社会復帰への道 ジェラシー
王様はひきこもり
フィカス率いるヴァンパイア御一行がエルフの大地に到着した所からお話が始まります。
一年もの航海を経てついに一行はエルフの地に上陸した。
魔道士メトプレンと大柄な騎士グラインダー、美しい小柄なハーフエルフのラチェット、
ヴァンパイアの王フィカスとその4人の従者、エルヴィアの元王子プリンセチア、
一行はエルフの華奢な船からマロウの港に降り立った。
プリンセチアは興奮して転がるように桟橋を走り、
途中海に落ちそうになってフィカスに抱えられた。
プリンセチア
「すごいよ!本当に来たんだな!エルフの国!
ああ、歌が、歌が次から次に浮かんでくる!」
フィカス
「おい、落ち着け。」
プリンセチア
「嫌だね!これが落ち着いてられるか!」
プリンセチアがフィカスの肩から飛び出して、また走り出した。
グラインダー
「まったく、プリンのやつ興奮しすぎだぜ。
メトプレン
「上陸3日前からマシンガントーク状態だったもんな。
二人は顔を見合わせて肩をすくめた。
セダム
「プリンセチア様は昨晩一睡もされていらっしゃいません。」
コルディリネ
「セダム、どうして知ってるのよ。
セダム
「わたくしが飲みのお相手を一晩させていただきましたので。
わたくしの膝に座り額をわたくしの胸にこすりつけながら、色々な話をされていらっしゃいました。
フィカス
「なんだと!?
フィカスが睨みつけた。
プリンセチア
「ラチェット、行こうよ!」
遠くに走って行ったはずのプリンセチアが戻ってきて、
グラインダーの横を歩いていたラチェットの手を取って走り出した。
ラチェット
「きゃあ、プリン!」
さらにプリンセチアはラチェットの細い腰を抱えてくるりと回転した。
プリンセチア
「ラチェット、本当に可愛い!
プリンセチアは抱え上げたラチェットにキスをした。
ラチェット
「んんっ……、いけません、プリン。」
後ろで大声で怒鳴るグラインダーを無視してプリンセチアは笑いながらラチェットを連れて走る。
プリンセチアは不意に誰かにぶつかった。
アラン
「おっと、大丈夫かい?
プリンセチアより首一つ分背が高い男が見下ろしている。
髪の色はプリンセチアと同じような茶色だ。
プリンセチア
「わあ、すいません。
アラン
「もしかして、君がプリンセチア?
プリンセチア
「ええ……。
アラン
「ようこそ、マロウへ。待っていたよ。僕はアラン、よろしく。
プリンセチア
「あああ!あなたが、あの伝説のアラン王、1000年前の僕のご先祖さま!
なんてことだろう!信じられない!
プリンセチアは目を輝かせてアランの手をブンブン振った。
イプ
「僕もよろしくね!プリン!僕イプだよ。
アランの後ろから銀髪の美しい青年が顔を出した。
プリンセチア
「ちょっと待って、まさかイプってあの伝説の海の剣聖、イプシロン?
イプ
「うん、イプシロンだよ。
プリンセチア
「ああ、もう、嘘だろ、夢みたいだ!
それになんて綺麗なんだ!想像してたより何倍も美しいよ!
プリンセチアは真っ赤な顔をしてイプの手を握った。
メトプレン
「イプーーー俺のハニー!会いたかった!
メトプレンはプリンセチアからイプの手をもぎ取ると、イプをムギュッと抱きしめた。
イプ
「苦しいってメト!
メトプレン
「どう、最近は、どういう風にアランに抱かれてるのかな?
イプ
「えっと………。
アランはメトプレンのマントを引っ張って転がした。
アラン
「イプ、答えないでいいからね。
ラチェット
「アラン様、ただ今戻りました。
アラン
「ラチェット、お帰り。
アランはラチェットを抱きしめて、頭を撫でた。
アラン
「ありがとう、ヴァンパイアの王を連れてきてくれて。
ラチェット
「いいえ、それはプリンのおかげです。
ラチェットはにっこり笑った。
アラン
「それで、ヴァンパイアの王は………。
桟橋の奥でフィカスは立ち尽くしている。
そして小さく呟いた。
フィカス
「イワン…………、ファラー………。
メトプレン
「フィカス、違うぞ、よく見ろ、ただのそっくりさんだよ。
フィカス
「そ、そうか………。そうだな。二人は死んだ。そうだな………。
フィカスは顔を片手で覆って俯いた。
アラン
「さあ、話は後にして、とにかく、城に行こう。
ディナーを用意してあるよ。
イプ
「うん、そうだよ!アランが作ったんだよ!
