01 出合1
初投稿です。
よろしくお願いします。
昼下がりの午後、生活道路とはとても呼べない幅1mの荒れた小道を進み、森を少し入った所にある小さな湖畔、正確には約100m四方の溜池なのだが、日光の反射が無い所では10~15cm程の魚影が見えるほどの異常なほどの透明度のため、池とはおもえない場所である。
小道は、少々の雑草が生えているが、そこそこ踏み固められているところから、牧拾い、山菜採り、狩猟などに使われているのだろ、そして小道は山道へとかわり、更に幅を狭め森の奥まで続いてる。
森に入り、十数メートル進むと池に一番近づく、そこは直径40~50cm二本の木に挟まれた3m四方程の平地で、池に向かいなだらかな傾斜になって池に接してた。
小道同様踏み固められてるが、雑草が無い所から、そこだけ手入れされてることが分かる、森に入った者が出る時に、手や道具を洗う場所であろう。
そこに、一人の少女がいる、白い襟付きのシャツ、左右にポケットのある、水色で膝下10cmくらいのシンプルなスカート、靴紐は茶色、こげ茶で足首が隠れるくらいのハーフブーツ、白いソックス、高価な服装には見えないものの、みすぼらしくは見えない。
背丈は140cm前後、年齢12歳前後の体型、白い透き通る様な肌、輪郭は、少し頬に丸みがあるものの、顎にかけてのラインはバランスが良いため、健康的な美しさがある。
琥珀色よりも黄色に近い瞳、浅めの二重瞼に少し下がりぎみ目尻、顔の掘りは深めなのに悪目立ちしない鼻筋、サイズは普通なもののプリとして柔らかく弾力性があるのが見てわかる唇、髪はストレートで長さは肩にかかるくらい、前髪は眉毛にかかるラインで揃えられ、幅の狭い茶色のカチューシャでサイドをおさえ両耳が出ている、西洋的な美少女だ。
しかしながら、髪の毛と眉毛の色が、黒!、赤毛よりでも、栗毛よりでもなく黒髪である。
もちろん髪の毛は、光で反射しているし汚れている訳ではない、色のせいで少女の美しさや、可憐さが損なわれている訳ではないが、見る者によっては神秘的な恐怖を感じ得るかもしれない、美しさと恐ろしさの様な二面性が感じられる。
少女の名は、エミリア・ハーチ・クリオ、この地の領主の長女である。
風はなく、木々の葉すら微動だにしない風景画のような場所で、エミリアは両手両膝をつき、鏡のような湖面に写った自分自身をのぞき込んでいた。
そもそもこの地域は、東に大海を置き、その場所から数キロ先の海岸線はリアス式で高く切り立っている、南から北西にかけては、標高1200~1700mの尖った山頂を頂き、激しく切り立った石の山脈、 季節にかかわらず、西からでも東からでも弱い風は吹いているのが普通、今は異常なのである。
エミリアもそれは理解しているものの、何事も無い様な雰囲気のまま、湖面に写し出されたもう一人の自分に、小声で話しかけた。
「エミー……、あなたは……、どうしたいの?……」
写し出された表情は、暗く悲しげだ、悲痛とまでは見えないが、無気力感、喪失感の様な感情が見てとれる。
数十秒後、目を閉じ「ハァァ~」と、大きくため息をはく、目は閉じたままだが、先程よりいくぶんましな表情になっている。
少し、残念といった感じが残っているものの、その場で”スー”と立ち上がり、両手を”パンパン”、スカートの膝の辺りを”パンパン”と着いた土汚れを落とし、池に背を向け小道へと向かう。
(「今年もだめかぁ~」)と、頭の中で呟くエミリア、あきらめて帰路につくようだが、頭はたれ、肩はすくみ、足取りは重い。
小道に入る直前、諦め切れないのか池の方に振り返るエミリア。
直後に池の中心付近で”パシ!”と、耳に響く乾いた破裂音、そして一瞬遅れて突風がエミリアを襲う。
とっさに、目を閉じ両腕を横に顔を庇うが、風は強く、髪は真横に、スカートは足に絡みつき小柄で体重の軽いエミリアは、右足を一歩下がる格好になる。
体感で風は一瞬でおさまった事の分かったエミリアは、目をゆっくり開け、両腕をそのままで上下の腕の隙間から前方の視界を確認する。
エミリアから3、4歩前、丁度目線の高さに、直径30cmくらいの白く輝く、光の玉が浮かんでいた。
