第11話 すみません。要らないです
「フォルストのヤツぅ~! シェンユを足止めするフリして、仕事サボりたかっただけじゃないのよ」
吹き抜けのある廊下にも、階段にも、一階を見渡してみても、フォルストが見当たらない事に気づき、パメラは怒っていた。
自分だけ仕事を押し付けられたのが嫌だったのか。カウンターで順番待ちをしている冒険者達を、ギルドマスターからの仕事だと押しのけて、一番前まで割り込んでいる。よっぽど、早く仕事を終えたいのだろう。
「はい、はーい、お待たせね」
「ルーファン、遅ーい。急な仕事が増えたんだから早くしてよ」
「ギルドマスターからの仕事よりも、大事な仕事ってなによ」
「フォルストを見つけて、シメる仕事よ」
「まるほど~」
予想以上に怒ってた。根に持つタイプかな? 今後パメラと関わる事があったら怒らさない様に注意しよう。
「それじゃ、すぐに行くから、向こうの2番テーブルに二人を案内しておいて」
「了解。二人ともついてきて」
カウンターを後にして、牢屋から出る時に通った、内側に入る扉も通り過ぎる。5段しかない下り階段を降りると、右側に冒険者の憩いの場があった。
広さは田舎のコンビニより少し大きいぐらい。丸テーブルが10個あり、左の窓際にはカウンターテーブルもある。右奥には料理の注文も受付ている。
どうやらこの建物はL字状になっている様で、ここは冒険者達の食事と話合いをする場所みたいだ。ちなみにここにもフォルストはいない。
「ここに座って。それじゃ私は行くわね。すぐにさっきのお姉さんが来ると思うから、しっかり話を聞いてね」
「ありがとうございました」
「あ、ありがとうごさいます」
「あら、あなた、お礼はちゃんと言えるのね。ぜんぜん喋らないから。無口なのかと思ったわよ」
「マスター、ちょっと、女性との会話が得意でなくて」
「そうだったの。そうは見えなかったわね。侍女のあなたとは楽に話している様に見えたのだけど」
「まぁ、私は特別です。女として見られていませんから」
そんな事はないぞ! 断じてそんな事はない! むしろ一番好みだよ!
「そう。侍女がいた事なんて無いから、扱いについて分からないけど。あなたは、もう少し侍女に対して気遣いがあってもが良いと思うわ」
「分かりました。気を付けます」
枕にするから、服を脱げ! なんて言ってないんだけどなぁ。無実の俺に忠告をしてパメラは去って行った。入れ替わりにルーファンが小走りでやって来た。
膝下までしかない白いチャイナドレスに黒い長袖のジャケットを着ている。左右にお団子をしている髪型で顔つきも、細目で赤い紅が目立つ、まさにチャイナ娘って感じである。
「パメラ、怖そうな口調だけど、面倒見がいいだろ?」
「そうですね。不審者であるマスターや私に対して、親切な対応でした」
「あの性格だらか、世話やきたくなるのかなぁ? ちょっとダメ男を好む傾向があってね。もったいないよ~」
「あっ、もしかして、フォルストさんですか?」
「やっぱり、分かる?」
「えっ?! マスターそういうの、分かるんですか? 」
アレは、なんとなく、分かるだろう。そういうの分からないのはノアが機械だからなのかなぁ。
「さて、今の時期ちょっとギルドは忙しくてね。駆け足で説明するから、しっかり聞いといてくれ」
「分かりました」
「もう昼過ぎになってしまってるが、今日を含め3日間はがギルドが食べ物と部屋を用意する事になりました。部屋はさっきの階段の隣にある扉から渡り廊下を通って、隣の棟の三番目の部屋になル。二人で一部屋だけど、主と侍女だし問題ないよね? 鍵はコレだけど、今持っておく? 後で受け取るかい?」
「どうしますか? マスター」
「えっと…… 門限とかないなら、今受け取りますかね」
「門限は特に無いが、夜に街をウロつくのはオススメしないよ。この街は治安がいいけど、それなりにガラの悪い者もいるからね」
「では、後で受け取ます」
今、捕まったばかりなのに、これ以上トラブルがあってなるものか。夜になったら、すぐに帰ってこよう。
「了解。食事は朝と夜はここで頼める。昼は券を渡すので、街で食べれる。使える店は限られているので、食事の前にちゃんと店主に聞くこと。券は朝ギルドカウンターに取りにきてね。今日の分は今渡しておく」
渡されたのは券というよりは、札に近い。木製で少し厚みが何か文字がかいてあるが読めない。しかし3食用意されてるのか! なんて親切なんだ。
「最後に、この腕章を渡しておきますので、外に出る際にはつけて下さいね」
「これは、何でしょうか?」
「ギルドが保護している者の証です」
「マスターと私は保護対象ですか。あまり良い気分ではないですね」
「悪い事にはなりませんから。この制度は、領主様の趣味みたいなもので。税金やらギルドの資金から運営されているのですが、良く思っていない人もいます。ですが、住民もこの腕章の意味と、何の為にこんな事を領主様がやっているのかを、理解はしていますから。余計なトラブルを避ける為にも、街を出歩く時はつけて下さいね」
良く思わない人もいるのに、自らの身分を示すのか。逆に問題が起きそうな気がするけどなぁ。本当に信じていいものだろうか。
「では、説明は以上になります。何か質問はありますか?」
「この券は、3日以内に使わなかった場合は、どうなりますか?」
「えっ?! 今まで使われなかった事例がないけど…… たぶん4日後でも使えると思いますよ。しっかり管理してるワケでは無いので」
