第34話 そう! 俺はボッチだ!
「よーし、皆、今日の目標は達成できたか? 身体は毎日鍛えないと強くならないからな!」
「リー先生~。タツキがまだ終わって無いみたいです」
「何っ! またか! どうしたタツキ~! 試験記録保持者だろ。もっと本気になるんだ! お前なら出来る! もっとやれる!」
出来ません! すみません。俺は不正入学者です! と言いたい。
「はぁ。はぁ。あと2週なんで、大丈夫です~」
「そうか! よし。最後まで諦めずにやり遂げるんだ!」
「先生、俺等は先週と同じで?」
「うむ。そうだな。諸君! 時間だ! 今日の授業はこれで終わりとする。クラスの教室に荷物を取ったら、各自帰っていいぞ! 明日は雷の日だぞ~。休みだ! 身体を休めるのも鍛錬の内だからな。自主訓練をするとしても、ほどほどにするように! では解散!」
俺を残して、クラスの皆が帰っていく。
週に3回、1日の最後にあるこの授業は強化訓練学という名前で、中身は体力強化レーニングとなっており、グランドを何周も持久走したり、全力疾走200メートルをしたり、グループを組んで追われたり追いかけたりの鬼ごっこをしたり、2時間の間ほとんど走っている。
「おーい。タツキ。大丈夫?」
シェンユが声かけてくれるが、いつもの事だ。
「オイラ、ギルドの仕事があるから先に帰るね。がんばって!」
「おう。はぁ。はぁ。晩飯に遅れるなよ」
入学してから知ったのだが、シェンユは既に冒険者ライセンスを持っていた。毎日学校が終わった後に、森で簡単なギルドの依頼をやっていて、帰りにギルドに寄って依頼の報告をしながら次の日の依頼を貰ってくる。たまにフォルストに絡まれて遅く帰ってきてミンメイ氏に怒られてたりする。
実は冒険者ライセンスを持っている生徒は何人かいた。どうやら、ちゃんとした身分証明が出来て書類が通れば、誰でも10歳から冒険者ライセンスを取る事ができるらしい。
じゃぁ何故に冒険者育成学校なんて物があるんだ? と、もちろん疑問に思った。調べてみたら以外と小さい事で、言ってしまえば貴族や権力者の為に存在するような物だった。
冒険者は必ずFランクからスタートする。そしてFランクのライセンスってのは会員証のレベルで、冒険者としてギルドの依頼を受けれるがFランクの人だけでは受ける事ができない。必ずDランク以上の同伴者がいないといけない。
しかしDランク冒険者は足手まといのFランク冒険者と一緒に依頼をするのは大変らしく、また2人だとFランクの依頼しか受けれない。さらにFランクの依頼なんてのは、それほど多くない。
ではどうするのか。それはDランク冒険者が3人以上いるパーティーに入れてもらい雑用をしながら、Dランクの依頼を一緒に経験するのだ。そうする事でEランクに上がる事ができるらしい。
シェンユは12歳で冒険者ライセンスを取って、フォルストとパメラのパーティーにいれてもらい3年でEランクになったそうだ。
そこで問題になるのが、貴族や権力者などのプライドが高い人達が、冒険者パーティーの雑用ができるのか? という事である。結論は出来ない。
なので実務経験を積まずに一人前の冒険者であるDランク冒険者になれる措置として基礎知識と安全に実技を学べる冒険者育成学校が必要となったワケだ。
他にも、Fランク冒険者が良い先輩に巡り合えずに雑用係で一生を終えるなどの問題や、EランクそしてDランクに上がれても基礎ができて無かったり、後輩に指導できる程の実力を持って無かったりと問題がある為、ギルドとしては冒険者育成学校を卒業する事を推奨している。
ちなみに、何故か冒険者ランクに英字スペルが使われているのは、大魔女サヤ様が基礎的な仕組みを作ったからだそうだ。サヤ様は小説とかアニメが好きな方だったのだろうか?
「よーし。それで終わりだなタツキ」
「はぁ。疲れました」
「辛くても、頑張ればいずれ成長する。若くなくても必ず成長はするからな! じゃぁ先生は職員室に戻るから、お前も遅くならない内に帰れよ! 知ってるぞ、いつもギリギリまで残って自習しているの。ほどほどにな!」
本当は、ここで疲れた身体を休めたいが、3時間後に学校が閉まってしまうので身体を休めつつも、ゆっくりと自分の教室に向かう。
ビン=リー先生は、この強化訓練学の担当で、親切で色黒でムキムキで暑苦しいが、とても良い先生だ。32歳なので、俺としては同級生達よりも話がしやすい。生徒の事もよく見ていて、気にかけてくれる。
ほどほどにと言われたが、今日も自習をやるつもりだ。いつもは教室で復習をしているのだが、今日は体力作りの為に階段の上り下りをやろうと思っている。
というのは建前で、本当は友達作りをしているのだ。
そう! 俺はボッチだ!