輝と言っても、目が眩むほどではない、玉の方も、空間と言うのが適切かもしれない、その中心部からユラユラと光が湧き出る様に見える。
それを目にしたエミリアは”ハッ!”と目を大きく見開き(「イシィリア様!」)と頭の中で叫ぶ、同時に両眼が、輝く空間の中心部同様に白く光りだした。
エミリアの記憶の中にはこの現象が強く残っていた、それを求めて三年強この池に通っていたのだ、もちろん毎日ではなく、時間の空いてる時だ、しかし今日は別である、夏至の前日、四年前の記憶がエミリアの中でフラッシュバックする。
* *
四年前、夏至の前日、10歳のエミリアは池にいた、そうその場所である。
10歳のエミリアは今よりも10cmくらい背が低く、服装は今と同じコーディネート、違うところは白色のカチューシャ、大きく違うのが、肩甲骨と腰の間まで伸びたブロンドの髪と、くすみのないブルーアイである。
もともとエミリアは、8歳のころよりこの場所がお気に入りであった。
理由は、自宅からそう遠くないこと、森の中ではなく入口のため危険度が低いこと、池が美しいこと、同世代の子供たちが皆、家の手伝いをするため、遊び相手がいなかったからである。
もちろんエミリアも家の手伝いはしていたが、領主の手伝いなどないため、召使いの手伝いで、料理とその後かたずけ、部屋と庭の掃除、洗濯物の取り込みなどのため、空き時間は割と多めだった。
エミリアにとっては、いつものお散歩タイムであり、たまたまそこにいただけだが、その時がきた。
輝く空間は、池の中心方向に岸より3~4m、高さが2mくらいのところに現れていた。
エミリアは立ったままではあるが、右手を胸の前で固く握り、左手は右手の上に添えて、この世界での祈りのポーズを取っていた、少なからず”恐い”とおもったからだ。
目は大きく見開き空間を見いっているが、口は少し開いて驚きを隠せていない。
そして十数秒後、輝く空間がゆっくりと湖面に向けてのびだし、湖面に届きそうなところでとまり、約2mほどの縦長の葉巻状になり、正目から見える空間の上から下への中心線付近から湧き出る光が急速に活発になり人の形を創り出し始める。
作り始めから終わりまではほんの数秒、終わると同時にユラユラしていた輝がクッキリと身体のラインへと変わり、女性の姿で湖面の上で静止した。
左肩からのみで膝上10cmくらいの薄く透明なワンピース、目をつむり、両腕両足共に、体に力を入れていないかのような自然体で伸ばし、つま先も下へと向いている、中に浮いているのが再確認できる。
彼女が、イシィリア、この世界においての唯一神、女神である。
背丈は170cm前後、年齢は20歳前後に見える、髪は銀色、後ろで纏めているが、纏めているボリュームからしてかなり長め、前髪はセンターでわけている。
少女のようにも見え、成熟した女性にも見える不思議な顔立ちだが、目、鼻、口、耳、輪郭のバランスは美しいの一言だ。
当然、身体も、首の長さ、肩幅、手足の長さ大きさ、強調しすぎでない、バスト、ウエスト、ヒップ、全てにおいて見た目は完璧な女神その者だった。
エミリアは、興奮していた、頬がほんのり赤く染まる、しかしながら、驚きの中にも困惑していた。
まだ10歳のエミリアにとっては、女神に合う事は”お願いを叶えてもらえるかも?”という思考しか、咄嗟に思いつかなかった、そもそも会える前提ではないのだから。
そこで考えてみると、衣食住には不満もなく、家族と召使いからも十二分に愛されている事がわかる、領主の娘ということで社交的な教育が十分されており、分け隔てなく領民と接していたため、領民の老若男女問わず慕われいてもいる、結構幸せであることに気が付いた。
更に考えて絞り出した結果、同年代の少女達と比べ、身体の成長と発育が遅れている事と、暇な時に相手をしてくれる様な、友人がいない事の二択に至った。
意を決して、エミリアが話しかける。
「女神様、お願いが『あらん、可愛らしいお嬢さんね』」
