第105話 挙句の果てには野球拳ですか!
あれから、ノア4との2人暮らしをしている。
ノア4は、基本的にベッドから降りてこない。シーツを頭まで被って顔だけ見えるようににして、ずっと目を光らして、ミノムシスタイルで俺を監視している。
ずーっと見られているのは、恥ずかしいが、見ているのは可愛い女子高生なので、変な性癖に目覚めそうで危険だ。
それから喋らない。話しかければ応えてくれるが、自分からは、いっさい喋らない。しかしながら、俺が何かお願いすると、なんでも対応してくれる。
なんでもだ!
初日の昼過ぎに起きた俺は、さすがに身体を洗おうと思って、布とタライに水を用意し、顔を念入りにに擦った。
そのまま、上から順に首を拭いて、肩を拭いてたら、背中が痒くなって、背中を拭くのをノアに手伝ってもらおうと思って「ノア4。ちょっと拭いてくれないか?」と頼んだら「ワカリマシタ」と言うと、全部拭いてくれた。
全部だ!
背中から腕を拭いてくれて、前に周ってきて胸や腹筋まで拭いてくれるから、気が利くなぁ~と思ってたら、「早ク、ズボント、パンツモ、脱イデ下サイ」と凄まれ、全裸になってしまった。
まさか、ダリアさんしか触った事のない息子も、その反対に座する桃も、全て拭いてくれるとは思わなかった。
危険だ!
省エネの為か本当に喋らないし、かといって話す事をあまりないから、2日前はノアさんからの手紙について話かけた。「『部屋に引きこもりでストレス溜まった乳、揉んでも良い』とか書いてるぞコイツ! まったく、お前の乳じゃないのに、勝手な事を書くなって感じだよな?」なんて話をしてたら……
「ストレス溜マッテマスカ?」って無表情で聞くんです。おそる、おそるも、「少し溜まってます」って答えたら「ドウゾ」って言って服をめくって、下着も外して、胸をさらけ出した! なんとも危険だ。
もちろん、その神々しさにあがらえず、5分ぐらい堪能させて貰った。人生で初めて、女性の生乳を触ったが、驚きと恐怖と興奮の混じった何とも言えない気分になった。
俺を見つめる、冷たく無機質な人形のような青い瞳が痛かった。
さらに昨日は、ちょっと調子に乗っちゃって、脱衣エクシィを提案したら、俺が全裸にされてしまった。やはり演算処理能力とか予測計算能力とかはノアさんと同じで、むしろゲーム中に喋らないし、遊びとか手加減を一切しないので、恐ろしく強かった。
カードゲームに負けて全裸にされる。新たな扉を開きそうで危険だ。
「はぁ~。今日は、どうすっかなぁ~」
この3日間の俺のルーティンは、毎朝とりあえずトイレに行く事から始まる。
何故かって? そりゃ朝、目覚めた時に隣りに女子高生が横たわっていたら、俺よりも先に息子が起きてるからだ。しかし、トイレに来たら、何もしてないのに静かに寝てる。何故だ?
それから、鏡を見ながら誓いを立てる。今日こそは何もしない! そう自分自身に言いきかせる。
そうして部屋に戻る。8部屋もある廊下を歩いてても、この時に誰にも会わない。俺の起床時間が遅いからである。
夜にノア4が隣いるせいで、なかなか寝付けなくて、昼前に起きてしまうのだ。
それにしても、あと1週間の間、俺は耐えれるだろうか? ノアさんったらDTに、なんて危険なもんを送ってきたのだ!
ノアさんは、辛辣な言葉を投げてくるし、態度も厳しいし、鋭い雰囲気があるから何とかなったが、なんでも言う事をきく子はマズイですよ!
自分では気をつけているつもりだけど、言動や行動が、どんどんエスカレートしてしまう。1週間後には結婚してるかもしれん。
自室の扉を開けると、珍しく少し離れた所にノア4が立っていた。
「起きてるの珍しいな。誰か訪ねてきてたのか?」
部屋に入ると、ガチャガチャと音がして、足に何かが、ぶつかった。
「うべっ!」
慌てて避けようとして、変な声が出てしまった。見ると、その正体は御膳に乗った昼食だった。たぶんミンメイさんが来ていたんだろう。
いつもより早いな。いつもなら俺が部屋にいるけど、だから、ノア4が対応してくれたのか?