入学してから2週間、それなりに声をかけてみたが、話が合わないし続かない。そもそも1月前に違う世界から来た俺が、この世界の学生の、それも若者の話題についていけるはずが無く、毎日シェンユと話すだけ。
学校のクラスでグループができるのは、どこも一緒のようで、俺はどこの輪にも馴染む事ができず、絶賛ボッチ中である。
教室に着いたが、入り口で立ち止まって、こっそりと中を見てみる。
誰もいなかった。
基本的に、苦学生は学校の後は仕事をするので急いで帰る。金に困っていない貴族達も屋敷に帰っていく。屋敷のほうが使用人とかたくさんいるからな。きっと過ごしやすいんだろう。
鞄からタオルを引っ張って、汗をぬぐう。そして無駄な時間になるかもしれない覚悟して階段に向かう。1年校舎は4階建てで1階は物置で授業で使う色々な物が保管されている。2階が優クラスの教室で、3階が良クラス、4階が没クラスとなっている。
階段が北と南の2つがあり、基本的には北は没クラス用で、普通の利用法以外にもよく上り下りをさせられている。南は優クラスと良クラス用で普通の使い方しかされない。
本当は、放課後に話を出来る友達が欲しかったが、皆帰ってしまうので、自主トレーニングをする事にした。きっと俺みたいな残って頑張る人が、良クラスや没クラスにはいるハズだ!
まずは4階へと階段ダッシュ! からのジョギング程度のスピードで没クラスの廊下を通りすぎる。4、5人の生徒が何かしているのが見えた。やはり自習いているのは俺だけじゃなかった。没クラスは頑張らないといけない人が多いだろう。
2階まで下りてから一息ついてから、3階へと階段ダッシュ! 良クラスの教室には向かい合う2人がいた。ちょっと、見覚えのある光景だったので、止まって見てしまった。
机を挟んで向かい合い、手にはカードが数枚握られている。机の上にも並べられており、20枚ぐらい重ねた山札のようなものも見える。
「もしかして、TCGなのか?」
そういえば前に一度、センギョク氏とハオラン氏がやってるのを見かけたな。
「何か用か?」
おっと、声を掛けられたしまった。むしろ好都合だが、さて、なんて答えるか。
「えっと、その、遊んでるやつに興味があって、ちょっと見てもいいかな?」
2人で相談しているな。変なオッサンが急に声かけてきたんだ。そりゃ戸惑う。
「何も言わないで、黙ってるならいいぜ」
「ちょっとユウ! やめとけって」
意見が割れたようだが、どうやら見せてくれるようだ。このチャンスを大事にしなければ。すごーくカードに興味がある事をアピールしないといけないな。けど喋るなって言われたんですが、どうしようか。
とりあえず、オーケーを出した方の斜め後ろに立つ。よく見るとこの人同じクラスの人じゃないか! 名前は出てこないが、貴族の方だったと思う。
「それじゃ、続きからいくぞ? 俺の第一戦略が終わりだから、攻撃フェイズにはいるぜ? 2チームで攻撃だ」
「えっ? 2対1やるわけ? 酷くない?」
「俺は、堅実的に攻める派なのだよ。どうする? ジョノの迎撃フェイズだぜ」
「うーん。ちょっと待てよ~」
めっちゃTCGな会話をしている! ルールは分からないが、だいたいの状況はつかめる。小学生だった頃は周りで流行ってたし、プレイしなかったが、かっこいいカードとは友達から貰ったり、ルールを覚えて会話に混ざったりしてたなぁ~。
「特になにもしない。このまま、このチームは除籍させるしかないかな」
「そうか。別に俺はどっちでもいいぜ!」
楽しそうだが、難しそうだ。俺の知ってるTCGとは結構違う。
まず、デッキらしき山札が1人に2つもある。
それから、カードを表向きで管理する場所が左右にあって、左側は適当にならんでいるようにみえる。ちゃんと表が全部見えるカードが一番上しかないし、裏向きのカードも何枚かある。逆に右側はきっちりと並べられていて横向きのカード1枚の上に3枚の縦向きカードで1セットみたいだ。それがあと1セットある。
一番変わっているのが中央のスペースにある裏向きで横向きのカード達。綺麗にならんでいるが、空いてるスペースもある。
TCGと神経衰弱が混じってるように見える盤面だ。
「これで、ダメージを軽減するけど、ジョノはどうする?」
「硬いなぁ~。特に何もできないな」
「それじゃ、俺はさらにエンカウントを発現させる。これによってお互いにの組織力への消費が2倍になる!」
「えぇ? マジかよ~。絶対に防御系の伏せカードと思ったのに~」
なんか知らんけど、横裏向きカードを表にして効果を発動したみたいだ。ちょっと知ってるTCGと似てるけど、あの中央のスペースはそういう使い方か? 見た感じからすると、30枚分のスペースがあるんですけど、罠だらけじゃん!
「俺はダメージ軽減でチームは残ってるから大丈夫だ~け~ど~。ジョノのチームは崩れるだろ? しかもコスト9のエースだろ? 組織力の消費は18だから俺の勝ちじゃね?」
「だぁぁああ。確かに、負けだ」
ライフ制では無いのか。組織力? それがどれか分からないが、無くなったら負けと。なんか面白そう。とりあえず喋れないので拍手だけしておいた。
「本当に黙って見てたな」
「ん?」
「いや、絶対に何か言ってくると思ってたから、ちょっと予想外だった」
「そうだね。俺はヒヤカシの人かと思った」
俺って、皆さんにどういうイメージを持たれているんだろう……
「まっいいや。それで? どうだった? 見たかったんだろ?」
「あ。楽しそうだなぁと思ったよ。ルールとか分からないけど。これは何ていう遊びなんだ?」
「えっ? エクスィを知らないのか?」
「マジかよ。 ユウ、この人、変すぎないか? あんまり関わらない方が」
「いや! ちょっとまて! 俺は、色々あって記憶喪失なんだ。あとちょっと一般常識が抜けているだけなんだ」
「それって本当だったんだ。アンタいろんな噂があるからさ、あまり関わりたくなかったんだよね~」
衝撃の事実! 俺は避けられていたのか!
一体どんな噂が流れているんだ? 気になるぞ。




