第99話 300だけど、大丈夫よね?
帝都テンルウの2日目。
俺は観光名所の1つに来ていた。シン大帝国の中で海に隣接する都市は3つだけ、その1つがこの帝都テンルウ。その中でも高低差があり、海と港と街の風景を綺麗に1つの画面に収められるのは、ここ帝都テンルウのギルド第二南支部上部棟のみらしい。
というか借金があって、俺は此処から出られない。
フォルストは昨日からいない。そもそも、そういう契約らしく、妹に会う為に毎年この長期大型訓練の世話役を受けているらしい。戻ってくるのは明日の昼過ぎだ。
双子は今日も港地区へと出かけて行った。どうやらフォルストが育った孤児院の人達と仲良くなったらしい。
んで、ノアは帰りの旅路の準備をしている。ユウツオ冒険者育成学校はギルドと連携しているらしく、訓練での支給品の受け取りと返却はギルドで出来るらしい。なので建物内にいる。
俺はヒマなので、冒険者ギルドの中庭で人間観察をする事にした。絶対にトラブルに突っ込まないという約束をノアとして。
この世界に衛兵はいるが、警察はいない。衛兵は街に被害が出るような事じゃないと動かない。貴族は強者を抱えてるし、商人は護衛を雇ってるし、冒険者は己を鍛えている。基本的には自分の事は自分で守るのが、この世界の常識だ。
そんな事を考えて1日が終わった。今夜は双子も帰って来なかった。たぶん孤児院に泊まったんだろう。
3日目は、1人でギルドの中の食事場で人間観察をする事にした。朝食は金が無いので何も注文出来ないが、昨日と同じくノア様の倉庫にストックされている食料と水を出してもらった。
揉め事は外でやれ! なのか? 昨日は中庭で大なり小なり多くの争いを見たが、屋内は静かだった。依頼に出発する冒険者達が作戦会議をしてたり、徹夜の依頼をしてたパーティが帰還して報告をしてたり、F級冒険者と思われる少年、少女が「仕事はねぇか? 何でもやるぜ?」と依頼募集していたりだ。
ちなみに、ノアは昨日の俺を見て安心したのか、港地区へと出て行った。帰りの旅路に足りない物があるかフォルストに確認して来るとの事。
俺も行きたい。
そんな事よりも、借金は大丈夫なのだろうか? 俺が作ったので何も言えないのだが、ギルドの部屋を無料で借りれるのは今日の夕方までだ。それ以上テンルウに滞在するなら宿を取らないといけないハズ。
だかしかし、金がない。
いちおう予定では、今日の昼過ぎ15時ぐらいには出発するハズだが、それまでに借金返せるのか? でないと俺はギルドから出れない……
まぁ。俺が考えても仕方ない。何も出来ないし。ノアに任せて、昼ご飯をどうするか悩んでおこう。
昼時になって、昼食をギルドの食事場で取ろうとする冒険者が増えてきた。ちょっと混雑し始めると「何も注文しないならテーブルをあけな!」と追い出されてしまった。
まだお腹は空いてないが、昼食を食べるにはノアを待つしか無い。
やる事も座る場所も無いので、ロビーの依頼ボードを眺めてみる。
ユウツオと同じでハガキサイズの木製依頼書が、神社の絵馬掛けみたいな所にたくさん吊るされている。基本的にF~C級までしかなく。B級以上は第一南支部で管理されてるらしい。
「すみませーん! 来客がありますので、中央昇降機の前を開けて下さーい!」
「はい。そこの人達~、邪魔でーす。どいて下さーい」
依頼書を見てたらギルドよ受付嬢が2人出てきて、邪魔だと言われた。どうやら第一南支部から珍しく誰か来るみたいだ。
昨日聞いた説明によると、この建物は4階建になってるが、4階は屋上への出入口だけしかない。それで、その屋上には長~い連絡通路があり、第3層と第4層の段差にある帝都テンルウ冒険者ギルド第一南支部下部棟へと繋がってる。第3層は貴族区画になってるので基本的にはB級以上の冒険者に指名依頼が入り、呼び出されて中央エレベーターから屋上に上がって向こうに行くんだとか。なので中央エレベーターに人が乗って、上から降りてくる事は滅多に無い! と昨日聞いたばっかりなのになぁ~。
向こうから来るなら偉い貴族か。何しやってくるのか知らんが、ヒマだから見てみよう。他にも見物人が結構いるし。
しばらくして、中央エレベーターが開いた。そこには女性が1人と男性3人が乗っていた。
手前に立ってる女性は、首から肩と胸元まで見える白い改造チャイナドレスに半透明の布を肩から掛けている。艶やかな黒髪が肩まであり、長い下まつ毛と大きな目が童顔に見えるが、スタイルが良くて大人っぽくも見える。あと何か荷物を手に持ってる。
うん。ダリアさんだ。残りの人達は誰だ?
