第19話 これが、ターンシステムです
「下のあと5つ分が公開されてないのですが?」
「残りは、中級クエストと最終クエストになってます。初級をクリアすると中級が開放されて、中級をクリアすると最終が開放される仕組みです」
「もう、いろいろと聞きたい事がありすぎるんだが、質問しても良い?」
「すみません最後に1つだけ説明が残ってますので、その後にお願いします」
「あ、はい」
「その机の破れた服を投げてもらえます?」
昨日着ていた血の付いて破れている警備のバイト着一式を投げる。ノアは両手でキャッチした後に何故か高々と掲げ一時停止。そして勢いよく振り下ろし、肘から下が空間へと刺さる。
予想はしていたが、引き抜いた手には、何も持っていなかった。
「これが、ターンシステムです」
「お、おう。スゲーよ。凄いけど、そんなドヤ顔で言われても、よく分かんねぇーよ。つまりは、猫型ロボットのポケットと同じという事か?」
「いえ、違います」
「なら、異世界定番の異次元収納か!」
「違います」
違うんかーい。
「向こう側は四次元でも異次元でもない現実世界と繋がっています。ですので一度設置してしまった、どこにでも行ける扉が近いかもしれません。ヒッグス粒子やヒルベルト空間とかをマスターに説明しても理解出来ないのは分かってるので、簡単に説明しますと、決められた座標A地点と決められた座標B地点とを繋いでいて、その周囲1M程度にある物体を行き来させる機能です」
「大丈夫、理解した。つまりはテレポートとかには使えないんだろ?」
「まぁ、そういう事になりますね。さまざまな機能は、私という躯体に集約されていますが、外部と繋がってる特殊で最も優れた機能ですので、紹介しました。以上で現状説明するべき事は終わったと思います。質問はありますか?」
一気に説明されたから、聞きたい事がありすぎて、逆に何を聞けばいいのか分からなくなってしまった。やっぱり、1つ1つ質問させて貰えばよかったなぁ。
「とりあえず、今、気になってるのは、そのターンシステムが繋がってる向こう側って、もしかして元の世界ですか?」
「いえ、違います。この世界です。マスターが思っているよりも万能では無い機能です。ちなみに向こう側は倉庫です」
「倉庫? って事は結構広い?」
「うーん。どうでしょう? 倉庫の広さはコンテナ6つ分ぐらいですかね。いろいろと物が置いてあるので、実際は狭く感じるかもしれないです」
「いろいろって、そんなにアイテムあるならゲームクリア楽じゃん」
おぉっと、今のは失言だったようだ。ノアのコンテナアイテムだけで事が済むなら最初から俺に声がかかっていないだろう。
分かったから、そのやれやれポーズをやめてくれ。
「残念ながら、コンテナの中身は私に関する物が8割って所です。最悪の自体を想定した修理パーツとサポートアイテムです。あとはマスターの為に水と非常食が大量に、それから自殺現場にあったマスターの私物ですね」
「自殺現場って。まぁいいや。一昨日のカップラーメンは、ありがたかったので深く考えない事にしたが、そういう事だったのか。で、この服もターンシステムのおかげって事ね。あのリュックまるまる持ってるの?」
「ありますよ。中身も」
「財布は無事か!」
「まぁ、無事ですけど。使えませんよ? 通貨が違いますし、身分証も使えないでしょうね、文字が違いますから」
「じゃぁ、ケータイは?」
「ありますけど、どうするんですか?」
「どうするって、そりゃ持ってると便利でしょ?」
「はぁ~。何言ってるんですか! もしかしてスマホ依存っ子ですか? 電波基地もないのに、そもそも1台で誰に電話するんですか?」
「ネットがあるじゃないか。いろいろ調べられて役に立ちそうじゃないか」
突然、デコピンをされた。痛くないけど、なんで?
「マスターのおバカ! 何処と通信するつもりですか? ネットなんて使える訳ないでしょ。まったく~。マスターのリュックの中身に使える物はありません!その着替えぐらいですよ。それに今日はあと2回しか出し入れ出来ませんので、もしもの時の為に無駄な事はしないですからね!」
「あと2回って、そのターンシステムとやらが?」
「そうです。便利な機能ですが、結構エネルギーを消費するので連発出来ないんですよ。移動させる物の質量や体積、距離によって変わりますけど」
回数制限があるのか。なんかなぁ~、よく見る話だと異次元収納とか空間魔法とかって結構当たり前にあって、しかも主人公サイドはその適正が高かったりするんだけどなぁ~。現実的に考えれば破格な機能だし、そういうものか。
壁に掛けられてる黒い重そうな板を見る。
「その貴重なエネルギーを、あのアホみたいなクエストボードを引っ張り出すのに使ったんかよ!」
「これは、私も予想外でしたよ! まさにブラックボックスに最初の1回目は派手に紹介するようにプログラムされていたんですから」
まさかのノアが困っていた。神って奴はアホなのか?
