第25話 領主様に提案がございます
そういう事か。怪しいところは無いが、逆に無さ過ぎて信用が出来ない。確かに相手の弱い部分とかダメな部分を知っていると、より親近感を得るとは思う。
けど、俺とノアで差がありすぎないか?
心を知る能力といっても、おそらく詳細には分からないだろう。全部を読み取れるなら、俺が他の世界から来たって事も分かるだろうし、そうなったら、もっと大変な事態になっていると思う。
もしそうなら、その能力で得た結果だけで、俺を信用し過ぎではないか? ノアを警戒し過ぎではないだろうか?
「俺とノアとで、扱いにかなりの差を感じるのですが、何故ですか?」
「マスター。ちゃんと話を聞いてなかったんですか? まったくぅ、私の心が何事にも動じない鉄の心だったからですよ。今だけはマスターのヘッポコさが、うらやましいですよ」
鉄の心か。コイツ上手い事言ったな。
「ローゼス君の報告は、かなり信頼している。だが、それだけでは判断できなくてね。自由にして様子を観察してみようとなったのだよ。さきも言ったが、それで尾行をつけて、それぞれの行動を監視していたんだが…… まさか獣人にケンカを仕掛けていくとは驚いたぞ。それも1人で6体を相手に」
監視って、ずっとやってたのか! マズイぞ、アレは知られてはコウに迷惑がかかってしまう。
「ケンカじゃないですよ! アレは俺が間違えたので、お互いに和解しましたし」「大丈夫だ。あの件に関して見ていたが、そこにロンは存在しなかった事にしてある。あの時は尾行が君らにバレては困るのでな。本来なら助けに入らねばならない状況だったと聞くが、すまなかったな。だが今なら色々とやる事が出来るぞ?」
「いえ。大丈夫です。終わった事ですし、俺にも非がありましたから、それに責任者のコウから謝罪も貰いましたので」
「獣人とのトラブルは大きな問題になりやすい。この程度で納めてくれるのは、ワシとしても助かる。街の治安に響くのでな。相手が弱い立場の者であっても自らの過ちは認め、相手を思いやる事が出来る。タツキ君。そういう君を、ワシは信用できる男と判断したのだ」
俺にとっては、恥ずかしい勘違いから、トラブルを起こして相手は上司にお仕置きを受けるという不可解な出来事だったが。あれで領主の信用を得たのであれば、よかったのかもしれん。
「では、私の行動は信頼できるものでは無かったのですね?」
あの日のノアは情報収集の為に、いろいろな所を走り回ってたハズだ。特に誰かとトラブルを起こしているとは聞いてないし、日が落ちる頃にはルーファンと仲良くなってたし、怪しかっただろうか?
「うむ。そうだな。行動というよりも動きだな」
「動き?」
「ひたすら、走っていたと聞いておる。時折足を止めては周囲を見渡し、通行人に話をしたりしてもいたそうだが、6時間ほど全力疾走していたと。何をしていたか教えてもらえるかね?」
「マスターの為に情報収集をしていました。街の地形の把握し、危険な場所は無いか、注意すべき人物が存在するのか。などです」
「この街の情報収集と言われると、攻め込む予定でもあるのかと思ってしまうのだが、全てはタツキ君の為だという事かね?」
「そうです」
領主は髭をさすりながら、何か考えているようだった。街の地形や道を覚えようとする事は普通だと思うのだが、何が引っ掛かっているのだろう?
「ふむ。こうして対面すると何か感じるものがあると思ったのだが、ノア君は何か不気味なものを感じるな」
「俺の責任でもあるのです。ギルドから俺達の出会いは聞いてると思いますが、俺の為にノアは強く鋭くなったのです。なので、多少危険なイメージを感じると思いますが、俺はノアほど信頼できる人を知りません」
そうだ。俺にとってノアは絶対必要な仲間だ。この街で俺は信頼できるから住めるけど、ノアは出て行ってもらう。なんてなったら困る。
「分かってやりたいが、女性で使用人であるのに、トゥーモが見失う程に走っていられるそうだな。6時間も走れる体力。いっさい体の軸がブレない動き。そして心の内側でさえ見通せない……。厳しい特殊な訓練を受けないかぎりは、身に付かない事だと思うのだが、貴族の使用人にそれが身についているなど。簡単に信じるのが難しい」
「そうですか。でも、そういう人も存在しませんか?」
「確かにいる。そういった凄い人物も存在するが、ほとんどが有名である。元ギルドの冒険者であったり、組織を抜けてきた者であったりだ。何よりも今回は、ちょっと事情がややこしくてな。疑わざるをえない」
「シェンユですか?」
「ぬぅっ」
領主が顔をしかめた。やはりシェンユは何にか特別な存在のようだ。
「分かりました。私は信用できない。それで結構です」
「ちょっと待てノア。よくないだろ」
「マスター。仕方ない事です。私の事をよく知っているでしょう? 私はそういう体質なのです」
つまりは、機械なのでしょうがないと言いたいのか。
「領主様に提案がございます」
「うむ。聞いてみよう」
「まず、私にとってサトウ=タツキは絶対です。マスターを裏切る事は絶対にありません。ですので、私を信頼しているマスターを信用して下さい」
「ふーむ」
領主が手を上げると、護衛の2人が隣まで近づいてきた。そして、それぞれの耳元で何かを言っているが、こちらには聞こえいない小声だ。
「よいであろう。タツキ君に絶対の信用をしているワケではないが、それで構わない。だが、ノア君がタツキ君を裏切らない事をどうやって証明できる?」
俺は立ち上がってノアの方へと振り向く。するとノアは4歩ほど後ろに下がって頭を下げた。いったい何をする気だろうか。
「さぁマスター。どうぞ、ご命令下さい。私はマスターのあらゆる期待にお応えしますので、何なりとお申し付けください」
「なっ」
「ですが、よく考えて命令して下さい。私がマスターに絶対服従である事の証明が必要となっています」
なんて奴だ。もしかしたら有効かもしれないが、俺はノアに微妙な命令を出さなければいけない。誰でもできる普通の命令では意味がない。やりたくない。けど絶対服従なので従う。そんな命令だ。
これって、命令する俺って凄く嫌な奴にならないか? 逆に信用を失う可能性があるんじゃないか?