話しかけられてる途中で目を開けたイシィリアが、見た目どうりの美しい声で話しに割って入る、そのままエミリアの方へ体を泳がせる、泳ぐと言っても中に浮いているので、泳いでいるように見える。
エミリアの顔と、イシィリアの顔が徐々に近づく中、イシィリアは少し顔を上げ、両腕を下げ、両膝を折り、四つん這いの姿勢を取りつつ、顔と顔の距離が50cm程の止まる、見えない床でもあるように体は中に浮いたまま。
イシィリアは”フワフワ”した雰囲気を醸し出しながら、右へ少し小首を傾けながらエミリアの方へ身を乗り出しつつ、
「エミリアって言うんだぁ~」
話しかけてる表情は、目尻はほんの少し下がり、ハッキリとした二重瞼が黄色の瞳を半分ほど隠し、唇は少し開き、両方の口元がほんの少し上がってる、あからさまな誘惑の表情だった。
その表情を目前にしているエミリアは、生まれて初めての性的衝動に駆られていた。
背筋が”ゾクゾク”という感覚と同時に”ピン!”と伸び、両肩も上がる、緊張と興奮で赤く染めていた顔が耳まで真っ赤になり、目には薄っすらと涙が溜まり、瞳はイシィリアを捉えているものの、焦点は合わず小刻みに動き、唇はだらしなく歪んでいる。
しかも”エミリア”と名前を分かっている状況から、考えが読まれていると思い、先程思い付いた、恥ずかしい二択の願い事のせいで、激しい動揺も加わわり、胸の前で組んでいた両手が”プルプル”震えながら、鼻の辺りまで持ち上げ、顔を隠す仕草になった。
エミリアの反応を見つつ、イシィリアは小首をもう少し右に傾けながら”ニコ”と笑みを浮かべる、先程とは打って変わって、明るく優しい笑顔で、そのまま体を伸ばし、エミリアの左側へと泳ぎだし、左肩を上に体を捻りながら、同時に表情は前のいやらしい感じにもどってた。
イシィリアを左に目で追うエミリアだが、体は動かない、顔がほんの少し左をむくだけだ。
エミリアの視界に、イシィリアの膝からつま先だけになった時、イシィリアの視線を背中感じ取り、再び背筋が”ピン”と伸びる、刺すようでも、舐めるようでもない視線なのだが、一糸まとわぬ姿を見られている感覚だ。
またエミリアの反応を見たイシィリアが、小さな声で呟いた。
「ほぉんと、カワイィわぁ」
その声にエミリアが、顔だけで右側へと視線を移と、すぐイシィリアが視界に入った。
少し開いたイシィリアの口からは舌が見えていた、そして下唇を左から右へえと舐めた後に、もう一言呟く。
「たべちゃいたぃ」
エミリアは、イシィリアを見たまま三度目の”ピン”をする、イシィリアは何事もなかった様に、優しい笑顔に戻っており、出現した場所へ顔を向け、ゆらぁりと泳ぎだしていた。
「おっ、おいしくないですよ!わたし!」
イシィリアが戻ってしまうと思い、何とか会話をしようとエミリアの発した言葉だったが、イシィリアは体を捻りながらエミリアの方を向き、最初の姿勢に戻っていた。
「うん、そういう意味じゃないよ」
イシィリアは答えたが、エミリアの方は(「やっぱり?あっちの意味なんだぁ!」)と思い、体の硬直が解けずにいた。
そんなエミリアを気にせず、イシィリアは目を閉じ、軽く一息ついたあと、ゆっくり目をひらいた。
次の瞬間イシィリアの雰囲気が、がらっと変わった、エミリアもそれに気が付き、一瞬で素にもどっている。
今のイシィリアは、瞼はしっかりと開いて瞳も隠れていない、顎をほんの少し引いているため、目尻が少し上がって見える、口元も引き締まって、しなやかな女性の身体であっても、威厳、自信、力強さを醸し出していた。
「エミリア・ハーチ・クリオ、あなたに女神の御業をあたえます!」
イシィリアは右手の甲を上に、エミリアの方へ腕を伸ばし、語り掛ける、声のトーンは変わらないものの、”フワフワ”した感じは消えて、ハッキリとした歯切れの良い口調へ変わっていた。
エミリアは”女神の御業”を知っている、御業の技を知っているのではなく、女神の降臨の話だ。
この国には200年前くらいからの伝承があり、過去に5回、女神の恩恵を受けた者がいたためだ。
大まかな内容は、女神が降臨した時、女神の気まぐれで選ばれた者が、女神の持つ沢山の能力から一つを授けられる事、チートである。
