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少し不思議な日常を  作者: 紅葉 咲
       
3/5

1月10日 午前

「いやぁにしても都会って久しぶりだねぇ。2週間ぶりくらいじゃない?」


俺は電車の外を高速で過ぎ去る景色を見るのに飽きて口を開く


4人掛けのシートにはスマフォをいじる枯木、本を読むエメリー、俺と同じく電車の外を眺める新月さん


この場に愛しいあの子がいないのが悲しいが、今日は仕方ないなと割り切る


「いや毎日通勤で通ってるだろ」


枯木がスマフォをいじりながら俺の言葉にこたえる


「そうじゃなくってさぁ。こうやって完全に遊び目的で都会に行くのがってこと。今年に入って初めてでしょ?」


「そうだな。お前がいきなり明日晴れだから新月の誕生日パーティー都会でやるぞって決めたからな」


「名案でしょ」


我ながら夜にしっかり天気予報を見ていたことを褒めてやりたい


「でも都会行くなら早めに言ってほしかったわ。だったら誕生日プレゼント都会で買ったのに」


本から顔をあげてエメリーがこちらを見る


普段からジト目気味なのにさらにそこに呆れのような色が混じっている


「いいんですよエメリー様。選んでもらった立つ筆箱、凄い使いやすいです」


微笑みながら新月さんは言う


「…でもさぁ新月さん。誕生日プレゼントが全部108円ショップで揃うのでほんとによかったの?」


新月さんの誕生日プレゼントはもうすでに3人は渡している


俺は『2018年のスケジュール帳』


エメリーは『立つ筆箱』


愛しいあの子は『家計簿』


やはりどれも108円で買えるような品物ばかりだ


「そうよ。バックとか腕時計とかでもよかったのよ?」


エメリーも普段からお世話になってる新月さんの誕生日プレゼントがこんなのじゃ申し訳なく感じているみたいだ


「バックも腕時計も今使ってるものがありますし、スケジュール帳や家計簿は今年から新しいのを使いたかったので満足していますよ」


「カッ! 本人がいいって言ってんだから別にいいだろしつこいぞ」


新月さんの言葉に枯木がスマフォをズボンのポケットに入れながらつづく


「唯一誕生日当日の今日まで何も買ってない奴が凄い偉そうなんだけど」


「俺の役割は誕生日ケーキだからな。早く買い過ぎても悪くなるだけだ」


「枯木がコンピニの少し高いプリンをラッピングしてケーキの代わりにしようとしていた事を私は忘れないからね」


エメリーがボソッと言う


「お前ってやつは…」


「だからあれは冗談だって言ってるだろ!てかあのプリン冷蔵庫に入れて次に開けたら消えてたんだぞ!?」


「え?もしかしてそのプリンってパッケージ白い?」


「…白くてふたの中心に月のマークがついてたな」


「プリン凄く美味しかったです」


「食ったのお前かよ! 無くなってたからてっきりあいつに食われたのかと思ったわ!」


「いやぁごめんごめん。あ、もうすぐ都会につくよ。降りる準備しなきゃ」


枯木の怒りを軽く流し降りる準備をする


電車は徐々にスピードを落とし俺達の目的地に止まる


電車を降り改札を抜け、大きな駅から出る


都会は平日の昼間だろうが賑やかだった


いつかは人も車いない静かな都会を見てみたいなぁ


「で、都会についたわけだけど予定は?」


俺が人がいなくなった都会を夢見ているとエメリーが急かすように言った


「ゲーセン」


「パチンコ」


「燃やすぞ廃人共」


俺と枯木の即答にエメリーは同じく即答で返す


「はーいごめんなさーい」


「ばっかだなお前とりあえずパチンコで資金を増やしてだな?」


「なんで枯木は食い下がるのよ」


「…でもゲーセンって案外良い提案だと思うんだ」


「ほら枯木が食い下がるから桜もなんか言いだしたじゃないの」


「いやほら、俺達なんの予定もたてずに突発的に新月さんの誕生日祝う為に都会に来たじゃん?イベントとかもちろんやってないわけですよ。今日平日だしね。だったらもうゲーセンしかないじゃん?」


