第35話 タツキのライフは、とっくにゼロよ!
「それで、その2人と仲良くなる為に、カードを買うお金が欲しいと」
「そうなんだ。頼む! ノア様」
「先週の日曜日は、部屋で1日中勉強してたっていうのに、今週は突然、カードが欲しいって、マスターは小学生ですか?」
「日曜日って言うなよ。慣れないといけないんだから、雷の日と言えよぉ」
うーん。どうやらノアはこの重大さを分かっていないようだ。友達が出来そうなんだぞ! あいつらは貴重な遊び時間を潰して、3時間も俺にエクシィのルール説明と面白さを教えてくれた。このカードゲームにどっぷりハマるつもりはないが、とりあえず、話が出来る程度には触っておきたい。
なので俺は、今週の休みにカードを手に入れるべく、こうして朝から部屋で大蔵大臣に土下座をしているのである。
こんな事になるなら、領主様から貰えるお金を全部ノアに管理させるんじゃなかった。ターンシステムでノアの格納庫に保管できるし、頭の中に電卓が内臓されてるし、各店舗の相場も記録されてるしと、言いくるめられたが、本当の所は俺の浪費癖を警戒しているんだろうな。
結果として凄い借金をする事になったが、絶対に浪費癖なんて無いぞ!
「あっ! そういえば!」
「なんですか?」
「聞いてくれノア。実はこのエクスィというカードゲームは大魔女サヤ様が作ったらしい。何か繋がるものが見つけれれるかもしれないぞ?」
「知ってますよ。それぐらいの情報収集はしてますから」
知っていたか。やはり、この程度では食いつかないか。
ちょっと、起源をたどれば大魔女サヤ様の話は至るところから出てくる。ギルドを作ったのもサヤ様だし、魔獣の倒し方、龍人への対応方法など、いろいろな書物を残していたり。当然ながら、獣人の奴隷紋や魔闘気などの魔力に関するものは全てサヤ様が生み出している。
調べれば、いくらでも出てくる有名な名前だが、肝心な事は何も出てこない。いろんな逸話も残っていて、300年程前に死んだとされている。
俺とノアは現状ではサヤ様探しは難しいと判断して、とりあえず俺が冒険者ライセンスが取れる2年の間は、簡単な情報収集をするだけに留める事にした。
「ちなみにエクスィという名前は、ここの世界の人が勝手につけたもので、サヤ様はアーカディア・エデンという名称を使っていたハズです」
「そうなのか。ん? って事は。ノアはこの世界にくる前から知っていたって事なのか?」
「そうですね。なんなら、私の格納庫にデッキが8つほどあります。中のカードは、おそらくこの世界では貴重なカードでしょうね」
「なんだって!」
それがあれば、ユウ&ジョノと仲良くなれるぞ! 希少価値の高いレアカードを持ってるだけで絶対に食いついてる。それがカードゲーマーのはずだ。
「ですが、おそらく使えませんよ」
「えっ? なんで?」
「全て、日本語で書かれているからです」
なるほど。俺ら以外は読めないな。
「そもそも、なんでダメなんだ? あのお金は必要なら使ってもいい約束だろ?」「ダメとは言ってませんが。必要ですか? 30歳のオッサンが16歳の友達を作るのに物を使ってなんて」
「うっ」
「しかも、領主様から貰ってるお金ですよね? 貰ってるとはいえ、あれは後で返すんですよ? つまり借金ですよ?」
「うっ」
「シェンユさんなんて、まさに今、下の店で働いているのですよ?」
「うぅ」
「私も借金返済に向けて、マスターが学校に行っている平日の間は働いているのですよ?」
なんか、すみません。快適スタートになってる事に、甘えてました。2年後に莫大な借金返済が待っているのですよね。今からバイトでもします。
「タツキのライフは、とっくにゼロよ!」
「はい?」
「ちょっと、ふざけてみました」
まったく、たまにこういう事するから、コイツは可愛くて困る。しかもカードの話をしてるのに、今それを言うのか。
「ですが、まぁ、考えてあげなくも無いですよ?」
「お? それは本当ですかノア様!」
「この世界でマスターに望む事は2つ、GMからのクエストをちゃんとやってもらう事。楽しく世界を冒険してもらう事です。ですので友達作りにカードで釣るのは何とも言えませんが、エクスィとやらを楽しむのであれば、考えましょう」
「えっ? カード推し? もしかして隠れデュエリストなの?」
「そうですね。ルールも把握していますし、デッキも持っていますし、隠れデュエリストなのかもしれませんね。それはいいとして、私はマスターに、この世界の遊びを楽しんでもらいたいだけです」
こいつ隠れデュエリストだったのか。
待てよ。そもそも、このカードゲーム、サヤ様が作っただと? あの人も隠れデュエリストなのか? ノアがデッキ持ってるって事は、作られたのは、神の住まう場所でか? 神も隠れデュエリストなのか?
あの神は、なんか、とことん神っぽくないな。
「それでは始めますよ! いつまでもベッドの上で正座してないで、そこの椅子に座って下さい」
「おう」
何が始まるのか知らないが、言われた通りにした。
すると、目の前にノアが仁王立ちをしてきた。ちょうど位置的に目の前にに胸があるんですけど。これ何を始めるの?