プリンセチア
「行こう、フィカス。
プリンセチアはそっとフィカスの手を握った。
フィカスもぎゅっと握り返した。
………………………………………………………
アランの作った豪華ディナーが長いテーブルに所狭しと並べられた。
テーブルには人間世界からの一同と海洋王国マロウの王ティレニアとその奥方、
子供達も席に着いた。
それは異常なくらい美味しいディナーだった。
プリンセチアにとってはじめての味、夢中になって口に入れた。
途中むせたりもした。
アラン
「そんなに急いで食べなくても大丈夫だよ。たくさん作ったからね。
イプ
「ねえ、本当に美味しいでしょ!
これも食べて!
プリンセチアの隣に座ったイプは唐揚げをプリンセチアの口に入れた。
プリンセチア
「うんまーーーい!
イプ
「ねえ、でしょ!次はこれ!カレー!
プリンセチア
「やっばーーーーい!美味すぎ!
そんな二人を見てみんなが笑った。
食事が終わるとプリンセチアはギターを弾いて歌い始めた。
その素晴らしい歌声にみな感動した。
ラチェットは特に涙を流して聞き入っている。
終わった後、ラチェットは感激してプリンセチアに抱きついた。
イプもラチェットごとプリンセチアに抱きついた。
プリンセチア
「うわあ、ありがとう、そんなに喜んでくれるなんて、嬉しいよ。
プリンセチアは笑って二人の頭にキスをした。
明るいプリンセチアはすっかりみなの心をキャッチして、極短時間でみんな大好きにさせてしまった。
歓迎パーティーも終盤、そろそろお開きの頃、突然食器の音をがシャンと立てて、
フィカスがテーブルから立ち上がった。
フィカスの瞳が真紅にメラメラと輝いている。
メトプレン
「ど、どうした?フィカス。
プリンセチア
「フィカス、どうしたの?
フィカス
「帰る……………。
メトプレン
「はあ?
フィカス
「なんだというのだ!こんな所、もういたくない!
メトプレン
「お、おい、急にどうしたんだよ。
プリンセチア
「フィカス?
プリンセチアはフィカスの腕に触れようと手を伸ばす。
その手をピシャリとフィカスは振り払った。
フィカス
「お前を見ると心が乱れるのだ!
プリンセチア
「え?
フィカス
「お前は、我のものになったではないか!
それなのに我以外の者と楽しんで、触れあい、幸せそうにしている。
お前は我など必要としては居ないのだ。
くそっ………、我の心が、心が………。
メトプレン
「イライラ………。」
フィカス
「ああ、そうだ、イライラする…イライラするのだ!」
プリンセチア
「ああ………、えっと、でも、僕が一番好きな人はフィカスだよ。
人にベタベタするのはいつもの僕のくせでしょ。ね。」
フィカス
「だがだが、このイライラはどうしたらいいのだ!
お前を食い殺してやりたい。
メトプレン
「うわあ……面倒くさいやつだこれ……。
プリンセチアは勢いよくフィカスの胸ぐらを掴んだ。
プリンセチア
「いい加減にしろよ!
僕はフィカスが好きだけど、フィカスの物じゃないし、食料でもない!
帰りたければ一人で帰れば!
プリンセチアはそう言うと食堂から飛び出して行った。
その後をラチェットが追う。
フィカスもバルコニーから飛び降りて走って行った。
アラン
「ああ〜えっと、ヴァンパイアの王様は確か5000年は生きてるんじゃなかったかな?
メトプレン
「まあね、だけど、ひきこもってたから、15歳くらいじゃないの?
アラン
「……………………そ、そうか。
アランは苦笑いした。
……………………………………………………………
プリンセチアは城から飛び出して森の中をぶつぶつ言いながら歩き続けた。
ラチェット
「待って、プリン!
プリンセチア
「ラチェット!ほっておいて、僕頭に血がのぼってるから。
ラチェット
「でも、こちらは危ない。帰りましょう。
「おや?おやおや?
草むらから気持ちの悪いジュルジュルとした声が聞こえた。
「ほおほお、これは良いものを見つけたよ。」
草むらがゴソゴソと動き、禿げた頭の背中が曲がった男が現れた。
手足が異常に細い。
プリンセチア
「誰だ!」
プリンセチアはラチェットを後ろにかばった。
「ひひひ……。
男は口から糸のようなものを吐き出して二人に吐きかけた。
たちまち二人は身動きが取れなくなり、枯れ葉の上にバタンと倒れる。
ラチェットは気を失っている。
プリンセチア
「くそっ………。フィカスーーーー!
プリンセチアは大声で叫んだ。
だがシュルシュルと蜘蛛男の糸がさらに口に巻きついて声が出せない。
眷属
「わしは蜘蛛の眷属じゃよ。どえらいグレゴリオ様の子供の子供の子供の子供じゃ。
グレゴリオ様にこの城を見張ってろと言われてたんだがの、
まさかこんなに可愛い人間とエルフが手に入るとは思ってもおらなんだ。
すぐに食べるのはもったいないのお。
たくさんたくさん可愛がってあげようねえ。ひひひ。」
男は長い手足で二人を両脇に抱えると自分のねぐらである洞窟まで連れ帰った。
男は二人を洞窟に転がすとねっとりとした目で舐めるように見回した。
蜘蛛の眷属
「ふむ、どっちからにしようか。
こっちのこのエルフ、なんとも信じられんほど綺麗じゃな。
男は長い指でラチェットの髪をかき分けるとウットリ見つめた。
口からはドロリとしたよだれが地面まで続いている。
プリンセチア
「ま、待って!
