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賭け

 冷えた月が、南天を下っていく。月明かりを縫って、エリーは執務室に向かった。城内はしんと静まりかえっている。そっと、エリーは執務室に入った。執務室では、エリックが書類に目を通していた。

「飲んでるのか、エリー。酒臭いぞ」

 エリックは顔を顰める。

「ジェーン様、お強いんですよ。あ、妬いてます?」

 エリーは悪びれずに答えた。アーノルドが音もなく近づいてきて、エリックの手元にお茶の入ったカップを置く。エリックは書類から手を離してカップを手にした。流れるようにつながる一連の動作に、エリーは羨ましく思った。

「突然来たかと思えば、何だ。随分おしゃべりになったんじゃないか?」

「ジェーン様のご意向です。陛下がアーノルドに、影でいるよう命じているのと同じに」

エリックは面白くなさそうに鼻を鳴らした。二人がうまくやっているのは、報告を聞いていてわかっている。しかし、改めて言われると、エリックの胸の奥にもやもやしたものが上ってくる。エリーに限らず、ジェーンは他の者ともうまくやっているようだった。もともと、竹を割ったような性格だ。分け隔てなく、接してくる。

「お前が男だってことも、バレてるのか」

「バレました。エドガーの一件の時に。驚いてはいらっしゃいましたよ。でも、何も変わってませんよ。トレヴィシックに女が生まれなかったので、自分が小さい頃から、将来の王妃専属で教育させられてきた話はしましたけど。コルセットきついよな、で終了です」

 何となく想像がついて、エリックは小さく笑んだ。そうあってほしいと、望んでいたのだ。自分に対しても。

「ジェーン様にどこまで立ち入らせるおつもりですか」

 急に、エリーは厳しい表情になる。エリックは目を伏せ、カップに口をつけた。

「ジェーン様が、先王陛下の件に立ち入ろうとすればするほど、ジェーン様の命も危うくなります。ただでさえ、後ろ盾がないのに」

 そんなことはわかっている。エリックは思う。

「好きなようにやらせろ。あいつなりの答えにたどり着くまで。危険に晒してもかまわない」

 静かに、エリックは言い放った。

「ジェーン様を、捨て駒にするおつもりではありますまい」

「お前が守れ。それがお前の存在意義だろう。……必ず守れ」

「そういうことは、ジェーン様に直接おっしゃってください。どうしてそう、素直にできないのですか。陛下が望んでいらっしゃることは、いつも通りの陛下であれば、簡単に手に入ります。なのに」

 素直に、言えばいいのだとエリーはもどかしさでいっぱいになる。こうして焚きつけにきてもなお、いっこうに進みそうにない。エリックは、さらに追い打ちをかけるように、諦め顔で言った。

「賭けてるんだ。あいつの、青い瞳に」

「いつその賭けは終わるんですか?」

 ちらと、エリーはアーノルドを見る。アーノルドは表情を一切変えずに、視線を落としている。いや、とエリーは苦々しく思う。目を、そらしているのだ。エリックは言った。

「俺が、死ぬとき」


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