表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

最強勇者は賢者タイムの夢を見たくない

作者: 矢島 零士

「高所恐怖症なのに竜騎士になりました」の番外編(後日談)です。

 最悪だ。

 目覚めてみると、隣には前日に知り合ったばかりの若い女。ここ半年、こういうことが毎日続いている。


 事の起こりは約一年前。

 魔王との最終決戦で勇者の俺は勝ち、消滅寸前に魔王が俺に呪いをかけた。


 呪いの内容は、一日の半分、俺が魔王になるというもの。

 単純だが強烈な内容だ。


 呪いをかけられた直後、俺は大賢者のアレクに解呪を依頼したが、ひどく強力な呪いで、解き方を調べるのに時間がかかるとのことだった。

 一日の半分、俺は魔王として活動することになる。


 前魔王の配下たちは既に俺と仲間が全滅させていたので、魔王側は俺一人だけ。

 勇者の俺がいなくても、俺のパーティには、風剣のアレク、竜公女アスカなど、一騎当千の強者が揃っている。

 特にアレクは、大賢者で剣士でもあり、剣だけなら俺の方が少し上だが、総合力ではアレクが勝る。


 蛇足だが、俺のパーティーを創設したのはアレクだ。

 俺がパーティーのリーダーをアレクから受け継いだのは、アレクが本業の企業経営で忙しくなってしまったからで、本来はアレクが勇者だった。


 育成上手なアレクとは違い、俺が得意なのは自分で戦うことだけで、育成や勧誘は苦手だ。当然、魔王側の戦力が増えることはない。

 俺の戦う相手は、アレクの指導の下、日々、強くなり続けている。


 アレクの方は俺を相手に実戦練習できるのが楽しそうだが、俺は負け続けるばかりで面白くない。そのうちにアレクの側が手加減してくれるようになった。

 二軍メンバーだけのパーティーに敗れ、ついに俺の心は折れた。



 パートタイムの魔王になってから半年後、俺はアレクに会って、俺にかけられた呪いについての研究が進んだかを尋ねた。


「解くことはできないが、呪いの内容を変えることはできそうだ」


「じゃあ、やってくれ」


「でも、呪いの変更については、条件があって、かけられる者にとってデメリットのある内容にしか変更できないんだ。それでも、いいか?」

「構わない。俺はもう、もう限界なんだ!」


「どういう内容にしたい?」


「俺には思いつかないから、アレクにまかせるよ。」


 アレクは、いたずらっぽく笑った。

 嫌な予感がしたが、まかせると言ったしまったことだし、黙っていた。



 変更後の呪いの内容は、毎夜、見知らぬ女性と一緒に賢者タイム状態で過ごすこと。

 つまり、ベッドインの瞬間に賢者になってしまうということで、相手の女性から見ると、俺は史上最速レベルの早撃ち野郎ということになる。


「アレク、俺に恨みでもあるのか?」


「すまん、すまん。でも、元の呪いの内容を考えると、これくらいのデメリットは当然だろう。俺は、これでは弱すぎるかもしれないと考えていたくらいだ」


「そういうものなのか。仕方ないな。それで、呪いの条件、すぐに変えること出来るのか?」


「いや、呪いがなじむまでに時間がかかる。次も半年後に変えるのが無難だろう」



 そして、半年後、呪いの条件を変えてもらうため、アレクに会いに行った。


 会ってすぐ、俺は言った。

「半年たったから、呪いの条件を変えてくれ」


「ケイン、お前、独身主義者だったよな?」


 俺は、独身主義を公言したことはなかったが、親の夫婦仲が良くなかったこともあって、結婚願望はない。


「まあな」


「じゃあ、結婚はおまえにとってデメリットというわけだ」


「俺に、結婚しろと言うのか?」


「今回は、相手から別れを切り出されない限りは結婚生活を続ける、という条件に変えようと思う。これでいいか?」


「俺には、付き合っている相手はいないぞ」


「おまえは最強の勇者様だ。その気になれば相手はすぐに見つかるさ」


 現在の呪いの内容を考えてみると、結婚の方がましだろう。

 でも、変な相手と結婚したら地獄の生活になりそうだ。


 前の魔王を倒すまでの数年間、俺は冒険や戦いで忙しく、女性と付き合う暇はなかった。

 学生時代に仲の良かった女友達は皆、結婚してしまっている。

 パーティの女性メンバーは、ジャンヌ、ジェシカ、アスカ、いずれもアレクの正妻か側室。


 ここ数年で、俺がパーティのメンバー以外で親しく会話したことがある女性は、ただ一人。俺の母国カルナーの隣国の王女、サラ姫だ。

 でも、そのサラ王女にしても、会ったのはパーティで一度だけだ。



「俺のまわりには、俺と結婚してくれそうな人はいないぞ」


「本当に誰もいないのか?」


「ああ」


「そうか。おまえ、キラールのサラ殿下といい感じだったと思ったんだけどな」


「平民の俺には、雲の上の人だよ。それにお会いしたのは一度だけだ」

「そう思ってるのは、おまえだけだよ」


「どういうことだ?」


「三年前、キラールがクーデター未遂事件で混乱していたとき、貴族の少年を首都から逃がしたこと、覚えてるか?」


「ああ。確か、名前はスージンだったな。あいつは、いい奴だった」


「皆には秘密にしていたが、あれ、実はサラ殿下だったんだよ。だから、殿下の方はお前を知っている」


 俺は驚愕し、何もいえない。


「実は、お前が来ることは分かっていたから、もう呼んであるんだ」


 アレクが呪文詠唱すると、キラールの国王陛下とサラ王女の姿が現れた。俺が来る前から部屋にいたものらしい。


 あわてて、国王陛下と王女に挨拶する。


「勇者ケイン様、私と結婚してください」


 いきなりかよ。

 しかも、断られるとは思っていないような笑顔だ。


 俺は独身主義者だ。結婚で縛られるのはイヤだ。

 でも、外堀埋められてる状況だし、王女のことは嫌いではない。むしろ、好ましく思っている。


 僕は王女の前でひざまずいた。


「こちらこそ、よろしくお願いします。俺、いや、私と結婚してください。僕の命が続く限り、あなたを愛し、守ると誓います」


 そして、キラール国王の前にひざまずき、サラ王女との結婚の許しを請うた。


 国王の快諾を得た後、俺はアレクに言った。


「いつから、この計画だった?」


「おまえが呪いをかけられたときから」


 俺はアレクに嵌められたことを悟った。

 まあ、いい。俺は勇者だ。誓いは守る。


「アレク、やってくれ」


 アレクは即座に呪文詠唱し、呪いの条件が変わった。

 サラ王女の方から別れを切り出さない限り、僕は生涯、結婚生活を続けることになる。


 自由な生活への未練がないわけではないが、王女の笑顔を見ていたら、どうでもいい気がしてきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