「JKの胸をガン見しないで下さい」
「ノアが椅子に座れって言ったんだろ! 前に立つなよ。近いし!」
「作戦通りですね!」
「なんの作戦だよ!」
「部屋の他の物を見ないようにする目隠しです」
「なら、普通に目を閉じるよ!」
「そうですね。でもちょっと開けてたりしないとも限らないので、私はこのままここに立ってますから」
まったく何がしたいんだよ。そこにJKの胸があるってだけで集中出来ないじゃないか!
「それでは、今、マスターが通ってる冒険者育成学校の科目、8科目の概要を全て答えられたら、デートしてあげましょう!」
「はい? デート?」
「不満ですか?」
「不満というか、カードを買うお金をくれる話は?」
「デートでカード屋に行くんですよ。ちゃんと買ってあげますから」
それ。デートの彼女役じゃなくて、おかん役だよね?
「まずは、ギルド学とは?」
「えっと、主にギルドのシステムを学びます。冒険者ランクとか依頼書の受け方とか。けどギルドの精神について学ぶことが多くて、ギルドの成り立ちや歴史、冒険者とは何か? を勉強しています。特に1年生は」
「ふむ。良いんじゃないですか。じゃぁ~亜人学は?」
「それは、もう、獣人についての勉強ですよ。5大亜人である、獣人、龍人、蟲人、魔人、怪人について勉強するワケだけど、龍人は謎が多く分かってる事が少ない。蟲人はそもそも存在するのか分かってない幻。魔人と怪人も情報が少なく、敵対した場合にどう対処するか? ぐらいしか教えてもらえないので、ほとんど獣人の授業です!」
「うーん。なんかマスターの都合が入ってるような気がしますが、良しとしましょう。次は生物学と植物学と~、あと~地形学です」
こいつ、全部の内容を把握してるな? なんなら教科書を全部まる暗記とかしてそうだ。暗記というかスキャンか?
「世界的に広く分布してる植物、広く生息してる生物、よくある地形を主に学んで、危険度が高い、または希少価値が高い、重要視してるものをポイントで教えてくれます」
「ですね! あとは――」
「英雄学は週に1度、現役の冒険者がきて体験談を聞く授業で、強化訓練学は筋トレと体力トレーニング。魔闘気訓練学は魔闘気について学ぶけど、俺にはさっぱり分からない。これでいいか?」
「ちゃんと勉強してるんですね~。若くないし、頭に入らない~! とか、ついていけない~! ってなってるのかと思ってました」
そりゃ、昔の学生だった時みたいにはいかないけど。毎日必死に勉強してますからね! 2年で卒業して就職ができなかったら、借金が返せなくなるし……。
「苦労してはいるけどさ、結構楽しいんだぜ?」
「楽しい?」
「あぁ。やっぱ異世界だからな。教科書はゲームの攻略本みたいだ。この世界の設定やシステムを覚えるのは、なかなか面白いから、なんとかついていけてるよ」
「なるほど。そうでしたか」
目をあけると、ノアは壁にもたれかかって腕組をしていた。ゲームとかのクールキャラかよ。ちょっとカッコいい。
「そういや1つだけ、どうしようもない科目があるんだが、魔闘気って、どうしたらいいの? 俺だけ何も出来ないんですけど?」
「うーん。いろんな情報収集はしていますが、魔闘気については感覚的なのが多くて、説明しようがないです。いちおうサヤ様が開発したらしいので、ちゃんとした理論があると思いますが、まだその情報は得られていないです」
「そっかぁ。俺だけ出来ないから、この世界の人、特有のスキルなのかと思ってるんだけど」
「入学前にも言いましたが、とりあえず、学校で学べる事は学校で学びましょう。私が集めた情報はありますが、いろんな所から断片的なものを集めて私なりの解析と統合を行っているので、ちゃんとした教育機関で情報を得られるなら、いったんそれを頭に入れていた方が良いです」
「おう。分かってる。ちょっと魔闘気に関しては、さっぱりだったから」
「そうですか。もし半年しても何もできない場合は何か対策を考えましょうか。それじゃ、気分を変えにいきましょう!」
ノアは俺の手を握って、笑顔を見せる。
「ちょっ。いきなりすぎ! オッサンには刺激が強いから!」
「マスターの憂鬱感を吹き飛ばしてあげますよ! さぁデートに行きましょう。もちろん行き先はカード屋ですよ!」
ノアにひっぱられ、英雄広場から真っすぐ貴族区画に向かい、途中で北向きに曲がって、商業区画に入る。そこは、まさに市場で乱雑にいろんな店や露店があり、商人が売ったり買ったりと大声で話してる。
ノアによるとカード専門店というのは、存在しないようで、帝都で仕入れた物を出してる店を探さないといけないらしい。ユウツオではカードゲームは人気無いのだろうか? そういえば、頻繁には見た事ない。
そして、俺はオカンに初心者用のデッキを買ってもらった。
オカンは自分が持ってるデッキの異世界語版をシングル買いをして、なかなかの金額を使っていた。こいつ、やはり隠れデュエリストだ。