「他には何か聞きたい事あります?」
「なんか、いろいろとあったけど。疲れたというか…… 気が抜かれたというか…… 重要度を感じられなくて、今はいいかな。気になったら質問する。それにじっと説明を聞いてたら運動したい気分だ」
「そうですか。では何か気になれば、気軽に訪ねて下さい」
椅子から降りて、身体を伸ばす。動かないのは一応出来るのだが何故か疲れる。さて、どうするかなぁ~。散歩ぐらい行きたいけど、シェンユと入れ違いになると困るから、ギルドから離れるのは問題だなぁ~。
「なぁノア。昨日はギルドの建物の中は見て回ったのか?」
「いえ。保護してくれてるので脅威にはならないと判断しました。それに3日あれば、どこかのタイミングで見れると思いましたので」
「それじゃあ、冒険者ギルド、ユウツオ支店の見学ツアーだ」
「おー!」
ノアが、左腕をガッツポーズ右手を頭上に伸ばして小さくジャンプする姿に驚いた。可愛くて見入ったのもあるが、こんな時にこんな反応するとは思わなかった。
「ノリいいな~」
「なんですか? 不満ですか? 常に辛辣なワケでは無いですよ」
「そ、そうか。よし、いくぞぉ」
とりあえず、宿泊棟から本館へ行く。渡り廊下から本館に入ると、すぐそこはメインロビーのような所でバスケットコートの半分程度の広さに6枚の掲示板が立てられていて、10人ぐらいの冒険者らしき人達が覗き込んできた。
掲示板には文字が書かれた木の札がたくさん下げられていて、冒険者達はそれを手に取って見たり、戻したり、そのままカウンターまで持って行ったりしている。おそらくアレは依頼書なんだろう。大きさはマンガとかの単行本よりも少し小さいぐらいか。
その光景はカードショップを思い出した。掲示板と依頼書の木の札は、トレーディングカードゲームのシングル売りが並べられている棚とよく似ていた。
「ノアはアレの中身は見た?」
「クエストの依頼書ですね。ルーファンさんと一緒に少しだけ」
「そうか。なら俺達は冒険者じゃないし、他の人の邪魔にもなりそうだから他の所を見にいくか」
「分かりました」
受付カウンターのギルド嬢を見ながら進み、5段分下がった食事場に向かう。時間は11時前なので昼メシには早いのだが、ここにも20人ぐらいの冒険者達がいて、それぞれ話をしている。
ここに来るのはもう3回目なので、なんとなく分かってきた。クエストを受けたらこの場所で飲み物なんかを注文しながら、作戦会議をするのが冒険者達のルーティンの様だ。
「左のカウンターで料理を注文した事あるけど、奥にも窓口と扉があるな」
「そうですね。ルーファンさんに聞きましたが、あそこは行きたくないし今は知らなくていい。と言われました」
「よし。行ってみるか」
窓口まで行くと、そこにはゴーグル眼鏡にバンダナをした巨漢が待機していた。
「なんだぁ? 昼の分は間に合ってるから、金額は落ちるぞ?」
巨漢は窓の向こう側にいるので、全身が見えないが、黒いゴムっぽい手袋に白い大きなエプロンをしている。その白さに目立つ赤い不気味な模様が怖い。
「私達、こういう者なんですが……」
ノアがいつの間にか自分の腕に着けた腕章を見せた。
「あぁ。なるほど。中を見たいのか?」
「そうですね。何の窓口か知りたくて」
「説明するより見た方が早い。そこの扉から、こっちに入ってこい」
言われた通りに扉をくぐる。そこは最近嗅いだ不快な臭いが充満していた。
5、6人の巨漢の男と同じ恰好をした人達が、鉈を振り上げ振り下ろし、ナイフを滑らせ皮を剥がし、血まみれになって作業をしている。
やってる事に似合わず、全員が何かお喋りをしながら笑顔で解体作業を楽しんでいる最中だった。
「うっ」
恐怖と悪寒が全身をめぐり、気持ち悪くなったので、口を押えて食事場のカウンターまで走った。すぐに水をお願いして一気に飲み干す。
「もし、冒険者になるんだったら、このぐらい慣れろよー!」
笑いながら、ゴーグル巨漢が大声を出していた。周りにいた他の奴らも笑っていやがる。いきなりあんあもん見たら誰だって吐き気がするわ!
「ガクヨウめ! あんた、気にするんじゃないよ。アイツは人で不足で困っていてね。ああやって耐性のある奴がいないか試してるんだよ。まぁ良いやり方とは思わないけど。しかしあんたも女の子おいて逃げるとは、情けないねぇ」
食事場のおばちゃんに言われて振り向くと、ノアは特に変わった様子もなく歩いてきた。コイツは後で解体場の奴等に勧誘されるかもな。
「マスター大丈夫ですか? どうやらあそこは獲物を買い取ってくれる場所みたいですね。すぐに解体してるって事は、ここの料理の食材になるのでしょうか」
「今は、お前のメタルハートが羨ましいよ」
「お嬢ちゃんは肝が据わっているねぇ。あんたはちょっと外の空気を吸ってきたらどうだい? 鼻に血の臭いが残ってるだろう?」
おぉ。確かに。それはいい考えだ。
「ノアちょっと、外の空気を吸いに行ってくる」
すぐに正面出口に向かって歩き出す。何人かに後ろ指さされて笑われたが気にしない。早歩きになってしう程に今は外に出たい。
扉を開けた瞬間、誰かが突撃してきた。
「いって」
「あいたっ! ごめん。ごめん。ちょっと、急いでて前をみてなかった。って! タツキじゃないか! ちょっと、どこ行くつもりさ! オイラと約束したよね? オイラは気使って待たせすぎない様に仕事をババババーって終わらせてきたというのに、また、置いてくの? 酷いじゃないか! オイラの事、嫌いなの?」
ピンクの突風の再来だった。




