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シーズン・レコード  作者: KiiCHi
2/2

第二話

私たちは古いアパートの屋上で合流した。

 別の方向で戦っていた雪香ゆきか桜花おうかとも合流し、オーガ討伐の作戦を練ることにした。


「長期戦に持ち込むのは良くないですよね。私たちも消耗してますし。」

 一番年下の雪香が提案する。

「うん、だから短い時間で倒す方法を考えよう。」

「それなら、あたしの攻撃で何とかできそうだな。あたしの爆炎魔法とアックスなら一撃でも倒せるはずだ。けど、問題があるんだよな…」

「発動時間、だよね。」

 私が補足するように続ける。

 凪沙は瞬間的に極めて強力な炎の魔法を発動できる。だが発動に時間がかかるうえに、発動まで動くことができない。

「あぁ、だいぶ時間がかかるし隙も大きいからな。戦いながらじゃ厳しいんだよな…」

「そしたら何とかして動きを止められればいいんだけど。」 

「楓が逃げてきたときと同じように転ばさせるのはどうですか?」

 雪香が問いかけてくる。

「さっきのでだいぶ魔力を消費したから厳しいかな。」

「なら、雪香の魔法で動きを止めるのはどうだ?」

 今度は凪沙が雪香に問いかける。

「それが良さそうですが、私も戦いながらですと大きな氷を生み出して動きを止めるのは難しいですね。」

 雪香は魔法陣を使った氷の魔法が扱える。

 魔法陣とは、描いた図形に魔力を送り込むことで魔法を発動させるものだ。

 基本は、内部に魔法陣を描いておいた銃を使って氷の弾丸で攻撃するが、チョークを使って魔法陣での攻撃も行う。

「うーん、そっか。そしたら別の方法に…」


 頭を悩まさしていると、今まで話さなかった桜花が口を開いた。

「私に提案があるのだけれど…」



 ◆ ◆ ◆



 再び私はオーガの前に飛び出した。

 みたところ転倒させたときの傷はすでに回復しているようだ。


 魔物は魔力を持つ武器や魔法で攻撃しなければダメージを与えることができない。

 正確には、短い時間で完全に回復してしまう。例えみじん切りにされてもだ。

 私たちブレイバーは武器に魔力を送り続けることで攻撃を可能にしている。

 だから、例外はあるが、鉛を使った銃弾などではダメージを与えられない。


 それにしてもこのオーガ、私のことを探していたのか視界にとらえるなり雄たけびを上げ、物凄い勢いで迫ってくる。

 さっき転倒させたのでだいぶ恨みを買ったのかな…

 でも都合は良いかな。だって―――


 私はオーガに背を向け走り出した。


 もちろんただ逃げている訳では無い。

 私の役目は囮だ。


 桜花の考えた作戦はこうだ。

 事前に雪香が巨大な魔法陣を描きトラップを用意しておき、私がオーガを魔法陣の上まで誘導する。

 氷漬けにしたオーガを、同じように準備しておいた凪沙がとどめを刺す、というものだ。

 桜花は直接の参加はしないが、作戦の指揮を行う。


 私はスマホを取り出して桜花に連絡を入れる。

「ばっちりついてきてるよ。」

「了解、こっちももうすぐ完成するわ。」



 ◆



 な、なんとか予定していた道路の前まで誘導することができた。

 正直相当疲れた。

 転ばされたのが尋常じゃなく悔しかったのか、走りながら標識とか自販機をぶん投げてきたのだ。

 だが、私の役目ももう終りだ。

 このまま駆け抜けて、オーガが魔法陣の上に乗れば――


 最後の力で駆け抜ける私。


 それを逃さんと血眼になって追いかけるオーガ。



 そして、オーガが青白く耀く魔法陣のうえに乗って…



「雪香っ!!」

 私は叫んだ。



 瞬間、魔法陣は強く輝き、オーガの足先からその巨体を這い上るように氷が伸びる。




 それは走っているオーガを無理やり止めるほど強力で、そして巨大だった。



 

 わずか数秒で全身を氷漬けにされたオーガは、完全に身動きを封じられた。





 直後、横のビルから紅い影が飛び上がる。


 凪沙だ。



 流星のごとく振り下ろされる炎をまとったアックスは、氷漬けにされたオーガを確実に捕らえる。



 炎で溶かされた氷は瞬時に気体へと変わり、周囲に白い煙が広がる。



 一切衰えることのない炎は、オーガの肉体を激しく燃やしながらその巨体を二つに切り裂いていった。



 

 最後に残ったのは、溶けたアスファルトと凪沙の姿だけだった。


 



 ◆ ◆ ◆




「ふむ…」

 白髪混じりの髪の毛をオールバックにした男性が報告書を読む。

 そして

「ご苦労!よくやった!」

 と、私たちに労いの言葉を伝える。


 彼はまとい総一郎。

 私たちブレイバーをまとめあげる特務機関『カレッジ』の創設者にして総司令である。

 ブレイバーとは魔物と戦う覚醒者、つまり魔力に目覚めた者たちのことだ。

 とはいえ、国が確認できた覚醒者は強制的にブレイバーとなるので、覚醒者のことを指しているといっても過言ではない。


「ありがとうございます。」

「オーガをも仕留めたとなると、それなりに実力がついて来たんじゃないか?」

「恐縮です。」

 まるで娘の成長を喜ぶように話す。

 実際、私にとっては父親のようなものだ。

 8年前に両親を失った私と妹は、父と旧知の仲であった私たちを育ててくれた。


 纏は何かを考え込むように目を閉じた。

 暫く黙っていた彼は、ゆっくりと瞼を持ち上げ、

「…君たちを見込んである緊急の任務を頼みたい。」


 空気が張り詰めたのを感じる。


 神妙な顔を向け、こちらを見つめている。

山梨県身延みのぶ町、甲府要塞の収容限界を超えて、入れなかった人たちが暮らす地域だ。そこの近くにある水力発電所が破壊された。」


 衝撃が走った。

 極めて強力な魔力シールドが張られている発電所は、そこらへんの魔物では突破できない。

 要するに、何者かによる意図的な破壊か、特殊な魔物が現れ破壊されたか、そのどちらかを表していることのなる。


「今から2時間前連絡が入った。超大型の魔物による襲撃だそうだ。現場の話から推測するに、リンドヴルムと考えられる。」


 リンドヴルム、いわゆる“ドラゴン”の一種だ。

 川の付近に生息しており、全長50mを超え、翼をもたず極めておとなしい性格で、人を攻撃した記録は、魔物が現れた17年前から一度もない。

 だが尋常ではない魔力と力を持ち、餌である大型の魔物を簡単に殺す。


「まさか…」

 驚きを隠せない雪香から声が漏れた。

「いや、討伐は行わせない。オーガを倒したとはいえまだ力不足だ。」

 雪香は安堵したのか、ふぅっと息を吐き出す。


「君たちに頼みたいのは、なぜリンドヴルムが発電所を襲ったのか、だ。リンドヴルムは早川町、身延の隣の町を寝床にしている。そこへ行って原因を探ってくるんだ。」

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