第2話 へっ?彼女?
「あれ?そういうのが好きでは無かったですっけ?」
「なんで知ってました風なんだよ。どこ情報だよ。まぁ、好きだけどさ…… どっちかというとスーパーヒーローのほうが好きかなぁ~。単独で人知れずに、正体を明かさず、人助けをするのって。かっこいいよね」
「なら、スーパーヒーローのほうで良いので。戦隊物に憧れを抱いていると情報を仕入れてたのですがね。嫌いでしたか」
「そんな事はない!嫌いではない!決して。そりゃ昔は憧れたさ。単独もかっこいいけど、5人で力を合わせるってのも素晴らしいじゃないか!それぞれ個性があって、得意不得意があるから協力しあって、最後は5体合体のロボで決着をつける。あのロボットもスーパーヒーローには無い魅力だよ。それでも力が足りない時はシークレットメンバーの追加もあるし、ヒーローは遅れてくるものって言葉があるけど、6人目の戦士のかっこよさは、他とは一味違うんだよ。まぁ、ちょっとね…… 子供向けだからね。歳を重ねるにつれて、リアル指向のスーパーヒーローに目が行っちゃうのは、しかたないと思わない?」
「どーでもいいですね。はい」
全く表情は読めないが、呆れた感じのトーンがよく伝わる口調で淡々と答える。恥ずかしながら自分でも分かるぐらい熱くなっているのに、話をふった本人はめんどうだと感じとれる。
「えっ?そっちから聞いといて、その反応はちょっと酷いと思うのだが」
「申し訳ないけど、久しく人間と話した事なくてですね。あまり長話はしたくないのですよ。あなたがやる気になってくれれば、こちらとしては戦隊物でもスーパーヒーローでもどっちでもよいのです。では話の続きなのですが」
「話を止めたのは悪かったけど、疑問形だったから答えただけで。だいたい、いきなりあんな事言われたらびっくりするに決まってるだろ!」
「それは、すみませんでした。それではですね」
こいつは、とにかく俺をノリ気にさせて手っ取り早く何かをやらせたい様だ。なんとなく危険な匂いがするし、そもそも異世界転生の話って“死んでしまったから選択肢は他に無いですよ~死ぬよりマシですよ~”ってアレは詐欺だわ。この神らしき奴も詐欺師に見えなくもないな。うん。
しかし、この不思議状態は神にぐらいしか出来ないだろうし。ともかくしっかり質問して、選択肢無いから了解みたいな事は避けなければ。
「貴方には地球とは違う新しい世界に行ってもらって、ちょっとした御使いをしてもらいたいのです。私からのクエストと言いましょうか、7つの依頼をだいたい10年以内までに達成してきてもらいたい。もちろんその為に、よくある特殊能力付与をしますよ。さらにクエスト達成毎に追加で能力付与をします。それから新世界での貴方のサポートする機械も同行させます」
「俺に何のメリットがある?」
「そんな、怖い顔しないで下さいよ。貴方が話を止めて質問をしてくる事には諦めましたから。私としてもその方が必要な回答だけすればよいので楽ですね」
「どんだけ会話したくないんだよ! 顔も見えないどころか口元以外見えない奴に怖い呼ばわりされたくないわ」
「こ、これは、精いっぱいなんですよ! 本当は声だけで説明したいくらいです」
「いや、なんでだよ! 別にいいじゃないか。目とか見えるほうがさ不信感抱かなくてすむし、話しやすいだろう」
「恥ずかしいのです!!」
えっ?何こいつ? マジで神?何言うてるの? 直立不動で口だけが動いてるそいつは、どうやら恥ずかしいらしい。信じられん。
「このキャラも人間が話やすい様に、なんとか役作りを維持してるだけなので無視して下さい。もう、いろいろ無視して必要な内容だけ聞いて下さい!」
「分かった。なんか…… なんか悪かった。すまん」
予想外の事で俺も神も黙ってしまった。なんか可哀そうになってきたから、ちゃんと話をきいてあげたくなってきた。
「えっと…… なんでしたっけ? あぁ、メリットですね。貴方の。全ての事が終わると異世界での素晴らしい冒険の経験を得ています。それとクエスト達成で得た能力を一つだけ持った状態で地球に帰還出来ます。もちろんあの時間あの場所で、新世界で経過した10年間は老化してない事とします。これでどうでしょう?」
「予想してたよりも好条件だな。それは問題ないかな。他に伝えておく事は?」
「……えっと、依頼内容は気になりますよね?実は既にサヤという私の部下が新世界の調査に行っているのですが、連絡が取れなくなりまして。大切な部下なので彼女の捜索と彼女が行っていた新世界の調査を手伝って欲しいのです。どんな種族がいるのか。世界の広さはどのぐらいか。世界に対する害や、世界を動かしている鍵はあるのか。などを段階よく7つに分けましたので」
