第37話 こちらこそ、よろしく
「お弁当っ。お弁当っ。美味しい、お弁当~。タツキ、ご飯食べよう」
「毎日同じ弁当で、よくそんなにテンション上げられるな」
「だって、センギョクさんが作る弁当、美味しいじゃん」
そうなのだ。実は毎日、弁当を持たせてもらっている。俺達だけでは無く、我儘亭の寮生はセンギョク弁当が食べられる。学食よりも美味しいらしいので、とってもありがたいのだが、ほとんど毎日同じようなメニューなので飽きる。
「今日は雨だね~。いつもバルコニーで食べてるけど、教室でいいよね?」
「なぁシェンユ、食堂に行ってみないか?」
「なんで? 弁当あるじゃん。もしかしてセンギョクさんの弁当食べないの? なんて酷い」
「違うわい! 弁当持って食堂で食べようって話だよ。クラスの他の人達はほとんど食堂に行くじゃん」
いつも1年校舎に残っているのは俺とシェンユと、俺が勝手に4ギャルと呼んでいる女子生徒4人だけ。他の生徒は基本的に隣の中央校舎に移動して、1階と2階にある食堂で食べているみたいだ。
「オイラ、貴族専用の食堂、あんまり好きじゃないんだよね~」
「2階にある方か。行った事ないから分かんないけど、貴族専用でも俺達って入れるだろ?」
「入れるけどさぁ~。オイラは貴族達の権力とかプライドの為に利用されたりするのは、嫌なんだよ。なので、関わりたくないんだ。行くなら1階の方にしよう」
「お前を利用しようとする奴なんて、いなさそうだけどな。それじゃ1階の方に行こうぜ」
シェンユは嫌そうな顔をしながらも、弁当を抱えて歩き出した。なんだろう? 過去に貴族に関わって、すっごい困った事とかになったのかな?
シェンユの希望で校舎間の2階を繋ぐ渡り廊下は使わずに、1階に降りてから外を歩いて中央校舎に行く事にした。今日は強い雨では無いので渡り廊下の下を通れば濡れないので問題ないのだが、そんなに関わりたくないのか? クラスの半分以上が貴族だけど、こいつ大丈夫だろうか?
「そういえば、タツキも今日は気分が良さそうに見えるね。食堂に行こうなんて、どうしたの? 雨の日は他にもあったのに」
「ちょっとね、最近、友達が2人ほどできたんだよ」
「あぁ~。土の日の朝に喋ってた2人ね。ユウとはオイラも仲良くなったよ」
「そう、あの2人。それで、もう少し自分から他人に関わる様にしたいと思ってな。そしたら他にも仲良くしてくれる人が増えるだろう?」
「ふーん。タツキは友達をたくさん作りたいんだね。でもオイラが1番だよね?」「ん? 1番?」
「そうだよ! オイラが助けたし、最初に友達になったじゃん! いつも一緒にご飯たべてるし、同じ所に住んでるし、なんなら一緒にお風呂も入ろうか?」
「へいへい。お前が1番だよ!」
中央校舎に入ると泥落としの敷物やブラシが置かれてる空間があって、右に行くと階段、左に行くと廊下が見える。この学校は基本的に土足なので靴箱は無い。
廊下を進んで右に曲がると、右側に二段下がった広い空間が現れた。10人座れる長いテーブルが2つ繋がっているのが、10列見れるので、おそらく200人ぐらいは入れるようだが、使われている椅子は半分程度だ。1番奥にはカウンターがあり学食を注文できるみたいだ。奥には厨房もあるだろう。
「ここが食堂か。かなり広いけど、使われてるのは半分ぐらいなんだな」
「確か~、学校は街が緊急時には避難場所になってるから、多くの人が入れるようになってるって聞いた事あるよ。総生徒数は130人ぐらいだったと思うけど、ここと2階にも貴族用の食堂があるし、3階にも先生達の休憩室とかあったと思う」
なるほど。ユウツオの街って凄いよな。どおりで領主様の人気が高いわけだ。
「それでタツキ、どこに座る? 友達作りたいなら、誰かの隣とかに座る?」
「いや、今日は雰囲気を見たいだけだから、空いてる所で食べよう」
廊下側に3人グループ、窓側に1人しかいないテーブルを見つけて、中央ぐらいの所でシェンユと向かい合って食べる事にした。
「ねぇねぇタツキ~。今日って樹の日でしょ? 何かやるの?」
「何かって?」
「ユウと話してたの聞いたよ~。良クラスの人と3人で遊ぶの? いいなぁ~。なんでオイラは誘ってくれないのさ!」
「だって、お前、学校終わったら仕事に行くじゃないか。時間無いだろ」
「そうだけど~。そこは1番の友達として、声ぐらいはかけない? オイラが仕事行くって分かってても、声ぐらいね? もしかしたら仕事休みにするかもよ? それにさぁ~」
まともに会話すると食べる時間が無くなるので、シェンユの声を流しつつ、中華まんを食べながら、食堂を見回してみる。
ガヤガヤと騒がしく、大声や、笑い声が聞こえ、楽しそうに食事をしてる生徒が多く、グループができてる所は声をかけにくそうだ。声をかけるなら1人で食事してる生徒かなぁ~。もちろん男性で。そういえば……
左方向を見ると、1人で食事してる男性がいた。ちょっと他の生徒達よりも年齢が上に見えるその人は、右手で中華まんを掴み、左手で本を読みながら、かなり集中して食べているようだ。
「おい! てめぇ! この間の奴じゃねーか!」
背後から怒鳴り声が聞こえたので振り返ってみると、廊下にガタイの良い男が怒気を纏わせつつ指をさして立っていた。
