サルウィンを倒せ!
魔道士サルウィンに傷つけられたリオがお城に戻ってくるところからお話は始まります。
「アラン!今、クリシュナが帰ってきた!」
バルコニーから飛び込んできたイプは苦悶の表情を浮かべている。
アラン
「イプ……、どうした…何があったんだい?」
イプ
「り…リオが大変なんだ、とにかく早く来て!」
アランが城の広間に駆けつけると、そこにはグッタリとしたリオを壊れ物ののように抱いて見つめているクリシュナがいた。
他の仲間も駆けつけてくる。
アラン
「クリシュナ…。何があった。」
クリシュナ
「魔道士にやられた…。」
アラン
「魔道士………。」
アランはクリシュナの上着に包まれたリオを見て眉をしかめた。
リオの髪や顔に何かこびりついてベタベタしている。
アランは少しコートの前を開けてリオの身体を確認する。
リオの身体にピアスが刺さり出血している。
身体のあちこちに赤い傷があり、粘液のようなものがこびりついている。
何をされたか一目瞭然だった。
アラン
「クリシュナ、僕に任せて。」
アランは両手を広げた。
クリシュナ
「……………………。」
アラン
「リオを治療してあげないといけないよ。僕は医者だろう?大丈夫、任せて。」
クリシュナはアランを見て、それから壊れ物を扱うようにリオをアランの腕に任せた。
アラン
「プリン、お湯をたくさん沸かしてくれるかい?」
プリンセチア
「了解!」
アラン
「ラチェット、リオの身体を洗うから手伝ってくれ。」
ラチェット
「わかりました!」
アラン
「ウィルヘルム、シヴリン、洗浄したら、治療をお願いする。」
ウィルヘルムは厳しい顔で頷いた。
シヴリンはリオを見て泣きそうな顔をしている。
アラン
「それから…クリシュナ、君は休んでいて。」
クリシュナ
「………なぜだ。」
アラン
「君は見ない方がいいからだ。」
クリシュナは小さくため息をついて諦めた。
クリシュナ
「…………リオを頼む……。」
クリシュナは苦しそうに言うと外に飛び出していった。
アラン
「イプ…。」
そばに立ち尽くしているイプは瞳が爛々と金色に輝き、髪もプラチナ色に変わって足元まで伸びている。
いつもはしまっている翼がばさりと大きく羽ばたいた。
イプ
「わかってるよ、アラン。」
そう言うとイプは時空間を切り裂いて、姿を消した。
バスタブのある部屋で、アランは優しくピアスを抜いてからリオをバスタブにつけた。
ラチェットがリオの髪を丁寧に洗い、そのあと繊細な手つきで顔を洗う。
同時にアランもバスタブの中で身体を優しく洗っていく。
一番ひどい傷の箇所に触れるとリオの身体がビクついた。
アラン
「これは…………ひどい………。」
処置しながら、アランが唸った。
ラチェットはそれを見て、我慢できずに涙を流す。
アラン
「大丈夫?ラチェット。」
ラチェット
「だ、大丈夫です。早く、リオをなおしてあげましょう。」
アラン
「ああ。」
アランが綺麗になったリオに柔らかな寝間着を着せて、ベッドに寝かせる。
アラン
「シヴリン、頼むよ。」
シヴリン
「はい。」
シヴリンがリオの手を握り目を閉じる。
その手にさらにウィルヘルムが手を重ねた。
ウィルヘルム
「思念はわしが全てうけるからの、お前はヒールに専念するのじゃ。」
シヴリン
「はい、先生。」
シヴリンの体から淡いオレンジ色の光が広がって、リオの体を包み込む。
シヴリンは優しく微笑んでいるが、それとは対照的にウィルヘルムの表情は険しい。
シヴリン
「これでもう、大丈夫です。」
シヴリンがリオから手を離した。
アラン
「ありがとうシヴリン。」
アランはホッとしている。
ウィルヘルムがぐらりと揺れて倒れそうになったのを、シヴリンは慌てて抱き上げた。
シヴリン
「先生、大丈夫ですか!?」
ウィルヘルム
「なんと、なんとむごい…………。あんなに純真で優しい子に何故あんな事が起きるのじゃ…。」
シヴリン
「先生……。」
アラン
「シヴリン、ウィルヘルムと一緒に休んでくれ。」
シヴリン
「はい、アラン。」
アラン
「僕もちょっと休憩するよ。」
アランはそう言うと部屋を出た。
扉の前にはクリシュナがグッタリと頭をうなだれて床に座り込んでいる。
アラン
「クリシュナ、リオはもう大丈夫だよ。そばにいてあげてくれ。」
クリシュナがバッと立ちがった。
クリシュナ
「アラン、感謝する。」
アランは微笑んで頷いた。
クリシュナは急いで部屋に入っていく。
それを見送ってから、アランは城の外の森の中に入った。
アラン
「……………………っ!」
アランは森の木に拳を何度も打ち付けて、最後は頭までぶつけた。
アランには久しぶりの猛烈な怒りがこみ上げて、身体が煮えたぎる。
アランの額からは血が流れ出した。
アラン