だがしかし。他に上手い方法をすぐには思いつかないし、ノアがやる気になっているから仕方あるまい。さて、命令されて嫌な事ってなんだ? たくさんあるけど、やりすぎない程度なら…… 恥ずかしい事とかか?
「大丈夫ですよマスター。マスターは生粋の変態ですから、思いついた事を命令していただければ、もう間違いないハズです」
「なんだと! どうなっても知らないぞ!」
「どうぞ。お好きに」
「じゃあ。踊れ! 変は踊りだ」
「変な踊りとはアバウトですね」
「なら、ヒゲダンスだ!」
ノアはヒゲダンスをし始めた。あの踊りは宴会芸や余興で使われる事が多いので酒が入っている事が多くだらけた感じのイメージなんだが、ノアのヒゲダンスは無駄にキレッキレだった。
さらに途中で腰を突き出したり、変なポーズをとったり、こっちを笑わしにきていて、凄い本気だ。
なのに。まったく恥ずかしく無さそうだ。むしろ見てる俺の方が恥ずかしくなってきた。振り向いて領主の様子を伺う勇気は出ない。
「すまんがタツキ君」
「大丈夫です! 分かっています」
「マスター。この程度はぬるいですよ」
ぬるいか。ノアからは領主が見えているハズだ。つまりは、この程度なら誰でもできると思われているに違いない!
恥ずかしい命令というのは、世界共通で服従している事にはならないか。さらなる上位命令は、屈辱だな。
定番は足を舐めろだけど、これは、俺の性癖が問題視されてしまう。ならば。
「ノア。ダンスはもういい」
「次の命令があれば、すぐに辞めますが?」
「床を舐めろ!」
ノアはピタリとダンスを止めると、膝を曲げずに前屈姿勢になって、両手を床につけて舌を伸ばして、そして顔を上げて俺を見た。
ちょっと怖い、妖怪みたいだ。もしかして怒っているかな? 思ってたよりも舌が長いんですけど、さすがに前屈で床は舐められないでしょ。
「ど、どうした? さすがに無理か?」
「いえ、視界を確認しただけです。この位置からではテーブルが邪魔で領主様が私を確認できませんね」
ノアはすぐに斜め左後に移動し、さっきと同じ体制になり、それから足を開いて鼻先が床につくまで顔を近づけると、床を舐めた。
その光景を見た俺は、ゾクリっと背筋が震えた。何か新しい世界への扉が少し開いた気がして自分で自分に恐怖した。
「その姿勢のほうが面白いと思ったのか? 床に這いつくばって舐めろよ」
「分かりました」
膝を曲げて床に恋をしているかの如く舐めまわすノアを見て、俺の中のゲスがインフレを起こし始めた。このまま床一面を綺麗にしろ! とか言ってみたい。
「タツキ君。こんなやり方で信頼を得るのは……」
なぬ! まだ、ぬるいというのか!
「お待ちください! もちろん次がありますから!」
実は少し前から俺の頭の片隅にある命令が待機している。そいつだけは絶対に言うまいと自制しているつもりだったが、それを思いついた時点で俺のゲスさんは、かなり成長してしまっているようだ。
現状よりも上位な命令となれば、恥ずかしいプラス屈辱のダブルコンボしかないだろう。そして、なかなかそんな絶妙な命令を簡単には思いつかない。
あまり領主を待たせすぎては、信用をしてもらえないかもしれないので、たいして良くない頭をフル回転させているのだが、あの命令しか出てこない。
というか、もう、その命令を口にしてみたい!
「ノア。服を脱げ」




