嘘つきの恋の終わらせ方
『倫、好きだよ』
君は少し面喰らって、今日の日付を思い出すと笑う。冗談の免罪符を得ないと、君を口説く勇気もない私を許さないで良いから。もう二度と言わない。だから、今日は許して。
ねえ。あなたは今、好きな人はいるかな? 気になる人は? いないなら結構。居るなら大いに結構。別にそれが夫だろうと妻だろうと、彼氏だろうと彼女だろうと、そうでなくても良い。好きな人はいるかな。
私はいる。倫にずっと片想いをしている。一年連れ添っている恋人とはまた別の男性だ。
倫理的には駄目だね。うん、わかるよ。理解できるよ。でももう『そう』なってしまったんだ。最初はクラスメートになったら趣味が合って、一緒にいる時間が増えてきて、他者との時間でも、倫との時間を『素敵だな』『いいな』と思うようになったことから始まったんだと思う。
結末はとっくに飛散してる。
現実では度胸のない私も、脳髄の妄想では倫と手を繋ぐ。倫は良い匂いがして、緊張するのかどぎまぎと握り返すと、ほんのり赤面して微笑む。私は倫の腕にしがみつく。筋肉が、骨格が服の下から主張して、私はぎゅっと力を込める。倫の髪をすき、頬を撫で、耳を噛み、指を重ねる。倫に寄りかかれば、肩を抱いてくれる。私の名前を囁き、低く笑って、倫も私にもたれる。倫と二人で生きていく。
そんな夢。
想像するだけなら誰も傷付けない。傷付かない。迷惑もかけない。最高だ。それで満足すれば良いじゃない。ねえ? 不思議なもので、欲は止まらない。
言いたくなる、伝えたくなる。好きだって言ったらどんな顔するんだろう。困るのかな、拒絶されるのかな、罵るのかな。
受け入れてくれないのはわかってる。なのにどうしてか無性に、知って欲しくなる。私がどれだけ焦がれて、倫を欲しているか。私と同じだけ、私を求めて欲しくなる。
そんな夢。
小賢しい私に神様は一年に一回、特別な卯月にその日をくれる。嘘をついて良い日。騙して良い日。いつも騙している私には、正直になって良い日。冗談だよって、最後につけて笑えば何と言っても許される日。ずっと言いたかった。ずっと言うのが怖かった。倫に傷つけられたら私は、どうやって生きたらいいのかわからない。
『倫、好きだよ』
それでも一抹の淡い希望を持って私は倫に言葉を放つ。倫は少し面喰らって、今日の日付を思い出すと笑う。
さよなら、俺の倫。俺だけの倫。
『彼女に言ってやれってー』
これでいい。
きづかない。
きずつかない。