袖が無く、胸下までしかない短ランのような改造民族衣装から、太い二の腕と素晴らしい腹筋を披露している。ズボンは大きく広がりボンタンにしか見えず、ソフトリーゼントと相まって番長みたい奴が睨んでいた。
この間の奴って、あんな知り合いいないんですけど……
もちろん後ろにいるオールバックで同じ格好の奴も知らない。
俺の頭の中にある、この1月半で出会った人を検索してると、番長がこっちに向かって歩いてきた。
「タツキの友達?」
「どう見ても違うだろ! 顔見知りだとしても、友達なわけ無いだろ!」
正面にいるシェンユのアホな質問に答えていると、番長は俺の後ろを通り過ぎてソロ読書さんの前で止まった。
「てめぇ! 聞いてるのか!」
番長の怒号と同時に払われた腕が、ソロ読書さん本を吹き飛ばし、空いていた窓から雨の降る外へ消えていった。
「何をするんですか! あなた誰なんです?」
「おい薬屋! 金を返しやがれっ」
「何を言ってるっ! うっ。くるし」
番長はソロ読書さんの胸ぐらを掴み、左腕1っ本で軽々と持ち上げると、右腕を振りかぶって鉄球のような拳を握りしめた。
「その頭をどついて思い出させてやろう」
「やめろっ。その人を降ろせ」
俺は無意識のうちに立ち上がって駆け寄り、番長の右腕を捕まえていた。
「お前は誰だ?」
少し振り返った番長の鋭い視線は恐ろしく、近づいて再認識したが、高さも横幅も俺よりひとまわり大きい。喧嘩になったらボロボロにされる未来が簡単に想像できたので、冷静に落ち着いて話かける事にした。
熱くなっては、いけない。
「話し合おう。まずは、その人を降ろしてあげてくれ」
「ふんっ」
ソロ読書さんは地面に叩きつけられた。腰を強打したみたいで、うずくまって両手で抑えている。すぐに視線を番長に突き刺すと、振り向いた番長が仁王立ちしていた。
「放したぞ。で、お前は何だ?」
俺の中に何かが溢れ身体が熱くなる。突然マグマを流し込まれたような感覚になり、沸々と熱が湯気のように広がって体内に充満していく。
「邪魔するなら、どけっ!」
番長の拳が俺の腹に突き刺さった。その丸太のような腕に鉄球のような拳がついたボディブローは重く、衝撃がゆっくりと腹から突き抜ける鈍痛だったが、以外にも俺の腹筋は耐える事ができた。
毎日、本物の鉄の拳で鍛えた成果がちゃんと現れた。ありがとうノア様。
「んぅ?」
驚いたか! ノア様製の腹筋は伊達じゃない! ありがとうノア様。
「そこー! 何をしてるの! 動くなよ!」
背後から大きな声が聞こえたが、俺は視線を外さなかった。顔面パンチは避けないといけないし、コイツはいきなり何するか分からない。
番長と、しばらく睨み合っていたが肩を掴まれたので、振り返ってみると、そこにはジンリー先輩ともう一人知らない人が立っていた。
「またゴリアムが騒いでると思ったら、相手してるのタツキじゃないか! おい、てめぇ! 私の可愛い後輩をイジメるんじゃねーぞ! 2年生として恥ずかしくないのか!」
「うるせぇ。何でもねーよ! タツキ覚えたからな」
見た目と名前が納得過ぎるゴリアム先輩は、ぶつぶつ言いながら去っていた。
「さすが生徒会副長タイランさんと副会長ジンリーさん」
「ゴリアム先輩ですら、あの2人には敵わない」
「ジンリー先輩かっこいい」
「あの1年、ゴリアムのパンチもらっても倒れなかったな」
周りから、声が聞こえてきた。生徒会なんてものがあったんだ。というかジンリー先輩って酒飲みのだらしないイメージしかないんだけど、学校じゃ凄い人じゃないか!
「助かりました先輩。ありがとうございます」
「もの凄い魔力を感知したからビックリしたぞ。タツキ、お前って寮じゃ魅力を感じないが、スゲー魔力を秘めているんだな」
「ホントだよー! タツキどうしたの? あんな事ができるなんてオイラ知らなかったよ」
さて? 自分でもどうやった分からないし、魔力が高まっていたのも分からない。
「タイラン。こいつ寮で一緒だから、私が話をしておくよ。見回り行ってきていいぜ」
「そうか。なら任せた。俺は2階を見回ってくるよ。ゴリアムに殴られた生徒は後から不調を出すかもしれないし、午後の授業は休ませたほうが良いだろう」
「タツキは大丈夫か? ゴリアムは力だけなら総生徒中1番だからな。無理はしないで、今日は帰ったほうがよいぞ?」
「あっ。じゃぁ、そうします」
「それじゃ、ジンリーさん。オイラが状況を説明するよ! タツキはかっこよかったよ」
「おっ! また新しいタツキの武勇伝が聞けるのか!」
武勇伝ってほどじゃないだろ! まぁ午後の魔闘気の授業をサボれるから、さっさと帰って寮で他の勉強をしようかな。
あっ。あの人は大丈夫か? 振り返って見るとソロ読書さんは、まだ腰をさすっていたが自力で立ち上がっていた。
「あの大丈夫ですか?」
「なんとか、大丈夫。止めてくれてありがとうタツキ君。お腹は大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。俺の名前知ってたの?」
「あぁ。ちょっと勝手な親近感があって。自分はカハク=ヤオラン、没クラス1年生の26歳なんだ。クラス分けで凄い成績を出した30歳がいるって知って、ちょっと興味があったんだよ」
なんと! 俺の4つ下じゃないか。現状では一番歳が近い生徒だぞ。
「そうなんだ。これからヨロシク」
「こちらこそ、よろしく」




