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フレア王の最後

王様はストリッパー



ラチェット王がエルフの国に渡った後のお話

雪が静かに降る、その中をゆっくりと白い棺が運ばれていく。

国民の嘆きごえ。

棺は王家の墓地に置かれ、王族達は最後の別れを告げる。

そこで私は久しぶりに愛するものの顔を見た。

白く小さい、私の天使。

もはやあの笑顔は戻らない、愛らしい唇が私の名を語ることはない。

美しい虹色の瞳が私を見つめることも。

小さな顔に触れた、冷たく人形のようだ。

私は身分も忘れて泣き崩れた。


「ああ………、ラチェット!」


幸せだったか?ラチェット…………。

最後に会うこともできなかった。


3人の他の王子達も棺にすがって涙を流している。

私の中の最も大事なものが消え去った。

後はこの想いを抱いて、生きていく、ひたすらに、ただそれだけだ。




………………………………………………………………………………




苦しいな、呼吸が。

そろそろ先祖の元に旅立つ時が来たようだ。

ラチェットを失って80年が過ぎた。

あいつら……、

トルクも、レシプロスもブロワーももう死んでしまった。

ブロワーでさえ、ちゃんと王として国を治め、5国が戦争することなく

平和な時代を築く事ができた。

まさか私が一番長生きするとは思ってもいなかったが。


ああ、もうすぐラチェットの元に行ける。

やっと。

心から愛した人はお前だけだった、ラチェット。

どうか、迎えに来ておくれ、私の天使。


はあ、苦しい、呼吸が浅くなる……。

だが誰も気づいてはおるまい。

昼は普通に生活していたからな。

私はこのまま行くだろう、一人で静かに…、私らしいな。


「ああ………、ラチェット………。」


その時部屋中が青い白い光に包まれた。


「ああ!フレア様!」


青白い光の中から、白い翼の男に抱かれた美しいエルフが走り寄って来て、

私の首元に抱きついた。


プラチナブロンドの小さくうねった髪が床に広がっている。

とても美しい。


「フレア様、私です、ラチェットです。」

「ラチェット……、なのか?」

「はい、はい!私です!」


耳は尖っているが、顔は、たしかに私の愛しいラチェットだ。


「迎えに来てくれたのか、ラチェット。」


ラチェットは滝のように涙を流している。


「相変わらず……、泣き虫であるな。


笑ったが、かすれて声は出なかった。


ゴーストのはずのラチェットはやたらと温かくて柔らかい。


「ああ………、君は…生きていたのか?」

「はい、私の母はエルフなので年をとりません。

だから、エルフの国で暮らしています。


「あ…の、男……、グラインダーも共に……。

「はい、グラインダーさんも一緒に。」

「そうか……。幸せか?」

「はい。」


ラチェットは涙でグシャグシャだが、ニッコリと微笑んだ。

この笑顔だ、これがみたかった。


「ああ………、よかった………。」


ヒューヒューと胸から音がする。

酸素が足りない。


「フレア様!」


ラチェットの小さな手が私の顔に触れる。

私も手を伸ばし、ラチェットの頰に触れた。

涙が私の手を伝ってシーツに落ちる。


「お前が…幸せなら……、私も…幸せだ………」


死を目前にして、私は突然幸福におそわれた。

私の人生が輝かしいものに変わっていく。


「あ……、愛している……………。」


私の目から涙が一筋流れた。

ラチェットは私の白い頭を優しく撫でて、

白いひげの間の口にキスをした。

ラチェットの昔と変わらない甘い香りが広がる。

不意にラチェットの顔が見えなくなり暗闇に包まれた。


「フレア様!」


ラチェットの悲痛な声だけが聞こえる。


「泣き虫だな…、ラチェット……。

「ああああ………。


私はラチェットの顔を想像しながら笑った。

ラチェットの声がしだいに遠くなっていく、意識が薄れていく。

私は

「愛している」

と、何度もつぶやいたがおそらく途中から口は動いていなかっただろう。


そして最後の時は訪れた。





終わり






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