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抜け駆け

 権力者と懇意になる効果は、ジェーンの予想よりはるかに早く現れた。翌日には二人が馬に乗って城を出た話は、彼を狙う少女たちの間を瞬く間に駆け巡った。

「お友達に抜け駆けされるなんて、あなたもかわいそうね」

 ヴァネッサのいやみにレイチェルは首を振ってきっぱり言った。

「ジェーンは、そのようなことはしません」

「わからないでしょう、二人っきりなんて。彼女だって、貴族の娘なのよ。あなたの腰巾着で満足するはずないでしょう」

 レイチェルは珍しく険しい顔を向けた。

「根も葉もない噂はやめてください。それに、ジェーンは腰巾着ではありません」

 その毅然とした態度に、嫌がらせをするきっかけを得てほくそ笑んでいたはずの少女たちは、口を噤んだ。場の緊張が高まる。

「どうした?」

 少女たちの後ろから、張り詰めた空気を裂くように、凛とした声が響く。皆の視線が一斉に動いた先には、濃い橙色のドレスを纏ったジェーンが立っていた。髪は今し方結い直したようにぴっしりと纏められているが、他の娘たちのように華やかな飾りがつけられていなかった。

「ごめん、トーマスが槍の稽古につきあってくれるって言うから」

 急いで着替えてきたらしい彼女は、もう一度腰元のリボンの角度を直す。

「で、何があったんだ?」

 険悪な雰囲気に、ジェーンは全員を見渡した。ヴァネッサが答える。

「あなたのことよ、ジェーン。抜け駆けしたって聞いたわよ。抜け目のないひとね」

 抜け駆けと繰り返して、ジェーンは首をひねった。ヴァネッサは、呆れたように息を吐いた。

「あなた、陛下と出かけたそうじゃない」

 ジェーンはやっと思い当たったように、ああ、と声を上げた。

「みっちり文句を言っておいたんだ。浮気はほどほどにしておいた方がいい、エドワード大帝のように、愛は一人の貴婦人に捧げてしかるべきだと」

 帰り道にエリックの背中に向かって、自分の知る限りの物語と歌劇とを引き合いに出して、心を込めて注進したのをジェーンは思い出す。エリックが、はいはいと悪びれた様子もなく聞き流していたのも。

「あなたのその、騎士道かぶれも捨てたものじゃなかったってことね。お若い陛下の興味を引くのに。今日の稽古も、陛下に渡りをつけてもらうためだったんじゃなくて?」

 ジェーンは、そんなつもりじゃない、と露骨に顔をしかめた。ヴァネッサは笑む。

「そんなに怖い顔をしないで、ジェーン。私たちみんな、ただ王妃の座を争うライバルという立場なだけじゃない。みんな、親族中の期待を背負ってる。あなただってそうじゃない」

 ジェーンとて、それがわからないわけではない。美しく着飾り、完璧な教養を身につけた少女たち。何のためかと言われれば、全ては王妃として王に選ばれるためだ。ジェーンの纏うドレスもレイチェルの首飾りも、ヴァネッサの仕草の一つ一つも、そのために生家から厳しくしつけられてきた。みな、それこそ一族の命運をかけているのだ。そしてジェーン自身も。吹けば飛ぶような小貴族など、王か大貴族に取り入らない限り存続できない。しかし。

「だからといって、相手を傷つけてなんになる」

 ヴァネッサは再び口元だけに笑みを作ると、優雅に歩き始めた。取り巻きもそれに続く。すれ違いざまに言い放った。

「負けないわよ、ステュアートには」

 二人は、取り巻きを引き連れ、堂々と胸を張って去って行く彼女を、複雑な表情で見送った。



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