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魔女が真龍に仕掛けた我儘戦争(仮です。迷走中です。少し変えるかもです)  作者: 漆本李彩(しつもと りあ)
第二章 冒険者学校は才女だらけ?!
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第31話 1発、殴らせてくれないか?

 なんか、声とか雰囲気で前に会った犬の獣人ロナウだと思ったんだけど……


「お前……」

「あっ。ゴメン違ったか? カムロって名前だっけ?」

「クククククッ。アッハッハッハ」


 やべぇ。めっちゃ笑われた。まったく知らない獣人だったか? 恥ずかしい。


「合ってるよ。俺はロナウだ」

「なんだよ、驚かせるなよ! 間違えたと思ったじゃねーか! 笑いやがって」

「いや、驚くのは俺のほうだぞ。俺等のような獣人の顔を見分けられる人間って、そんなにいないからな。しかも1度しか会ってない奴が覚えてくれたのは初めての事だ。これは笑うしかない」


 覚えるさ。あの日は、俺の中では衝撃の経験だったからな。人生で初めて獣人とケンカをして、しかもその理由が、もの凄い勘違いで恥ずかしい事だった。

 でも、記念すべきヒーロー活動第一回目だったりもする。


「“待て”ってのは、捕まえるからか?」

「いや、少し話があってよ。座るか」

「そうなのか。良かった。俺も会えたら話がしたいと思ってたんだ」


 ロナウは首をかしげながら胡坐で座った。俺は対面できる位置の地面を足でならしてから正座をした。で、頭を下げた。


「なんだよ! 急に!」

「あの時はすまなかった。俺の勘違いで、キツイ御仕置きをもらったろ? 本当にゴメン。悪気は無かったんだよ」

「おいおい! 頭をあげろよ。分かったから、話ができねーじゃねーか」


 俺が頭を上げると、今度はロナウが胡坐のまま頭を下げていた。


「いやいや、どうしてそうなった?」

「待て! 兄さん。とりあえず俺の話を聞いてくれ」

「お、おう。分かったよ」

「そうだな。まずは悪かった。俺も謝りたかった。今、再会して確信がもてた。謝らないといけないってな」

「なんでだよ」

「俺にも非があるからだ。あの日、俺は兄さんをビビらせてやろうと思ってたし、少しぐらい痛い目にあわせてやろうと思ったんだ。本当はやっちゃいけねぇってのは分かっていた。でも、我慢できなかったんだよ。俺達は人間様のいいなりに働いて、行儀よくして、目立たないように食事してんのになぁ! わざわざ裏道にまで入ってきて、嫌味を言ってくる奴に腹が立っちまったんだよ!」


 最後のセリフは少し強い口調になり、顔上げて俺を見ていた。それは怒りでは無く、分かって欲しいという悲痛な叫びに感じた。


「でも兄さんは、そうじゃなかった。本当に俺等獣人の事を分かってなくて、道に迷って、上手いもんがないか探しに来ただけだった。主から説明があったし、1週間ぐらい前に、兄さんの侍女がわざわざ説明に来てた」

「えっ? 初耳なんですけど! ノアが来てたの?」

「あぁ。あの嬢さんも俺等獣人に対して、丁寧な対応をしてくれたぜ。もちろん今度兄さんをケガさせたら許さない! って脅されたけどな」


 ちょっと、何してんですかノアさん! この件は穏便にって言って置いたのに。


「だから、お互いに勘違いして、痛い思いをしたんだ。兄さんが謝る理由は無い。もしあるならば、俺も同じぐらい謝らないといけない。納得してもらえるか?」

「そうか……」

「あんた本当に変わってるな。獣人に対して、そんな態度をとってくれるだけで、俺等は感謝するぜ」


 どうしても普通に接してしまう。奴隷ってのに関わった事がないからな。でも、この世界では奴隷は蔑まれるもの、それが普通なんだ。


「分かった。分かったよ。けど、なんていうか、俺はこういう奴なんだ。変わり者って思ってくれ。なんかあったら相談とかしてくれよ!」

「ありがとよ! なら、頼み事が1つあるなぁ」

「頼み事? いいぜ! 俺にできる事なら」

「1発、殴らせてくれないか?」

「えっ!!」


 なんだよ! やっぱ、怒ってんじゃん!


