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02 出合2

 エミリアの認識では、その高さから地面に落ちる事は、死ぬことはなくても相当な痛みを伴うであろうと考えていた。


 実際、エミリア自体ベットから数回落ちている、正確には高さ40cm程のベットから、ずり落ちただけで、痛い事ではあってもケガする程ではない、しかし11歳の時、乗馬の練習中に落馬した時は別であったからだ。

 幸いにも、馬が小さめであった事、練習用の馬場が砂を引き詰めた物であった事、エミリアが小柄だった事から、大ケガには至らなかった、しかし自身より高い所から、背中を下に落ちたため、まともに呼吸出来るまで数分掛かった苦しさと、その後、約一週間、体を動かすさい背中に走る痛みに悩まされた記憶が残ってた。

 尻餅でお尻が痛いとか、腰が引けたとかではなく、苦痛の記憶による拘束がエミリアを動けなくしていた。


 そして、スローモーションが解ける様に、青年の体が斜面に合わせて転がりだした。

 青年は落ちた時には、横向きの状態まで回転してたため、次の瞬間にはうつ伏せの形で地面に当たる、なおも回転が止まらず仰向けに体が戻る、同時に遠心力で左腕が体から離れ、背中が着くと左腕が受け身を取る形に、丁度一回転で体が止まった。

 「イッテェエ~!」

 止まると同時に青年がそこそこ大きな声を上げた、反応が早すぎる、落下する前から意識があったようだ。

 すぐさま体を起こす青年、足は胡座を少し崩した形、左膝が少し立ちぎみ、顔は下を向いて、右手の平を前髪の下にもぐらせ、額を強く抑え、左手の平は左耳上側頭部を強く抑え、両手の平で小刻みに頭をさすりながら、言葉を続けた。

 「やっぱ!落としたじゃねぇか!()()()のヤツゥ!」

 エミリアは青年の声で、少し拘束が解け始めた、同時にイシィリアでない事から冷静さを取り戻しつつあった、そして声を掛ける。

 「あ、あのぉ」

 青年に対して右側にいた、エミリアの呼びかけに青年が反応した。

 少し顔を上げ「ん?」。

 少し顔を右側に振り「ん?」。

 更に上体を90度右側に振り、斜面の高い方にいるエミリアを、少し顔を見上げる形で視界に捉える、頭をさするのは止まっていたが、手の平は頭に付いたまま。

 「ん?ん~ん?」


 額に当てた右手の平で前髪を持ち上げ()()()の瞳を出し、視界を良好にしてエミリアを見据えた青年が思考する。

 (「あらまぁ~、こりゃまたカワイイというか、メンコイというか、日本人じゃ作れねぇ顔立ちだけどぉ↘、あの目は?アレだね!関係者確定!、てか?なんで黒髪?、染めてんの?、そういう外人さんもいるこっちゃいるけど、”アリ”といえばアリかなぁ?、ん~、とりあえず!」)

 「えぇと、“パンツ“見えてるんだけど?」

 青年から見たエミリアは、体育座りで少しだけお股を広げた美少女がいるのが現実で、スカートの中が見えるのも当然だが、エミリアの反応は期待と違ってた。

 「え?パンツ?……」

 エミリアは目が点になり、”キョトン”と、理解していない表情、それを察した青年が続ける。

 「あ!、えっとぉ……、ズロース?、ドロワース?だっけ?」

 「あぁ、下着ですね、ごめんなさい」

 エミリアは返事をしながら、何事もなかった様に、両膝を地面に付き正座の姿勢に、そしてスカートの裾を整えた、その時の青年の思考は。

 (「あれぇ?『キャア~!』とか『ウワワァア!』とかじゃないんだ?、てか?なんで謝るんかな?、文化の違い?なのか?、んまぁ、こっちの方がましかな?、たぶん?」)

 今度は、青年の思考中にエミリアが訊ね返してきた。

 「あ、あの、お尋ねしたい……こ……と…………」


 エミリアは話し始めるとすぐに、右側へと視線が動いていた。

 視線の先には、また、”アレ”が出現している、そしてエミリアの言葉は途中で止まっていた。

 今回は、三次元ではなく二次元で、青年の左側約1m、青年の顔の高さを中心に直径約1mで、青年から見て大きな円、壁掛鏡の様な形状で厚みがない物であった。

 円の外周は、幅3cm程で輝く額縁の様に見え、残りは鏡面の様にフラットだが、光は放たれている、円形の窓とも見える。

 エミリアの声が止まるとすぐに、鏡面中央部に変化があった、水面に油を一滴落とした様に、”モヤ”とした感じの、歪な光の波紋が広がる、波紋と言っても鏡面自体はフラットのままで、そこから黒色の直方体の物体が長手方向を先にして飛び出てきた。

