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少し不思議な日常を  作者: 紅葉 咲
       
1/5

『きっかけ』は不器用な

実話か嘘話か

怠慢(たいまん)です」


リビングにある2人用ソファに寝そべりながらヤンデレの同人誌(流血無し)を読んでいると、『メイドさん』の声が聞こえた


ヤンデレの同人誌(全年齢対象)から目線を少しだけ右にずらすと青い瞳と目があった


―――冷たい目ってこういうのをいうんだろうなぁ


俺はそんなことを思いながらも口には出さず、ゆっくり丁寧にヤンデレの同人誌(聖典)を閉じて体を起こす


「えっと…。どうしたんですか『新月(しんげつ)』さん」


かかとを揃え、背筋をピンッと伸ばして美しく立つ『メイドさん』の名前を呼ぶ


「怠慢です」


「いやそれは聞いてたけどさ…」


新月さんは変わらず冷たい目で俺を見ながら再度同じ言葉を言う


この人基本無表情だからなぁ…


怒ってんだかどうなのかいまいちわからないんだよなぁ…


「いったい何が怠慢なんですか?」


「今の『(さくら)』様の状態がです」


新月さんは俺の名前を言いながら非難をしてくる


「えぇ…。そんなこと言われても…。確かに俺は2人で座るソファを1人で独占(どくせん)してたけどそれっていきなり『怠慢』って言われるほどの罪なの?」


「それじゃありません。私が怠慢だと言っているのは、私たちの仕事が早めに終わって15時に家に帰ってきてから19時になるまでの4時間の間のあなたの行動のことです」


新月さんは俺が怠慢である理由を抑揚(よくよう)の少ない声で告げる


「行動? でも俺、新月さんがお弁当とか洗ったりお風呂入れたりしてる時に新月さんの代わりに洗濯物を入れたり畳んだり、あと掃除したりもしてましたよ?」


帰って来てから新月さんの手伝いとして家事をやったんだけどな…


「確かに今日の桜様は家事の10分の1を手伝ってくれましたね。その件はありがとうございました」


新月さんはペコリと頭を下げる


「あぁいやそんな、いつも新月さん一人で家事してくれてますし(たま)には俺も手伝いますよ。…でもじゃぁ何でその手伝った今日に限って怠慢だって言ってきたんですか?」


俺は冷たい目のメイドさんに頭を下げられ居心地が悪くなりすぐに話しを戻す


すると新月さんは頭をあげ、変わらない冷たい目で俺の目をしっかり見て言う



「それは桜様自身が、やらなければならない事があるのにそれから目をそむけるように他の事をしているからです」



「…いやぁ俺にやらなきゃいけないことですか?」


俺はつい視線をあらぬ方向に向けながらごまかす


「ごまかさないで下さい」


すぐにごまかしたとバレた


これじゃまたクズに『霊長類(れいちょうるい)(仮)』と(ののし)られてしまうな


端的(たんてき)に言いますと、(わたくし)をやることをやらなかった理由として利用するのはやめて下さい」


別の事を考えていると分かったのか、新月さんはいちだんと厳しい言葉を紡ぐ


「桜様はやらなきゃいけないことがあるのにそれがやりたくないからと今日私の手伝いをして『今日俺は新月の手伝いをして忙しかったからあれが出来なかったなぁ』とやらなかった罪悪感(ざいあくかん)を消す理由として私を利用しないで下さい」


参ったなぁ…


図星だ


「いやぁ。やっぱり新月さんは(きび)しいですね」


「メイドですから」


「答えになってるんですかそれ?」


「今日中にそのやらなければならないことを終わらせましょう」


俺の軽口(かるくち)を流し言う


「いや、期日は日曜日までですからまだ大丈夫ですよ」


俺はソファから立ち上がりながら言う


「駄目です。きっと桜様はこのタイミングを逃したらやるべきことをやらずに期日を迎えます」


「いやいやそんなことはないで」


予感がした


多分俺が今新月さんの言葉を否定して俺自身のやるべきことを『今』しなければ、代わりにこの人がやってしまう


そんな嫌な予感がした


「…分かりました。確かに思い立ったら吉日って言いますしね。今日中、いや2時間以内に終わらせますよ」


「2時間で終わるなら私が言う前にやってください」


新月さんは冷たく言うが、視線からの冷たさは無くなった


…ような気がする


…いややっぱり冷たいままだ


「いやぁ、やろうやろうと思ってもやっぱりきっかけとかがないと先延(さきの)ばしにしてしまうんですよね」


「怠慢です」


「新月さんのおっしゃる通りです…」


新月さんはやっぱ厳しいなぁ。まさか家事を手伝った今日に限ってこんなビシバシ痛いところをついて来るなんて…


…あぁ、なるほど


そう考えて俺はふと気付いた


「では私はこれで」


新月さんは頭を軽く下げるとスタスタとキッチンに向かっていく


晩御飯の準備かな?


「はい。ありがとうございました」


背筋がピンッと伸ばされた綺麗(きれい)な後ろ姿に俺はお礼の言葉を投げかける


「それと、お礼の仕方が少し不器用過ぎませんか?」


そしてからかいの言葉も投げてみる


すると、新月さんは立ち止まり無表情でこちらを向く


「何のことかわかりかねます」


そう言って今度こそ新月さんはキッチンに消えていった


「まさか家事の手伝いをしたお礼が『やらなきゃいけないことをやるためのきっかけ』とはまた、ほんとメイドさんのくせに不器用過ぎるよ新月さんは」


そう言いながら俺はリビングの(すみ)にある共同パソコンを起動させ、あるサイトを開く


「さぁ、新月さんにここまでお膳立(ぜんだ)てされたんだ。次の日曜日、いや今から2時間立つ前に俺がやらなきゃいけないことをやらないとね」


俺は自分に言い聞かせるように、その2時間以内にやらなければならない事を呟いた





「さ、『新しい小説を書きだす』かな」




今回の登場人物


―――――――――――――――――――――――


『小説家』 ・・・・「桜」

『メイド』 ・・・・「新月」

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