「おっと、違うな。1発、狙わして欲しいだな」

「狙う?」

「兄さんがカムロとやりあってた時、血が騒いだぜ。カムロは俺等のチームの中では3番目に強いからな。1度でいいから俺とも遊んでくれよ」


 遊んでくれだと? 俺はあの時、犬とじゃれ合ってたんじゃないぞ! 結構マジで命がかかってたと、殺されるんじゃないかと思ってたんだぞ!


「もちろん。ケガはしないようにだ。一応、試験中だからな。それじゃ……」


 ロナウは立ち上がって何か考え始めた。俺はまだ了承していないのに、模擬試合か何かをやるつもりらしい。


「よし! 兄さんがこの方向に逃げて、それを俺が追いかける。それで兄さんが森を抜けるまでに、いいの1発を狙わせてもらう。もちろん避けてもいいし防いでもよい、むしろ反撃してきて欲しいぐらいだな」


 獣人ってもしかして、どっかの巨大な猿になる星の人と親戚か何かかな? 確か君達は奴隷で人間を襲ってはいけないんじゃなかったっけ? 俺は仲良くしたいではあるが、危険なドッグファイトとかは望んでいないんだけどなぁ……


「他の奴等に連絡しないといけないから、合図を出すけど、それが開始の合図だからな。俺が吠えたら走り出していいぜ?」


 そう言うと、大きな声で遠吠えを始めた。他の奴に合図と言っていたが、遠吠えにしか聞こえない。文字にすると「ワオオオウウン」って感じなのだが、アレで内容が伝わるのだろうか?


 おっと、観察してる場合じゃなかった! 早く逃げないと、あのムキムキの腕で1発殴られてしまう。

 俺は、とりあえずロナウが指さした方向に向かって走り出す。


 魔獣役は8人で新入生63人を捕まえるわけだから、ロナウ達は相当体力はあるだろう。なので持久戦だと絶対に勝てない。ならば俺が殴られないで済むには、短時間で森を抜けるしかない。

 急ぎたいのだが、出来るだけ真っすぐ走り抜けたいのだが、不規則に生えた木が邪魔で、さらに岩や蔦が絡まった場所もあって、それらを避けながら、蛇行しながらじゃないと進めない。


 そんなに長い間走ってないのに少し息が苦しくなってきた。やはり障害物が多くて、高低差もある場所を走るのは、街中を走るよりも体力の消費が激しい。


「っていうか、この森って本当に人工かよっ!」


 つい、イラっととして小言を口にした瞬間、足元に伸びていた蔦に気づかずに引っかけてしまい、両手をのばしてアクロバティックダイブをする事になった。

 運動会で張り切って、足をもつれさせて転ぶお父さん達の気持ちがよく分かったような気がした。周囲に誰もいない森で、誰にも見られていなくて良かった。

 目の前に小さな水たまりがあり、せめて泥水で洗顔したくなかった俺は全力で腰と首を捻って、避けると、その視界の端で少しだけ背後を見た。


 そこには空を切る獣の腕があった!


 おそらく、俺が走ってた右後方向から飛び出して、そのままの勢いで右拳を顔面にプレゼントするすもりだったと思われる体勢だ。

 この人、1発狙うって、顔面を狙ってるのかよっ! 危ない奴!