なんとか昼食をダメにせずに避けたが、部屋へとダイブしている状態だ。
だかしかし、倒れ所が悪いと言うか? いや、むしろ倒れ所が良くて、ノア4の胸へと飛び込んだ。
顔を胸に埋めつつ、両腕で抱きついて、転倒を避ける事ができた。本当は、この状態を堪能したい所だが、誓いを立てたばかりなので、急いで自立する。
ノア4の顔を見ると、なんとなーく、いつもよりも目が冷たい気がするが、こんなもんか。何か言わないとな。
「えっと。ありがとう助かったよ! ノア4の、その、胸エアバックは素晴らしいな!」
あっ! やべぇ。
変な事を口走ってしまった!
「そうですか。それは良かったです」
「えっ。あぁ。助かった」
「では、今後マスターのピンチには、可能な限りオッパイを突き出しますね!」
「えっ?!」
あ、あれ? まさか……
「まったく! 変な事はしないで下さいと念を押したのに。初日から裸で抱きついたらしいですね!」
「いや、あれはっ」
「しかも、ソープ嬢のように扱って、身体を洗わせたそうですね!」
それは! ノア4が――
「そして、乳も堪能したと」
それはOKって手紙に書いてたじゃないか。
「挙句の果てには野球拳ですか!」
いや違う! 野球拳では無い! さらに言うなら脱いだのは俺だけだ。ノア4は1枚も脱いでいない。
だが、俺の責任は重大だ。
「スミマセンでした。俺も自分なりに自制しようと思ってたいたんですが、ノア4は何でも言う事をきいてくれるんです! ちょっとした冗談で言ったつもりの事も、真面目に遂行してくれるんです!」
「そうですか。そうですよね~。こんな口うるさい私なんかよりも、純粋無垢でマスターの命令は絶対に従う、なんでも言う事をきいてくれる4号機の方が好みなんですよね~? 私の中身はマスターが設定したというのに。今から4号機にサポート役を代わりましょうか?」
俺は、その場で土下座した。
「違う! 違うんだよ。ノアさんの辛辣な言葉は俺への愛の鞭って、分かってるんだ! 毎日毎日、早く戻ってきてくれないか祈っていたんだから!」
「どうしたの? ケンカしてるの?」
後を振り向くと、開きっぱなしのドアの向こうに、廊下に立つシェンユがいた。
「シェンユ様。お久しぶりです。この度は、ご迷惑をかけて大変申し訳ございません。もう大丈夫ですが、あと2日ほど、そっとして頂けると助かります」
「うん。分かった。たまたま階段を上がったら、ドアが開いてて見えただけなんだ。オイラが閉めておくね」
「ありがとうございます」
久しぶりに見たシェンユは、珍しく空気を読んでドアを閉めてくれた。
「ちょーっと、鋭くすると、すぐに狼狽しますね! マスターが元気で良かったです。もっと落ち込んでいるかと思いました」
いや、ノア4に会うまでは、マジで落ち込んでたんだよ。
「マスター。ただいまです」
「おかえりノア」
ノアが帰ってきた。ちゃんと両腕も両脚もあるし、外傷は見られない。
「問題なく、治ったのか?」
「はい。直りました」
「そうか、良かった」
「昼食をとっては、いかがですか?」
「お、おう」
俺は先程、ひっくり返しそうになった。床にある昼食を机に移動させた。
お腹は空いているが、その前に言わなければならない事がある。
「ノア。聞きたい事がある」
「分かっています。食事をしながら話します。まずはジークの事で良いですか?」
「そう、それだ! 以前から前からジークの存在を知ってたろ? なんで教えてくれなかったんだよ!」
と、ちょっと、力んで声を出したら、腹が鳴ってしまった。恥ずかしい。
「まぁまぁ。全部、話しますから。食べながら聞いて下さい」
「分かった」
俺は毎日同じメニューの中華まんプレーンをスープに浸してから、食らいついた。
「私もジークについて詳しくは知りません。ですが、彼が強者で敵であるという事は判っています。彼の存在が最初に確認されたのは新界歴545年、突如現れた魔法を使う青年がサヤ様に戦いを仕掛けました。その時はサヤは圧勝し、ジークは死亡したと報告を受けています」
「待て待て待て。えーっと。報告って何だ?」
「サヤ様がGMに送っていた、この世界の調査報告です」
「そんなもんがあるなら言えよ~。いろいろと有益な情報があるんじゃないか!」
「それが無いんですよ。サヤの愚痴記録といいますか、異世界旅行堪能日記って感じで、何かしら仕事はしていたみたいですが、欲しい情報は載ってないです」
なっ! サヤ様は神の右腕じゃなかったのか? 仕事出来ない人なのか?