もちろんエミリアは、”「はい!よろこんで!」”と言う様なタイプの子ではないため
「そんな!私なんかには!」
遠慮する対応になるしかなかった。
「ごめんなさい、女神の恩恵を拒否する事はできないの」
イシィリアは話し続ける、話し方に変化はないものの、言葉遣いは、10歳のエミリアに合わせている感じだ。
「あなたには、”分離”、物を分ける技を与えます」
「伝承で知っているとは思いますけど、”御業”は沢山の力の集まりです、その一つ一つを”神技”と言います」
「神技は、頭の中で思い描いた事を実現する技です、思い描く事が”曖昧”な時には実現されません」
「また、大きな事や、使用する回数が多い時には、あなたの体に疲れが溜まりますが、食事を取り、充分な睡眠を取ることで、元に戻れます」
「最後に、あなたの技、物を分ける技ですが、コップに海水が入ってたとします、分けるのですから水と塩、どちらかを思い描きますよね、それは海水の中に塩が混ざっている事を知っているからです」
「でも、コップと海水にも分ける事ができます、つまり、あなたにとってできる事とは、物事を理解している事の量により、大きく変わると言うことです」
「…………」
イシィリアは話を終え数十秒の沈黙、あまりにも情報が少ないため、エミリアは慌てて問いただす。
「あっ、あのぉ、もう少し教えていただけ『ほんとゴメンなさいねぇ~』」
また、イシィリアが割って入る、目を閉じ小首を傾け、右手は軽く握り胸元に、両膝を曲げた姿勢、そして”フワフワ”した時のイシィリアに戻っていた。
「わたしもぉ~、もっとぉ~、エミリアちゃんに!おしえたいのぉ!でもぉ、決まり事だからぁ」
肩と腰を互い違いに小さく左右に揺すりながら、ゆっくりエミリアの方にちかづきだしている。
「あ!そだ!」なにか思い浮かんだイシィリアが目を開けて続けた
「エミリアちゃんは、この力のせいで、この先ぃ、悲しい事やぁ、いやな思いやぁ、辛い思いをぉ、すると思うの!、あっ、うん!するの!」
少し早口になっていた、エミリエは残念な確定事項に”シュン”となる。
「でもね!でもね!、失敗したり、落ち込んだりしても、わたしを信じてほいしの、あなたを選んだ女神を、そしてあなた自身も!」
「そうしたらぁ、必ず!幸せになるから!、いや、するから!」
要領が悪いのか、話せない事が多いのか、エミリアは困惑していたものの、最後の一言を聞いた時には、素に戻れていた。
しかし、イシィリアがまた思い出した様に話し出す。
「あっ!うん、いぃっぱい食べて!たぁくさん遊べば!大丈夫だよ!」
エミリアは、(「あぁ、体のことだ」)と思い、少し頬を赤くしたが、イシィリアがエミリアから少し目線を逸らし、小さなこえで
「ちいさいエミリアちゃんも、スキだけど」
エミリアは、思った(「あぁ、これもダメなんですねぇ」)、しかし肩を落とすことは無かった、先程の言葉”必ず!幸せになるから!、いや、するから!”が効いているようだ。
そのころには、イシィリアはエミリアの1m程のまで近づいていた、そしてエミリアを見据えて両手を広げ、エミリアに飛び込む。
イシィリアは棒立ちのエミリアに抱き着く、右手はエミリアと左腕からの右側の腰へ、左手はエミリアの右腕から左肩へと、エミリアは、抱き着かれた瞬間、少し目が開いたが驚いている様子は微塵もなく、少しだけ顎を上げイシィリアの左肩の上えに乗せていた。
イシィリアは、抱き着く少し前から、大小さまざまな大きさの金色に輝く大量の粒を、全身の表面から、ゆっくりと湯気が上がる様に湧き出していて、イシィリアより1mくらい上ると空気中に拡散しながら消えていた。
正確には、大きな粒でも直径1mmもなく、小さい方は目で確認できる大きさではない、輝くことで”そこに、何かがある”と認識できる物であり、イシィリアとエミリアを包み込む量だった。
エミリアは、呼吸する時、空気と共に輝く粒を体内に取り入れてる事には気づいていたが、鼻、口、喉に刺激や違和感を感じなかったため、気にすることはなかった。