 物体は飛び出てきたものの、放り投げられた感じで、青年の胡座をかく膝と膝の間に、長手方向の底面が当たり、そこを軸にして長手方向が立つ状態で青年の胸へ。

 青年は慌てることもなく、それを両手で受け止める、それでも「おっと」と声が漏れた。

 物体は、厚めで丈夫な黒い生地、幅約50cm、高さ約40cm、長さ約1mで、両側面と正面には、大小さまざまなポケットとファスナーが有り、裏面には、少し厚みが有り幅約6cmの帯状の物が二本、軽登山用リュックであった。


 リュックが長いため、青年は右頬にあて両手で抱えてる、優しく抱き枕を抱えてる様に見える事と、膝に落ちたさい、衝撃が無かった事とから、大きさの割には中身が軽い事が解る。

 ”おっと”の声が漏れた直後に、リュックの後を追う形で、鏡面から女性が半身だけとびだしてきた。

 もちろんイシィリアである、彼女は右手に何か握りしめ、額縁の様に見える縁の下のところに左手を付き、お臍の辺りまで身を乗り出しているが、表情が険しい、そして、かなり長めの()()()()()()を揺らしてた。

 目は吊り上がり、口も両側が吊り上がり、今にも”火”を吹きそうな”イライラ”した感じだ、そして大声で青年を怒鳴る。

 「ハイ!、タロウ!、わすれもン!」

 同時に右手に握りしめてた銀色の塊を、怒鳴るトーンとは違い、青年に向けて軽く放り投げた。

 青年はすぐさま左手でそれをキャッチし、同時にイシィリアに怒鳴り返す。

 「はぁ↗?、てか、おとしたよね?、お・と・し・ま・し・た・よ・ね!」

 青年は話しながら、ズボンの左のポケットに、それをしまった。

 「ち・が・い・ま・す!、おち・ちゃっ・たん・です!」返すイシィリアが、慌て気味に続けた。

 「てか!、”ハナ”が!チョウヤベェから!、もぅいくね!」

 言い放つと同時に、鏡面の中に戻だしたイシィリアが、エミリアの視線とピタリと合う、動きが止まるイシィリア。


 エミリアは正座から膝立ちになり、両手を顎下で結び半泣き状態、小さい嗚咽も漏れだし、カウントダウンが始まっていたが、イシィリアが話し出す、あからさまな作り笑いで。

 「あぁぁ、エミーちゃん、久しぶりぃ、てか!マジ!ヤバクッテ!、チョォ~急いでンのよぉ!、ウン!マジ!ゴメン!、必ず埋め合わせするから!、ホント!ゴメン!」

 頭を少し下げ、両目を瞑り、顔の前で両手の平を合わせるイシィリア、そして青年の方に顔を向け、続けた。

 「ほいじゃ、タロウ!、後よろしくぅ!」

 イシィリアは、話し終わる前に、右手を額へ伸ばし敬礼の姿勢をしていて、話し終わると同時に右手を少し前にだし、そのまま後ろへ後退し鏡面内に消えた、そして物体が一瞬でそこから消えていた。

 

 イシィリアの退場と、微かに耳に届くエミリアの嗚咽に、青年は動揺していた。

 青年が左をそっと向く、池がある、続いてゆっくりと右を向く、カウントダウン中のエミリアが青年を見ている、そして思考する。

 (「えぇぇ、何やっちゃてくれてんの、女神(イシイ)さん、イマイチ状況わかんねぇとこなのに、まるなげって、てか!あのコ、もう泣いちゃってるんですけど、もひとつ上の段階(ギアー)あるよね?、こわいんですけど!、逃げる?うん!後ろは池だね!、ニゲル?うん!あのコの横を強行突破!ムリぽい!、摘んでね?ツンでるよね?、いあいあいあ投げる前に打つ手を考えなきゃ!、そもそも言葉通じてるし、話せばなんとか……?、ん?、ン?、通じてる?、うわぁぁぁ、口元決壊寸前じゃん!」)