「ですが、GMはサヤ様に絶大な信頼をしてたので、仕事はキッチリ終わらして帰ってくるだろうと考えてみたいで。しかし、突然300年前から連絡取れなくなったのです」
それで、俺とノアが呼ばれたのか。
「じゃあ。その、大昔にサヤ様と戦ってジークは死んだんだろ? それは?」
「どういう仕組みかは分かりませんが、ジークは復活するみたいなんです。マスターと同じく不老不死なのか、別の仕組みか。サヤ様からも106年後の新界歴651年に再戦したと報告があります。再戦の結果もサヤ様の圧勝でしたが、その時は逃げられたそうです」
最強のサヤ様にケンカしかけて、逃げ切れたのか。ジークの野郎スゲーな。
「さらに新界歴810年、第一次我儘大戦の末期に現れ、人族側につき、龍人勢力を壊滅させ終戦へと導きました。その功績によりMA級冒険者となり英雄と讃えられます。その後、サヤ様に3度目の戦いを挑み死亡しますが、この時は、サヤ様も苦しい戦いになったそうです。これが報告で分かるジークの最後です」
偉大なる大魔女サヤ様を苦しめるとは、強すぎる。
「そして今から40年ほど前、私が2号機の身体でエデンの原初大陸メリアルア連邦国の南で世界の調査任務を遂行してる際に遭遇しました。私の存在がサヤ様と関係してると、すぐに看破され戦闘になり、倒す事も逃げる事も不可能だと判断したので、自爆しました」
「自爆?!」
「はい。ジークは明らかに手加減をしてましたので、捕まって情報を引き出されるよりは。と判断しダメージを与えつつ情報を秘匿するには自爆しかなかったです」
「ジークの目的は何だ? 何故、サヤ様に戦いを挑むんだ?」
「明確には分かりません。ですが、サヤ様は滅ぼした魔女族の復讐ではないか? と判断していたようです。ジークは魔女族しか扱えない魔法を使えます。サヤ様亡き今この世界で唯一、魔法を扱う存在です」
「もしかして魔女一族の亡霊とかか? だとしたら不死身なのを納得できる」
「それは違います。私の観測では人間でした。ちゃんと肉体を持った」
ジークの目的は復讐か…… 本当に? 世間ではサヤ様は死んだ事になっている。ジークが知らないとは思えない。
なら、今は何の為に行動してるんだ?
「っていうか、お前。サヤ様が魔法国家を滅ぼしたの、最初から知ってたな?」
「はい。しかしシェンユさんが話をした時、驚いた方がいいかな? と思いまして」
コイツ、大リーガーにもなれるが、女優にもなれるぞ。
「続けますね。ジークについて調べる事は難しく、関わらないのが最良と判断しました。私が戦闘したのは40年ほど前で、違う大陸で、私は死亡したので、こちらから探さなければ会う可能性は低い。また、マスターに不安を与えるような事も不必要であると考え、話していませんでした。いつかは会うとだろうとは、考えてましたが、まさか半年で邂逅するとは計算してませんでした。申し訳ありません」
「いや。今回のは偶然の出会いだろう? 仕方ないよ。俺もノア生きてたから、それで良しとしよう」
「いえ。偶然では無いでしょう。私を狙ってました。腕を欲しがったのも、何かしらの情報を欲していたのでしょう」
「ノアの腕から、何の情報が得られるんだ?」
「ジークの目的がサヤ様への復讐と仮定するなら、膨大な魔力についてとか?」
「魔力? なんでだ?」
「私は魔力を使って動いてますから」
「えっ?! そうなのか?」
「はい。倉庫にある、ダークマターを魔力に変換する装置から無限に魔力を生成し、ターンシステムを使って供給されています。私に魔力を技に変換する能力が無いので、魔法や魔術は使えませんが」
動力について聞いた事あったっけ? てっきり神からの不思議パワーで動いてると思ってた。
「そういや、前から気になってたんだけど、魔力って結局は何なんだ? 魔法と魔術の違いって何だ?」
「すみません。それについては、私は詳しい説明を出来ません」
そうだな。ノアは超テクノロジーの結集で、魔法とかには疎いんだったな。
「とりあえず、ジークについては以上になります。よろしいですか?」
「あぁ。ありがとう」