「僕のせいだ………あの時、イプを一緒に行かせていれば…。」
いつも穏やかなアランが鬼のような形相だ。
アラン
「許さない………リオを傷つけた魔道士……絶対に許さない!」
アラン
「全力をあげてつぶす!もう、僕は間違えない!」
アランは森の土の上に木の棒で何やら書きながら、ブツブツと作戦を考え出した。
………………………………………………
ラチェット
「リオ、あ〜ん。」
ラチェットはミルク粥をスプーンですくって、リオの口に入れた。
長い髪はまとめあげて、ふんわりとしたピンクのドレスにエプロンをつけている。
プリンセチア
「リオ、ほら、唐揚げ、肉も食べないと元気が出ないぞ。」
プリンセチアがくれた唐揚げにリオはパクッと食いつく。
クリシュナ
「おい、あんまり甘やかすなよ。」
リオと同じベッドでとなりに寝ているクリシュナが睨みつけた。
ラチェット
「ななな、何をおっしゃるのですか!リオは大変な目にあったんですよ!それなのに、それなのに!」
ラチェットは目に涙を浮かべた。
クリシュナ
「あ〜、そ、そうだよな、すまん、俺が悪かった。」
クリシュナはラチェットが苦手だ。
プリンセチアはニヤニヤ笑った。
リオ
「ラチェットさんはお母さんみたいっすね。」
ラチェット
「え……。」
ラチェットは真っ赤になった。
リオ
「俺、親に可愛がられた記憶があんまりないっすよ。だから嬉しっす。」
ラチェット
「………………!」
ラチェットは頰を赤らめてとうとう泣き出した。
ラチェット
「私の子供達はもうお星様になってしまいました。」
リオ
「え………。」
ラチェット
「ですが、ご心配にはおよびません。こんなに素敵な方達を残してくれたんですもの。」
ラチェットはそう言って、クリシュナとプリンセチアの頭を優しく撫でる。
クリシュナとプリンセチアが頰を赤らめた。
リオ
「?」
リオは意味がわからず首を傾げている。
ラチェット
「リオ、私のこと、お母さんだと思ってくださいね。」
リオ
「え!いいんすか!俺、夢だったっすよ!お母さんに甘えるの!」
ラチェットは優しく微笑んでいる。
リオは頰をピンクに染めてもじもじしながら言った。
リオ
「お、お母さん。」
ラチェット
「なあに?リオ。」
リオ
「抱っこ…。」
ラチェット
「はいはい。」
ラチェットは笑いながら、自分より少しだけ身体が大きいリオを抱きしめる。
リオは嬉しそうにラチェットの胸に顔を埋めた。
クリシュナは微妙な表情を浮かべている。
その時、ノックがして大柄な男が顔を出した。
戦士のグラインダーだ。
グラインダー
「おい、作戦会議だぞ。二人とももう、動けるか?」
クリシュナ
「ああ、大丈夫だ。」
プリンセチア
「よかったね、グラインダー。息子ができたよ!」
グラインダー
「はあ?」
みんなが笑った。
……………………………
会議室にて……………
アラン
「イプが奴の居場所を特定してくれた。これから我が軍は、何よりも最優先に全力でサルウィンを倒す!」
アランの拳が大きなテーブルを叩いた。
目は怒りの炎に燃えてギラついている。
アラン
「サルウィンは魔王の陣地にある今は廃墟とした街に隠れている。街の周りには堀があり、中には奴が作ったオークがうじゃうじゃいる。」
アラン
「オークは倒せばいいが、問題は奴が魔導で逃げる事だ。」
アラン
「転移の魔導の霧はおよそ100メートルほどが限界だ。そこで奴がどこに転移しても捕らえられるように、アサシン達を的確な場所に配置する。」
アラン
「そのためには…クリシュナ、リオ、どこかへ行ってしまったアサシン達を呼び戻してきてほしい。」
クリシュナ
「………。」
リオ
「わかったっす!全員、俺が呼び戻すっす!」
クリシュナ
「わかった。」
リオ
「クリシュナ、行くっすよ!」
クリシュナは頷いた。
リオの身体が巨大猫に変わってバルコニーから飛び出した。
同時にクリシュナがリオの背中に飛び乗る。
プリンセチア
「さすがアサシン、早いね!」
…………………………………………
作戦当日がやってきた。
サルウィンのアジトがある近くの野原に一同が集った。
アラン
「いよいよだ。僕たちの大切な仲間を傷つけたサルウィンを消して許さない!皆、頼む!」
アランを中心に皆が雄叫びをあげる。
散り散りになっていたアサシン達もリオの説得で戻ってきた。
皆、険しくげっそりとした顔をしている。
目がギラギラと光り、この数日どれほどの暗闇にいたか想像ができる。
ラチェット
「リオもくるのですか?大丈夫なのですか?」
リオ
「大丈夫っすよ!オークに一度や二度犯されたくらいじゃへこたれないっす!」
それを聞いたアサシン達、リオズ親衛隊がショックを受けて皆、顔を抑えてしゃがみこんだ。
クリシュナ
「おい!思い出してショックを受けるからやめれ!」
リオ
