第14話 じゅーと?
「ふーん。じゃぁ、彼がボロボロになっているのは、お前達がやったって認識でいいのかな?」
「俺とカムロでやりました。他は関係ありません」
おい。一人忘れてるぞ。むしろ俺的には、そいつが一番イラっとするんだが。
細目の男はそれで見えてるのか? と疑いたくなるが、ちゃんと中央の肉塊も地面に滴る血も避けながら近づいてきた。
「大丈夫かい? 血だらけで、かなり興奮してる様に見えるけど、あのカムロと生身でやりあったんだから、キツだろうけど…… 話は出来るかい?」
「頭に血が上ってたんだが、血を流して今はスッキリしてるよ。キツいけど話をするのは問題ない。むしろ始めは話し合いを希望してたんだけどな」
「そうかい。それじゃぁ、ロナウが言った事は正しいかな? ロナウってのは、あそこに立ってる黒毛の奴なんだけどね」
ロナウに目線を向けたが、うつむいて微動だにしない。対照的に隣にいるチャラチャラした奴は、目を合わせて何か訴えたそうにしている。
「確かに右後ろにいる三人は、何もしていない。ロナウって奴の指示でカムロと殴り合いになってボロボロだが、その前に、そこのチャラチャラした奴に全身を蹴られたな」
よし、何か言いたそうだったからな。希望通りちゃんと説明してやったぞ。
「おいおい、カムロぉ。話が違うじゃないかぁ。俺に虚偽の報告をするとは、今日はご機嫌だな!」
「すみません。主! 話をっ。熱いぃ…… ぐっ。がっ」
ロナウの首に赤くうっすらと幾何学模様が浮かび上がり、膝をついて苦しみだした。
何が起きたのか分からないが、その様子からすると模様が熱を持ち、首を締めている様に見える。その光り方は元々の黒色を所々に残していて、一番明るい部分は白く、その境目は赤く、まるで熱せられた焼きごての様だ。
「すみませんでした主! 俺もやりました。ここではロナウだけが相手をしたんです。本当ですぅ」
「そうか。それじゃロナウの躾は1時間にしてやろう。イアルフ。ウルシュ。ウルテフ」
「「「はい! 主」」」
「チャイラをご主人様の所に連れていけ。コイツはうるさくてイライラする」
「「「分かりました!」」」
4人は建物の中へ入って行く途中で少しだけ止まり、苦しむロナウに視線を落としていた。ロナウも苦しみながら、何かを言いたそうに視線を合わせていた。
あの状態で1時間か、かなり苦しそうだ。少し可哀そうにも思えるが子供を食う奴らだ。当然の報いだろう。
「おい、あんた! アレはなんだ? どこから連れてきたんだ? 納得できる説明が無いなら、全員相手してやるぞ!」
「んっ? アレって、あの肉の事?」
「そうだよ! なんの理由があって、あんな惨い事を」
「君は、猿のペットでも飼っているのかい? もしくは、猿の獣人を奴隷にしてる?」
「えっ? なんだって? なんの話をしているんだ?」
「猿の話だよ。あの猿を餌にしてるから怒ってるんだよね? いちおう、あの猿は森で狩ってきた物だよ」
「はっ? 猿? 人間の子供じゃないのか?」
「えぇぇぇぇぇ! アッハッハ ウッソだろ?」
「……」
獣人は人間なんか食べない。もの凄く恥ずかしい。
「本当なの? それでカムロと素手でやりあったの? クックックッ。すごいな君は、正義の味方って感じの人なんだね。あー、お腹痛い。いやぁ、気に入ったよ」
それは、俺にとっては誉め言葉だ。まさに目指してる所だからな。しかし、猿だったのか。なんか手足の長さとか、すごく人間に近いけど、よく見ると毛がついている様に見えるな。しかたないじゃないか! 血だらけで内臓でてるんだぞ。グロい。よく見てられるワケないじゃないか。
それに、一回戦で手足を噛まれて、血を出しすぎたんだ。意識がハッキリしてなかったんだよ。やっぱり、あのチャラチャラしてる奴が悪いと思う。
そうなってくると、なんか苦しんでるロナウが可哀そうに見えてきた。
「なぁ、あんた。アレさ、ちょっと1時間は長いんじゃないか?」
「君、変わってるね~。だって、あいつ等は獣人だよ」
「じゅーと?」
「えっ? 君まさか、獣人を知らないのかい?」