 「あ~↗!」

 突然、青年が大声をあげる、同時にリュックを右側へ置き、胡座から正座に座り変わり、大声で続けた。

 「ほんとぉ~に!ゴメンなさい!、マジで!ゴメンなさい!」

 青年は、両手を前に付き、額を地面に当てた、土下座だ。

 大声を出す事で対象者の注意を引き、更に明確な行動、もしくは理解不能な行動で、対象者の思考を自身へと誘導する為の行為、そうエミリアの大泣きを回避する為。

 エミリアの嗚咽の間隔(ピッチ)が長くなりだした、青年は額を地に付けたままで。

 (「お!?、効いた?、効いてね?、効いてる!といいけど?」)

 恐る恐る、青年が顔を上げエミリアの表情を窺う、エミリアは半泣きのままだった、そして青年は思う。

 (「効いてる!、けど、たりねぇ!?、てか、半泣き(はんべそ)で、あのカワイさて、どいう事よ?、じゃねぇ!もう一回(もっかい)!」)

 「ゴメンなさい!、ゴメンなさい!、ゴメンなさい!、」

 三回、謝るたびに、額を地に付ける青年。

 「ほんとぉ~に!、ゴメンなさい!」

 声のトーンを更に上げ、も一度謝る青年、そして祈る。

 (「収まってね!、お願い!、泣き止んでね!」)

 今度は、ゆっくりと顔を上げる、青年が見たエミリアは、左右の手は軽く握られて、大きな目からこぼれ落ちてた涙を、交互に拭ってた、嗚咽は止まってた。

 それを確認した青年は、肩の力を抜き”ふぅ~”と軽く息を吐いた、同時に右手で前髪に着いた土埃を払い、そして右手で前髪を撫で上げ”ニコ”と笑みを浮かべながら、エミリアに優しい声で話しかける。


 「少しは……、落ち着いたかな?」

 エミリアは、涙を拭いながら小さく”コク”と頷いた、その時思った事が。

 (「笑顔がイシィリア様に似てる、顔は似てないのに?、なんだろ?これ」)

 「ん!、それはなにより!、でね、ちょっといいかな?」青年が問いかける。

 「ハイ、あ!、あの、取り乱してしまって……、すいません。」エミリアが応える。

 「あ~、全然、気にしなくっていいから、そもそも”アレ”が原因でしょ?、それとさぁ、キミってさぁ、”アレ”の知り合いだよね?、”神技(しんぎ)”使えるコだよね?、俺も使えるはずなんだけどさぁ、ココに来たばっかなもんで、色々教えてもらいたいんだけど?……」

 エミリアに話しかける青年は、少し違和感を感じていた、一つ目は”アレ”という時に、イシィリアの消えた場所を左の人差し指で指した時、二つ目は”神技”と言った時、そして思考してた。

 (「ん?、イシイのこと”アレ”呼ばわりして、”オコ?”、ん!”オコ!”だな、んで、”神技”の方が、落ちるンだね?、てか?落ちすぎじゃねぇ?、あら?ふんじゃた?あら?ふんじゃった?てネコじゃねぇし!、いあいあいあ、足を上げなきゃいいんだよね?”地雷”て、たぶん?」)

「あ~、教えてと言っても、初対面では、そうは行かないよねぇ、ん~、”とりま”俺の現状を聞いてもらえるかな?」

 青年の問いかけに、顔は青年の方を向いたままエミリアは、左の手の平を顔へ向け膝の上に、右手の人差し指を左の手の平に乗せ、文字を書く仕草をしていた、そして答えた。


 「ハイ、あ、後で私も伺いたい事がありますけど、よろしいでしょうか?、それと……”とりま?”とは?……。」

 「ウンウン、ありがとね、それで……、”とりま”だけど……、ン~、取りあえず、まあ……、みたいな感じの時につかいます……、OK(オッケー)?」

 「はぁ、なんとなくは、それで”オッケー”とは?」

 エミリアは手の平に文字を書く仕草を続けながら思考していた。

 (「なんか話し方へん?女の人の真似?、それに、聞いた事がない単語が多すぎ、なんとなくわかるのもあるけど……」)

 エミリアの連問に、青年は苦悩していた、両手の平を頭に当てて、髪の毛を”ワサワサ”と揺すりながら思考する。

 (「だあぁ~!、オレはバカだ!、わかってるのに!、ついつい慣れた言葉が出てきてしまう!、てか!女神(イシイ)の設定おかしすぎるだろ?、なんで21世紀の日本にしねぇんだよ!?、中途半端にもげん……ど……が……」 ←注 カッコが意図的に抜けてます。