実際にゲーセンって良い案だと思う。ガンシューティングとかクレーンとかメダルとか盛り上がると思う


「ゲーセンしかないって考えがまずおかしいだろ」


「最初にパチンコって案を出した奴は黙ってて貰おうか」


「まだ諦めてねぇぞ」


枯木の諦めの悪さは異常


「新月はどこか行きたいとこある?」


「私は特にありません」


「ならもうパチンコしかないわけか」


「はぁ…。じゃぁ仕方ないからとりあえず近場のゲーセンでクレーンの景品でも見ながらどうするか決めましょ」


エメリーはため息を吐いて俺の提案を受け入れる


「やったぜ」


さすがにパチンカスの提案よりかはマシだったんだろうなぁ


「近場ねぇ…。あ、確かあの背の高い建物の地下にゲーセンあったよな。行こうぜ」


さっきまでパチンコ行こうぜとしか言わなかった奴が目的が定まった瞬間歩き出す


枯木の切り替えの早さは異常


とりあえず枯木を先頭に12階建ての建物に入る


自動ドアをくぐるとすぐにエスカレーターがあり枯木は迷わず下に降りて行く


ここで俺達3人が上に行ったらあいつどんな反応するのかなぁ


まぁそれは可哀想すぎるので素直に俺たちも下に行くエスカレーターに乗る


地下は全体がゲーセンになっているようで四方八方から統一がされていない雑多な音に取り囲まれる


このグチャグチャ感が俺は好きだなぁ


俺はまるで実家のような安心感と幸福感にに包まれる


「んー。ここのゲーセン久々だから色々配置変わってんなぁ。あのタコ焼き機の中にピンポン入れる奴どこいった?」


「適当に回ってればみつかるでしょ」


「俺様あれ以外で景品取れねぇんだよなぁ」


枯木はぼやきながら奥へ奥へと進んで行く


「新月を祝うって言ってるのに早速単独行動してるわねあいつ。…あ、このクレーンの景品もしかしてバケモノフレンヅのガチックさんのタオルケットじゃない? 桜これ取って」


「俺の推しはツライさんだからなぁ。てか自分でやればいいじゃん」


「1回アームの強さみたいの」


「何かを知るためには何かを差し出さなきゃいけないんだよ」


「だから桜の200円を差し出すのよ」


「それエメリー何も失ってないじゃん」


「あら可愛らしい絵ですね」


俺がツライさんのタオルケットがないかクレーンに張り付いていると新月さんが珍しく幼児以外のキャラクターに興味を示した


「あれ新月さん知らないっけ? このキャラはバケモノを擬人化したアニメのキャラで」


「おいやばいぞバカどもここから早く撤退するぞ」


俺が新月さんにアニメの説明をしようとすると枯木が指で✕マークを作りながら戻ってきた


「どしたの?」


「やばい」


「え?なにが?」


「やばい」


「なにか奥であったんですか?」


「やばい」


「桜の顔面偏差値は?」


「ガチでやばい」


「お前もう一生やばいとしか言えない身体にしてやろうか」


俺は枯木のみぞおちに拳をあてながら言う


「許してくれ。この通りだ」


そう言って枯木は俺の顔の前に中指をたてる


「どのとおりだよ」


俺はそう言いながら枯木の右足のすねを蹴る


「ほっ!? ぉぉぉぉおおおおお…!!?」


枯木は公共の場であることを考慮し声を噛み殺しながらうずくまる


「みぞおちの拳はフェイクかよぉぉぉ…。しかもこいつ安全靴で蹴りやがった…」


「ほら。何がヤバいの?お前の性格?」


枯木がうずくまったことにより頭がちょうどけれる位置にある


こめかみを思い切りけるか、顔面にひざを入れてみるか、思い切り頭を踏みつぶしてみるか


でもさすがにそれをやるとエメリーや新月さんに引かれそうなんだよなぁ…


「奥の対戦型格闘ゲームのコーナー。店員3人在住」


うずくまる枯木はぼそりと言う


「対戦型格闘ゲームのコーナー? それがどうしたの?」


エメリーは首をかしげ枯木の言葉を繰り返すが、よくゲーセンにいる俺は直ぐに察する


格闘ゲームコーナー。あそこには魔物が住んでいる


概念とかじゃなく、実際に出現する


なんなら沢山の種類がいる


ゲーセンで働く店員(プロ)が3人もコーナーに張り付いていると言うことはその魔物が現れたのだろう


俺も格闘ゲームをたまにするが、その時は周りを確認し魔物がいないことをしっかり確認してからやるようにしている


「何型か確認はした?」


「ミサイル装備のナイト持ち姫型と初心者狩り奇声型。多分どちらも台バンを習得してる」


ペットボトルをもった数人の男を味方にしている女性と初心者や弱そうな人に対戦をしかけうまくいかないと声を上げる人


そしてどちらも台を殴るのか


枯木の観察眼を信じるなら、地獄が生まれそうだな


「よし撤退」


「?」


「あれ。あんなに来たがったのにもう出るの?」


「ここってクレーンよりも音ゲーとか多そうだからね」


「そもそも俺はゲーセン反対してただろ。いいから出るぞ」


女二人が不思議そうに俺と枯木を見る


確かにまだ全部のクレーンの景品とか見ていないが、さすがに新月さんの誕生日に醜い争いを見る事になるのは嫌だ


そしてまだなにか納得のいかない顔をした2人の背中を押すようにして俺はゲーセンから出る上りのエスカレーターに乗る


その時、ゲーセンの奥からゲーム音に紛れて聞こえたまるでペットボトルが思いっきり壁にぶつかる音、台を殴る音、猿のような奇声、お客様と叫ぶ店員の声を俺は忘れない





「で、振り出しに戻ったんだけど?」


店から出るとエメリーが腕を組んでいた


「そ、そうだねぇ…」


「はぁ…とりあえず飯食いに行こうぜ」


枯木がため息をついて言う


「そうですね」


「そう言えば俺達朝ごはん食べてないもんね」


「じゃぁさっさと行きましょ。新月はなに食べたい?」


「私は」


「ラーメン食いに行こうぜラーメン」


「枯木にじゃなくて新月にきいてるの」


「俺は肉がいいなぁ」


「だから新月に聞いてるって言ってるでしょ!」


「私もラーメンで大丈夫ですよ」


「よしきた」


「…新月が言うなら私もラーメンでいいわよ」


「え、お肉食べたいんだけど?」





チャーシューおいしかったです。はい。

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