 俺は肩から地面に落ち、勢いそのまま転がりながらも、なんとか体勢を整えて両足の裏を地面につけて立ち上がった。すぐにロナウを探すと3メートル程離れた所に立っていた。

 空中パンチを外して体勢を崩したはずなのに、服装が乱れていないので綺麗に着地した思われる。一方俺は土と草まみれでズボンは泥水を被っていた。

 運動会のお父さんの方がマシである。恥ずかしい。


「さすがだな、アレを避けるなんて」


 いや、避けてない。情けないが転んだだけだ。

 ロナウが接近しているのに、まったく気づかなかった。音もしなかったぞ。


「兄さんが走る音に合わせて、動いて、飛び出すタイミングも喋った時にしたんだけどな。音も気配も消したが気づかれているとはなぁ~。しかも攻撃を避けつつも距離をかせぐとは、カムロを倒しただけあるな」


 恥ずかしい! もう、なんか謝りたい! 両手ダイブしただけなんです!


「なんか、すまん」

「おっと、これは傷つくな。俺の拳を避けておいて謝罪するのか。余裕だな!」

「あっ。いや。違うんだ」

「すぐに走り出さないのは、やはり対峙した方が有利だからか。悪いけど地の利を使わせてもらうぜ兄さん」


 ロナウはゆっくりと後退して茂みの中へと消えていった。


 そうか、足を止めて相手を行動不能にしてから逃げるってのもあるのか。獣人はおそらく聴覚も嗅覚も人間よりも優れているから、こういった森の中で戦う場合は圧倒的にむこうの方が有利なんだろう。

 ちょっと体力も心持たないし、こっちの音もあまり出したくないから歩いて進んだほうが良いかもしれない。さっきみたいに気づかないで枝や石に引っかかる事も防げるだろうし。


 周囲を警戒しながら、ゆっくりと歩く。緊張で汗が溢れて、集中で疲労が蓄積されていく。まさに森で猛獣に追われたら、こういう状況になるのだろう。


 時折少し離れた所、ガサッガサッと茂みが揺れる音がする。間違って音を出してしまったのか? わざとやっているのか? そもそもロナウが出した音なのか、別の小動物や風で発生した音なのかすら分からない。


 背後から襲われると対応できないので、木を背にしながら進み、また別の木を背にして、体を回しながら歩いていく。自分が進むとどうしても音が出るので、木を3本背にして進んだら一旦止まって、耳をすませる。


 試験はどうなっているだろうか? そこそこ時間が経っているので、運がよければ(リョウ)クラスには入れるんじゃないだろうか? それでもシェンユと同じクラスは無理だな。アイツは間違いなく(ユウ)クラスなんだろう。

 こういう時ってアイツならどうすっかな? あの体力バカなら全速力で逃げきれるかもな。次の木を背にしたら少し走ってみるか。


 次の背中守りにしようとしてた木が大きく揺れた。他の木と同じくがっしりとして見えたが、見た目に反して柔らかいようで、竹のようにしなると、そこから人影が飛び出してきた。


「きたか!」


 しかし、人影は予想よりもかなり小さく。見慣れた民族衣装を着て、三つ編みを右肩から垂らした黒髪の女の子が現れた。

 他の新入生が近くにいたのか。


「後ろ! 危ない!」


 俺はすぐに左足を下げて、身体を回転させて右腕に力を込めて振り出した。


 ロナウを目で捉えていない俺の頭の中には、さっきのイメージがあった。スピードを生かし側面から勢いよく飛び掛かって、フック気味のパンチで顔面を狙ってくる姿が。その想定なら俺の右拳は鼻先を捉え致命打にはならずとも、時間をかせぐぐらいにはなっただろう。


 俺の拳は、俺が背にした木にヒットした。そこにロナウの姿は無かった。


 犬の獣人だったからか、木に登ってるイメージは無かった。自然と目線を下げると、そこには四つん這いで体勢を低くして、本当の犬のように機を伺っている獣が足元の少し先にいた。


 さっきのスピード的な攻め方と違って、ゆっくりと忍び寄って、少しづつ距離を詰めてながら、気づかれないように攻めるタイミングを待っていたのだろう。

 そして、そのタイミングは間違いなく今だ。拳が握られている。


 予知能力は貰ってないはずだが、これから強烈なアッパーカットをもらう映像が俺の頭の中に流れた。

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