76話 謎と傷と家族
前回の後処理みたいなもんですね。
倒れた司の様子を見てみると、技を放っていた右腕がボロボロだった。
他にも身体中に傷がいたるところについており、とても大丈夫とは言えない状況だった。
「司先輩の傷は私が治します。前の戦いでは私も
宝具を扱うことが出来ませんでしたが、今は使
えます」
八岐大蛇と戦った際に、司の傷を由井は無意識に宝具の能力を使って治した。
その時は由井の強い思いに宝具が反応したので、由井自信にも何が起きたのかわからなかったし、詳しい能力もわからなかった。
「能力はもうわかったんですか?」
「い、いえ。実はまだわかっていないんです」
「じゃあ、どうするつもり?」
「きっと私の宝具なら治してくれると思うんで
す」
由井の回答に香菜美は呆れていたが、実際司の傷を治すにはそれしかない。
「あのー・・・由井さんの宝具の能力で立花さん
を治せるってことですか・・・?」
この会話をしている時、慶夏何も知らなかったので、何の話をしているのかわかっていなかった。
「はい。詳しい能力はわかりませんが、おそらく
治すことができるも思います」
「まぁ、伊達に特訓はしてないってことですね」
「がんばりましたもんね」
どうやら八岐大蛇との戦いの後、宝具を扱う特訓をしていたようだった。
「今回はお腹に穴も空いていないですし」
「え、穴が空いたことあるんですか・・・」
「ええ・・・まぁ・・・」
一般的には腹部に穴が開く傷など聞いたことも見たこともないだろう。
だが、司にとってはそれが普通なのだ。
「では、行きます!!宝具展開!!」
由井は杖状の宝具を展開すると、司の傷を凝視した。
そして、集中して念じ始めた。
「治れ・・・治れ・・・治れ・・・」
とても何か能力を使っている念じ方には見えなかった。
「ほ、本当にこんなので治るんですか?」
「ええ。た、多分・・・」
何故だか香菜美とステラまでもが不安になり始めていた。
だが、そんな不安を他所に、由井は念じ続けた。
結果はすぐにわかった。
「ふぅ・・・治りました!!」
「「「え!?」」」
由井の事を信じていた訳でもなく、今のこの状況も理解しているつもりだったが、つい三人は驚いてしまった。
「な、何ですかその反応・・・もしかして、私が
司先輩の傷を治せるか心配だったんですか?」
「う・・・め、面目ないです・・・」
慶夏はすぐに白状したが、香菜美とステラは上手く誤魔化していた。
「何言ってるんですか。以外と早かったからびっ
くりしただけに決まってるじゃないですか」
「そ、そうです。そんなところです」
由井は二人の発言を怪しんでいたが、今はそんな事をしていられる状況ではない。
これからどうするか話を切り出そうとしていたら、この状況を解決してくれそうな人物達が来た。
「戦闘は終わったのか?」
「また随分と派手にやりましたね・・・」
「アテナ様も今回はそんな事言えないと思いま
す」
やって来たのは、魔獣の駆除をしていた神器三人だった。
後処理を忍の里の人達に任せてやって来たのだ。
「司の様子はどうなんだ?」
「はい、傷は私が治したので今は大丈夫です」
「なんだ、宝具の能力を使えるようになっていた
のか。それは良いことだな」
「ええ、まぁ・・・ありがとうございます」
スカアハが由井を褒めると、由井は照れ臭そうに返答した。
そんな会話をしている中、アンドロメダは司の容態を見ていた。
「確かに傷は治っていますが、右腕はボロボロで
すね」
「え?確かに右腕の傷は酷かったですが、しっか
りと治しましたよ」
由井がそう言ったので、再び全員で司の右腕を見てみた。
「た、確かに傷は見当たりませんね・・・」
「ええ。普通の右腕ですね・・・」
四人は何も気づかなかったが、神器達は神妙な顔つきで右腕を見ていた。
「これはまた随分と無茶をしたらしいな」
「はい。魔術回路がぐちゃぐちゃですね」
「一体何をしたらこうなるなのでしょうか?」
これで一つだけわかったことがある。
由井の宝具は傷を治すことが出来るが、魔術回路は治すことが出来ないということである。
「これで由井の宝具の能力が何となくわかりまし
たね」
「お、教えたください。アンドロメダさん」
「由井は視認できる傷は治すことが出来ますが、
魔術回路のような目に映らない物は治すことが
