第1話 スーパー戦隊のレッドになりませんか?
初めて小説を書きます。よろしくお願いします。
ものすごーく、気持ち悪い。
*
辺りは薄暗く、黒い霧のかかった様に先までは見えないし、地面はそこらじゅうにゴロゴロした大小さまざまな石があり赤身がかっている。何もないので荒野というのだろうか? 火星にでも来た感覚というのが正しいかもしれん。
俺は、その荒野で両手を付き、膝をつき、嗚咽を流している。
病気という感じではないが、スイカ割りの前準備でバットを軸にグルグル回った程度に近い。
「うう…… なぜ、こんな事になっているのだろうか」
たしか俺は、故郷の田舎を想い高層ビルの屋上から、巨大都市の一部分をながめていた。
警官の夢が潰え、消防隊を目指したが挫折し、自衛官になったが、上下関係とイジメから逃げていた。自分の手が守りたかったもの、この街のヒーローになりたかったが現実は甘くはなかった。
どれほど眺めいていたかは覚えてないが、行く当てなく歩みだそうとした時に突風が吹いた。
なぜ柵を越えた位置で眺めていたのか、今思うとバカだったのだが……
そう、俺は落ちた。
風をきって勢いよく、空を飛ぶかのごとく落下していき、ぐんぐん近づくコンクリートの地面に死を感じた。反射的に強く目をつぶり予想している最悪の結果を待ったが、思ってたよりも滑空時間が長くだんだんと風は弱くなり、目を開けるとこの荒野にフワリと着地した。
その瞬間、強烈な吐き気に襲われ四つん這いになって、今に至る。
「あの~、大丈夫ですか?」
なんとか背後に目をやると、黒いローブに黒いフードの何者かが立っていた。深く被ったフードで目は見えない、唯一見える口元は人間っぽい感じだ。
「人によるんだけどね。3日ぐらい寝込んでしまう方もいて、もう、どうにもならないんだけど。どうでしょう? お話できそうですか?」
「ちょっと…… あと少し…… 時間をくれ」
「分かりました。良くなったら、声かけて下さい」
吐き気に耐えながら黒い奴を凝視していたが、奴は置物になった様に、まったく動かなくなった。
いろいろと混乱する事がたくさんあるのだが、この気持ち悪さのおかげで冷静になれている。というよりも喚く余裕がない。すでに喚いているに近いのだが。
*
どれほどの時間が経過したのか分からないが、かなり良くなってきた。3日寝込む人もいるというのだから軽症ですんだ方なのかもしれない。
辺りは相変わらず薄暗いままで、少し冷たい風が吹いている。
「まったく、時間の感覚が分からないな」
キョロキョロしながら呟いたが、黒い奴は反応しなかった。どうやら声をかけないといけないらしく、立ち上がってみたものの心の準備が欲しかった俺は、しばらく棒立ちで黒い奴を見つめていた。
コイツ何か知ってる風だったし、この吐き気はコイツのしわさだろうな。
「ふぅ…… おい。ここは何処だ」
「大丈夫みたいですね。早めに回復して頂き感謝します」
声からするに青年の印象を受けるが、見た目からは全く判断ができない。思っていた感じと全然違う。難しい言葉を使う仙人か天真爛漫な女神かと思っていたが、そうではなく根暗な冷たさを感じる。予想だともっと神々しいイメージをしていたのだが、なんか子悪党という感じだ。
それなりにアニメや漫画が好きだった俺は吐きながらこの状況を推測していた。
「お前、神か?」
「はい? いや、どうだろう。そうかもしれない」
「これは、異世界転生ってやつだろ?」
「あぁ、そんな感じです。理解が早くて助かります」
本当に神か? なんか、たどたどしいというか胡散臭い気もしてくるが、さっき飛び降り自殺的な状況になってたのが普通に生きているし、というか死ぬつもりなん無かったんだけど、どうなったんだろうか。俺は死んだのだろうか。ここは天国には見えないので、まさか地獄か……
「困惑しているようですね」
「そりゃそうだろうよ。いきなりこんな状況になって混乱しない方が、おかしいに決まってる。死んでしまったんだぞ? それなりにショックとかあるぞ。さらに地獄だし」
「生きてますよ。地獄でもないし」
「はっ?」
「それでは、さっそく本題なのですが」
「いやいや、待て、生きてるのかよ! 今の短時間でなんとか絶望に順応しようと思っていたのに、希望あるじゃないか。だったら早いとこ元には戻してくれよ。俺は死にたくて死んだわけじゃない。死んでないみただし。ちょっと人生に挫折して高いビルの上から街を眺めてただけなんだ。誤って落ちてしまったが」
「それを、自殺というんですよ」
「誤ったと言ってるだろ」
「ここに運ばなければ、死んでいましたよ」
「うっ。確かに」
黒い奴が次の言葉を話さなかったので俺も黙る事になった。あの状況だと奴は俺を助けた事になる。どうやら推測していた異世界転生物とは違うみたいだけど、助けた代わりに何か契約させられるのだろうか…… よく考えれば、神には見えないし、まさか悪魔か!
「すごい顔ですね。話せるまでの時間が短かったので、いろいろと覚悟が決まったのかと思っていたのですが、その為のあの症状だったので、克服するの早いなぁと感心していたんですけどね」
「はっ? なんだそりゃ! すごーく気持ち悪かったんだぞ! 心の整理をする為に長時間吐き気を促すとか、どんなやり方だよ! 3日間あれ続けば、もう話しを聞くだけで精一杯になるぞ」
「話を聞かせる為に有効だなぁと思って」
「一方的すぎるな! 拒否権とか与えたくないのか。悪魔だよそれ」
「それだけって訳ではないですけど、ここに来るのにはあの症状が出てしまうらしくて、しかしながらこの場所でしか話が出来ないのですよ」
「って事はなんだ。生きてるし地獄ではないとしたら、話をしたいが為に超能力的な方法で謎の空間に拉致してきたという事かね」
「その解釈でも大丈夫です」
「悪魔だよ。それは。本当に何者なんですかアナタは」
やばい本当に悪魔に見えてきた。
「まぁ、私からすれば悪魔でも神でも何でもいいですけどね。あまり違いが分からないですので。神でも神罰とか言って人に害する事はあるでしょう? 結局のところ人では理解しえない能力を持った者に対するカテゴリー分けなんじゃないですか? とりあえず、私の話を聞いてもらえませんかね? さっきから話が進まなくて困ってるのですが……」
なんだろう? とにかく自分の言い分を聞かせたいというだけの為に不思議空間に転移させるとか、やり方は無茶苦茶だ。
しかし言葉は丁寧だったり、こっちの問いには答えたりと親切ではある。おそろしい奴だが悪い奴では無いといった感じだろうか。
「あぁ、俺が悪かった。ちょっといきなりな事で混乱してたんだ」
「それを解消する時間稼ぎの酔い症状だったんですけどね」
「いや! アレは間違ってると思うよ!!」
まったく、あんな身体的ダメージで疲弊させておいて、話を聞く状態にしようなんて、そこは人道的では無いぞ。むしろ危険な奴だ。
「それでは本題に入りますね。すぐに理解するには難しい話になると思います。それから少し長い説明になるかと思いますが、とあえず最後まで聞いてから質問をしてもらうと助かります」
「分かった。まずは話を聞こう」
黒い奴は深呼吸したかのように、間をおいて2歩ほど距離を詰めてきた
「スーパー戦隊のレッドになりませんか?」
「はぁ!? 何言ってんの??」
俺は2秒も持たずに話を止めた。