「おい、アレってウペロン=シャン・レン=ワンじゃないか?」
「本当だ。大商人の武力担当が何でこんな所に?」
どうやら1人はダリアさんの親戚みたいだけど、右のレスラーみたいなガタイ人か? 左のタレ目で目つきが悪い人か? さすがに後の牛獣人では無いだろう。
ダリアさん達はエレベーターを降りると、少しキョロキョロしてたが、すぐに俺と目が合った。
「あら、タツキ。 出迎えに待っててくれたの? ありがとっ」
「えっ? そんな、つもりじゃなかったけど……」
今日のダリアさんは貴族的な格好をしているからか、破壊力が凄い。普段の3倍は可愛いぞ!
「うーん。席が空いてないわね。どうしましょうか」
「ダリア。俺が空けてこようか?」
「ガオレン、そういう事はやめろ」
そんな事を言ってたら、ギルド職員がどこからか円卓と椅子を持ってきてセットしてくれた。
「シャン・レン=ワン御一行様。どうぞ」
「なんか、すみません」
「いえ」
さすが帝都の4大貴族様だ。ダリアさんは嫌そうな顔をしていけど。
せっかく用意してくれたので席に着く。俺の右隣はレスラーさんで、その隣にダリアさん、その隣にガラ悪さん、牛獣人さんはダリアさんの後に立っていた。
「タツキは昼ご飯は食べた?」
「いや。まだだけど」
「そう。間に合って良かったわ。弁当を持ってきたの。一緒に食べない?」
ダリアさんは、持ってた荷物を円卓に乗せて布を広げると中から3段式の弁当が出てきた。とても美味しそうだ。
「ダリアさんが作ったんですか?」
「あっ。ゴメン。私、料理出来ないの」
あっ。そうっすか。そういや、旅の間も料理は避けていた気がする。
「うちの自慢の料理人が作ってくれた物だ、食えば俺みたいにデカくなるぞ!」
「そ、そうですか。あの~、どちら様でしょうか?」
「おぉ。申し遅れた。第2夫人リンシャンの息子で、ウペロン=シャン・レン=ワンだ。ダリアの兄になる。よろしく」
「よろしくお願いします」
「父様は妻が5人いるの。それで、私は13人兄弟なのよ。ウペロン兄様は今日たまたまヒマしててクラスメイトに会いに行くって伝えたら、見てみたいって付いてきたの」
妻が5人だと!? あの人、すげーな。貴族だからか? 金持ちだからなのか?
「妹の命を助けてくれたそうだね。直接お礼が言いたくてね。ありがとう」
「あ。いえ、そんな」
まさか、こんな事になるとはな。残りの2人は何者なんだ? どっかで見た事あるような気がする。
「まずはノアから、頼まれた物を渡すわ。ダリウス、タツキに渡して」
牛獣人は俺のそばにきて3本の金の装飾が入った、赤黒い木の枝を渡してきた。
「300だけど、大丈夫よね?」
「300?」
「本当は帝都まで業者に頼むつもりだったから、使わずに済んだ分50万ぐらいあげても良いんだけど」
これは…… そうだ。この世界の通貨だった! この形、色、装飾は…… これ1本で100万ゼンだ。
つまりは、300万ゼン!?
「いや! 返します! 必ず返します!」
「このお金は私個人の資産からだから、返済期限は設けないわ。タツキを信じてるから」
「ありがとうございます」
俺は立ち上がって深々を頭を下げた。
ノアの言ってたアテって、ダリアさんだったのか。
「借りたもんは、ちゃんと返した方が良いぜぇ? まぁダリアはワザと返さなかったけどな」
「ワザとじゃないわよ。タツキ座って」
ん? ダリアさんも借金があるのか? 金持ちなのに?
