状の成績と実力を考慮したうえで、すでに決められている。まずはギルドにて施設の説明やクエスト受付の体験などをした後チームに分かれる」
だんだんと生徒が騒ぎだす。クエスト受注を実際にできる楽しみと、先生方によって分けれれたチームへの不安だろう。
俺もできれば、シェンユかユウと同じチームを願う。
「今から呼ぶ生徒は俺と一緒に校門までくるように! ラナサ! フォアタム!
「私が呼ぶ生徒は中央校舎裏に移動するように! ゼルトワ! イーゼァ!」
「こっちは屋内訓練場の裏に移動だ! トルネア! チジウ! ヨムハ!」
なんだろう? チーム分けはギルドに着いた後じゃなかったのか? 移動するにもチーム分けが必要って事なのだろうか? 何の為だ?
「おーい。タツキそこにいたか」
「タツキ、なんかサイネ先生が来てるよ」
サイネ=ホムーレン先生は生物学の先生で元はギルドの解体師だったらしく、汚れ仕事を何とも思わないせいか、何かと雑用を押し付けられている印象だ。
「サイネ先生と…… えっと?」
「アンタ、同じクラスなのに私の名前知らないの?」
「すみません」
「ダリアよ」
「タツキなぁ。こんな美人さんの名前と顔は普通1発で覚えるぞ? シェンユはジウォン先生に呼ばれるはずだから、中央校舎裏に移動してたほうが良いぞ」
「そうなんだ。残念タツキと同じチームになれるといいけどなぁ。それじゃ、またギルドでね~」
シェンユはブンブンと手を振りながら歩いて行くのを見送って、視線を戻すと不機嫌そうな美人さんが腕を組んでため息をついていた。
ダリア氏は艶やかな肩まである黒髪と目の大きな童顔が可愛らしいのだが、いつも真っ赤な口紅をしてるのが印象的で、スタイルは良く、子供っぽくも大人っぽくも見えるクラスメイトだ。
ユウとは遠い親戚になるらしくキツイ言葉を使うが根は優しいと言ってたっけ。
「タツキ、ダリア、すまないが今回は屋内訓練場の裏に移動してくれ」
「なぜですか?」
「支店ではなく、ギルド本部に行く事になっている」
「予想はしていましたけど、やはりそうですか。理由は実力によるものですか?」「いや、貴族の位によるものだ。ダリアの実力は分かっている。けっしてタツキと同じレベルでは無い。次回は調整する予定だから。今回はおとなしく頼んだぞ」
なんだ? なんだ? 先生が申し訳なさそうにしているが、なんでだ? ダリア氏は何故か知ってる様子だけど。俺は、まったく分からないぞ。
「そうですか。血筋の問題ならしかたありません」
「そうか。素直に従ってくれると助かるよ。この手の話は揉める奴がおおくてね。それじゃ、あと1人声かけなきゃならんから、ちゃんと移動してくれよ」
不機嫌美人さんはサイネ先生が立ち去って行く背中を腕を組みながら、しばらく睨んでいた。口では納得したような言い方をしていたが、本当はつっかかっているのだろう。
何か声をかけてあげたいのだが、そもそも話の内容を理解できていないので、なぜ不機嫌なのか理由が分からない。
「えっと、あの…… ダ、ダリアさん? とりあえず、自分は移動しますね」
「そうね。遅れるのは嫌だわ。行きましょう」
ん? 一緒に行くのね。
腕を組んだまま歩くダリア氏の後ろを3歩ほど遅れてついていく。この子ってもしかしてデフォルトで不機嫌な方なのでしょうか? 同じチームは嫌だなぁ~。
「サトウさんは、何とも思わないんですか?」
「えっ! はいっ? なんですって?」
初めて苗字で呼ばれて、ビックリした。
「今のこの対応を、気に食わないとは思わないのですか?」
「あぁ~。何も思わないというか。何の話だったのか分かってないです」
「ウソでしょ」
当然立ち止まって、振り返ったダリアは驚愕の顔で目を見開いていた。
「私達は貴族区画にあるギルドの支店には行けずに、本部に行くんですよ? 人数合わせの為に!」
「し、しかたないんじゃないのでしょうか? 1年生全員で実習って、大変そうじゃないですか。先生達にも都合があるのではないでしょうか?」
「それは、分かってますよ! 私達とあと1人と、3人以外は貴族として、ちゃんと貴族区画にあるギルドへ行くのに。貴族じゃない優クラスの人数合わせの為に私達が本部に行かされるって事は、貴族として格下に見られているという事ですよ!」
なるほど、彼女が不機嫌なのは、そこなのか。俺は全く気にならない、というか俺が貴族設定だったの忘れてたよ。
この世界において血筋や家柄ってのは結構大切な事なのかな? もしかしたら俺も一応貴族という設定があるし、少しは意識したほうが良いのかもしれないが、そんな事よりももっと大切にしたい事がたくさんある。
「かまわないよ。俺は自分についてるレッテルだけで評価されるより、自分が大事と思う事を貫いて評価してもらいたいと思うから」
わざわざ、人数合わせをするって事は、俺とダリア氏は同じチームなんだろうなぁ~。3日間、上手くやっていけるか不安だ。




