第15話 トラッド奴隷商会
「いやぁ、待たせたね」
男は、手に持った何かをヒラヒラさせながら、建物から出てきた。紙の束のように見えるが…… 本か?
もしかして、うすい本か?! まさか、あの会話の中で俺が奴隷にナニを求めているか、ナニを期待しているのか理解したというのか!
となるとアレは、美しい獣人達と人族との禁断の交わりが収められているという俺のこの世界での新しいバイブルか!
「これを持って行きなよ」
「これは?」
薄い本の表紙は見た事の無い文字が一行だけ書かれている。
「その冊子は、お客さんに渡している物で、奴隷獣人を買うにあたって簡単な説明が書かれている物だよ」
期待した物では無かった。悲しい……。
「奴隷を売ってるんですか?」
「僕のチームでは無いけどね。何て言うのかな? ボスは同じなんだけど。違うチームに奴隷獣人の売る所があるんだ。あと仕入れるチームもある」
グループ会社的な感じかな。販売とか仕入れって単語を聞くと、なんか嫌な気分になるなぁ。奴隷って命だけど、物扱いなんだな。日本じゃ奴隷なんて、まったく馴染みがないから分からないけど。
こっちの獣人達って、日本の動物のペット的な扱いなんだろうなぁ。
「それから、これ」
紙に包まれた10センチぐらいの平たい棒を3っつを渡された。アイスの棒よりも少し長いというサイズで、色は青黒く赤い点々模様がはいっていて、触った感じでかなり硬いのが判る。
「これは?」
「まぁ、分かるだろ?」
「えっと……」
「君なら、素直に言ってもいいか。口止め料だよ。お願い代金でもいいかな。少ないかもしれないけど、今すぐ僕が出せる金額はそれなんで、それで頼む」
なんと! お金だった。
「ちょっと。お金は貰えないよ。俺にも悪い点はあったし、この後ろの壁だって俺が壊したみたいなもんだし」
「ええー! 君分かってないよ! さっきも言ったけど獣人が人間を傷つけた事が凄い問題になるんだよ。君は遺恨を残さなさそうだけど、それが逆に危ないから頼んでいるんじゃないか」
「逆に危ないって?」
「その姿を誰に聞かれた時『ちょっと、そこで獣人と揉めてケガした』なんて答えたら、僕は辛い立場になるって事さ。君はそんなに重く考えてないかもしれないけど、聞いた相手によっては僕の仕事は無くなるかもしれないね」
そんな重大な事だったのか。この件は誰にも言えないなぁ。
「うん。分かってくれたかい? くれぐれも頼むよ。壁の修理も気にしなくていいからさ」
「それじゃ、ありがたく頂いておきます」
「君はギルドに保護されている者だったね。暗くなってきたし、日が完全に落ちる前に戻った方がいいと思うよ。帰り道は分かるかい?」
「大丈夫、大通りまで真っすぐだったから。大通りからギルドまでも分かるから問題ない」
俺は、とりあえず一礼すると、男のほうは二歩ほど下がって手を振った。壊れた壁を見て少し獣人達の事を思い出して、T字路の方へ足を進めた時、後ろから声がかかった。
「そうだ! 僕はコウ・ウェイン。このユウツオを拠点に奴隷使いとして働いているから、何かあったら声をかけてよ」
「おう! ありがと! 俺はサトウ・タツキ」
軽く手を振って帰り道を急ぐ。この街の治安ぐあいは分からないけど、暗くなると危ないのは何処も同じであろう。トラブルにあったばかりだし、今日はもう勘弁してもらいたい。
なんとなくだけど、ウェインとはいい出会いだったかもしれない。獣人の事に詳しい人物だったし、人当たりも良し、今後も関わりを持ちそうな気がする。
多分だけど。獣人は、この世界の重要な要素の一つだと思う。奴隷ってのは気分が悪くなるけど、元の世界でも古くから広い地域に在ったと記憶してるし、おそらくこの世界でも労働力として広く根付いているだろう。
となれば、勉強しておくべきであろう。運良く獣人奴隷購入のカタログが手元にあるし! 決して、後々にケモミミ獣人を飼って愛でたいなんて、やましい気持ではない。
表紙のあの、謎の文字は……
「トラッド奴隷商会」
やはり読める。知らない文字なのに読める。
文字の見た目としては丸、三角、四角、に横線と縦線の組み合わせに、トメやハネを加えた記号と漢字が混じった様な文字で、強いて言えばハングル文字に近いのだが、見た事はないし、読めるハズもない!