「自分で部下の安否を確認に行けないのか? 調査とやらも」
「それは、教える事が出来ない事情がありまして、私はこの荒野の世界から出れないのです。ここで監督すべき世界を眺めているしか出来ないのです」
ふーむ。俺は腕を組んでみる。状況が読めてきたぞ。自分では外回りが出来ないので、外回りの仕事を押してつけた部下が音信不通になったから、代わりに一般人を連れてきて神の部下らしく能力を与えて仕事させようという事か。
「腕組みして頷いてますが、いろいろと理解できた様ですね。すごく助かります。私からのクエストさえ真面目に取り組んで頂ければ、あとは好きに新世界ライフを満喫してよいので。スーパーヒーローとかやってて大丈夫ですよ」
「そこに話が繋がるのかよ。なるほど」
悪くないな。今の人生に落胆してたところだし、死ぬつもりはなかったが。新世界とやらで特殊能力付きならヒーローになれるかもしれない。サポートしてくれるメカもあるみたいだし。やっちゃおうかな。
「あと、新世界についてなんですが、私も状況を全て把握していないので、だから調査を依頼するのですが。知ってる限りでは人族と獣族と龍族がいて人族と龍族が争いあっているみたいです。ドラゴンが脅威ですが、たぶん大丈夫ですよ」
よし。やめよう。死ぬよりつらい冒険が待っているかもしれん。
「最後にサポートしてくれる機械ですが、名前をノアと言います。この件に了承して頂ければ彼女の設定を好きに決めて良いので」
「へっ? 彼女?」
ずっと動かなかった神だが(俺は神と呼ぶ事にした)左腕を上げて手のひらを軽くねじる様な動作をした。突然動いたんで、俺はちょっとビックリしてしりもちをついてしまった。
すると、俺と神との間の何もない空間に線状の青い光が現れ、ワイヤーフレームの3Dモデリングを映し出しだす。
「おぉ。これって、ホログラム?」
そこには青い光の線で描かれた160センチぐらいの人物とノートパソコンの様な物が浮いていた。かわいらしい女の子だ。服などは無く綺麗に身体のラインが描かれいるが、のっぺらぼうで細かい表現はされてない。思わずしばらく凝視してしまったが、面になる部分にすら色がないワイヤーフレームなので、そこまで色気はなかった。
「ノアがサポートするにあたって貴方との良い関係が作れるように、好みのキャラ設置をできます。主に内面的な所で性格とか喋り方とかです」
「受けましょう」
「必要と思われたので少し私で決めておきましたよ。日本語が理解でき戦隊者やスーパーヒーローに寛容で、って。えっ?」
「受けましょう。さて、設定はどうやるのですか?」
おそらくは、このノートパソコンの様な物でやるんだろうと思い、近づいてキーボードに手をあてるとホログラムなのに触った感触がある。凄いぜ神。どうせなら女の子の方も、もっと細かく表現して欲しかったぜ。
「なんというか。飢えた人ですね。設定はもうやり始めていますが、その端末から出来ます。では、契約完了ですよ? 本当によいですか?」
「分かった。少し集中するから黙っててもらえる?」
俺は人生の中で女友達がいた事がない。もちろん彼女なんて当然いた事ない。女性が考えている事は分からないし、上手く話しが続かない。しかし! 自分が好きな設定の女の子を連れていけるだと!? こんな素晴らしい事があるか。
待てよ。ギャル設定は本当にコレで合ってるのか? 知識が漫画やアニメのみだから不安でしかない。やめよう。もっと清楚系の設定にしよう。やはりそれが王道だし女の子といえば、それが一番可愛い。新世界で一緒に冒険して俺が守ってやるのが…… いや、一緒に戦ってくれる強い子がよいのでは? しかしなぁ、それでは可愛さが減ってしまう。いっそ綺麗系にするか。お姉さん設定でも良いかもしれん。
悩む~。やべぇ指が痛くなってきた。こんなに真剣にキーボード叩くのは初めてかもしれん。期待が膨らむが焦ってはいけない。こんな事2度とないぞ。
「すごい集中力ですね、以外と2時間が経っているのですが、まだですか?」
「そんなに経過してたのか。しかし、まだだ! まだ何も決まっていない」
「えぇ~。時間制限とかは無いのですが、ずっとやってても困るのですけど」
「俺に初めての彼女が出来るチャンスなんだぞ! 慎重に決めなければ」
「いや、彼女では無いですよ。サポートしてくれるパートナーです。まぁ、今はやる気になってくれれは良いのですが……」
俺も早くこの子に会いたいが、一度のチャンスなので、眠気と空腹に耐えながらそれからも、ひたすらカタカタとキーボードを叩き続けた。