 エミリアは、イシィリアの悪口に対して、鋭い視線を青年に向けていた、そして青年は”漏れていた”事に気が付き、両手の平を膝に乗せて一言。

 「漏れてました?……」

 「はい、最初から最後まで」


 エミリアは悪口に対して怒っていたが、同時に青年に対しても興味が湧いていた。

 (「どうしてイシィリア様の悪口をいうのかしら、嫌いなのかな?、でも……、なんか空回りしてるのが”おかしい”、あ!、後ろめたい事とか隠してるのかな、用心しなきゃ!」)

 「それで、”オッケー”とは?」エミリアが繰り返す、怒っていた表情は消えていた。

 エミリアの表情を見て、青年が直ぐに答える、まだ少し動揺を残したまま。

 「あ~、うん!、オッケー、オッケー、んとね、今、いい言い回し?てか例文を『あぁ!”わかった”』……ん?」

 エミリアが話を遮り話し出す。

 「”わかった”ですよね?、えぇとですね、あなたが私へ”わかりましたか?”問いかけですよね?、それに対して私が理解していれば、”オッケー”わかりました、その様な使用法ですよね?」

 「そそそそそ!、正解!、てか?、キミ!頭いいよね?」

 短い会話の中から、知らない単語の適切な使用例まで導き出したエミリアに、青年は驚いていた、勿論嬉しい驚きだ、同時に少しの安堵感も、そして気も緩んでいた。

 「いやぁ、チョ~たすかるは、マジで、これで”コミニケション”取りやすく……な……る……よ……ね……」

 エミリアは青年が話し終わる前に、”クス”と笑みをこぼした、そしてすぐ真顔に戻り問いかける。

 「あのぉ、ちょっといいですか?、『はい?』、先程のイシィリア様との会話中でも、解らない言葉があったのですが?、『はぃ↘』、では”ハナ”とは?、『あ、それは人の名前です』、はい了解です、では、”チョォ”、”ヤバクッテ”、”マジ”、それと”コミニケション”というのを」

 ”いい人”とまでは言えない、”人がいい”と感じたエミリアのちょっとした意地悪であったが、青年の前では初めて見せた、まともな笑顔であった。


 青年はエミリアの笑顔を見て、二度目の安堵を感じていた。

 (「うぁ、笑うと”天使”じゃん、いあいあいあ、うん、やっぱ頭いいは!このコ、まぁオレがバカなんだけど、意地悪出来るて事は、見た目よりも大人だね、ただ?瞬間湯沸かし器の大泣きモードが気になっけど、まぁいけるよね?」)

 「あぁ、あのね、オレて頭わりぃし、育ちもよくねぇから、丁寧な言葉使いが下手なのね、どっちかっていうと大嫌いなんだけど、でね、砕けた感じで話してもいいよね?」

 青年としては、自身のリラックスを維持しつつ、少しだけの主導権を取りたい言う要望であった、それにエミリアがこたえた。

 「はい、全然かまいせん、オッケーです!。」

 (「うん、すぐ、使っちゃうんだよね!、頭いいし!若い女の子だもんね!、うんうん、でも”です”を削って欲しかったなぁ、ちょっと(ちと)おしいぃ」)

 青年の思いは置いておき、近代日本で使われている、あやしい言葉の説明会が始まった。


 青年の説明会は、約15分程で終わった、エミリアは異文化の言葉、それの言葉遊びの様な言葉が、かなり気に入っていた、年相応の女の子らしく、少しはしゃぎ気味に見える、新しい知識を手に入れたのだから、当然なのかもしれない。

 一方青年の方は、少しお疲れ気味に見える、そして話し出す。

 「あのさ、ちょっとだけ休憩してもいいかな?」

 「はい、構いませんよ」

 「あ!」エミリアがこたえた後、青年が声を上げ、左右を見回しエミリアに問いかけた。

 「そこら辺に生えてる、背の低い雑木てか若木!、貰ってもいいかな?」

 「えぇ、大丈夫だと思いますけど、何に使うんですか?」

 (「うむうむ、”お使いになる”とかじゃなく、”使うん”になった?、いい傾向じゃね?」)

 「うん、ちょっと見ててね!」


 青年は、右側に生えてる高さ約1.5m、幅約50cm、小さな葉っぱを沢山纏った広葉樹の若木を見ながら、右手の平を上に少し前にだした、そしてほんの一瞬、青年の両目が白く光った。