だがしかし、読める。
予想はしていた。多分、言葉を喋ったりの聞き取り出来る特殊能力的な何かと同じ物が俺に与えられているのだろう。
まっ。いっか。深く考えるのは止めよう。便利だし。
読めるとなると、めっちゃ中身が気になってくる。暗くなってきたが、大通りは街灯があるから見えるし、人通りも少なくなっているから、ぶつかる心配もないハズ。歩きながら読むか。
さてさて、まずは。
■本書は奴隷との契約にあたって、基礎的な説明を記述したものです。奴隷の利点や注意点をご理解したうえで、購入をご検討ください。
〇トライアッド奴隷商会につきまして
我々は、奴隷を正しく扱い、正しく扱える人々と環境の確立を目指し……
最初の挨拶的なやつだな。企業理念とか書いてそうだけど、長いし、獣人情報じゃないから読まなくていいかな。次のページだ。
〇奴隷魔術について
・それは、獣人のみが扱える魔術です。獣人に主であると認めさせ契約の証である奴隷紋を、主側は腕に。獣人側は首に刻印させます。
アレって、魔術なのか。しかも獣人のみが扱えるって事は自ら望んで奴隷になるって事なのか? もしかしたら俺が思っている奴隷とは違う、騎士の忠誠みたいなものかもしれないな。
・奴隷紋は魔力を込めて起動させます。獣人の躾けは基本ですが、慣れると位置情報を送ったり、簡単な命令を送ったり、自身の魔力を与える事が出来ます。
・奴隷紋は契約維持の為に常に魔力を消費しております。その為、魔闘気を扱えなかったり、体力の少ない方は魔力切れを起こす可能性があります。それによって、目眩、頭痛、出血、失神などが起こります。最悪の場合は死に至りますので十分にご注意下さい。
え!? 死ぬの? 魔力が空になると死ぬの? 奴隷紋って怖ぇーよ。
うーん。しかし便利な機能もあるし、それぐらいのリスクは当たり前か。
それよりも俺って魔力とかってあるのかなぁ?
・奴隷紋は主と奴隷獣人と双方の合意があれば、解除する事ができます。
・奴隷紋で契約が繋がっている場合、主が死亡すると奴隷獣人も死に至ります。また、奴隷獣人が死亡した場合は主が死に至ります。とても重要な事ですので、十分にご注意下さい。
え!? 死ぬの? お互いに死が共有されてるの? 奴隷紋って怖ぇーよ。
という事は奴隷に無謀な事をさせて死んだりしたら、自分も死ぬのか。酷い扱いとかして自殺とかに追い込んだら、自分も死ぬのか。あの躾けってのも、やり過ぎたら大変な事になりそうだ。
知れてよかった。これは結構重要な情報が載っているぞ。よし3ページ目だ。
〇獣人の種族について
・全部で13種存在すると言われています。奴隷として扱えるのは下記の9種となります。希少度数値が高いほど入手しにくく高額となります。
・虎獣人 希少度数30 確約は出来ません。予約待ちです。
・馬獣人 希少度数12 予約後、1年で契約出来ます。
・猿獣人 希少度数10 予約後、1年で契約出来ます。
・羊獣人 希少度数7 予約後、2月で契約出来ます。
・兎獣人 希少度数6 予約後、2月で契約出来ます。
・牛獣人 希少度数5 欠品する事もあります。
・犬獣人 希少度数4 常に在庫があります。
・猪獣人 希少度数3 常に在庫があります。
・鼠獣人 希少度数1 常に在庫があります。
・用途によって変わりますが、食文化や生活文化が人間に近く、忠実で、汎用性の高い犬獣人をオススメ致します。重労働には牛獣人。森の探索には猪獣人。細かい作業には猿獣人をオススメ致します。
虎獣人だけウルトラスーパーレアじゃないか。全13種でここに書かれていない種族ってのは、さらに希少度が高いんだろうな。このラインナップから残りがどんな種族なのか予想がつくぜ。
なるほどな。俺が買うべきなのは兎獣人なんだろうな。きっと可愛い。さて、さて、次のページは何が書かれているやら。
〇獣人の形状について
・完全獣型 希少度5
獣の姿をしていますが、人と同等の知性を持っています。人語を理解し人語を話す個体も存在します。獣の特性を活かした畑仕事や荷車の牽引などが出来ますが、道具を使う事などは出来ません。
・普通獣型 希少度1
胸部から上が獣の姿をしていて、最も多い形状です。胸部から下にも爪や尻尾などの獣の特徴が一部あります。人に近く、道具や武器を扱う事が出来ます。
・特殊獣型 希少度10
人と同じ姿をしていますが、一部にのみ獣の特徴が濃く現れた形状です。脚だけが強靭な馬の脚であったり、上半身が羊毛に覆われいていたりなど。局所的、専門的な仕事をする事が出来ます。
・通常人型 希少度8
ほとんど人と同じ姿をしており、爪や耳や尻尾など一部にのみ獣の特徴がある形状です。身体能力も人に近く、他の形状個体よりも低くなりますが、手先が器用で知力も高い個体が多いです。また容姿が整っており、家や屋敷の仕事に向いています。
・特殊人型 希少度60
ほとんど人と同じ姿をしており、爪や耳や尻尾など一部にのみ獣の特徴がある形状です。一見すると通常人型と同じに見えますが、獣人の秘儀『獣化』を習得しており、これを行う事で完全な獣の形態になる事ができます。獣化前でも身体能力が高く、獣化後は更に向上します。万能で何でも出来ますが、とても希少度の高い個体となります。
おぉ! ケモミミっ子もちゃんといるのか! ケモノフェチとかでは無いが、やはり獣人と言えば可愛い容姿にケモミミと尻尾が付いてる子に会ってみたいぜ。呼び方は獣人らいしいけど、まぁ、見た目に関しては前の世界の知識と通ずる所があるな。
特殊人型の希少度が半端ないなぁ。イメージとしては、大秘宝を探して海賊が活躍する某マンガに出てくる動物の果物を食べた人と同じ感じだろうか? 確かアレは人と獣の間フォームがあったっけ。
となると虎獣人で特殊人型って、極・超絶ウルトラハイパーレアだな。いくらするんだろうか…… 手の届く金額でいいから、ウサ耳の可愛い獣人を、そばに置いておきたい。おとなしくて従順で。
可愛いけど毒をついてくる事など無い感じで。
「マスターぁぁぁああああ!!」
あっ。青鬼がいる。