プリンセチアはもがいて自分の身体に巻きついた糸をむしり取った。
プリンセチア
「僕からにしてよ。あなたってば、本当に素敵だよね。
僕、蜘蛛の眷属って初めて会ったよ、なんてカッコいいんだろう。
ねえ、いいでしょう?
蜘蛛の眷属
「うむむ………。
プリンセチア
「このエルフちっこいし、体が弱いからすぐに死んじゃうよ。
ちっとも楽しめないって。
ねえ、僕あなたの事好きになったみたい………。
お、ね、が、い。
プリンセチアは蜘蛛男のそばににじり寄ると上目遣いに見つめた。
さらにシャツのリボンを解いて、胸元を開けた。
蜘蛛の眷属
「そうかそうか、そんなにわしが欲しいか。
よかろう、楽しみは後にとっておくものじゃし。
男はプリンセチアを押し倒し、長い手で両手を抑えた。
男はプリンセチアの首筋に吸いついて舌で舐め回す。
プリンセチア
「う………………。
プリンセチアは目をつぶり、歯を食いしばって耐える。
男の長い舌がで胸元をべろりと舐められたと同時にバキッと音がして、
男の頭が直角に折れ曲がった。
プリンセチアの身体の上から蜘蛛男の曲がった体がひっぺがされた。
フィカスの黒髪がプリンセチアの顔にパさりとかかったと思ったら、
すぐに身体を起こされた。
プリンセチア
「フィカス………、ありがとう。来てくれるって思って………。
フィカス
「この、愚か者!なぜこんな化け物に身を預けている!
プリンセチア
「ラチェットを守るためだよ。
フィカス
「だからといって………
プリンセチア
「僕は!ラチェットを仲間を守るためなら体の一つや二つ抱かせてやる!
ラチェットを守らない僕なら、死んでしまったほうがマシだ!
フィカス
「……………。
プリンセチア
「僕は、僕はこういうやつなの。ちっとも従順じゃないし、
考えるより先に行動しちゃうし。
嫌でしょ、こんな自由勝手なやつ。
だいたい不思議だった、フィカスみたいな超絶美形のヴァンパイアキングが
こんな僕を好きになるなんて。
ありえないでしょ。
フィカスは力強くプリンセチアを抱きしめた。
フィカス
「いいや、好きだ。
愚かだが…そんなお前が好きでたまらない。」
プリンセチア
「ああ、もうその顔、反則だってば…。」
フィカスはプリンセチアをみつめるとキスをした。
プリンセチアもそれに答える。
糸巻きにされて転がされているラチェットは頰をピンクに染めて微笑んだ。
……………………………………………………………
アラン
「砦攻略の作戦を立ててみた。聞いてくれ。
フィカスとメトプレンは地上から攻めて中のオーク達をおびき出し、
手薄になった所をイプが上空から砦に侵入して、指揮官を倒す。
セダム達ヴァンパイア部隊はフィカス達の援護だ。
出てきたオーク達をかたっぱしから倒してくれ。
今回はマロウ軍は城を守るため残ってもらう。
少人数でのミッションだ。
みんな頼むよ。
プリンセチア
「質問!僕は?勇者プリンセチアは何をするの?」
アラン
「え?えっと………、ゆ、勇者はラチェットを守る。
プリンセチア
「わかった!僕が守るよ!
ラチェットーーー
プリンセチアはラチェットを抱きしめて顔中にキスをした。
会議室の空気が一瞬ざわつく。
赤い目のフィカスがのっそり立ち上がると
すごいスピードでプリンセチアの両手を掴み壁に押し付けた。
フィカス
「我も作戦を立てたのだ。
フィカスはニヤリと笑うとプリンセチアの首筋に噛み付いた。
プリンセチア
「うわあああああああ!」
すぐに離してペロリと首筋の血を舐めあげる。
そのまま逃げられないように壁に押し付けたまま強引にキスをする。
プリンセチアの手が宙でもがき、足もばたつく。
アラン
「ああ………、イプ見るな。
真っ赤な顔をして見開かれたイプの目をアランは自分の手のひらで覆った。
濃厚なキスが終わるとプリンセチアはフィカスの毒(媚薬)でとろんとなってしまい、
フィカスの腕の中に収まった。
メトプレン
「なかなか激しいな……。
メトプレンはゴクリと唾を飲み込んだ。
グラインダー
「はあ、またか……。もう、外でやれ。
フィカス
「どうする?外に行けと命令が下ったぞ。」
プリンセチア
「う、うん………行こ。」
フィカスは口の端を上げてニヤりと笑うと
プリンセチアを抱いて風のようにバルコニーから飛び降りて行った。
終わり