 ”シュゥッ”と言う音と共に、若木の上部30cm程が一瞬で消え、同時にその場所から湯気が上がっていた、湯気もすぐに空気中に拡散される。

 「アッチ!……」

 青年が右手の平を下向きにして、左右に振り続けながら声を上げた、地面には手から落ちたであろう、細めのカチューシャらしき物が湯気を上げていた。

 「くぅ~、しっぱいかぁ」

 続けて青年が、右手の平を見ながら呟いた、手の平には爛れてはないものの、赤く細い火傷を負っていた。

 エミリアにもそれが確認できたため、少し前のめりに、青年の手を覗き込む、心配そうな表情で。

 「大丈夫ですか?……」

 エミリアも台所へは毎日のように立つ為、火傷の経験はあった、爛れてはいなくても痛みが大きい事が解る程の火傷であった。

 「あぁ、へいき!へいき!、うっし!、念のためコレを!」

 青年はエミリアへの返答も早々に、また同じ行動を取る、そして”シュゥッ”と言う音と共に、若木の上部が更に20cm程消え、湯気も拡散してた。

 「イエス!、熱くない!、あ!……、無駄骨かぁ?」

 「えぇっと、失敗ですか?」


 青年の一人話にエミリアが問いかえた、青年の手の平には白い手袋が()()()()()、それをエミリアの方へ差し出しながら、苦笑いを浮かべ話し出す。

 「二つとも物としちゃ、成功なんだけどさぁ、工程というか?過程というか?、立案もかな?、そこに”ミス”がねぇ……、とりまぁ、こんな物つくちゃたけど?、触ってみて」

 「あ、はい、落ちたのはカチューシャですよね?『んだよ』」

 「で、手袋ですよね?『んだんだ、で?どんな感じ?』」

 「これ毛糸じゃないですよね?『そこに生えてやつが原材料だから、見てたよね?』」

 「はめてみてもいいですか?『どぞどぞ』」

 「ミトンほど暖かくないですけど、手に馴染むかんじです『あ、防寒じゃなくって、作業用なんだ、それ』」

 「皮手袋より柔らかいから、使い勝手はいいかもですね?『あぁ、柔らかい皮手も作れるよ、たぶん?』」

 会話中にエミリアの視界には、リュックを開けて中から、透明な紙に包まれた白くて細長い箱の様な物を出す青年がいた。

 青年は透明な紙の端の方を、右手人差し指の爪を使いこじ開け、中から、手の平に乗るほどの小さめな箱らしき物を一つだけ取り出した、細長い箱ではなく、小さめな箱を数個纏めて包まれた物だった、そしてすぐさま残りの多い方を、リュックにしまってた。

 小さめな箱も透明な紙に包まれており、また青年が指で剝がしていた、今度は箱の外側を一周して、糸の様な細さで透明な紙を切り分け、蓋らしき部分を開けながら、蓋に残っていた透明な紙を外して、右手の平に納めた。

 開けられた中には、更に銀色の紙が見える、それも右手でむしり取り、再び右手の平に納め、そのまま親指と人差し指で細長い中身が取り出され、更に口元へ運ばれ、青年がそれを銜えた。


 青年が中身を出してた頃、エミリアは”皮手袋……”の件を話しながら”グッパ、グッパ”と手の平を開け閉めし、手袋の感触を確認してた、同時に思考も。

 (「あれ(カチューシャ)これ(てぶくろ)て、神技で作ったのよね?、それと今出した物、なんで?、何回も包装してあるんだろ?、高価な嗜好品なのかな?、透明な紙も気になるし……、あっ、銜えた!、食べ物なの?、気になるぅぅ……」)

 青年が細長い物を銜えたまま、ベストの左上のポケットに左手で箱を、同時に右下ポケット裏にある横ポケットへ右手の紙くずをしまった、そして右手を落ちているカチューシャに伸ばし、人差し指でそっと触った。

 「うん!、冷めたポィ」

 一言言った青年は、カチューシャを拾い上げ、両手で持ち前髪の下へと運び、額から一気に耳上まで滑らせ、表情を露わにして、話を続けた。

 「ちゃっちぃ物だけど、初検だから仕方ないよね?、んで!今のが()()()の神技!、何かを創る”創造”て言うみたい」

 青年はドヤ顔ではなかったが、そこそこ自信ありげな表情だった、そしてエミリアが問いかけた。

 「あの?、”ちゃっちぃ”とは?」






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