ま、マズイ。獣人ってジュートって言うのか。しかも一般常識っぽいぞ。俺が知ってる獣人とは違うのだろうか? 知らないって答えたほうが良いか。いや、そもそも記憶喪失って一般常識まで忘れるものなのか? だがしかし! 知ったかぶりをして後でボロが出ないだろうか……
「俺、いろいろあって、今、記憶喪失で。もう、いろいろと忘れててさ」
「ふーん。ワケありのようですね。少し話を聞かせてもらえるかい? とりあえず座りなよ」
「おっ。おう」
その場に2人で座る。この人、第一印象よりも、いい人そうだぞ。
「えっと。昨日この街の近くにある森で連れの女の子と目が覚めてさ、森の中で街の人に出会って、その人と連れのおかげで街には来れたんだけど。街のルールとか常識とかも知らなくて、そうだ!」
ズボンのポケットから黄色い腕章を引っ張り出す。服は所々破けているが、腕章は無事で良かった。
それよりも、目線が下がったせいで苦しむロナウが視界に入る。
「これは、ギルドが保護してる者に持たせておく腕章だね。これは君が嘘をついていない証拠になる」
「そうか良かった。本当に何も知らなかったんだよ。でもまぁ、俺から先に手を出したワケだし俺ももう怒っていないから、ロナウを許してやってくれないかな? 頼むよ」
「うっわ。ほんと変わってるね。君がそこまで言うなら別にいいけど」
すると、男は左腕の袖をめくった。腕にはロナウの首ある模様と似た幾何学模様の入れ墨があり、同じ様に赤く光っている。といっても男は苦しそうではないし、入れ墨の光り方も熱ぽくはない。
しばらく見ていると、だんだんと光が弱くなり、やがて真っ黒なただの入れ墨になった。
「ロナウ! この人に感謝するんだな! 貴様ら獣人が人間を傷つけるとは。あってはならない事だぞ!」
「ゴホッ…… 分かりました」
「カムロを部屋に連れていけ」
ロナウは俺達の脇を通ってカムロを担いで建物の中へと入っていった。通り過ぎる時にちゃんと俺に頭を下げたけど、本当は感謝なんてしたくないだろうな。
「君は後腐れしなさそうだけど、ちゃんと納得できる説明をしないといけないだろうし。君のその対応に僕も感謝してるから、獣人について教えてあげよう」
おぉ。これはチャンス。この世界では知らない方がおかしい事かもしれないからな。ここで情報を得られるのはケガしたかいがあったぜ。
「アイツ等は獣人の中の犬種。13種いる獣人の中でも最も扱いやすく、能力的にも汎用性があって、比較的手にはいりやすい。個体差はあるものの人間と違って生肉を食べたがる習性があってね。こうやって森で獲物を狩ってきているんだよ」
「そこに、たまたま俺がきてしまったワケですね。でもなんか、ケンカ腰でしたけど見られてはマズイ事なんですか?」
「見られたくはなかったかもしれないね。けど勘違いしないでほしい。隠れて食事をしているのは、街のルールだからだよ。大通りで獣が血のしたたる生肉を食べてるのは、あまり見たい物では無いからね。もちろん、生肉の食事自体は禁止されていない。君がここに衛兵を呼んでもらって事情を説明しても構わないよ? やましい事は何もしていないから」
街のルールに則ってる事みたいだし、むしろ俺の方が間違いをしそうだし、これ以上トラブルを大きくしない方が良いだろう。
「そんな事はしないですよ」
「そう? なら助かるよ。ちゃんとしてるとはいえ、風評被害があっては仕事の依頼が減ってしまうからね。僕はアイツ等を使って今みたいに商業倉庫の警備をしたり、貴族の護衛をしたり、時には犯罪者の追跡をしたりもするかな。アイツ等は鼻が効くから。まぁ、そういう仕事をしてるから獣人の躾けが出来てないって噂が流れたら困った事になるのさ」
「躾け? ですか」
「そうさ。躾けは一番大事な事だからね。安心しなよ。さっき見ただろう? 僕は完全に扱えるからね。ちゃんとA級奴隷使いのライセンスも持ってる」
「えっ? 奴隷ですか?」
「おいおい。それすら知らないのかい? なるほど、さっきの態度の理由が分かったよ」
俺もラノベやアニメは好きだからな。なんとなくそんな気はしてたけど。獣人達のあの首にある入れ墨みたいなのは奴隷紋で。で。えっと。
男の腕ににあるのも奴隷紋?
