第30話 今年の試験内容は――
ひそひそ話が聞こえる。何を言ってるのかまでは聞き取れないが、きっと俺の事を話しているだろう。
校長先生が大事なありがたい激励の言葉を話しているってのに、聞かないで小声でお喋りしてるなんて、学生ってのは、まったく。俺も今は学生だが校長先生の話をちゃんと聞いているぞ。なんたって喋る相手がいないからな! ぼっちだぜ!
ノアのおかげで遅刻は免れたが、同じく遅刻ギリギリだった校門付近にいた生徒達に数名にバッチリと見られた。
入学初日は余裕をもって登校してる生徒が多かったみたいで、見られたのは主に2年生の先輩方なのだが、2、3人の同級生にも見られていた。
「――以上だ! 新入生63名の諸君! 立派な冒険者になるように!」
グランドの壇上で挨拶をしていた校長は、髪が無く、目が隠れるほど蓄えた白い眉毛とシワの多い顔が、かなりの年齢を感じさせるのだが、身長はおそらく2メートル半以上はあり、服がパツパツになる大胸筋と三角筋があるのに腰はくびれていて、綺麗な逆三角形をしている。もちろん他の部位も凄い筋肉が服の上からでも判り、ボディビルダーのような身体が、老人の頭部をマッチしていない違和感だらけの姿をしている。
声のボリュームもマイク無しなのに、拡声器付き並みで威圧感がある。さすがは冒険者育成学校の校長先生である。
しかし、この人はいったい何歳なんだ?
「校長先生ありがとうございました。では次にクラス分けをしたいと思います」
入学式の進行役をしている先生はザ・先生という感じで、民族衣装感は拭えないがスーツに近いような服を着ていて、禿げた頭頂と疲れた顔の中年男性だ。
「今年の試験内容は――」
ん? 試験? 聞いてないぞ? そんなのあるのか。もしかして成績次第では入学できないとかあるのか? ちょっとマズイぞ……
「皆さん、後方にある人工の森に入ってもらいます。しばらくしたら8体の魔獣役が捕まえにくるので、逃げて下さい。ケガ等しないように腕や肩を捕まえますので捕まった生徒は、グランドまで戻ってきて下さい」
鬼ごっこみたいなものか。頭を使うような試験じゃなくて助かった。体力テストって感じだろうから、まだ俺にも可能性がある。
「隠れてやり過ごしても良し、動き回って逃げ切るのも良し、森に留まれた時間が長いほど、成績優秀者とします。成績順に『優クラス』20名。『良クラス』21名。『没クラス』22名とします。これは皆さんに合った教育をする為に分けるので、しっかりと卒業できれば全員Dランク冒険者にはなれます。ですがギルドに対して、それなりに評価の基準にはなるでしょう。頑張って下さい」
どうやら不合格で退学とかは無いようだ。ギルドへの評価って、どういう事だろう? 成績優秀者の方がいい依頼を紹介して貰えるとかかな? 分からん。
とりあえず、俺はシェンユと同じクラスになる為、優秀な結果は出さないといけないだろうな。きっとアイツの体力は優秀な部類のハズだから。
「それでは、森へと移動して下さい。全員の移動が確認出来次第、合図をします」
新入生がいっせいに人工の森へと移動し始める。1人で向かう者もいるが、声をかけてグループで向かう者もいる。もちろん俺に声をかけてくる奴はいない。
まとまって行動していれば、誰か1人が捕まっても他の人を逃がして、そいつを成績優秀者にできる。もしくは、みんなで捕まって同じクラスになるつもりか。
「よう。オッサン」
知らない奴が声をかけてきた。声色からして、一緒に行動しようぜって感じでは無いのは判る。すでに4人グループだし。なんの用だ?
「森の中に侍女を待たせているのか?」
1番前の奴が質問すると、後ろの2人がゲラゲラと笑い出した。もう1人は苦笑しているようだ。
なるほど、そういう奴か。
「あまりにも、成績悪いと退学もありうるらしいぜ~」
「えっ! マジか?」
4人は笑いながら森へと移動して行った。つい返答してしまったが、あのセリフは本当なのか? マズイな開始1分以内で捕まるとかは避けたいな。
「嫌~な奴だね。アイツら絶対に貴族だよ」
手で森の方を指しながら、後ろからシェンユが声をかけてきた。とりあえず、森まで一緒に移動する。
嫌な奴イコール貴族の方式からすると、俺も一応貴族なんだけどな。ノアが作った設定なのではあるが。
「大丈夫だよ。アレは嘘だから。この試験は本当にクラス分けだけの為で、退学とか絶対にないよ」
「そうか。そりゃ安心したぜ」
けど、俺にはお前と同じクラスにならないといけない課題が残っているんだよ! いや待てよ。この試験で別々のクラスになるってのもあるな。ずっと一緒ってのも煩わしいからな。そうなると領主は怒るだろうか…… 機嫌を悪くして生活保障の話が無くなったらマズイ!!
「シェンユ。一緒に行動するか? 同じクラスになれるかもしれないぞ?」
「ごめんタツキ。タツキはきっと、オイラについてこれないよ」
「えっ?」
俺が、断られるんかい!
「タツキとは友達だけどさ。オイラは冒険者に本気でなりたいんだ! だから全力で頑張る。成績優秀が欲しいワケではないけど、自分の力を知りたいんだ。領主様やセンギョクさんにも心配かけたくないし」
なんて、いい子! というかシェンユって基本的に良い子なんだよな。自分が恥ずかしくなる。しかし、まぁ、やる気が出たぜ!