出来ないということです」
アンドロメダの説明を聞いて由井は何となく納得した。
これからも由井の宝具の能力については探求が必要である。
「でも、自分の宝具の能力がわからないなんて
珍しい事もあるんだね」
香菜美が由井の心をえぐるような台詞を放った。
確かに宝具は使用者の心が形になったものだとよく言われる。
つまり、本人がわからないことは無いのだ。
「それは由井がまだ強い意思をもっていないから
だろうな」
宝具の謎について答えたのは司だった。
「師匠!!もういいんですか?」
「ああ。傷は全て治ったしな」
「いや、全てではないけどな」
司の右腕についてはまだ何も話していなかった。
神器達はともかく、四人は司の右腕がどのような状態なのか知らない。
「ただでさえ魔術回路が壊れているのに、祝福で
強化もせずに無茶をしたんだろう。当分は右腕
に魔力は流れないぞ」
「まったく。一体何をしたんですか?」
「実は・・・」
司は全員に沙夜に教わった魔力憑依について説明をした。
説明が終わると神器達は呆れきっていた。
「随分と馬鹿げた魔術を使ったな・・・」
「確かに強力ですが、これは本当に最終手段です
ね」
「これは祝福無しでは使用禁止です」
神器達から魔力憑依の制限を決定付けられてしまった。
だが、司は自分の事よりも慶夏について話をしたかった。
「慶夏。お前に話しておきたいことがある」
司は慶夏の両親が亡くなった本当の理由を説明した。
慶夏は動揺もせずにただ黙って聞いていた。
「それで慶夏、お前はこれからどうするんだ?」
「これからですか・・・?」
「そうだ。身内の伊之助さんが黒幕となれば、忍
の里でのお前の居場所は無くなってしまった事
になる」
伊之助が黒幕ならば、ウィザード達により徹底的に家が捜索されるであろう。
慶夏には今家族が誰一人存在しない。
身内とも呼べる人が黒幕だったのだから。
「そうですね・・・私は寮暮らしなので住む所に
は困りませんが、故郷にすら家族が居ないのは
悲しいですね・・・」
慶夏は悲しそうな顔でそう言った。
他の人に慶夏を引きとってもらうという選択肢もあるが、今は前回の魔獣の襲撃によりそんな余裕は全く無い。
その事を理解しているからこそ、慶夏はより悲しい顔をするのだ。
「慶夏、一つだけ質問をしていいか?」
「はい、何でしょうか?」
「もし叶うならば、どんな家族が欲しい?」
周りはその質問を不謹慎だと思ったが、慶夏は少し考えると、しっかりと答えた。
「ただ私を大事にしてくれる人達が家族ならいい
なと思います。それ以外は望みません」
その返答を聞くと何故か司はの顔は笑っていた。
そして、あり得ない事を提案してきた。
「よし。なら俺の妹になれ!!」
司がその一言を言ってから少しの間沈黙が続いた。
「「「はぁーーー!?」」」
三人組は驚きの声を上げ、神器達は笑っていた。
肝心の慶夏はというと・・・涙を流していた。
「何ででしょう?その一言が私はとても嬉しいん
です。普通だったらおかしな一言なはずなの
に」
「で、どうする?俺の妹になれば恐怖の姐が二人
ついてくるぞ。とてつもないほど家族思いの
な・・・」
「それも嬉しいです・・・でも、本当にいいんで
すか?」
「ああ。実は二人の姐が妹が欲しいと前から言っ
ていてな・・・俺から頼みたいぐらいだよ」
慶夏は涙を拭いて頭を下げた。
「これからよろしくお願いします。立花さん」
「立花さんじゃない。今から兄と呼んでくれ」
「はい!!お兄ちゃん!!」
二人の会話を聞いていた三人は唖然としてその時は何も言えなかった。
神器達はずっと笑いながら二人を見ていた。
そして、慶夏は最後の最後で満面の笑みだった。
つづく。
今回の解説。
前回司が使っていた「雷光拳」について。
雷光拳は元々沙夜が使っていた技であり、何種類か技がある。
前回司が使ったのはその一つの「迅雷」
魔力憑依をしている状態でのみ発動可能。
右腕に貯めていた魔力と魔力憑依に使っていた魔力を全て放出する技。
今回は伊之助の宝具の能力により、放出量に制限がかけられていたので、司の右腕は無事だった。
だが、制限をかけられていても凄まじい威力を誇る。
司にはライトニングブレイクという技もあるが、あれとは非にならないほど凄まじい。
今回は以上です。