まっ、いいや。深くは考えないでおこう。それにしてもレスラー兄さんと違って、ガラ悪さんは口調が恐いな。
「すみません。そちらの方は?」
「俺か? 俺はガオレン=ブリル=ワンだ。未来のダリアの夫だから、その金の返済が長くなるようなら俺の事も覚えとけよ?」
「えっ? ダリアさん結婚するんですか?」
「今、じゃないわよ! ガオレンも言い方を考えなさいよ」
「ダリアぁ。恥ずかしがるなよ~」
ダリアさんって、ああゆうのが好みなのかな? オラオラ系というか、ヤンキー系というか。別に俺とダリアさんは友人だけの関係だけど、なんか、ちょっとショックだ。
「私はシャン・レン=ワンの女だから、色々とあるのよ。条件とか誓約とかあって、最低でも学校を卒業した後よ」
「そうなんですね……」
「それよりもノアや他の人達は?」
「全員、6層の港地区に行ったよ。フォルストの妹が住んでいてね」
「出発は今日じゃないのかしら?」
「いや、15時には出発の予定だから昼過ぎには戻ってくるんじゃないかな?」
「そう。なら待とうかしら。皆に挨拶しておきたいわ。タツキ食事しながら、ここで雑談しない?」
「俺はいいけど。ヒマだし」
「ダリア。兄さんも一緒にいいかな? 飲み物を奢ってやるから」
「構わないわよ。ガオレンは帰る? 訓練があるでしょ?」
「今日は久しぶりの休みなんだぜ? ダリアの側にいてやるよ」
「あっそ」
ダリアさん、婚約者と兄さんで態度が違いすぎせん? あまり好きじゃないのかな? 色々あるって言ってるし、やっぱ大貴族だから親が決めた結婚とかなのかな?
「そうだ! 聞いてタツキ! 実はね、ガオレンと後に立ってるダリウスはレッドに会った事あるのよ!」
「えっ?! レッドに? いいなぁ。俺も会ってみたいよ」
「何言ってんのよ! 貴方は会ってるでしょ? ドラグマン・レッドよ?」
そっちか! という事は大砂漠落下事件の時にか。どうりで見覚えがあるわけだ。
「おぉ! その話か! 是非とも聞いてみたいと思っていたんだよ。妹よ詳しく聞かせてくれ」
「いいわよウペロン兄様。そうだ! タツキもいるし、私が落ちた所から話をしましょう。落ちた瞬間に気を失ったから、タツキがどうやって私を助けたか、最初にレッドがどうやってタツキを助けたか知らないわ。聞いてもいないわね」
「あ、あぁ。でも、もう3か月ぐらい前の事だし、俺は少し忘れてしまったよ」
やべぇ。話する事になるとは思って無かった。設定を考えてないぞ?
「じゃぁ、頑張って思い出しておいて。先に落ちる瞬間の話をするわ。私は鮮明に覚えているわ。一切の躊躇なく自分の命を考える間もなく、私を助ける為にすぐに大防壁から跳び出してくれたタツキを。あの時のタツキはかっこよかったわ。私は恐怖で無我夢中で抱きしめたのを覚えてる。今考えると恥ずかしいわね」
「タツキさんは勇敢だな。ダリウスこれで皆に飲み物を買ってきてくれ」
「分かりました」
それから、ノアとフォルストと双子が戻てくるまで食事をしながら、雑談をする事になった。
俺がダリアさんを助けた事から始まり、レッドが来て俺を助けてくれたストーリーを急いで、でっち上げて、レッドがダリアさんを助ける。途中でガオレンが砂漠を走るダリアを助ける話と、迫りくるサンダイルから商業団を守る話、あとレッドをアシストした話を長々と本人が語ってくれた。
どうやら魔力で巨大化する剣は元々、ガオレンの所有物だったらしい。アレが無ければサンダイルは倒せ無かった。ちょっと苦手な感じがするが、このヤンキーさんには感謝しないと。
弁当も美味しくて、ダリアさんは饒舌でレスラー兄さんも楽そうに聞いてくていたけど、何故かダリウスって牛獣人は終始、不満そうな顔をしていた。




