イプの覚醒
王様はストーカー
アランとイプはエルフの国で戦っています。
その時のお話。
オークの大軍勢がアケメネスの城壁めがけて行進してくる。
イプは正面の城壁の上でそれを腕組みして睨みつけた。
軽いエルフの皮鎧をつけ、腰には聖剣アルシオンを下げている。
イプのそばに鎧で身を固めたエルフが近づいて来た。
レヴィ
「イプシロン、援軍は本当に来るのか?」
イプ
「レヴィ様、ええ、大丈夫です。
だからそれまで、僕が守ります!
わあああーーー
突然、城を守るエルフ達が叫び声を上げた。
オークの軍勢の中央から巨大な大蛇が現れ、すごい勢いで城門めがけて突進してきた。
イプは城壁から飛び降りて、城門前に構えた。
大蛇が城門にぶち当たると、ものすごい音とともにかんぬきがしなった。
あと数回で城門は破られるだろう。
レヴィ
「城門を破られたら終わりだ!
イプは壁を乗り越え、城門の外にいる大蛇の上からアルシオンを振り下ろした。
大蛇は予期していたかのように尻尾を振り回してイプを叩きつけた。
イプ
「く…………。
イプは口から血を吐いてうずくまる。
大蛇がイプを嚙み殺そうと牙で襲いかかる。
その瞬間、現れた魔道士がイプを抱くと霧のように消え去り、
城門の内側に転移した。
メトプレン
「大丈夫か、イプ!
イプ
「うう………、だ、大丈夫、これくらい……っつ。
メトプレン
「無茶するなあ、イプ。
イプ
「だって………。このままじゃ、壊されちゃうよ。」
メトプレン
「あの大蛇は古代からいる古き眷属、ウェルズだ。
普通の人間では到底かなわない。
だけど、これなら……。
メトプレンは銀色の鎧を取り出した。
イプ
「何?この鎧。」
メトプレン
「エリュシオンの翼の民の鎧だ。
これをまとうんだ。さあ。
これなら勝てる。
イプ
「う、うん。
メトプレンは器用に鎧を着せてやった。
そのとたん、イプの身体は光を放ち、
銀髪がさらに伸びて金色に光った。
エメラルドブルーの瞳は黄金色に色を変えた。
イプの生えたばかりの小さな翼が大きく成長して、羽ばたいた。
メトプレン
「……………………。これは……………。
イプ
「わあ、身体が軽いよ、メト!」
イプは翼を羽ばたかせ上空に飛び上がった。
エルフ達から歓声が湧き上がる。
レヴィ
「ああ、なんてことだ。エリュシオン、翼の民だ。
イプは鷹のようにすごいスピードで下降して大蛇に切りつけた。
大蛇の腹にアルシオンが突き刺さりバタンバタンと暴れた。
さらに飛び回りながら大蛇に切りつけ頭を落とす。
「援軍だ!」
法螺貝が響き渡りオークの軍勢の後方に黒い鎧のエルフ軍が襲いかかる。
レヴィ
「出撃だ!」
レヴィ王は城門を開け、先陣を切って飛び出した。
ウェルズを倒したイプも上空から大将首を狙い、急降下して攻撃する。
挟まれたオーク軍はあっけなく短時間のうちに壊滅し、
生き残りも散り散りになって逃げていった。
イプが空から城内に舞い降りるとエルフ達がひざまづいた。
王であるレヴィもひざまづき、崇拝の眼差しでイプを見つめた。
レヴィ
「おお…………、エリュシオン、神の一族よ。
イプ
「や、やめてください!そんな。ねえ、メト!
メトプレンも興奮した顔でひざまづいている。
イプ
「メトまで、い、やだよ、僕は………。
イプがハッとして自分の髪を掴んで見ると、透き通るような金色の
髪が足首まで伸びている。
メトプレン
「君は…神だ。イプ。
イプ
「いつものメトらしくないよ、僕は神様じゃないって。
やめてよー!
イプは叫んで目に涙をためた。
その時、援軍を指揮してきたマロウのエルフ、
ティレニアとアランが鎧の音を鳴らしながら城門の階段を登り広間に入ってきた。
ティレニア
「こ、これは!翼の民!イプシロン殿が!ああ………この目で見られるとは。
ティレニアは膝をついて感激した様子でイプを見上げた。
イプは眉をひそめて後ずさった。
そして、ハッとしてアランを見る。
アランは立ち止まり、口を半開きにし、目を見開いてイプを見ている。
しかし、アランとイプは目が合わない、アランは怖い顔でイプの全身を上から下まで往復してガン見した。
イプ
「あ…………、アラン………、僕は、僕は………。
イプの目から涙が今にもこぼれそうだ。
アランはつかつかとイプに近づくとガシッと両肩を掴んだ。
イプ
「え…………、アラン……?
アラン
「イプ、ダメじゃないか、こんなに髪をグシャグシャにして。
それになんだい、この生臭い透明などろっとした。
うわっ………、これ………。
ああ、頼む!
僕に洗わせてくれないか?君の髪!
ああ、そしてちょっと手入れして………。
僕に結わせてくれ!見事に仕上げてみせるから、ね!
イプ、お願いだ!
ああ………、はあはあ、あと、僕が作った赤い翼の民用のローブ、
あれ、あれ着よう!
耳飾りも欲しいな。赤がいい。
ああ………つまり、僕の好きにしていい?
アランは真っ赤な顔で息を荒だてながら、モジモジしている。
イプ
「……………。
イプは目から涙をこぼして、アランに抱きついた。
アラン
「イプ、ど、どうした、どこか痛いのか?
そんなに泣いて……。ああ、ごめん、僕何か変なこと……。
イプ
「アラン、大好き。」
アラン
「えっ?えっと?あれ?んっ?
困ったように頭をかいているアランを見て、メトプレンが吹き出した。
レヴィ達も優しく笑った。
終わり