二人の左頬が触れ合うと、イシィリアは抱きしめている両手に少しだけ力が入る。
エミリアは、イシィリアに少し強く抱きしめられてる手と腕の感触、押し当てられてる胸の柔らかさ、スルスルしてるのに少しだけ吸い付く感じの頬、そして触れているところから、伝わってくる暖かさと心地よさに、”終わりが来なければいいのに”と思っていた、そして瞼がゆっくりと閉じていた。
十数秒後、イシィリアは顎を少し上げ、エミリアの耳元で囁いた。
「ゴメンね、お友達にはなれないの……」
エミリアは、”分かっています”とばかりに、小さく”コクッ”と頷く
「ううん、そうじゃなくってね、あなたは私にとって子供と同じなのよ、恩恵を受けるってことは、”女神の子”になるってことなのよ」
「だからね……、あまえてちょうだい」
イシィリアの発言は絶対だある、その為の”あまえてちょうだい”命令形だ、”あまえても、いいのよ”ではエミリアに選択権を与える、結果として躊躇や遠慮などを思わせなくする為の命令形であるが、エミリアの背中を少しだけ押す意味合いだった。
それに答え、イシィリアに抱き着くエミリアの反応は速かった、そしてイシィリアよりも強く抱きしめている、同時に両目からは涙がこぼれだし、必死に堪えようとするものの、かえって大きな嗚咽になってた。
エミリア自身、頭の中では驚いていた、”さみしい”とは思っていても、我慢できない程ではないと思っていたからだ。
それがこの大泣きである、”早く止めよう、早く止めよう”と思っても、止める事ができない、自分自身の弱さに、初めて気付いた瞬間だった。
イシィリアは落ち着いていた、左手はエミリアの肩から頭へと移っていて、優しく撫でてる、時より左頬を強く押し当てたり、知らない者が見れば、本当の親子にしか見えないであろう。
4、5分経ったころ、エミリアは落ち着きを取り戻してきてた、イシィリアはそれに合わせるように囁いた。
「落ち着いた?」
エミリアは、瞼を少し上げ瞳を半分ほど覗かせている、そして小さく”コクッ”と頷く、イシィリアは続けて囁く。
「そろそろ……、いくね」
エミリアは、また小さく”コクッ”と頷く、イシィリアは、抱いている両腕をほぐし、両手はエミリアの両肩に添えて、エミリアの正面で向き合い”ニコ”とほほえんだ。
しかしイシィリアは、また!思い出したように。
「あぁぁ、次に会うときは!”母様”て、呼んでね!、あっ!かぶっちゃうかぁ?、うん!”母様”て、呼んでね!」
エミリアは、小さく”コクッ”と頷く、そして”ニコ”と笑みを浮かべるも、また目尻から涙がこぼれ落ちている、先程の大泣きとは違い、落ち着きはあるようだ。
「もぉ~」
”しょうがないなぁ”と思わせる様な一言を放ち、少し困った様な反応のイシィリアが、左手をエミリアの右耳下から後頭部へ、右手を左耳上から少し後ろへと、指で髪をすくう様にしながら、軽く押さえ込み、目を薄目しつつエミリアの涙のこぼれ落ちてる左顎付近へ”チュッ”と、軽めのキスをした。
そして”チュッ、チュッ、チュッ”と、下から上へと涙の後をたどるようにキスを続けた、エミリアは目尻の近くに唇が来た時には、また両目をとじていた。
当然、この流れからは予想を裏切らないイシィリアは、エミリアの右顔へと移行して”チュッ、チュッ、チュッ、チュッ、“先ほどよりも、キスとキスの間の時間が速くなっていた。
更にイシィリアは止まらない!、右手でエミリアの前髪を掬い上げ、エミリアのオデコに高速連発キス!、眉も、目蓋も、鼻先、小鼻、また頬へと、”唇、耳、喉”には遠慮したのか、自重したのかは不明だが、他のところには凡そ2分間キスをしまくっていた。
イシィリアの高速連発キスが終わったのを感じたエミリアは、薄目を開けイシィリアの両手から抜け出し、イシィリアの左頬へ”チュッ”と軽いキスをした。
イシィリアとは打って変わって、とても可愛らしい”さよなら”のキスであった。
イシィリアはキスを受けと取るとすぐに、体を後方の斜め上へと流れていた、エミリアとは手が届くか届かないかの距離だ、嬉しそうな表情で少し頬を染めている。