ノアが考えている事が分からん。使うにきまってるだろう。今もお腹が空いてきたぞ。今日こそマンガ肉を食べたいもんだ。
「あと1つ。3日後には、私達はどうなりますか?」
「どうなると言われても。完全な自由になる? 部屋の鍵は返してもらいます。食事券は配布されませんし。朝と夜も頼めません。普通に自活して下さいって感じですかね~。大抵の人は3日間で元いた所に帰る手筈を整えて帰りますね」
「分かりました。ありがとうございました。さっ、マスター行きますよ」
頭をはたくな! 分かってるよ。早く飯が食いたいんだろ? そんなに急かすなよ。ギルド嬢さんも驚いているじゃないか。
「もういいんですか? 他の人は、移動手段とか、遠方との連絡手段とか質問してくるんですけどね。貴方たちは変わってますね」
そりゃ、変わってるか。俺もノアも他の世界から来たんだし、元の所に帰る方法は今のところ無いだろう。
「えっと、ルーファンさん? ありがとうございました」
「いえ、仕事ですので。3日間は私が2人の担当なので、何かあったら気軽に声かけて良いですよ。出来るだけ忙しくない時にお願いしますね」
俺達は軽く頭を下げて、テーブルを後にした。
「マスター。正面入り口はカウンターの前の大きな両開き扉ですよ」
「それは、さすがに、2階から見て分かったよ」
「おっと。ずっと黙ってたから、てっきりギルド嬢ばっかり見ているのかと思いましたよ。私は情報収集しているってのに」
やっぱり、ノアとは喋りやすい。少しバカにされるのも、なんか心地よくなってきた。けしてMっ気はないのだけど。
冒険者稼業も昼休みをちゃんとしているのだろうか、カウンター回りの人が少なくなっている。誰もいないので、正面入り口の扉を強めに左右とも開ける。
「おぉ。 ファンタジー」
そこは、まぎれもなく日本では無かった。
まず、目に飛び込んでくるのは、遠くにそびえ立つ巨大な岩壁。どうやったら、あんな物が出来るのだろうか。両端が霞んでおり光と影の関係から、おそらく円柱状であろうと思われる。あまりにも巨大。周りには山などはなく、地面に筒を差し込んで、引っ張り上げたんではないかと思う異様さ。
目の前は広場の様になっており中央に4人の石像が立っている。なんか記念碑だろうか? もちろん通行人はTシャツなどは着ていない。車も通っていない。変わりに多くの人が民族衣装のうな物を着ており、革の鎧や武器を携えた人もいる。荷車を引いているのは、馬並みにデカいウサギのような生物だ。
「マスター、私は一人で行動しても良いですかね?」
「まず他に、言う事ないのかよ。コレ見て何も思わないのですかね?」
「必要に応じて驚く表現をする事もありますが、今要ります? コレがこの世界の普通なんですよ。驚く方がへんですよ」
そっか。そりゃ、そうだ。
「それで、なぜに単独行動を? それよりも聞きたい事がたくさんあるのですが」
「とりあえず、ここは出入口で邪魔なので、あそこに座りましょうか」
ノアが指さしたのは、石像の周りにあるベンチだ。有名な人達なのだろうか。いくつかのベンチには座って石造を眺めている人もいる。
横断歩道なんてもんは無いので、通行人、特にデカいウサギに気をつけながら広場の中央に行き、石像とは逆向きに並んでベンチに座る。なんか公園に座るカップルみたいだ。ちょっと恥ずかしいような。うれしいような。
「まーた、変な事考えてないですかぁ?」
「いやいや、考えてないよ! ってか、またってなんだよ」
「ふーむ。マスターが聞きたい事は分かってますが、まずは安全を確保したいと考えています。短時間でそう多くは調べられないでしょうが、この街に滞在するにあたって、とりあえず脅威になりえる物はないか探しておこうかと」
「俺も一緒に行くよ。ヒーロー志望ですよ? 街の脅威とか聞いたら、見逃すワケにはいかないでしょ」
「すみません。要らないです」
「えっ?」
「……」
「……」
しばらく無言で見つめ合ったが、恥ずかしさに負けて地面を見る事にした。
「えっと、どうしてでしょうか?」
「単純に足手まといです」
「えええええ!? なんで? ノアってサポート役でしょ? むしろ俺の足りない部分を補ってくれるんじゃないのですか? だったら一緒に行動して、俺が頑張ってる後ろから援護してくれるのが役目なんじゃないんですか??」
「近い! そんな、立ち上がって熱弁しなくても」
「いや、だってさ。いざこれから冒険って感じになってるのにさ」
とりあえず座り直す。が、俺の不満は消えない。わざわざ異世界に来たんですど、足手まといだから、おとなしくしてろなんて。
「俺、いちおう鍛えてたんで、そこそこ力仕事できますよ?」
「私の積載量は20トンはいけます」
「体力にも自信はあります」
「私の継続走行時間は3日以上です」
「あと、怖い人と対峙しても、ひるまないです」
「私は感情プログラムをオフにしてしまえば、悪魔が出ようが、ドラゴンが出ようが、冷静な状況分析ができます」
勝てねーよ! 勝てるわけねーよ! だって貴女ロボットじゃん! 比べる基準おかしいでしょ。
「なんか、俺は、何の為に来たの? 必要? ノアだけでいいじゃん」
「もちろん必要ですよ! 今は不要ってだけで。ちゃんと明日説明しますから。私にとってマスターはとっても大事ですよ」
「ホント?」
「本当です! なので今日は目の前の大通りを散歩してて下さいね」
「うぅ……」