「シェンユありがとう! 俺も頑張るわ。上位20名の中に入れるかは分からないけど、本気で挑んでみる。お前は成績1位をとれよ! お前ならとれるぜ!」
「おうよ! じゃぁオイラ森の中央側に行くね。動き回って逃げるつもりだから」「俺は隠れてやり過ごそうかな。東の端側に行くよ」
森の手前で別れて、それぞれの方向に歩き出す。同じクラスになれるかは、俺の頑張りと他の新入生の実力次第ってとこだろう。
途中から森の中に入ってから進む。人工と言っていたが、人の高さまである草が多く結構本格的で、奥の方へと行くとグランドが木々と茂みで見えなくなる。
「ワオオオウウウウウウウ」
犬の遠吠えのような声が複数聞こえた。これが開始の合図なのだろうか? 正確な数と場所は判らないが、最低でも4箇所から聞こえて気がする。
おそらく既に試験は始まっていたって事だろう。ザ・先生は8体と言っていたのは今の遠吠えと関係ある気がする。じゃないと開始の合図としては異様だ。となると魔獣役ってのが遠吠えの主で開始位置をわざわざ知らせてくれた事になる。
俺は急いで更に東側へと移動する。なぜなら遠吠えの1つは結構近くで発生していたからだ。
木が壁のように狭い間隔で4本生えている所を迂回すると、その向こう側の少し離れた所に2人組が立っていた。
「おっと、待てよ」
「最初のカモはおっさんかぁ」
カモ? どういう意味だ? もしかして遠吠えは録音か何かで、魔獣役は人間がやっているのか? まだ開始1分も経ってないぞ! まだ捕まりたくない!
俺はさっき抜けてきた木の壁を使って逃げようかと思い、身体を反転させると、すぐに呼び止められた。
「待てよ! 魔獣役を呼ぶぞ?」
ん? コイツ等は魔獣役じゃないのか?
「この先にいい隠れ場があるぜ。教えてやろうか?」
「ほ、本当か?」
なんだ、いい奴等じゃないか!
「2000ゼン出しな。それで、教えてやるよ」
なんだ。いい奴等じゃないな。
「結構だ。隠れ場所は自分で探すから」
「へへ。おっさん分かってねーなぁ」
「いいから、2000ゼン出しな。魔獣役を呼んじゃうぞ?」
なるほど、喝上げか。まさに学生がやりそうな事だな。俺はそれなりに鍛えているから日本では対象になった事はないけど、この世界だとカモに見えるんだな。
「今なら謝ったら、許してやる。そういう事はするもんじゃないぞ」
「「はぁ?」」
どう見ても俺は格下に見えるらしいな。もしくは自分達に相当自身があるのか。
「おっさん、マジで分かってねーな! まぁいいや。ムカつくから」
「まだ誰も捕まってないんじゃないの? おっさん第1号だ! おめでとう!」
「うわっ! それ笑えるな! そんじゃ」
二人組はそれぞれ左右に顔を向けて大きく叫んだ。
「ここにいるぜぇぇえええ!!」
俺と2人組は睨み合う事になった。2人組は楽しそうにニヤニヤとしていたが、俺は大人な対応をしよう思って、出来ずに内心イライラして真顔になっていた。
しばらくすると、お互いの中間にある茂みがガサガサと音を立て揺れると、四足歩行の獣が現れた。
「自分から居場所を教える人間がいるとはな」
その獣は、そんな事を言うとヤンキーがよくやるしゃがみ座りをして、首のみで一瞬だけ俺の方を確認すると、2人組の方に身体を向けた。
「よぉ。犬っころ。どうせ捕まえた数とかで報酬が変わるんだろ?」
「そこに捕まえやすそうな、おっさんがいるぜ!」
マジかぁ~。魔獣役って獣人がやるのかぁ。
獣人と鬼ごっこだと、おっさんは逃げ切れないな。この2人組は逃げれる自信があるのだろうか? もしかしてシェンユって凄い体力の持ち主だと思っていたけど、普通なのか? 新入生って皆さんあのぐらいの体力があるの?
これは、マズイ! 2000ゼン払っとけばよかったかも……
「確かに後ろの人間はすぐに捕まえられるかもなぁ」
「だろ? 俺らに感謝して、しばらくは追ってこないで欲しいね」
「なら、後回しでいいな。2人捕まえた方が報酬もいいし」
「「「えぇ!?」」」
まさかの2人組と一緒にハモって驚いてしまった。
獣人が腰を上げて2足歩行になったとたん、2人組は全力疾走して森の中へと消えていった。
「お前、頼むから、そこで待っていろよ。すぐに戻ってくるからな」
そう言い残して獣人は2人組を追って森の中へと消えていった。
いやいや、普通は待たないでしょ! だって試験中だよ? 捕まったら成績が悪くなるかもしれないんだよ? アイツもうちょっと言い方なかったのかね?
しかたないので待つ事にした。全力でやるって言ったシェンユには悪いと思ったけど、俺にも譲れない事はあるし、後の為にも大事にしておきたい事だった。それに「頼むから」って言われたら待たないといけない気がした。
好きな曲を鼻歌で2曲ぐらい歌ったところで、茂みから獣人がゆっくりと歩いてきた。たぶん12、3分ぐらいってところだろう。
「おいおい! お前はバカなのか? 普通は待たないだろ!」
「普通はね」
「じゃぁ、なんでそこにいるんだよ」
「知り合いに頼むから待てって言われたら、何かあるのかな? って思うだろ?」
「は?」
「久しぶり。ロナウだろ?」