「あの、その腕の模様は何ですか?」
「これも知らないのか。まぁ、そうだろうとは思ったけど」
男は俺に見えやすい様に、腕を突き出して見せてくれた。
「これは奴隷紋さ。奴隷側の紋章とリンクしていて、いろんな事が出来てね。遠く離れた所にいる奴隷に簡単な命令だったら伝える事が出来る」
なるほど。奴隷使いの紋が親機で、奴隷である獣人の紋が子機みたいな感じなのか。親機の方から、子機をある程度コントロール出来るみたいだな。
「一番重要なのが、さっきのみたいに躾をする事が出来る。具体的には紋が熱を持ち締め付けを起こすのと、身体の倦怠感だね。体を喪失したかのように力が入らなくなるらしいよ」
それで、あの強そうな獣人達が一人の人間相手に従順になっていたのか。今いた獣人達は全員、首から上が獣の姿をしていたけど。顔が可愛くてケモ耳の獣人もいるのだろうか…… だとしたら、その子を従順にできるなんて、ちょっと、奴隷紋いいなぁ。誰にでも扱えるもんなのかなぁ。
「ほほう、君、もしかして奴隷に興味がある?」
「えっ? えーっと、少しだけ」
「ははは。大丈夫。さっきもこの場にやましい事はないって言ったけど、もちろん獣人の奴隷も合法だよ。むしろ奴隷じゃない獣人なんて見たことは無いな。海を超えた遥か東の大陸に獣人の国があるという話は聞いた事あるけど、もしかするとそこの獣人達は奴隷紋をしていないかもしれないね」
「獣人の国もあるんですかぁ。行ってみたいですね」
「いやいや。僕は絶対に行きたくないね。奴等は獰猛な獣だよ。躾が出来ない獣人なんて、恐ろしくて近づきたくは無いよ」
この世界では、獣人は手綱を握っていなければ恐ろしい存在なのか。となると街とかにいる人間と共に生活している獣人は本当に奴隷しかいないんだろうな。ギルマスの隣にいた奴もギルマスの奴隷なんだろう。
とか考えていると、男が立ち上がって手を伸ばしているので、流れにのって手を掴んで立ち上がった。
「だいぶ落ち着いてきているね。一人で帰れるかい? 送っていきたいが、いちおう仕事中なのでね。この倉庫地区から離れられないのだよ。アイツ等にも少し説教してやらないといけないし」
「いや、大丈夫。なんか元気だし、そもそも、そこまでしてもらうのは悪いから」
「少し待っていてくれ。渡したい物があるから、取ってくるよ」
渡したい物? なんだろうか。そういえば、後ろの壁を壊したのは俺だった。もしかしたら修理代の請求書とかかもしれない。やってしまった事はしょうがないので、逃げずに受け取ろうと思うが、今はお金を持ってないので、一週間ぐらい待ってもらえないか頼んでみるか。ノアになんて言われるやら……
にしても生臭いな。あの肉の塊はどうするんだろう? あとで片づけるのかな? 一面血で赤く染まってると思ったが、空を見上げるともう夕暮れになっているじゃないか。ドタバタしすぎて空腹は忘れてしまったぜ。
忘れてるといえば、痛みが無くなっている。噛まれた腕や鋭い爪で鷲掴みにされた腹を見て違和感を感じた。
「アレ? こんなもんだっけ」
腹部は服は破けていて、カピカピになるほど血を流していたみたいだけど、傷口はコンパスの針が刺さった程度のものだった。腕も画鋲が刺さった程度で、全体的な外見はすごい痛々しいのだが、そんなに重症ではない。
いや、本来はもっと深い傷だったのだろう。きっとGMが与えてくれた特殊能力のおかげだろうな。確か死ににくい能力だっけ? 再生するんだったな。