「あ、ごめんっす!」
リオはへにゃっと笑った。
アラン
「では、行くぞ!エルフィン軍、配置につけ!作戦開始だ。」
それぞれが配置につき、開始の合図が聞こえる。
街の周りを取り囲んだエルフの軍団が掘りに橋をかけて攻撃を始める。
主力のフィカス達、ヴァンパイア 部隊とイプも突入して、次から次にオークを殺していく。
ヴァンパイア部隊とイプが作った道を、ラチェットが大量の魔力を振りまきながら歩いていく。
ラチェットの周りをグラインダーはもちろん、蛇のウェルズ、クリシュナとリオ、アランが守りを固める。
ラチェットの魔力でサルウィンの魔法の結界は解けてなくなった。
アラン
「今だ!」
それを聞いたクリシュナがものすごい勢いでサルウィンがいるらしい館に飛び込んだ。
サルウィンはその時ベッドで眠っていた。
クリシュナは窓から入り、サルウィンに斬りかかった。
サルウィンの腕が切り落とされた。
サルウィン
「うわあああああ!」
クリシュナはもう一度ブレードソードを振り上げた。
サルウィンは必死に呪文を唱えて霧のように姿を消した。
クリシュナが舌打ちする。
サルウィンは屋敷の隣の家の庭に出た。
サルウィン
「なんだ、どうして結界が効かない。まったく気づかないなど……。」
その時、サルウィンの肩に弓矢が刺さった。
サルウィン
「うわあああああ!」
サルウィンはまたも転移した。
屋敷からはかなり離れた図書館の中だ。
サルウィン
「なんだ、どうなってる……。オーク達はどこへ行った?」
その時、ブレードが深々と背中に突き刺さった。
サルウィン
「なっ………………!」
サルウィンが振り向くとアサシンフードの男がニヤリと笑った
サルウィンは慌てて、転移する。
だが、どこに転移してもアサシンが襲ってくる。
サルウィンは傷だらけになりながら、なんとか街の外に出た。
サルウィン
「ふう……危なかった……。」
後ろに気配を感じてサルウィンはビクッと振り向く。
そこにいたのは薄汚れた物乞いの男だった。
「どうか、お恵みを……。」
男はよたよたとサルウィンに手を差し出して歩いてくる。
サルウィンは安堵のため息をついた。
サルウィン
「なんだ、うせろ、ゴミめ!」
サルウィンは物乞いを蹴り飛ばした。
が、物乞いの男はサルウィンの足を掴んで、そのまま街の堀に投げ込んだ。
サルウィン
「な、何!」
街の堀にはサルウィン作った恐ろしい、巨大なワニが何匹もいて、サルウィンの身体に噛みついた。
サルウィンは苦しみながら呪文を唱えたが完成する前に、サルウィンの首も手足もワニに引きちぎられた。
堀の上からそれをギラつく目で見ていたのは、物乞いに扮したドラアだった。
…………………………………
クリシュナ
「ドラア…。」
ドラア
「終わったよ。」
ドラアはクリシュナに背を向けた、
ドラア
「じゃあな、リオを頼むな。」
クリシュナ
「どこへいく気だ。」
ドラア
「やはり、俺はもうリオのそばには………。」
リオ
「先輩!」
リオが走ってドラアにしがみついた。
リオは泣いている。
ドラア
「リオ………。離せ……。親衛隊はもう解散だ。」
クリシュナ
「リオが屋根から落ちたら誰が助けるんだ?」
ドラア
「…………………は?お前がいるだろう。」
クリシュナ
「俺は助けない。そんなアサシンなど要らんからな。」
ドラア
「おい!」
クリシュナ
「あと、海で溺れても知らんぞ。」
ドラア
「な………。助けろよ!」
クリシュナ
「俺はリオを甘やかすつもりはない!」
リオ
「クリシュナ、ひどいっす!」
リオがぐらっとよろめいて、巨大ワニが口を開ける堀に落ちそうになった。
リオ
「あ………………。」
ドラアがリオを引っ張って抱きしめて転がる。
リオ
「ドラア先輩、アーざっす!」
リオはへにゃっと笑った。
ドラア
「やべえ………今、本当に落ちるところだった…………。」
ドラアの心臓がバクバクと音を立てる。
クリシュナ
「ふん、とにかく俺は助ける気は無いからな。」
ドラア
「なんだとお!」
いつのまにかドラアの周りにリオズ親衛隊が集まってきていた。
ドラア
「くそっ………リオズ親衛隊、再結成だ!」
20人の親衛隊は雄叫びをあげた。
リオはへにゃっと笑って20人の親衛隊の頰にキスをしてまわる。
途中、ピーテが押し倒そうとしたがそれはクリシュナに阻止された。
アランはそれを見て微笑んだが、一人になるために少し皆から離れた。
アランは拳を握りしめ厳しい顔をしている。
イプ
「アラン……自分を責めてるの?」
イプが後ろから静かに近づいてきた。
アラン
「イプ………。」
イプ
「一人じゃ無いよ………。僕がいるから……。」
アランはポーカーフェイスを崩してイプを抱きしめたというか、しがみついた。
イプはアランの背中を優しくさすった。
おわり