エミリアは薄目から瞼を開きイシィリアを見つめた、目が合うとすぐさまイシィリアは呟いた。
『またね』
声にはでてなかったが、唇の動きでエミリアは理解してた、次の瞬間、イシィリアの胸と胸の間、一点に向けて、輝、光、イシィリア本人が、一瞬で集束し、その場から消えていた。
数秒後、時が戻った様に、湖面は小さく波打ちだし、木々の葉が微かに音を立て、小鳥の囀りが聞こえてきた。
海からの少しだけ湿った弱い風が、立ちすくすエミリアの頬を優しく通り抜けてく。
* *
そして今、エミリアにはイシィリアに訊ねたい事が多々あった、もちろん”あまえたい”思いも。
しかし今回は、少し違っていた、若干の違和感を持ちながら、エミリアは思っていた。
(「あれ?、少し近い?、近すぎ?、あ!分かった!、イシィリア様は近くに現れて!エミーを驚かせるつもりなんだ!」)
割とポジティブなエミリアであったが、すぐに期待は裏切られる。
エミリアの希望をよそに、空間は水平方向、左右対称に伸び始めた、2m程で止まる、葉巻状だ、今回は上方から見て、左右を結ぶ中心線から光が湧き出でてる、金色の粒も湯気の様に立ち上がっていた。
そして、人の形をつくりだし作り出す、エミリアから見て左側を頭とし、また、すぐに人ととしての形がはっきりとすると、体自体からの発光と、立ち上がる金色に輝く粒がのこっていた。
真横から見ていたエミリアが、頭の中で呟く。
(「え?、だれ?、なんで?、イシィリア様じゃないの?」)
そこには、若く見える青年の姿があった。
青年の体は、ゆっくりと地面に向けて落ち始めた、落ちるのに合わせて、鼻まで伸びている前髪が輝く粒をまといながら立ち上がり顔の全体像が垣間見える、無造作に伸びた髪、浅い二重瞼、浅い顔の掘り、低くはないが少し丸みを帯びた鼻、少し尖った顎、少し丸みを帯びた輪郭、エミリアは青年に近付き、身体を覘き込む様に見ながら思考している、立ち上がる金色の粒を吸いながら。
(「ブーツ?よね、ズボンの変なところにあるこれ?ポケットだよね?、変わったベスト?だけど、四つあるこれ?ポケットだよね?、腕にピッタリくっついている服、服なの?下着なの?、それに?初めて見る顔つきだけど、男の人だよね?なんで?こんなに髪を伸ばしてるの?、背が低いよね?160cmなさそうだけど?成人前?男のコ?、あ?女神様じゃないけど、神様なの?、えぇ~イシィリア様の他にも神様いるの?、一人じゃないの神様!?」)
ほんの一瞬であったが、エミリアは頭の回転が速い子であった、思考の内容は置いといて。
そして、青年の体が地面から1mを切ったあたりで、体の発行と放出される輝く粒が消えた、同時に青年の体に色が付き、落下がとまった。
色は黒、可動域には厚みがあり伸縮性のある布地、ほかは合成皮革、見えていないが爪先を守るための硬質プラスチック製カップ、足の甲に広めの皮バンドが一ヶ所、脛に二ヶ所の皮バンド、マジックテープでサイズを調整するタイプ、”軽量安全靴”。
ズボンはアウトドア用、前ポケットが斜めにカットされたタイプ、お尻のは普通、左右の太股に少し大きめの蓋付ポケットが各一個づつ、色は紺色。
ベストもアウトドア用、薄めの生地で左右二個づづ上下に蓋付ポケット、下段の左右蓋付ポケット裏にも横空のポケット、前を留めるジッパーは大きめのプラスチック製、背中は細かいメッシュ生地、色は黒、夏用。
インナーは、冬用、色は紺色、軽くて薄くて暖かい、快適な”アレ”である。
体が止まると同時に、浮き上がっていた前髪が目と鼻を覆うように元へ戻る、次の瞬間、青年に重力が戻り、地面に向けて落下を再開する、先程とは違って普通に落ちていた。
エミリアは咄嗟に青年の背中の下に、受け止めようと両腕を伸ばすものの、落ちるスピードが速いため、
青年の右腕に弾かれ、落ちる青年を視界に留めたまま、シリモチを着く。
青年の体はエミリアに接触したさした際、右側が上を向く状態で回転しだしてた。
青年の左肩が地面と接触、すぐさま左側頭部、腰、足が接触、そしてほんの少し体がバウンドした様子が、スローモーションでエミリアの目に映ってた。
続きを頑張ります。